円柱の自然対流

カテゴリ: 熱解析 | 2026-09-29 改稿
CAE visualization for cylinder natural theory - technical simulation diagram
円柱の自然対流

理論:円柱のまわりにできる上昇流

概要

🙋

工場の温水配管、保温材が一部はがれているんです。1 m あたりどれくらい熱が逃げているのか知りたいんですが。

🎓

水平な配管のまわりでは、温められた空気が管の下側から両脇を回って上へ抜けていく。これが円柱の自然対流で、熱伝達率は直径を代表長さにしたレイリー数で決まる。ただ、配管くらいの温度では放射も同じくらい効くから、両方を足して考えるのがポイントだよ。

Churchill–Chu の式

$$ Ra_D = \frac{g\beta\,(T_s - T_\infty)\,D^3}{\nu\,\alpha} $$
$$ \overline{Nu}_D = \left\{0.60 + \frac{0.387\,Ra_D^{1/6}}{\left[1 + (0.559/Pr)^{9/16}\right]^{8/27}}\right\}^2 \qquad (Ra_D \le 10^{12}) $$

物性値は表面と周囲の平均温度(膜温度)で評価し、理想気体では $\beta = 1/T_f$。1本の式で層流から乱流まで広い範囲をカバーできるので、水平円柱では最もよく使われる。

放射を足す

$$ q' = \left(\bar{h}_{conv} + h_{rad}\right)\pi D\,(T_s - T_\infty), \qquad h_{rad} = \varepsilon\sigma\,(T_s^2+T_\infty^2)(T_s+T_\infty) $$
Coffee Break よもやま話

1本の式で全部をまとめる工夫

自然対流の相関式は、もともと層流と乱流で別々の式を使い分けていた。1975年、チャーチルとチューは、両側の極限(ごく低いレイリー数と高いレイリー数)にそれぞれ合う式を、べき乗の足し合わせでなめらかにつなぐ方法を体系的に使い、垂直平板や水平円柱に1本で使える式を示した。つなぎ目で値が飛ばないので、設計計算やプログラムに組み込みやすい。今日よく使われる相関式の多くが、この「極限をつなぐ」考え方でできている。

計算例:温水配管の放熱と保温

裸の配管

外径60.3 mm の配管、表面80℃、周囲の空気20℃。膜温度50℃の空気物性で $Ra_D \approx 8.5\times10^{5}$、$\overline{Nu}_D \approx 13.9$、対流の熱伝達率は約6.4 W/(m²·K)。

表面放射率放射の熱伝達率1 m あたりの放熱対流の割合
塗装面0.97.0 W/(m²·K)152 W/m48 %
金属光沢面0.10.8 W/(m²·K)82 W/m89 %
🎓

塗装した裸管だと1 m あたり約150 W。1年間ずっと続けば1 m で約1,300 kWh になる。はがれた部分が10 m あれば、それだけで家庭数軒分の電力量に相当する熱を捨てている計算だね。

保温材を巻いた場合

$$ q' = \frac{T_i - T_\infty}{\dfrac{\ln(r_2/r_1)}{2\pi k} + \dfrac{1}{2\pi r_2 h}}, \qquad r_{c} = \frac{k}{h} $$

熱伝導率0.04 W/(m·K) のグラスウールを厚さ25 mm 巻き、外装(放射率0.3)の表面から自然対流と放射で逃げるとして、外装の表面温度と放熱量を繰り返し計算で求めると、放熱は約20.5 W/m、外装の表面は約31℃ になる。塗装した裸管と比べて放熱は約87%減る。

臨界半径:被覆で放熱が増える場合

円柱に保温材を巻くと、熱伝導の抵抗は増えるが、外表面積も増えて表面の抵抗は減る。外半径が $r_c = k/h$ より小さいうちは後者が勝ち、厚くするほど放熱が増える。グラスウールの配管では $r_c \approx 4$ mm で問題にならないが、PVC($k = 0.16$)で被覆した電線では $r_c \approx 13$ mm になる。熱伝達率を12 W/(m²·K) で一定とした簡略計算で、直径2 mm の導体(周囲より40 K 高い)の放熱は次のようになる。

被覆の厚さ放熱(1 m あたり)
なし3.0 W/m
0.5 mm4.3 W/m
2 mm7.3 W/m
5 mm10.0 W/m
12 mm11.2 W/m
30 mm10.4 W/m
🙋

被覆したほうが3倍以上よく冷えるんですか! 電線の被覆は絶縁のためだけだと思っていました。

🎓

細い電線ではそうなるんだ。ただし実際には直径が変わると熱伝達率も変わるし、被覆材の耐熱温度もあるから、この表は傾向を見るためのもの。電線の許容電流を決めるときは、こうした効果も含めた規格の値や詳しい計算を使う。

CFDで解くときの注意

解析設定

  • 領域の広さ:上昇流(プルーム)は円柱の上に長く伸びるので、上方には直径の10倍以上、側方と下方にも数倍の空間をとる。狭いと上昇流が境界で押し戻され、熱伝達率が変わる。
  • 境界層のメッシュ:温度境界層は円柱の下側で最も薄い。表面から最初のセルを十分薄くし、境界層の中に数層以上のセルを入れる。
  • 層流か乱流か:$Ra_D$ がおよそ $10^9$ 未満なら層流として解く。乱流モデルを入れると、弱い自然対流では過大な乱流粘性で熱伝達率がずれることがある。
  • 放射:配管温度では放射が放熱の半分近くになるので、表面の放射率を入れた放射モデルを必ず併用する。

検証

まず放射を切った2次元のモデルで、いくつかの温度差について平均ヌセルト数を Churchill–Chu の式と比べる。10%程度以内に入れば設定は妥当と考えてよい。次に放射を加え、上の表の放熱量と比べる。複数の配管が近くに並ぶ場合は、下の管の上昇流が上の管を包むので、単独の円柱の式は使えなくなる点に注意する。

Coffee Break よもやま話

配管の保温を解析で評価するときの落とし穴

保温の効果を解析するとき、保温材の熱伝導率をカタログ値の一定値で入れることが多い。しかし実際のグラスウールやロックウールの熱伝導率は温度とともに大きくなり、湿気を吸うとさらに大きくなる。屋外の配管で外装の継ぎ目から雨水が入ると、保温性能が数倍悪化することもある。解析結果が実測の放熱量より小さすぎるときは、モデルより先に現場の保温材の状態を疑うのが近道だ。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
放射を無視する塗装面では放熱を約半分に見積もる放射率を入れて足し合わせる
代表長さに管の長さを使うレイリー数が桁違いになる水平円柱では直径を使う
垂直な管に水平円柱の式を使う流れ方が違い誤差が出る垂直平板の式(管が太い場合)を使う
細い電線で「被覆=断熱」と考える臨界半径以下では逆に放熱が増える$r_c = k/h$ と外半径を比べる
並んだ配管に単独の式を使う上の管の放熱を過大評価CFDか配管群の相関式で評価
🙋

自分でも条件を変えて計算してみたいです。

🎓

自然対流熱伝達係数計算ツールで熱伝達率、臨界保温半径シミュレーターで臨界半径の効き方を確かめられるよ。風がある場合の円柱まわりの流れは円柱まわりの流れシミュレーターで見られる。形が違うときは垂直平板の自然対流や球の自然対流、下から加熱される水平な層はレイリー・ベナール対流を参照してほしい。

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