形態係数の計算
理論:どれだけ「見えて」いるか
概要
放射の熱解析をすると、最初に形態係数の計算で時間がかかるんです。そもそも何を計算しているんですか?
面から出た放射のうち、別の面に直接届く割合だよ。温度にも放射率にもよらず、形と位置関係だけで決まる。だから一度計算しておけば温度を変えても使い回せるけど、面の数が $n$ なら組み合わせは $n^2$ 通りあるから、面が多いモデルでは計算量が膨らむんだ。
定義
$\theta_1$・$\theta_2$ は2つの微小面を結ぶ線と各面の法線がなす角、$R$ はその距離。拡散面(どの方向にも同じ強さで放射する面)を仮定している。
相反則と総和則
この2つを使うと、積分しなくても求まる形態係数がたくさんある。たとえば閉じた球の内面どうしは、どこからどこでも面積の比になる。数値計算の結果が総和則を満たしているかは、計算が正しいかの簡単なチェックにもなるよ。
照明と放射で同じ計算をしていた
形態係数の考え方は、照明の分野では「照度の計算」として早くから使われていた。1980年代には、この計算をコンピュータグラフィックスに応用した「ラジオシティ法」が生まれ、部屋の中で光が壁から壁へ何度も反射する柔らかな陰影を描けるようになった。熱の放射解析で面どうしのやりとりを連立方程式で解く方法と、中身はほとんど同じだ。分野をまたいで同じ数学が使われている、わかりやすい例である。
計算例:解析式と数値計算の比較
向かい合う正方形
1辺 $a$ の正方形2枚が距離 $L$ で平行に向かい合うときの形態係数(解析式による)。
| a/L | 形態係数 | 見え方 |
|---|---|---|
| 0.5 | 0.069 | 遠くて小さく見える |
| 1 | 0.200 | 1 m 角が1 m 先 |
| 2 | 0.415 | — |
| 5 | 0.690 | — |
| 10 | 0.827 | すき間の狭い平行板 |
1 m² の黒体面が500 K と300 K で1 m 離れて向かい合うと、約616 W がやりとりされる。すき間を狭くすると形態係数は1に近づき、無限平行平板の値に近づいていく。
モンテカルロ法(光線追跡)の誤差
面上のランダムな点から、余弦の重みをつけたランダムな方向に光線を飛ばし、相手の面に当たった割合を数える。当たるか当たらないかの二択なので、ばらつきは次の式で見積もれる。$a = L$ の正方形($F = 0.200$)で、自作の計算でもほぼこのとおりになった。
| 光線数 | ばらつき(標準偏差) |
|---|---|
| 1,000 | ±6.3 % |
| 10,000 | ±2.0 % |
| 100,000 | ±0.63 % |
| 1,000,000 | ±0.20 % |
面分割による数値積分の誤差
定義の二重積分を、面を $n \times n$ に分割して中心どうしの和で近似する方法を、辺を共有して直交する正方形(厳密値 0.2000)で試した。
| 分割 | 形態係数 | 誤差 |
|---|---|---|
| 2 × 2 | 0.264 | +32 % |
| 4 × 4 | 0.233 | +16.5 % |
| 8 × 8 | 0.217 | +8.4 % |
| 16 × 16 | 0.208 | +4.2 % |
| 32 × 32 | 0.204 | +2.1 % |
分割を倍にしても、誤差が半分にしかならないんですね。
共有している辺のすぐそばでは距離 $R$ がゼロに近づいて、被積分関数が急に大きくなるからね。離れた面どうしなら少ない分割で精度が出るけど、角や隅のように面が接しているところでは誤差が残りやすい。筐体の内側の角や、フィンの付け根のような場所だね。商用ソフトは、近い面どうしだけ細かく分けたり解析的に積分したりして対処しているけど、設定によっては粗いまま計算されるから注意しよう。
熱解析での使い方
設定の要点
- 遮るものの考慮:2つの面の間に別の部品があると形態係数は小さくなる。遮蔽の判定をオフにすると計算は速いが、込み入った形状では放熱を過大評価する。
- 総和のチェック:閉じた空間なら、各面の形態係数の合計が1になるかを確かめる。1から大きくずれる面は、分割や光線数が足りないか、隙間から放射が漏れている。
- 外部への放射:開いた空間では、周囲(空や室内の壁)を表す仮想の面を置くか、周囲温度への放射として境界条件を与える。
- 面の粗さ:放射のために熱解析のメッシュを細かくする必要はないことが多い。放射用に面をまとめて粗くし、形態係数の計算量を減らす機能を使うとよい。
計算方法の選び方
| 方法 | 得意な場合 | 注意点 |
|---|---|---|
| 解析式(表) | 単純な形状、検証 | 形状が限られる |
| 面分割の数値積分 | 離れた面、滑らかな結果 | 接する面の近くで誤差 |
| モンテカルロ法 | 複雑な形状・遮蔽・鏡面反射 | ばらつき、光線数の確保 |
放射率より先に形態係数を疑う
放射を含む熱解析が実測と合わないと、まず放射率を調整したくなる。しかし表面処理のカタログ値は大きく外れないことも多く、原因が形態係数側にあることは少なくない。隙間から放射が漏れていた、遮蔽の判定を切っていた、近くの部品を省略していた、などだ。放射率を合わせ込む前に、総和則と簡単な形状での解析式との比較で、形態係数が正しく計算されているかを確かめる順番が、結果的に早道になる。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 相反則を忘れて片方向だけ使う | 面積の違う面で交換量を誤る | $A_1F_{12} = A_2F_{21}$ で確かめる |
| 遮蔽の判定を切る | 込み入った形状で放熱を過大評価 | 遮蔽ありで計算し、差を確認 |
| 接する面を粗く分割 | 形態係数を過大評価 | 角の近くを細かく、または解析的積分 |
| 光線数を既定値のまま | 小さい面でばらつきが大きい | 重要な面で必要な精度から逆算 |
| 開いた空間で周囲を置かない | 放射が行き場を失い温度を誤る | 周囲の仮想面か周囲温度を設定 |
形を変えて形態係数を試してみたいです。
形態係数シミュレーターで面の大きさや距離を変えると、形態係数の変わり方を確かめられるよ。複数の面の熱のやりとりは放射ネットワークシミュレーター、光線追跡の考え方はモンテカルロ放射伝達シミュレーターで体験できる。理論の続きはラジオシティ法、灰色体間の放射交換、モンテカルロ法による放射解析の記事にまとめてある。
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