マッシーゾーン(固液共存域)のモデル
理論:固体と液体が混ざる温度の幅
概要
アルミ合金の鋳物の凝固をCFDで解いたら、引け巣の位置が実物と合いません。何を見直せばいいですか?
まずマッシーゾーンの扱いを確かめよう。合金は純金属と違って一つの温度で固まらず、液相線から共晶温度までの幅の中で、樹枝状の結晶と液が混ざった状態になる。この中で液がどこまで流れて、縮んだ分を補えるかが、引け巣の位置を決める。モデルで大事なのは2つ。温度からどれだけ固まったか(固相率)を求める式と、固まりかけた領域で流れをどれだけ止めるかを決める抵抗の定数だ。どちらも選び方で結果が大きく変わるんだよ。
固相率の式
$k$ は平衡分配係数、$T_m$ は純金属の融点、$T_L$ は液相線温度。てこの法則は固体の中でも成分が十分に拡散する(平衡)と仮定し、シャイルの式は固体の中では拡散しないと仮定する。
流れを止めるダルシー項
エンタルピー多孔質法で運動量の式に加える項。液相率 $f_l$ が下がるほど急に大きくなり、固まった所では速度が0になる。$A_{mush}$ がマッシーゾーン定数、$\epsilon$ は0で割らないための小さな数。
鋳物の中の成分のむら
固相率のシャイルの式は、1942年にドイツのシャイルが、凝固の途中で成分が液に押し出されて偏る現象(偏析)を説明するために示した。鋳物の中心や最後に固まる所に不純物が集まる理由を、簡単な式で説明できる。1980年代には、ボラーとプラカシュがマッシーゾーンを多孔質体とみなして流れを止めるエンタルピー多孔質法を示し、凝固と流れを同じ格子で解けるようになった。いまの鋳造シミュレーションの多くは、この2つの考え方の上に成り立っている。
計算例
例1:Al-4%Cu合金の固相率
純アルミの融点660 ℃、液相線の傾き−3.4 K/%、分配係数0.17、共晶温度548 ℃。液相線は646.4 ℃、てこの法則の固相線は580 ℃。
| 温度 | 640 °C | 620 °C | 600 °C | 580 °C | 560 °C | 548 °C |
|---|---|---|---|---|---|---|
| てこの法則 | 0.386 | 0.795 | 0.932 | 固体 | 固体 | 固体 |
| シャイル | 0.372 | 0.727 | 0.833 | 0.882 | 0.910 | 0.921 |
シャイルの式では共晶温度で残りの7.9%が一度に固まる。凝固の最後の温度幅が、てこの法則より32 K広い。
例2:マッシーゾーン定数の影響
ダルシー項の係数を、粘性の項(粘度1.3×10⁻³ Pa·s、長さ1 mm)と比べた倍率:
| 液相率 | 0.99 | 0.9 | 0.5 | 0.1 |
|---|---|---|---|---|
| A = 10⁵ | 0.008 | 1.05 | 153 | 3.1×10⁴ |
| A = 10⁸ | 7.9 | 1,050 | 1.5×10⁵ | 3.1×10⁷ |
定数を変えるだけで、液相率0.9での流れやすさが1,000倍も違うんですね。
そう。定数が小さいと、かなり固まった所まで液が流れ込み、大きいと少し固まり始めただけで流れが止まる。引け巣は、液が補給できなくなった所にできるから、この定数で引け巣の位置も大きさも変わってしまう。汎用ソフトの初期値(10⁵程度が多い)をそのまま信じず、デンドライトの間隔から求めた透過率や、実験の凝固の様子に合わせて決めることが大事だ。固相率の式と合わせて、材料ごとに校正しておこう。
解析の進め方
- 合金の状態図から液相線・固相線・共晶温度と分配係数を集める。
- 冷却速度に応じて、てこの法則・シャイル・その中間のモデルを選ぶ。
- マッシーゾーン定数を、デンドライトの間隔(冷却速度から推定)の透過率から決める。
- 凝固の収縮と液の補給を解き、引け巣の判定(ニヤマ基準など)を使う。
- 切断面の観察やX線の結果と比べて、定数を見直す。
「引け巣が計算より上に出た」
アルミ合金のホイールの鋳造で、計算では肉厚部の中心に予測した引け巣が、実物では少し上の位置に出た——という例がある。凝固の計算はてこの法則で、固相線を580 ℃にしていた。シャイルの式に変えると、共晶温度まで液が残る時間が延び、最後に固まる場所が上へ移った。さらにマッシーゾーン定数を試験の結果に合わせて調整すると、引け巣の位置がよく合った。固相率の式と流れの抵抗の両方を材料に合わせることが大事だ。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 速い冷却でてこの法則 | 凝固の終わりを早く見積もる | シャイルの式 |
| マッシーゾーン定数を初期値のまま | 引け巣の位置がずれる | 透過率・実験で校正 |
| 共晶の潜熱を無視 | 冷却曲線の停滞を再現できない | 共晶を入れる |
| 収縮を無視 | 引け巣を予測できない | 密度変化と補給を解く |
| 格子がマッシーゾーンに対して粗い | 流れの止まり方がずれる | 温度幅の中に数セル |
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