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電気・通信

レーダー方程式シミュレーター

モノスタティックレーダーがターゲットを探知できる最大距離を、レーダー方程式から計算するツールです。送信電力・アンテナ利得・周波数・ターゲットRCSを変えると、最大探知距離・受信エコー電力・レーダーバンドがリアルタイムで分かり、電波が距離の4乗で弱まる仕組みを体感できます。

パラメータ設定
送信電力 P_t
W
レーダーがアンテナへ送り出すピーク電力
アンテナ利得 G
dBi
電波を一方向に集中させる度合い(送受で共通)
周波数 f
GHz
送信周波数。波長 λ とレーダーバンドを決める
ターゲットRCS σ
レーダー断面積。反射の強さを表す等価面積
最小検出可能電力 S_min
dBm
受信機が信号として識別できる下限電力
システム損失 L
dB
給電線・大気・信号処理などの総合損失
計算結果
最大探知距離 R_max (km)
波長 λ (cm)
レーダーバンド
受信エコー電力@R_max (dBm)
アンテナ利得(真値)G
探知性能
レーダー探知の様子 — パルスとエコーのアニメーション

左のレーダーから送信パルスが広がってターゲットに当たり、はるかに弱いエコーが戻ります。波面の濃淡が電波の1/R⁴減衰を表します。

受信電力 vs 距離(1/R⁴の急減衰)
最大探知距離 vs 送信電力
理論・主要公式

$$R_{max}=\left[\frac{P_t\,G^2\,\lambda^2\,\sigma}{(4\pi)^3\,S_{min}\,L}\right]^{1/4}$$

モノスタティックレーダーの最大探知距離 R_max [m]。P_t:送信電力、G:アンテナ利得(真値)、λ:波長、σ:RCS、S_min:最小検出可能電力、L:システム損失。

$$P_r(R)=\frac{P_t\,G^2\,\lambda^2\,\sigma}{(4\pi)^3\,R^4\,L}$$

距離 R での受信エコー電力 P_r [W]。エコー電力は 1/R⁴ で減衰する — 往路で一度、復路でもう一度、合わせて2回拡散するためである。

レーダー方程式とは

🙋
レーダーって、電波を出して飛行機を見つける装置ですよね。どれくらい遠くまで見えるかって、何で決まるんですか?
🎓
それを一本の式にまとめたのが「レーダー方程式」だよ。ざっくり言うと、レーダーが出せる送信電力、アンテナがどれだけ電波を一方向に集められるか(利得)、ターゲットがどれだけ強く電波を跳ね返すか(RCS)、そして受信機がどれだけ微弱な信号まで拾えるか——この4つで最大探知距離が決まる。左のスライダーを動かすと、R_max がリアルタイムで変わるのが見えるはずだ。
🙋
送信電力を上げれば上げるほど遠くまで見えそうですけど…左の「送信電力」を10倍にしても、探知距離はそんなに伸びませんね?
🎓
そこがレーダーの一番おもしろいところなんだ。受信したエコー電力は距離の「4乗」に反比例する。電波がレーダーから出てターゲットに向かうとき、球面状に広がって 1/R² で薄まる。ターゲットで跳ね返った電波がレーダーに戻るとき、また 1/R² で薄まる。往復で 1/R⁴ になるわけだ。だから探知距離は送信電力の「4乗根」でしか伸びない。距離を2倍にしたければ電力を16倍にしないといけない。下の「受信電力 vs 距離」グラフの、あの崖みたいなカーブがそれだよ。
🙋
16倍ですか…! じゃあ「ステルス機」がレーダーに映りにくいのも、その4乗根が関係しているんですか?
🎓
まさにそこなんだ。RCS(レーダー断面積)はターゲットの「電波の反射しやすさ」を面積で表したもので、探知距離はRCSの4乗根に比例する。普通の戦闘機のRCSが数 m² だとすると、形状を尖らせて電波を別方向に逃がし、電波吸収材も使ってRCSを 1/16 まで下げる。そうすると相手レーダーの探知距離は半分になる。逆に言えば、RCSをほんの少し下げるだけでも探知距離は確実に縮む。これがステルス設計が「形状でRCSを削る」ことに執着する理由だよ。
🙋
周波数を変えると「X帯」とか「S帯」とか表示が変わりますね。これは何の違いなんですか?
🎓
レーダーバンドといって、送信周波数の帯域に付いた呼び名だよ。周波数が高いほど波長が短くなる。波長が短いとアンテナを小さくできて、角度の分解能も上がる——だから航空機に積む火器管制レーダーや気象レーダーはX帯(8〜12GHz)が多い。一方、波長が長いL帯やS帯は雨や大気で減衰しにくく、遠くまで届くから、空港の航空管制レーダーのような長距離捜索に向いている。用途に応じて、波長と探知距離とアンテナサイズのバランスで帯域を選ぶんだ。

よくある質問

レーダー方程式は、レーダーがターゲットを探知できる最大距離 R_max を、送信電力・アンテナ利得・周波数(波長)・ターゲットのRCS(レーダー断面積)・受信機の最小検出可能電力・システム損失から求める式です。送受信に同じアンテナを使うモノスタティックレーダーでは R_max = [P_t·G²·λ²·σ / ((4π)³·S_min·L)]^(1/4) で表されます。電波は往路と復路で2回拡散するため、受信エコー電力は距離の4乗に反比例して急減します。
受信エコー電力は距離 R の4乗(R⁴)に反比例します。電波がレーダーからターゲットへ向かうとき球面状に広がって 1/R² で薄まり、ターゲットで散乱した電波がレーダーへ戻るときにもう一度 1/R² で薄まるためです。したがって R_max は受信電力の4乗根に比例し、R_max ∝ (P_t·G²·σ)^(1/4) となります。つまり探知距離を2倍にするには送信電力を16倍にしなければなりません。出力を上げて遠くを見るのが非常に高コストである理由がここにあります。
RCS σ はターゲットがどれだけ強く電波を反射してレーダーへ返すかを表す面積(m²)です。受信エコー電力は σ に比例しますが、探知距離 R_max は σ の4乗根に比例します。このため、機体形状や電波吸収材でRCSを 1/16 に下げても、相手レーダーの探知距離は半分にしかなりません。逆に言えば、RCSをわずかでも下げれば探知距離を着実に縮められるため、RCS低減はステルス設計の中心的な手段になっています。
レーダーバンドは送信周波数の帯域名で、2GHz未満がL帯、2〜4GHzがS帯、4〜8GHzがC帯、8〜12GHzがX帯、12〜18GHzがKu帯、18〜27GHzがK帯、27GHz超がKa帯です。周波数が高いほど波長が短くなり、アンテナを小型化でき角度分解能も上がりますが、雨や大気による減衰が大きくなります。航空管制のような長距離捜索にはL帯・S帯、航空機搭載の火器管制や気象レーダーにはX帯が、それぞれ用途に合わせて選ばれます。

実世界での応用

航空管制レーダー:空港やその周辺空域で航空機を捜索する一次監視レーダー(PSR)は、レーダー方程式そのものの設計対象です。100〜400kmという長距離をカバーするため、数 MW 級のピーク電力と大型アンテナを使い、雨に強い波長の長いL帯・S帯を選びます。本ツールで送信電力を上げてもR_maxが4乗根でしか伸びないことを確認すると、なぜ管制レーダーがあれほど巨大な設備になるのかが直感的に理解できます。

気象レーダー:雨粒や雪を「ターゲット」として捉える気象レーダーでは、降水粒子の総RCSからエコー強度を求め、降水量に換算します。多数の小さな散乱体が体積内に分布する点が航空機ターゲットと異なりますが、受信電力が 1/R⁴ で減衰する基本構造は同じです。遠方の弱い降水を捉えるには受信機の最小検出可能電力 S_min をいかに低くするかが鍵になります。

軍用・防空システムとステルス設計:防空レーダーと航空機の関係は、まさにレーダー方程式をめぐる攻防です。レーダー側は送信電力・アンテナ利得・受信感度を上げて探知距離を伸ばそうとし、航空機側は形状と電波吸収材でRCSを下げて探知距離を縮めようとします。探知距離がRCSの4乗根で効くため、わずかなRCS低減でも防御側に大きな利益をもたらします。

自動車用ミリ波レーダー・船舶レーダー:車載の衝突防止レーダーは76〜81GHz帯(本ツールの上限を超える)を使い、数十〜数百mの近距離を高分解能で見ます。船舶レーダーはX帯やS帯で他船・海岸線・ブイを捉えます。いずれも探知すべき距離・対象のRCS・許容できるアンテナサイズから、レーダー方程式を逆算して送信電力と周波数を決める設計プロセスをたどります。

よくある誤解と注意点

まず大きな誤解が、「送信電力を上げれば探知距離は比例して伸びる」という思い込みです。受信エコー電力は距離の4乗に反比例するため、R_max は送信電力 P_t の4乗根にしか比例しません。電力を2倍にしても探知距離は約1.19倍、距離を2倍にしたければ電力は16倍必要です。本ツールで送信電力スライダーを動かし、「最大探知距離 vs 送信電力」グラフの寝たカーブを見れば、出力増強がいかに割の合わない手段かが分かります。実務では、送信電力よりもアンテナ利得や受信感度、信号処理の積分利得を稼ぐほうが効率的です。

次に、「RCSは機体に固有の一つの数値だ」という単純化です。RCSは見る方向(アスペクト角)、周波数、偏波によって桁単位で変わります。同じ航空機でも正面から見るときと真横から見るときではRCSが大きく異なり、本ツールが扱う σ はあくまで代表値の一点です。実際のステルス設計では「正面方向のRCSだけを徹底的に下げ、他方向は妥協する」といった方向依存の最適化が行われます。単一の σ で探知距離を語るときは、その前提を意識する必要があります。

最後に、「このレーダー方程式さえあれば探知性能が完全に予測できる」という過信です。本ツールの式は最も基本的な形で、大気減衰、地表・海面のクラッタ、受信機雑音の積分、目標の揺らぎ(スウェルリングモデル)、探知確率と誤警報確率を含んでいません。実際の探知距離は、ここで計算した R_max よりも環境条件や信号処理の質に大きく左右されます。本ツールは「各パラメータが探知距離にどう効くか」を直感的につかむための教育的モデルであり、実機の性能保証には信号対雑音比(SNR)を基準にした完全版のレーダー方程式と統計的な検出理論が必要です。

使い方ガイド

  1. 送信電力(1~100 kW)とアンテナ利得(20~50 dBi)を設定します。X帯レーダーの場合、送信電力10 kW、利得35 dBiが標準値です
  2. 周波数(300 MHz~35 GHz)とターゲットRCS(0.1~100 m²)を入力し、受信エコー電力を演算します。戦闘機のRCSは典型的に5~10 m²です
  3. システム損失(3~8 dB)と最小検出可能電力(-80~-120 dBm)を調整すると、リアルタイムで最大探知距離R_maxが更新されます。レーダー方程式 R_max = (Pt·G²·λ²·σ)/(64π³·L·S_min) の平方4乗根で計算されます

具体的な計算例

Ku帯気象レーダー:送信電力50 kW、アンテナ利得43 dBi(真値14000倍)、周波数15 GHz(波長2 cm)、降水粒RCS 10 m²、システム損失5 dB、最小検出可能電力-110 dBmの場合、受信エコー電力@100 kmは-95 dBmとなり、最大探知距離は約280 kmです。一方、C帯防空レーダー(周波数5.6 GHz、送信電力500 kW、利得36 dBi)で戦闘機RCS 6 m²を探知する場合、最大探知距離は450 km超となります

実務での注意点

  1. 周波数が高いほど波長は短くなり、同じ利得でアンテナサイズが小さくなりますが、大気減衰が増加します。Ku帯以上では降雨減衰を-5~-15 dB追加考慮が必須です
  2. RCS値は入射角・偏波・周波数に強く依存します。実測RCSではなく設計値を使用する場合、±3 dBの不確定性を見込んでください
  3. 最小検出可能電力(MDS)はレーダー受信機の雑音指数とIF帯域幅で決まります。高性能レーダーでも-130 dBm以下のMDSは実現困難です
  4. 複数ターゲット同時追尾では各目標への電力配分が減少し、実効探知距離は計算値から-10~-20 km低下します