蓄熱体(サーマルマス)効果
理論:熱貫流率だけでは分からない壁の性質
概要
壁の断熱性能は熱貫流率(U値)で比べますよね。蓄熱体の効果はそれとは別なんですか?
別のものだ。U値は温度差が一定のときの熱の流れやすさで、時間とともに温度が変わるときの振る舞いは表せない。1日の温度変化に対して壁がどう応えるかは、外の変化をどれだけ遅らせるか(時間遅れ)、どれだけ小さくするか(減衰率)、そして室内側でどれだけ熱を出し入れできるか(アドミッタンス)で決まる。これらは熱容量と層の並び順で大きく変わる。伝達マトリクス法で、コンクリートの壁と軽い壁、内断熱と外断熱を比べてみよう。
伝達マトリクス
各層の行列を、室内側の表面熱抵抗(0.13 m²K/W)から外側の表面熱抵抗(0.04 m²K/W)まで順にかけ合わせる。δ は周期 P(24時間)に対する浸透深さ。
時間遅れと減衰率
$Y_{12}$ は周期的な熱貫流率で、外の温度が1 K振れたときに室内側へ出入りする熱の振幅を表す。減衰率 f はそれを定常のU値で割ったもの。
厚い壁の知恵
砂漠や地中海の伝統的な家は、厚い石や土の壁で、昼の暑さを夜まで遅らせ、夜の涼しさを昼まで残してきた。この経験的な知恵を数式で扱えるようにしたのが、1960〜70年代にイギリスなどで整えられたアドミッタンス法で、今の国際規格ISO 13786の伝達マトリクス法につながっている。断熱が進んだ現代の建物でも、夏の日射や室内の発熱による温度の上昇を抑えるのに、蓄熱体の配置が見直されている。
計算例:1日周期
コンクリート(1.8 W/mK、2,400 kg/m³、1,000 J/kgK)、断熱材EPS 100 mm(0.035 W/mK)、軽量壁は石こうボード12.5 mm+グラスウール100 mm+石こうボード12.5 mm。
壁の種類による違い
| 壁 | U値 | 減衰率 | 時間遅れ | 室内側アドミッタンス |
|---|---|---|---|---|
| コンクリート200 mm | 3.56 | 0.51 | 5.7 時間 | 5.70 |
| コンクリート+外断熱 | 0.32 | 0.17 | 7.9 時間 | 5.94 |
| 内断熱+コンクリート | 0.32 | 0.33 | 7.0 時間 | 0.34 |
| 軽量壁(石こう+グラスウール) | 0.36 | 0.99 | 1.0 時間 | 0.90 |
U値とアドミッタンスの単位は W/m²K。
コンクリートの厚さ
| 厚さ | 減衰率 | 時間遅れ |
|---|---|---|
| 100 mm | 0.83 | 2.8 時間 |
| 200 mm | 0.51 | 5.7 時間 |
| 300 mm | 0.30 | 8.3 時間 |
| 400 mm | 0.18 | 11.0 時間 |
内断熱と外断熱でU値は同じなのに、室内側のアドミッタンスが17倍も違うんですね。
U値は層の並び順に関係ないが、温度が変わるときの応答は、どの層が室内に面しているかで決まる。外断熱では、コンクリートが室内側に出ているので、室温が上がるとコンクリートが熱を吸い、下がると放出する。この働きを表すのが室内側アドミッタンスで、5.9 W/m²Kもある。内断熱では、断熱材がコンクリートを部屋から隔ててしまい、0.34 W/m²Kしかない。部屋から見ると軽い壁と変わらないので、日射や人の発熱で室温がすぐ上がる。外からの熱の遅れと減衰でも、外断熱の方が有利で、減衰率は0.17と内断熱の半分になった。
設計のポイント
- U値に加えて、減衰率・時間遅れ・室内側アドミッタンスを比べる。
- 蓄熱を生かすなら、熱容量の大きい層を室内側に、断熱を外側に置く。
- 夜間換気と組み合わせ、ためた熱を夜に逃がす。
- 仕上げ材(カーペット・天井板)で蓄熱体を覆うと、効果が小さくなる。
- 年間の熱負荷は、時間ごとの動的シミュレーションで評価する。
「断熱を強めたら夏が暑くなった」
ある事務所の改修で、コンクリートの外壁の内側に断熱材を張り、さらに天井板を付けたところ、冬は暖かくなったが、夏の午後の室温上昇が以前より大きくなった。コンクリートの蓄熱体が断熱材と天井板で部屋から切り離され、日射や人・機器の発熱を吸収できなくなったのだ。夜間換気を入れ、天井の一部を開いてコンクリートを室内に見せる改修で、夏の温度上昇は抑えられた。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| U値だけで比較 | 夏の過熱を見逃す | 動的な指標も見る |
| 層の順番を無視 | 蓄熱効果を誤る | 伝達マトリクスで計算 |
| 仕上げ材を省略 | 蓄熱を過大評価 | 実際の層構成 |
| 定常計算で負荷を出す | ピーク負荷を誤る | 動的シミュレーション |
| 夜間換気を考えない | 熱がたまり続ける | 放熱の経路を確保 |
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