熱電冷却(ペルチェ素子)の解析
理論:ペルチェ効果とジュール熱の綱引き
概要
センサーを室温より少し下に冷やしたくて、ペルチェ素子を考えています。電流を増やせば、いくらでも冷えるんですか?
そうはならないんだ。ペルチェ素子は、電流を流すと接合部で熱を運ぶ(ペルチェ効果)けれど、同時に素子の中で電気抵抗によるジュール熱も出る。運ぶ熱は電流に比例し、ジュール熱は電流の2乗で増えるから、ある電流で冷却能力は最大になり、それ以上流すとかえって冷えなくなる。さらに、高温側から低温側へ熱が伝導で戻ってくる。冷却能力、消費電力、放熱面から捨てる熱の3つを、電流と温度差の関数として見るのが基本だよ。
基本式
$\alpha$ はモジュール全体のゼーベック係数、$R$ は電気抵抗、$K$ は熱コンダクタンス、$T_c$・$T_h$ は低温側・高温側の温度、$\Delta T = T_h - T_c$。ジュール熱の半分が低温側に戻ると考える。
$Z$ は性能指数。$ZT$ が大きい材料ほど、大きな温度差と高いCOPが得られる。室温付近のテルル化ビスマスで $ZT$ は1前後。
150年待った実用化
ペルチェ効果は、1834年にフランスの時計職人ペルチェが、異なる金属の接合部に電流を流すと、向きによって温まったり冷えたりすることを見つけたものだ。しかし金属では効果が小さく、ジュール熱や熱伝導に負けて実用にならなかった。状況が変わったのは1950年代で、テルル化ビスマスなどの半導体を使うと効果がはるかに大きくなることがわかった。いまでは、可動部がなく静かで、温度を精密に制御できる利点から、光通信のレーザーの温度調整、小型冷蔵庫、ワインセラー、PCR装置などで使われている。
計算例:127対のモジュール
テルル化ビスマスの127対のモジュールを想定し、$\alpha$ = 0.0508 V/K、$R$ = 2.0 Ω、$K$ = 0.5 W/K とした($ZT$ = 0.77、300 K)。高温側を300 Kに保つと、最大温度差は68.9 K、温度差0での最大冷却能力は58 W(7.6 A)。
例1:20 Wを冷やす
| 温度差 | 必要な電流 | 消費電力 | COP | 放熱面の熱 | COPが最大になる電流での冷却能力 |
|---|---|---|---|---|---|
| 10 K | 1.96 A | 8.7 W | 2.31 | 28.7 W | 5.8 W(COP 3.65) |
| 20 K | 2.58 A | 15.9 W | 1.26 | 35.9 W | 9.9 W(COP 1.51) |
| 30 K | 3.39 A | 28.1 W | 0.71 | 48.1 W | 12.2 W(COP 0.80) |
温度差が30 Kだと、20 W冷やすのに28 Wも電気を使うんですね。
そう。しかも放熱面では、冷やした20 Wと使った28 Wを合わせた48 Wを捨てないといけない。ペルチェ素子は温度差が大きくなるほど効率が急に落ちる。表の右の列を見ると、COPを最大にする電流で使えば効率は良いけれど、1個で冷やせる熱は少ない。だから、効率を重視するなら素子を複数並べて1個あたりの電流を下げる、コストや大きさを重視するなら少ない素子を大きな電流で使う、という選択になる。
例2:放熱器の影響
低温側を15 ℃に保ち、周囲25 ℃で放熱器の熱抵抗を変えた。放熱面の温度は、捨てる熱で上がる。
| 放熱器の熱抵抗 | 最大冷却能力 | そのときの放熱面 | 3 Aでの冷却 | 3 Aでの放熱面 | 3 AでのCOP |
|---|---|---|---|---|---|
| 0.1 K/W | 41.2 W | 38.6 °C | 27.5 W | 29.8 °C | 1.36 |
| 0.2 K/W | 35.1 W | 48.2 °C | 25.3 W | 34.2 °C | 1.21 |
| 0.5 K/W | 22.3 W | 61.3 °C | 19.4 W | 46.1 °C | 0.85 |
放熱器が悪いと、放熱面の温度が上がって温度差が広がり、冷却能力もCOPも落ちる。ペルチェ素子の性能は、素子そのものより放熱器で決まることが多い。
設計の進め方
- 冷やしたい熱量、目標温度、周囲温度を決める。
- 放熱器の熱抵抗を仮定し、放熱面の温度を含めて連立で解く。
- 効率と大きさの兼ね合いで、素子の数と電流を決める。
- 低温側の断熱と結露対策を確かめる(周囲の露点より冷やす場合)。
- 接触面の熱抵抗(熱界面材料)と、温度の繰り返しによるはんだ接合の寿命を確かめる。
「電流を増やしたら温度が上がった」
ペルチェで冷やしている機器の温度が目標に届かないので、電流を上げたら、かえって温度が上がってしまった——という例がある。調べると、放熱器が小さく、放熱面がすでに60 ℃を超えていた。電流を増やすと消費電力が増え、放熱面がさらに熱くなり、温度差が広がって冷却能力が落ちていた。放熱器を大きくしたら、元の電流で目標温度に届いた。冷えないときは、まず放熱面の温度を測るのが近道だ。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 放熱器を冷却量で選ぶ | 放熱面が熱くなり冷えない | 冷却量+消費電力で選ぶ |
| 電流を上げれば冷えると考える | かえって温度が上がる | 最大冷却の電流を確認 |
| カタログの最大値で設計 | 実際は温度差で大きく低下 | 使用条件の温度差で計算 |
| 結露を考えない | 電気的な故障 | 断熱・封止 |
| 接触熱抵抗を無視 | 温度差が余計に広がる | 熱界面材料を評価 |
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