建築エネルギーシミュレーション

カテゴリ: 熱解析・空調 | 2026-10-01 改稿
CAE visualization for building energy theory - technical simulation diagram
建築エネルギーシミュレーション

理論:熱の逃げ道を足し合わせる

概要

🙋

住宅の断熱を良くすると、暖房費はどのくらい下がるものですか?

🎓

まず、建物から熱が逃げる道を全部足し合わせる。壁、屋根、床、窓のそれぞれについて、熱の通しやすさ(U値)に面積をかけ、それに換気で入れ替わる空気が持ち去る熱を加える。これが熱損失係数 H で、室内外の温度差1 Kあたり何ワット逃げるかを表す。1年分の暖房負荷は、H に暖房度日(室内外の温度差を暖房期間で積み上げたもの)をかければ概算できる。ただし実際には日射や家電・人の発熱が暖房を助け、建物の熱容量が温度の変化をならすので、精密には時間ごとのシミュレーションで計算する。

熱損失係数

$$ H = \sum_i U_i A_i + \rho c_p\, n\, V\,(1 - \eta_{HR}),\qquad \rho c_p \approx 0.34\ \mathrm{Wh/(m^3K)} $$

n は換気回数(1時間に室内の空気が何回入れ替わるか)、V は室内の体積、η_HR は熱交換換気の回収効率。

度日法とピーク負荷

$$ Q_{year} = \frac{24\,H\cdot HDD}{1000}\ \mathrm{[kWh]},\qquad P_{peak} = H\,(T_i - T_{o,design}),\qquad \Delta T_{bp} = \frac{Q_{gain}}{H} $$

HDD は暖房度日(K·日)、ΔT_bp は内部発熱 Q_gain による暖房の要らない温度(バランスポイント)の低下。

Coffee Break よもやま話

石油危機から生まれたプログラム

建物のエネルギーを時間ごとに計算するプログラムは、1970年代の石油危機をきっかけに本格的に開発された。アメリカではDOE-2やBLASTが作られ、2001年にそれらを統合したEnergyPlusが公開された。日本でも同じ時期にHASPなどの空調負荷計算プログラムが開発されている。どれも、1時間ごとの気象データを使い、壁の中の熱の伝わり方や日射を順に計算していく点は共通している。

計算例

例1:住宅の熱損失係数(外壁150・屋根60・床60・窓25 m²、体積300 m³、換気0.5回/時)

仕様U値(壁・屋根・床・窓)H窓の割合換気の割合
古い断熱0.9 / 0.6 / 0.8 / 4.65386 W/K30%13%
断熱強化0.3 / 0.15 / 0.3 / 1.6163 W/K25%31%
断熱強化+熱交換換気80%0.3 / 0.15 / 0.3 / 1.6122 W/K33%8%

例2:年間暖房負荷とピーク負荷(室温20℃)

仕様暖房度日1,500暖房度日3,500ピーク(外気−2℃)ピーク(外気−15℃)
古い断熱13,905 kWh32,445 kWh8.5 kW13.5 kW
断熱強化5,868 kWh13,692 kWh3.6 kW5.7 kW
断熱強化+熱交換換気4,399 kWh10,265 kWh2.7 kW4.3 kW

成績係数3のヒートポンプなら、暖房度日3,500で電力は約10,800、4,600、3,400 kWh。

🙋

断熱を良くすると、換気の割合が大きくなるんですね。

🎓

換気の熱損失(51 W/K)は断熱をしても変わらないので、ほかの部分が小さくなると目立ってくる。古い断熱では13%だったのが、断熱を強化すると31%になる。こうなると、熱交換換気で排気の熱を回収する効果が大きい。ただし換気量を減らして熱損失を下げるのは、室内の空気の質を損なうので避ける。もう一つ大事なのは内部発熱で、家電や人の発熱が平均400 Wあるとすると、断熱した家では暖房の要らない外気温が2.5 K下がり、暖房期間そのものが短くなる。度日法でこの効果を入れるには、度日の基準温度を下げる必要がある。日射の効果も同様で、断熱の良い家ほど大きく効くので、時間ごとのシミュレーションで評価するのがよい。

シミュレーションの進め方

  1. 外皮の面積とU値、換気量から熱損失係数を手計算し、目安を持つ。
  2. その地域の1時間ごとの気象データ(外気温・日射)を用意する。
  3. 壁の構成(層ごとの熱伝導率・密度・比熱)を入れて熱容量を扱う。
  4. 在室・照明・機器のスケジュールで内部発熱を与える。
  5. 結果の年間負荷を、手計算の度日法の値と比べて大きな食い違いがないか確かめる。
Coffee Break よもやま話

「計算の倍かかった暖房費」

断熱を強化した住宅で、実際の暖房エネルギーがシミュレーションのほぼ2倍になった。調べると、シミュレーションでは換気を設計どおり0.5回/時としていたが、実際にはサッシまわりや配管の貫通部のすき間からの漏気が多く、気密測定では換気回数が実質1回/時を超えていた。断熱した住宅では換気の熱損失の割合が大きいので、すき間風の影響がそのまま効いた。気密処理をやり直すと、暖房エネルギーは計算値に近づいた。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
すき間風を無視暖房負荷を過小評価気密性能を反映
熱橋を無視熱損失を過小評価線熱貫流率を加える
度日の基準温度が固定高断熱住宅で過大評価内部発熱で補正
気象データが別の地域負荷が大きくずれるその地点のデータ
換気量を減らして省エネ空気質が悪化熱交換換気
🙋

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