滅菌プロセス熱解析

カテゴリ: 熱解析・産業プロセス | 2026-10-01 改稿
CAE visualization for sterilization thermal theory - technical simulation diagram
滅菌プロセス熱解析

理論:温度の履歴から殺菌量を積み上げる

概要

🙋

缶詰は121℃で殺菌すると聞きますが、何分加熱すればいいかはどう決めるんですか?

🎓

缶の中で一番温まりにくい点の温度がどう変わるかを求め、その温度の履歴から殺菌の量を積み上げて決める。菌が死ぬ速さは温度に対して指数関数的に変わるので、121.1℃で1分加熱したのと同じ効果が何分あるか、というF0値で表す。とろみのある食品は熱伝導だけで温まるので、缶の中心は外より大きく遅れる。そのため加熱を止めた後の冷却中にも中心は高温が続き、殺菌が進む。缶の中心温度とF0値を計算してみよう。

F0値とクック値

$$ F_0 = \int_0^{t} 10^{(T(t') - 121.1)/z}\,dt',\quad z = 10\ ^\circ\mathrm{C},\qquad C_{100} = \int 10^{(T - 100)/33}\,dt $$

z値は、殺菌の速さが10倍になる温度の差。菌は z = 10℃ 程度だが、色や栄養などの品質の劣化は z = 30℃ 前後とゆるやかなので、高温短時間ほど品質を守りやすい。品質の劣化はクック値 C₁₀₀ で表す。

缶の中心温度

$$ \frac{T_c - T_R}{T_0 - T_R} = \left[\sum_n \frac{2}{\beta_n J_1(\beta_n)}e^{-\beta_n^2\alpha t/R^2}\right]\left[\sum_m \frac{2(-1)^m}{\lambda_m}e^{-\lambda_m^2\alpha t/H^2}\right] $$

有限円柱の中心の温度は、無限円柱と平板の解の積で表せる(表面温度をレトルト温度とした場合)。冷却は、表面温度が冷却水の温度に切り替わる変化を重ね合わせて求めた。

Coffee Break よもやま話

缶詰とボールの方法

缶詰の原型は、1810年ごろフランスのアペールが、ナポレオンの軍の食料のために考えたびん詰めだ。なぜ腐らないのかは、半世紀後にパスツールが微生物の働きを示すまで分からなかった。1920年代、アメリカのボールとビゲローは、缶の中心温度の測定値から殺菌量を計算する方法をまとめ、F値の考え方の基礎を作った。今ではこうした計算を数値解析で行い、缶の形や加熱方法を最適化している。

計算例:伝導加熱の缶詰

熱拡散率1.7×10⁻⁷ m²/s、初期温度40℃、レトルト121.1℃、冷却水20℃。缶の表面はレトルトの温度に等しいとした。中心のF0値が3分になる加熱時間を求めた。

缶の大きさ加熱時間加熱停止時の中心温度中心の最高温度F0(加熱中+冷却中)中心のクック値
直径75×高さ110 mm59.4 分112.8 °C114.4 °C1.11 + 1.8979 分
直径52×高さ60 mm30.1 分115.9 °C117.0 °C1.41 + 1.5950 分

温度と殺菌の速さ

温度1分あたりのF0
110 °C0.078
115 °C0.245
121.1 °C1.000
125 °C2.455
130 °C7.762
🙋

大きい缶では、加熱を止めた時点でF0がまだ目標の3分の1ほどしかないんですね。

🎓

中心は熱伝導だけで温まるので、外より大きく遅れる。加熱を止めても、外側にたまった熱が中心へ流れ込み続けるので、中心の温度はしばらく上がり、114℃まで達する。F0は温度が少し違うだけで大きく変わるので、この冷却中の高温が全体の6割以上を稼いでいる。冷却の効果を見込まずに加熱中だけでF0 3分を確保しようとすると、加熱時間がずっと長くなり、外側の食品が煮えすぎる。小さな缶は中心まで早く温まるので、加熱時間が半分になり、中心の品質の劣化も3分の2ほどに抑えられる。

解析と設計のポイント

  1. 最も温まりにくい点(伝導加熱は中心、対流加熱は中心より下)を探す。
  2. 冷却中のF0も含めて評価し、過剰な加熱を避ける。
  3. 食品の熱物性(温度・成分で変わる)を測定値で与える。
  4. 殺菌(F0)と品質(クック値)の両方を評価する。
  5. 計算は温度センサーを入れた試験で必ず確かめる(安全に関わるため)。
Coffee Break よもやま話

「回転させたら半分の時間で済んだ」

ある食品工場で、とろみのあるスープ缶の殺菌に1時間以上かかり、外側の具が煮崩れることが問題になっていた。缶をレトルトの中で回転させる方式に変えると、缶の中で中身がかき混ぜられ、熱が伝導ではなく対流で中心まで運ばれるようになった。殺菌時間は半分以下になり、品質も改善した。熱の運ばれ方を変えるのが、時間を短くする最も効く方法になることがある。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
表面温度でF0を評価殺菌不足最冷点で評価
冷却中のF0を無視過剰な加熱冷却まで計算
物性を水の値で代用時間を誤る食品の実測値
z値の取り違えF0を大きく誤る対象菌のz値
試験で確認しない安全性の欠如温度試験で検証
🙋

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