蓄熱体(サーマルマス)効果

カテゴリ: 熱解析・空調・建築 | 2026-10-01 改稿
CAE visualization for thermal mass theory - technical simulation diagram
蓄熱体(サーマルマス)効果

理論:熱貫流率だけでは分からない壁の性質

概要

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壁の断熱性能は熱貫流率(U値)で比べますよね。蓄熱体の効果はそれとは別なんですか?

🎓

別のものだ。U値は温度差が一定のときの熱の流れやすさで、時間とともに温度が変わるときの振る舞いは表せない。1日の温度変化に対して壁がどう応えるかは、外の変化をどれだけ遅らせるか(時間遅れ)、どれだけ小さくするか(減衰率)、そして室内側でどれだけ熱を出し入れできるか(アドミッタンス)で決まる。これらは熱容量と層の並び順で大きく変わる。伝達マトリクス法で、コンクリートの壁と軽い壁、内断熱と外断熱を比べてみよう。

伝達マトリクス

$$ \mathbf{Z}_{layer} = \begin{pmatrix}\cosh\xi(1+i) & -\dfrac{\delta}{k(1+i)}\sinh\xi(1+i)\\[4pt] -\dfrac{k(1+i)}{\delta}\sinh\xi(1+i) & \cosh\xi(1+i)\end{pmatrix},\quad \xi = \frac{d}{\delta},\ \delta = \sqrt{\frac{\alpha P}{\pi}} $$

各層の行列を、室内側の表面熱抵抗(0.13 m²K/W)から外側の表面熱抵抗(0.04 m²K/W)まで順にかけ合わせる。δ は周期 P(24時間)に対する浸透深さ。

時間遅れと減衰率

$$ Y_{12} = -\frac{1}{Z_{12}},\qquad f = \frac{|Y_{12}|}{U},\qquad \Delta t = \frac{P}{2\pi}\arg\!\left(\frac{1}{Y_{12}}\right) $$

$Y_{12}$ は周期的な熱貫流率で、外の温度が1 K振れたときに室内側へ出入りする熱の振幅を表す。減衰率 f はそれを定常のU値で割ったもの。

Coffee Break よもやま話

厚い壁の知恵

砂漠や地中海の伝統的な家は、厚い石や土の壁で、昼の暑さを夜まで遅らせ、夜の涼しさを昼まで残してきた。この経験的な知恵を数式で扱えるようにしたのが、1960〜70年代にイギリスなどで整えられたアドミッタンス法で、今の国際規格ISO 13786の伝達マトリクス法につながっている。断熱が進んだ現代の建物でも、夏の日射や室内の発熱による温度の上昇を抑えるのに、蓄熱体の配置が見直されている。

計算例:1日周期

コンクリート(1.8 W/mK、2,400 kg/m³、1,000 J/kgK)、断熱材EPS 100 mm(0.035 W/mK)、軽量壁は石こうボード12.5 mm+グラスウール100 mm+石こうボード12.5 mm。

壁の種類による違い

壁U値減衰率時間遅れ室内側アドミッタンス
コンクリート200 mm3.560.515.7 時間5.70
コンクリート+外断熱0.320.177.9 時間5.94
内断熱+コンクリート0.320.337.0 時間0.34
軽量壁(石こう+グラスウール)0.360.991.0 時間0.90

U値とアドミッタンスの単位は W/m²K。

コンクリートの厚さ

厚さ減衰率時間遅れ
100 mm0.832.8 時間
200 mm0.515.7 時間
300 mm0.308.3 時間
400 mm0.1811.0 時間
🙋

内断熱と外断熱でU値は同じなのに、室内側のアドミッタンスが17倍も違うんですね。

🎓

U値は層の並び順に関係ないが、温度が変わるときの応答は、どの層が室内に面しているかで決まる。外断熱では、コンクリートが室内側に出ているので、室温が上がるとコンクリートが熱を吸い、下がると放出する。この働きを表すのが室内側アドミッタンスで、5.9 W/m²Kもある。内断熱では、断熱材がコンクリートを部屋から隔ててしまい、0.34 W/m²Kしかない。部屋から見ると軽い壁と変わらないので、日射や人の発熱で室温がすぐ上がる。外からの熱の遅れと減衰でも、外断熱の方が有利で、減衰率は0.17と内断熱の半分になった。

設計のポイント

  1. U値に加えて、減衰率・時間遅れ・室内側アドミッタンスを比べる。
  2. 蓄熱を生かすなら、熱容量の大きい層を室内側に、断熱を外側に置く。
  3. 夜間換気と組み合わせ、ためた熱を夜に逃がす。
  4. 仕上げ材(カーペット・天井板)で蓄熱体を覆うと、効果が小さくなる。
  5. 年間の熱負荷は、時間ごとの動的シミュレーションで評価する。
Coffee Break よもやま話

「断熱を強めたら夏が暑くなった」

ある事務所の改修で、コンクリートの外壁の内側に断熱材を張り、さらに天井板を付けたところ、冬は暖かくなったが、夏の午後の室温上昇が以前より大きくなった。コンクリートの蓄熱体が断熱材と天井板で部屋から切り離され、日射や人・機器の発熱を吸収できなくなったのだ。夜間換気を入れ、天井の一部を開いてコンクリートを室内に見せる改修で、夏の温度上昇は抑えられた。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
U値だけで比較夏の過熱を見逃す動的な指標も見る
層の順番を無視蓄熱効果を誤る伝達マトリクスで計算
仕上げ材を省略蓄熱を過大評価実際の層構成
定常計算で負荷を出すピーク負荷を誤る動的シミュレーション
夜間換気を考えない熱がたまり続ける放熱の経路を確保
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