乾燥プロセスシミュレーション
理論:乾燥は2つの段階で進む
概要
食品の乾燥工程で、最初はどんどん水が抜けるのに、途中からなかなか乾かなくなるんです。温度を上げれば早くなりますか?
乾燥には性格の違う2つの段階があるんだ。最初は材料の表面がぬれていて、水は表面から蒸発するだけだから、空気の温度や風速を上げればそのまま速くなる(恒率乾燥期間)。ところが表面が乾き始めると、中の水が表面まで移動してくる速さが追いつかなくなる(減率乾燥期間)。この段階では空気の条件より材料の厚さや内部の拡散の速さが効くから、温度だけ上げても思ったほど速くならないし、表面が焦げたり割れたりしやすくなるんだ。
恒率乾燥期間
表面がぬれている間は、空気から入る熱がすべて蒸発に使われ、表面の温度は湿球温度 $T_{wb}$ に保たれる。$h$ は熱伝達率、$h_{fg}$ は蒸発潜熱。熱風の温度が高くても、材料の表面はこの間ずっと湿球温度にとどまるので、熱に弱い材料を守ることになる。
減率乾燥期間
内部の水の移動を拡散とみなすと、両面から乾く厚さ $2L$ の板の平均含水率比 $MR$ は上の級数で表せる。$D$ は水分の拡散係数、$X$ は含水率、$X_0$・$X_e$ は初期と平衡の含水率。時間は $L^2/D$ で決まるので、厚さを2倍にすると乾燥時間は4倍になる。
干し柿と木材乾燥の共通点
干し柿を作るとき、表面が先に乾いて固い膜になると、中の水が抜けにくくなってしまう。木材の乾燥でも同じことが起き、表面だけが急に乾くと表面が縮んで割れる「表面割れ」になる。昔から、干し柿は時々もみほぐし、木材は湿度の高い条件から始めて少しずつ乾かしてきた。表面の乾燥速度を抑えて内部の拡散と釣り合わせるという点で、現代の乾燥機の温湿度スケジュールと同じ考え方だ。
計算例
例1:熱風の条件と恒率乾燥の速度
熱伝達率 $h = 25$ W/(m²·K) の熱風で、湿球温度を湿り空気の関係から求め、恒率乾燥の速度を計算した。
| 熱風 | 湿球温度 | 恒率乾燥の速度 |
|---|---|---|
| 40 ℃・相対湿度30% | 25.0 ℃ | 0.55 kg/(m²·h) |
| 60 ℃・相対湿度10% | 28.8 ℃ | 1.15 kg/(m²·h) |
| 80 ℃・相対湿度5% | 33.8 ℃ | 1.72 kg/(m²·h) |
80 ℃ の熱風でも、表面がぬれている間は材料の表面は34 ℃ くらいにしかならない。速度は「空気の温度と湿球温度の差」で決まるから、温度を上げるのと同じくらい、空気を乾かす(湿度を下げる)ことや、風速を上げて熱伝達率を大きくすることが効くんだ。
例2:厚さと減率乾燥の時間
水分の拡散係数を $D = 10^{-9}$ m²/s とし、両面から乾く板の片側厚さ $L$ を変えて、含水率比が0.5と0.1になるまでの時間を求めた。
| 片側厚さ L | 含水率比0.5まで | 含水率比0.1まで |
|---|---|---|
| 2 mm | 0.2 時間 | 0.9 時間 |
| 5 mm | 1.4 時間 | 5.9 時間 |
| 10 mm | 5.5 時間 | 23.6 時間 |
厚さが2倍になると、時間が4倍になるんですね。薄く切るのが一番効くわけだ。
減率乾燥が長い材料ではそうだね。それに含水率比を0.5から0.1にするには、0.5になるまでの3倍以上の時間がかかっている。最後の少しの水を取るのが一番時間がかかるから、目標の含水率を必要以上に低くしないことも、工程時間を短くする大事なポイントになる。
乾燥機のシミュレーション
CFDで押さえる点
- 風の分布:棚やコンベアの上で風速がばらつくと、乾きむらになる。まず材料を置いた状態の空気の流れを解き、各位置の熱伝達率を評価する。
- 空気の湿り方:下流ほど空気が水分を含んで湿球温度との差が小さくなり、乾燥が遅くなる。湿度(水蒸気の濃度)を輸送方程式で解き、材料からの蒸発を湧き出しとして与える。
- 材料内部:減率乾燥が重要な場合は、材料の中の熱と水分の拡散を連成して解く。拡散係数は含水率と温度で大きく変わるので、試験データから決める。
- 経験式の活用:内部を詳しく解く代わりに、試験で得た乾燥曲線に Page モデルなどの経験式を当てはめ、材料の表面条件として使うと計算が軽くなる。
乾燥機の省エネは「排気の湿度」で決まる
熱風乾燥機のエネルギーの多くは、まだ十分に湿っていない空気を外へ捨てることで失われている。排気の湿度が低いまま捨てれば、加熱した空気の能力を使い切っていないことになる。排気の一部を戻して再利用したり、風量を絞って空気をしっかり湿らせてから排出したりすると、同じ乾燥量でも燃料を大きく減らせることがある。ただし湿度を上げすぎると湿球温度が上がって乾燥が遅くなるので、CFDで乾燥むらと排気の湿度の両方を見ながら条件を決めるのが効果的だ。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 恒率の速度で全工程を見積もる | 乾燥時間を大きく過小評価 | 減率期間を拡散で評価 |
| 温度だけを上げる | 表面の焦げ・割れ | 湿度・風速も含めて調整 |
| 空気の湿り方を無視 | 下流の乾燥を過大評価 | 湿度を輸送方程式で解く |
| 拡散係数を一定とする | 終盤の乾燥速度を誤る | 含水率・温度依存を試験で決める |
条件を変えて乾燥曲線を見てみたいです。
湿り空気線図計算で湿球温度、対流乾燥シミュレーターで恒率乾燥の速度、乾燥速度(Pageモデル)シミュレーターで試験データの当てはめを確かめられるよ。真空で乾かす方法は凍結乾燥シミュレーター。高温の熱処理設備は加熱炉のシミュレーションやキルンの解析の記事にまとめてある。
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