熱抵抗(Rth)モデル

カテゴリ: 熱解析 | 2026-09-29 改稿
CAE visualization for thermal resistance rth theory - technical simulation diagram
熱抵抗(Rth)モデル

理論:熱の流れを電気回路のように扱う

概要

🙋

パワー半導体のデータシートに θJA と θJC が載っているんですが、どちらで接合部の温度を計算すればいいんですか?

🎓

ヒートシンクに付けるならθJCだね。熱抵抗は「温度差÷熱流」で、電気の抵抗と同じように直列・並列に足し合わせられる。ただ、データシートの値はそれぞれ決まった条件で測ったもので、θJA は規格の試験基板に載せたときの値だから、自分の基板や筐体でそのまま使うと大きく外れる。どの値が何を表すかを知っておくのが、熱抵抗モデルの第一歩なんだ。

基本の式

$$ R_{cond} = \frac{L}{kA}, \qquad R_{conv} = \frac{1}{hA}, \qquad \Delta T = P\,R $$

$L$ は厚さ、$k$ は熱伝導率、$A$ は面積、$h$ は熱伝達率、$P$ は発熱量。熱が一方向に流れ、各層の温度が一様とみなせるときに成り立つ。

データシートの値の意味

記号意味使い道
θJA規格の試験基板に載せたときの接合部〜周囲空気部品どうしの比較
θJC接合部〜ケースの放熱面(ヒートシンク側)ヒートシンクを付ける設計
θJB接合部〜基板(部品の近くの基板上の点)基板へ放熱する部品
ψJT接合部〜ケース上面の温度差÷全発熱(熱抵抗ではない)実機でケース上面温度から接合部温度を推定
🎓

ψJT は「熱抵抗」と呼ばないのがポイントだよ。ケース上面を通る熱は全体のごく一部なのに、全発熱で割っているから、回路の中の抵抗として使うことはできない。でも実機で上面の温度を測れば、接合部の温度をかなり正確に推定できる便利な値なんだ。

Coffee Break よもやま話

θJA がひとり歩きした理由

θJA は、部品メーカーがパッケージの放熱性能を公平に比べるため、決められた大きさと銅箔の試験基板に載せ、決められた空気条件で測る値として定められた(JEDEC の JESD51 シリーズ)。ところが「部品1つで接合部から空気までの熱抵抗がわかる」便利さから、設計値としてそのまま使われるようになった。実際の基板では銅の面積も周りの部品も違うので、同じ部品でも θJA は2倍以上変わることがある。規格の側も、この誤用を避けるために ψJT などの値を追加してきた。

計算例

例1:接触材の違いによる接合部温度

$$ T_j = T_a + P\left(R_{\theta JC} + R_{TIM} + R_{SA}\right) $$

発熱20 W、周囲40℃、$R_{\theta JC} = 0.5$ K/W、ヒートシンク $R_{SA} = 2.0$ K/W、接触面積1 cm² として、部品とヒートシンクの間の材料だけを変えた。

接触材熱抵抗接合部温度
グリース 50 μm(k = 3)0.17 K/W93 ℃
パッド 0.25 mm(k = 1.5)1.67 K/W123 ℃
パッド 0.5 mm(k = 1.0)5.0 K/W190 ℃
🙋

ヒートシンクより、薄い接触材のほうが効いているじゃないですか。

🎓

小さい面積を大きな熱流が通るところでは、ほんの0.5 mm の層が支配的になる。熱抵抗は面積に反比例するから、パワー部品の熱設計ではまず「どこで面積が一番小さいか」を見るといい。実際の接触では、表面の粗さや締め付け圧力による接触熱抵抗も加わるので、材料の熱伝導率だけで計算した値より大きくなることが多いよ。

例2:短いパルスと過渡熱インピーダンス

$$ Z_{th}(t) = \sum_{i} R_i\left(1 - e^{-t/\tau_i}\right), \qquad \tau_i = R_i C_i $$

定常の熱抵抗が1 K/W の部品を、3段の Foster モデル($R$ = 0.1, 0.3, 0.6 K/W、$\tau$ = 1 ms, 20 ms, 1 s)で表し、100 W を一定時間加えたときの温度上昇を求めた。

加熱時間Zth温度上昇(100 W)
0.1 ms0.011 K/W1.1 K
1 ms0.078 K/W7.8 K
10 ms0.224 K/W22 K
100 ms0.455 K/W46 K
1 秒0.779 K/W78 K
10 秒1.000 K/W100 K

短いパルスでは熱がまだ遠くまで届いていないので、同じ電力でも温度上昇は小さい。モータの起動電流や短絡時の保護動作のような瞬間的な発熱は、定常の熱抵抗ではなく $Z_{th}(t)$ で評価する。なお Foster モデルの節点は物理的な位置に対応しないので、ヒートシンクのモデルと直列につなぐときは、物理的な層構造に対応する Cauer モデルに変換する必要がある。

実務:熱抵抗モデルとFEMの使い分け

どちらを使うか

場面熱抵抗モデルFEM・CFD
構想段階の見積もり◎ 速い△
熱が一方向に流れる積層◎○
小さい熱源から広い板への広がり△ 広がり抵抗の式が必要◎
複数部品の相互加熱△◎
筐体内の空気の流れ×◎ CFD
  • FEMの結果から、部品ごとの熱抵抗を取り出して熱抵抗モデルを作っておくと、条件を変えた検討を一瞬で回せる。
  • 熱抵抗モデルと FEM の結果が大きく違う場合、多くは広がり抵抗(小さな熱源から熱が横に広がるときの抵抗)の見落としが原因。
  • 部品の内部を詳しく作る代わりに、簡易熱モデル(Delphi/JEDEC)を使うとモデルの規模を抑えられる。
Coffee Break よもやま話

「データシートどおりなのに熱い」

試作機で部品が想定より熱い原因を調べると、θJC や ヒートシンクの値は正しいのに、接触材の厚さが設計の2倍以上になっていた、ということがよくある。パッドは締め付けで潰れる前提で厚さが決まっていて、ねじの締め付けが弱いと厚いまま残る。グリースも塗りすぎると厚くなる。熱抵抗モデルで接触材の感度を先に計算しておくと、組み立て工程で管理すべき項目がはっきりする。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
θJA を設計値として使う実際の基板で大きく外れるθJC・θJB と自分の条件で計算
ψJT を熱抵抗として回路に入れる温度を大きく誤る推定用の係数として使う
接触熱抵抗を無視接合部温度を過小評価厚さ・面圧の実測値を使う
パルス発熱を定常で評価過剰な冷却設計$Z_{th}(t)$ を使う
Foster モデルを直列に接続時間応答が非物理的になるCauer モデルに変換してから接続
🙋

自分でも数字を変えて試したいです。

🎓

ヒートシンク設計計算機とフィン配列シミュレーターでヒートシンク側の熱抵抗、LEDジャンクション温度シミュレーターで部品からの熱抵抗の積み上げを確かめられるよ。詳しくはジャンクション温度予測、熱界面材料(TIM)、自然空冷と強制空冷の設計の記事も見てほしい。

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