融解・凝固シミュレーション

カテゴリ: 熱解析・相変化 | 2026-10-01 改稿
CAE visualization for melting solidification theory - technical simulation diagram
融解・凝固シミュレーション

理論:動く界面と潜熱

概要

🙋

融解や凝固の計算は、普通の熱伝導の計算と何が違うんですか?

🎓

固体と液体の境界で潜熱が出入りすることだ。融点では温度が変わらないまま大量の熱が出入りするので、界面はその熱が運び去られる速さでしか進まない。しかも界面の位置は答えの一部なので、格子を合わせておけない。そこで、各セルが持つエネルギー(エンタルピー)を計算し、そこから液体の割合と温度を求めるエンタルピー法が使われる。界面を明示的に追わずに済み、多次元にもそのまま使える。正しく作れているかは、厳密解のあるステファン問題で確かめるのが基本だ。

ノイマン解(一相ステファン問題)

$$ \lambda\,e^{\lambda^2}\,\mathrm{erf}(\lambda) = \frac{St}{\sqrt{\pi}},\qquad St = \frac{c\,\Delta T}{L},\qquad s(t) = 2\lambda\sqrt{\alpha t} $$

液体は融点にあり、壁を融点より ΔT 低く保つ。c と α は固体の比熱と熱拡散率、L は潜熱。St が小さいとき λ ≈ √(St/2)(準定常近似)。

エンタルピー法

$$ \frac{\partial H}{\partial t} = \nabla\cdot(k\nabla T),\qquad H = \rho c\,(T - T_m) - \rho L\,(1 - f_l),\qquad f_l = \begin{cases}1 & H \ge 0\\ 1 + H/(\rho L) & -\rho L < H < 0\\ 0 & H \le -\rho L\end{cases} $$

f_l は液相率。純物質では融点で液相率が0から1へ変わる。合金では温度の幅をもって変わり、その領域がマッシーゾーンになる。

Coffee Break よもやま話

北極の氷の厚さから

ステファンは1889年、極地の海氷がどれだけの速さで厚くなるかを調べる中で、動く界面をもつ熱伝導の問題を定式化した。厳密解はそれより前にノイマンが講義で示していたとされ、今はノイマン解と呼ばれる。凝固層が時間の平方根に比例して厚くなるという結果は、海氷、溶接、鋳造、蓄熱材まで共通している。数値計算法の検証問題としても、今も最初に使われる。

計算例

例1:凝固層の成長にかかる時間

材料壁の過冷Stλ10 mm50 mm100 mm
水(氷)10 K0.0630.176711 秒4.9 時間19.7 時間
アルミニウム300 K0.760.5541.0 秒26 秒105 秒
パラフィン(蓄熱材)10 K0.100.22057 分23.9 時間95.6 時間

厚さが10倍になると時間は100倍。アルミニウムは熱拡散率が氷の約70倍あり、さらに過冷が大きいので桁違いに速い(実際の鋳型では鋳型側の熱抵抗でもっと遅くなる)。

例2:エンタルピー法の検証(氷、400セル)

界面の位置エンタルピー法ノイマン解差
10 mm710 秒711 秒−0.1%
50 mm17,762 秒17,764 秒0.0%

例3:準定常近似の誤差

材料Stλ の誤差100 mmの時間(厳密 / 近似)
水(氷)0.063+1.0%71,056 / 69,609 秒
パラフィン0.10+1.6%344,302 / 333,333 秒
アルミニウム0.76+11.0%105 / 85 秒
🙋

ステファン数が大きいと、簡単な近似は使えなくなるんですね。

🎓

そうだ。準定常近似は、固体の中の温度が直線分布になっているとみなす。潜熱が大きく界面がゆっくり進むときは、固体の温度が先に落ち着くのでよく合う。ステファン数が大きいと、固体を冷やすための顕熱が無視できず、温度分布は直線からずれ、近似は凝固を速く見積もる。アルミを300 K冷やす例では、時間を19%短く出した。これは鋳造で凝固時間を短く見積もり、引け巣の予測を誤ることにつながる。エンタルピー法のような数値計算はこの影響を自動的に含むが、格子や時間刻みが正しいかを、こうした厳密解で一度は確かめておくべきだ。

計算の進め方

  1. ステファン数を求め、潜熱と顕熱のどちらが支配的かを見る。
  2. 純物質は融点の狭い温度幅で、合金は固相線〜液相線で液相率を与える。
  3. 液体側の対流が大きい場合は、マッシーゾーンでの流れの抵抗も入れる。
  4. ノイマン解などの厳密解で、格子と時間刻みを検証する。
  5. 体積変化(収縮)や過冷が重要なら、それを扱えるモデルを選ぶ。
Coffee Break よもやま話

「蓄熱槽が予定の半分しか溶けなかった」

パラフィンを使った蓄熱槽で、設計では一晩(10時間)で全量が溶けるはずが、実際には半分ほどしか溶けなかった。設計計算では、パラフィンの熱伝導率を液体の対流を含んだ大きめの値で一律に与えていた。実際には、溶けた層は伝熱管の上側で対流するものの、下側ではほとんど動かず、固体の熱伝導率0.24 W/mKのまま熱が伝わっていた。厚さ50 mmを伝導だけで溶かすには約24時間かかる計算になり、実測とおおむね合った。伝熱フィンを追加して熱が伝わる距離を短くし、解決した。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
St が大きいのに準定常近似凝固時間を短く見積もるノイマン解・数値計算
液相率の温度幅が狭すぎる温度が振動する幅を数セル分に
対流を一律の熱伝導率で代用上下の差を見逃す流れを解く
格子が粗い界面が階段状に進む厳密解で確認
鋳型の熱抵抗を無視凝固が速すぎる界面熱伝達を入れる
🙋

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