パッシブ冷却技術
理論:空と夜を冷熱源にする
概要
エアコンを使わずに建物を冷やすのは、どのくらい現実的なんですか?
自然の冷熱源は2つある。1つは夜空だ。宇宙はとても冷たいので、晴れた夜に上を向いた面は赤外線を出して気温より冷える。もう1つは夜の涼しい空気で、それで建物のコンクリートを冷やしておけば、翌日の熱を吸い取ってくれる。どちらも消費エネルギーはほぼ0だが、冷やせる量には上限があり、湿度や天候にも左右される。だから、冷房負荷を断熱や日除けで先に減らしたうえで、残りをどこまで受け持てるかを数値で見積もることが大事だ。
放射冷却
ε は面の放射率、ε_sky は晴天の空の実効放射率(バーダルとマーチンの式)、T_d は露点温度(℃)、R は日射の反射率、G_sun は日射量。対流による周りの空気からの熱の流入は含めていない。
夜間換気と蓄熱
δ は1日周期(P = 86,400秒)で温度が変わる深さ。コンクリートは熱伝導率1.4 W/mK、密度2,300 kg/m³、比熱880 J/kgK とした。V̇ は夜間 t_night の間に空気の温度上昇 ΔT_air で熱を運び出すのに必要な風量。
昼間の放射冷却
夜空への放射冷却は古くから知られ、乾燥地では夜の間に水を凍らせる方法が使われてきた。昼間は日射の熱が上回るので難しいとされていたが、2014年にスタンフォード大学のラマンらは、日射の97%を反射しながら大気が赤外線をよく通す波長帯(8〜13 μm)で強く放射する多層膜を作り、直射日光の下で気温より約5℃低くなることを示した。これ以来、昼間の放射冷却の材料開発が活発になっている。
計算例
例1:放射冷却の正味の冷却量(気温25℃、放射率0.95)
| 露点 | 空の放射率 | 夜間 | 昼間(反射率95%) | 昼間(反射率85%) |
|---|---|---|---|---|
| 10 ℃ | 0.774 | 96 W/m² | 56 W/m² | −24 W/m² |
| 15 ℃ | 0.811 | 80 W/m² | 40 W/m² | −40 W/m² |
| 20 ℃ | 0.852 | 63 W/m² | 23 W/m² | −57 W/m² |
昼間は日射800 W/m²とした。負の値は冷えずに温まることを意味する。25℃の黒体の放射は448 W/m²なので、正味の冷却はその1〜2割にとどまる。
例2:夜間換気(露出コンクリート100 m²)
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 1日周期で温度が変わる深さ | 0.138 m |
| 1 m²・1 Kあたりの蓄熱 | 279 kJ |
| 3 K冷やしたときの蓄冷量 | 23.3 kWh |
| 昼間の発熱(30 W/m²×10時間) | 30 kWh |
| 吸収できる割合 | 78% |
| 必要な夜間風量(8時間・空気温度上昇4 K) | 約2,170 m³/時(体積300 m³で換気7.2回/時) |
同じ白い塗装でも、反射率が95%か85%かで、冷えるか温まるかが逆転するんですね。
日射は800 W/m²もあるので、吸収率の10%の差が80 W/m²の差になる。これは夜の放射冷却の量とほぼ同じ大きさだ。普通の白いペンキは見た目は白くても、紫外線や近赤外の一部を吸収するので、反射率は80〜85%程度のことが多い。昼間に気温より冷やすには、日射をほぼ完全に反射しつつ、8〜13 μmの赤外線を強く出す材料が要る。一方、日射を少しでも吸ってしまうと逆効果なので、屋根の材料を選ぶときは、日射の反射率と赤外線の放射率の両方を見る必要がある。湿度の高い地域では空の放射率が上がって効果が小さくなることにも注意する。
計画と評価の進め方
- まず断熱と日除けで冷房負荷そのものを減らす。
- 地域の気温・露点・雲量から、放射冷却と夜間換気の効果を見積もる。
- 夜間換気では、コンクリートを室内に露出させ、十分な風量を確保する。
- 時間ごとのシミュレーションで室温の変化を計算し、快適範囲に入るか確かめる。
- 湿度が高い時期は効果が落ちるので、補助の冷房を計画しておく。
「夜間換気が効かなかった事務所」
ある事務所で夜間換気を導入したが、翌日の室温がほとんど下がらなかった。調べると、天井はコンクリートだったが、その下に吊り天井があり、床もカーペットで覆われていた。冷やすべきコンクリートが室内の空気からほぼ隔てられていたので、夜に冷やせず、昼間も熱を吸えなかった。吊り天井を開口の多いものに替えると、翌日の最高室温は約2℃下がった。熱容量は量だけでなく、空気に触れていることが必要だ。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 湿度を考えない | 放射冷却を過大評価 | 露点から空の放射率 |
| 見た目の白さで反射率を判断 | 昼間に逆に温まる | 日射反射率を測る |
| コンクリートを覆う | 蓄熱が働かない | 室内に露出させる |
| 夜間の風量が不足 | 十分に冷えない | 風量を計算する |
| 対流の熱流入を無視 | 冷却量を過大評価 | 風や断熱カバーを考慮 |
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