ステファン問題
理論:動く界面の熱伝導
概要
蓄熱材(PCM)がどれくらいの速さで溶けるか計算したいです。普通の熱伝導の計算と何が違いますか?
溶けている液体と、まだ固体の部分の境目(界面)が、時間とともに動いていくところが違う。界面では溶けるための潜熱を吸収するから、熱は界面を進めるのに使われ、その先へはなかなか届かない。界面の位置そのものが答えの一部になる問題を、ステファン問題と呼ぶんだ。一番簡単な場合には厳密解があって、数値計算の検証にもよく使われる。まずは厳密解で、界面がどんな速さで進むかをつかもう。
ノイマンの厳密解
固体が融点 $T_m$ にあり、壁を $T_w$ に保って溶かす場合。界面 $s$ は時間の平方根に比例して進み、係数 $\lambda$ はステファン数 $Ste$(顕熱と潜熱の比)だけで決まる。$\alpha$ は液相の温度拡散率。
エンタルピー法
温度の代わりにエンタルピー $H$(潜熱を含む熱量)を解くと、界面を追わなくても相変化を扱える。融解中のセルは温度が融点のまま、潜熱の分だけエンタルピーが増える。
極地の氷の厚さから生まれた問題
この問題の名前は、スロベニア出身の物理学者ステファンが、1889年ごろに極地の海氷がどれくらいの速さで厚くなるかを研究したことにちなむ。彼は、北極探検の観測データと比べ、氷の厚さが時間の平方根に比例して増えることを示した。同じ形の厳密解はそれ以前にノイマンが講義で示していたとされ、今ではノイマン解と呼ばれることが多い。凍結、鋳物の凝固、蓄熱材、溶接など、界面が動く熱の問題の出発点になっている。
計算例
例1:厳密解と準定常の近似
液相の温度分布を直線と仮定する準定常の近似では $\lambda = \sqrt{Ste/2}$ になる。
| ステファン数 | 0.01 | 0.1 | 0.2 | 0.5 | 1 | 2 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 厳密解 λ | 0.0706 | 0.2200 | 0.3064 | 0.4648 | 0.6201 | 0.8006 |
| 準定常の近似の差 | +0.2% | +1.6% | +3.2% | +7.6% | +14.0% | +24.9% |
例2:パラフィンの融解
熱伝導率0.2 W/mK、密度800 kg/m³、比熱2,000 J/kgK、潜熱200 kJ/kg、融点50 ℃のパラフィンを、70 ℃の壁で溶かす(ステファン数0.2、対流は無視)。融解面の位置は1時間で13.0 mm、4時間で26.0 mm、24時間で63.7 mm。4時間後の壁の熱流束は158.7 W/m²。
例3:エンタルピー法の精度
| 分割数(50 mm) | 4時間後の界面 | 誤差 | 壁の熱流束の振動 |
|---|---|---|---|
| 25 | 26.022 mm | 0.021 mm | −1.8%〜+2.6% |
| 50 | 26.009 mm | 0.008 mm | — |
| 100 | 26.004 mm | 0.003 mm | ±0.1% |
| 200 | 26.002 mm | 0.001 mm | — |
界面の位置は25分割でもほぼ正確なのに、熱流束は振動するんですね。
エンタルピー法では、あるセルが融け終わるまで、その温度は融点に張りついたままになる。融け終わった瞬間に温度が上がり始めるから、壁から見た温度勾配、つまり熱流束が、セルを1つ融かすごとに段階的に変わるんだ。溶けた量を足し合わせる界面の位置は、全体のエネルギーの収支で決まるので正確に出る。でも、壁の熱流束や、ある点の温度の履歴を見たいときは、格子を細かくするか、融点の近くで潜熱を少しの温度幅に広げてなめらかにする工夫が必要だよ。
解析の進め方
- ステファン数を計算し、顕熱と潜熱のどちらが主かを確かめる。
- まず1次元の厳密解で界面の進み方の目安を得る。
- 数値計算はエンタルピー法か見かけの比熱法を使い、同じ条件で厳密解と比べて検証する。
- 液相の自然対流が効く場合(PCMの融解など)は、流れも解く。
- 合金のように融ける温度に幅がある材料は、固液共存域(マッシーゾーン)を入れる。
「計算より2倍速く溶けた」
蓄熱ユニットのパラフィンを、熱伝導だけの計算で設計したら、試作品は計算の約2倍の速さで溶けた——という例がある。溶けた液体が温められて上に昇り、上の方の固体を先に溶かしていた。液相の中の自然対流が、熱伝導だけの場合より熱を大きく運んでいたのだ。容器を縦にしたときの融け方は、横置きとはまるで違う。ステファン問題の厳密解は検証の出発点として大事だが、実際の装置では流れも解く必要がある。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 大きなステファン数で準定常の近似 | 界面を速く見積もる | 厳密解・数値解 |
| 熱流束を粗い格子で評価 | 階段状の振動 | 細かい格子・なめらか化 |
| 液相の対流を無視 | 融解時間を過大評価 | 流れも解く |
| 体積変化を無視 | 空洞・圧力の見落とし | 密度変化を考慮 |
| 過冷却を無視 | 凝固の開始を誤る | 過冷却を測定・考慮 |
関連する計算を試したいです。
PCMの融解シミュレーター、鋳物の凝固時間(チボリノフ則)、顕熱と潜熱の比で試せるよ。関連する内容はエンタルピー法、融解と凝固、マッシーゾーン、蓄熱材(PCM)が参考になる。
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