滅菌プロセス熱解析
理論:温度の履歴から殺菌量を積み上げる
概要
缶詰は121℃で殺菌すると聞きますが、何分加熱すればいいかはどう決めるんですか?
缶の中で一番温まりにくい点の温度がどう変わるかを求め、その温度の履歴から殺菌の量を積み上げて決める。菌が死ぬ速さは温度に対して指数関数的に変わるので、121.1℃で1分加熱したのと同じ効果が何分あるか、というF0値で表す。とろみのある食品は熱伝導だけで温まるので、缶の中心は外より大きく遅れる。そのため加熱を止めた後の冷却中にも中心は高温が続き、殺菌が進む。缶の中心温度とF0値を計算してみよう。
F0値とクック値
z値は、殺菌の速さが10倍になる温度の差。菌は z = 10℃ 程度だが、色や栄養などの品質の劣化は z = 30℃ 前後とゆるやかなので、高温短時間ほど品質を守りやすい。品質の劣化はクック値 C₁₀₀ で表す。
缶の中心温度
有限円柱の中心の温度は、無限円柱と平板の解の積で表せる(表面温度をレトルト温度とした場合)。冷却は、表面温度が冷却水の温度に切り替わる変化を重ね合わせて求めた。
缶詰とボールの方法
缶詰の原型は、1810年ごろフランスのアペールが、ナポレオンの軍の食料のために考えたびん詰めだ。なぜ腐らないのかは、半世紀後にパスツールが微生物の働きを示すまで分からなかった。1920年代、アメリカのボールとビゲローは、缶の中心温度の測定値から殺菌量を計算する方法をまとめ、F値の考え方の基礎を作った。今ではこうした計算を数値解析で行い、缶の形や加熱方法を最適化している。
計算例:伝導加熱の缶詰
熱拡散率1.7×10⁻⁷ m²/s、初期温度40℃、レトルト121.1℃、冷却水20℃。缶の表面はレトルトの温度に等しいとした。中心のF0値が3分になる加熱時間を求めた。
| 缶の大きさ | 加熱時間 | 加熱停止時の中心温度 | 中心の最高温度 | F0(加熱中+冷却中) | 中心のクック値 |
|---|---|---|---|---|---|
| 直径75×高さ110 mm | 59.4 分 | 112.8 °C | 114.4 °C | 1.11 + 1.89 | 79 分 |
| 直径52×高さ60 mm | 30.1 分 | 115.9 °C | 117.0 °C | 1.41 + 1.59 | 50 分 |
温度と殺菌の速さ
| 温度 | 1分あたりのF0 |
|---|---|
| 110 °C | 0.078 |
| 115 °C | 0.245 |
| 121.1 °C | 1.000 |
| 125 °C | 2.455 |
| 130 °C | 7.762 |
大きい缶では、加熱を止めた時点でF0がまだ目標の3分の1ほどしかないんですね。
中心は熱伝導だけで温まるので、外より大きく遅れる。加熱を止めても、外側にたまった熱が中心へ流れ込み続けるので、中心の温度はしばらく上がり、114℃まで達する。F0は温度が少し違うだけで大きく変わるので、この冷却中の高温が全体の6割以上を稼いでいる。冷却の効果を見込まずに加熱中だけでF0 3分を確保しようとすると、加熱時間がずっと長くなり、外側の食品が煮えすぎる。小さな缶は中心まで早く温まるので、加熱時間が半分になり、中心の品質の劣化も3分の2ほどに抑えられる。
解析と設計のポイント
- 最も温まりにくい点(伝導加熱は中心、対流加熱は中心より下)を探す。
- 冷却中のF0も含めて評価し、過剰な加熱を避ける。
- 食品の熱物性(温度・成分で変わる)を測定値で与える。
- 殺菌(F0)と品質(クック値)の両方を評価する。
- 計算は温度センサーを入れた試験で必ず確かめる(安全に関わるため)。
「回転させたら半分の時間で済んだ」
ある食品工場で、とろみのあるスープ缶の殺菌に1時間以上かかり、外側の具が煮崩れることが問題になっていた。缶をレトルトの中で回転させる方式に変えると、缶の中で中身がかき混ぜられ、熱が伝導ではなく対流で中心まで運ばれるようになった。殺菌時間は半分以下になり、品質も改善した。熱の運ばれ方を変えるのが、時間を短くする最も効く方法になることがある。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 表面温度でF0を評価 | 殺菌不足 | 最冷点で評価 |
| 冷却中のF0を無視 | 過剰な加熱 | 冷却まで計算 |
| 物性を水の値で代用 | 時間を誤る | 食品の実測値 |
| z値の取り違え | F0を大きく誤る | 対象菌のz値 |
| 試験で確認しない | 安全性の欠如 | 温度試験で検証 |
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食品殺菌のD値ツールと牛乳殺菌のz値ツールで試せるよ。関連するページは内部発熱を伴う非定常伝導、ハイスラー線図、乾燥プロセスが参考になる。
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