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地盤工学

切梁式掘削の支保工荷重シミュレーター

地下構造物のために深く掘る切梁式掘削(ブレースカット)の山留めを設計するツールです。掘削深さ・土の重さ・切梁の間隔を変えると、テルツァギ・ペックの見かけ土圧から切梁1本の軸力や必要段数がリアルタイムで分かり、座屈に注意すべき設計を見極められます。

パラメータ設定
掘削深さ H
m
地表面から掘削底面までの深さ
土の単位体積重量 γ
kN/m³
砂質地盤でおおむね 17〜20
主働土圧係数 Ka
内部摩擦角で決まる。砂で約 0.27〜0.40
切梁の鉛直間隔 sv
m
上下に並ぶ切梁段の間隔
切梁の水平間隔 sh
m
同じ段で横に並ぶ切梁の間隔
計算結果
見かけ土圧 (kPa)
全水平力(1m幅)(kN/m)
切梁1本の負担面積 (m²)
切梁の軸力 (kN)
必要な切梁段数 (段)
軸力の判定
切梁式掘削の断面図 — 見かけ土圧

対向する2枚の山留め壁を切梁が突っ張ります。壁に沿った矩形が見かけ土圧、黄色の枠が1本の切梁の負担面積です。土圧の包絡線は静かに脈動します。

切梁軸力 vs 掘削深さ H
切梁軸力 vs 水平間隔 sh
理論・主要公式

$$p_a = 0.65\,K_a\,\gamma\,H, \qquad P_{strut} = p_a\cdot s_v\cdot s_h$$

見かけ土圧 $p_a$ [kPa]($K_a$:主働土圧係数、$\gamma$:単位体積重量 kN/m³、$H$:掘削深さ m)と、切梁1本の軸力 $P_{strut}$ [kN]($s_v$:鉛直間隔、$s_h$:水平間隔)。

$$P_{total} = p_a\cdot H, \qquad n = \left\lceil \frac{H}{s_v} \right\rceil$$

壁1m幅あたりの全水平力 $P_{total}$ [kN/m] と、必要な切梁段数 $n$。見かけ土圧図は真の土圧分布ではなく、切梁荷重を見積もるための経験的な包絡線である点に注意。

切梁式掘削とは

🙋
地下鉄の駅とか、ビルの地下を造るとき、地面をすごく深く掘りますよね。あの掘った穴の壁って、どうして崩れてこないんですか?
🎓
いい質問だね。深くて狭い穴を掘ると、まわりの土はそのままなら内側に崩れ落ちてくる。だから「山留め」をするんだ。よく使うのが切梁式掘削、英語でブレースカット。シートパイルや鋼矢板、地中連続壁といった縦の壁で土を押さえて、掘削をまたぐように水平の「切梁」を渡し、向かい合う壁どうしを突っ張るんだよ。
🙋
なるほど、突っ張り棒みたいなものですね。じゃあ切梁にどれくらい力がかかるかは、教科書の三角形の土圧で計算すればいいんですか?
🎓
そこがこのツールの一番の肝なんだ。実は三角形の主働土圧をそのまま使ってはいけない。三角形の図は「壁が底を支点にして自由に回転して、土圧が深さに比例して直線的に増える」ことを前提にしている。でも切梁式の壁はそんな動きをしないんだよ。
🙋
え、壁って自由に回転しないんですか?どう動くんですか?
🎓
切梁は掘り下げながら上から順に入れていくよね。一番上の切梁は掘削の早い段階で入るから、壁の上部はほとんど動けないように拘束される。一方で下のほうは、深い切梁が入る前に少しだけはらむことができる。つまり壁は「上は固定・下ははらむ」というふくらんだ拘束変形をする。自由回転とはまるで別物なんだ。だから土圧分布も三角形にはならない。
🙋
じゃあ実際の切梁の荷重は、どうやって決めるんですか?
🎓
テルツァギとペックという研究者が、何十もの実際の掘削現場で切梁の荷重を測りまくった。その膨大なデータから、変形の実態に合った「見かけ土圧図」を提案したんだ。砂の場合は深さによらず一定の矩形。これは真の土圧分布ではなくて、上段でも下段でも切梁の荷重を計算したときに安全側の値が出るように、わざとそういう形にした経験的な包絡線なんだよ。各切梁は自分の「負担面積」ぶんの土圧を受け持つ、と考えて軸力を出す。切梁は長い圧縮材で座屈で壊れやすく、1本でも壊れると連鎖崩壊になりかねないから、この方法はわざと保守的に作ってあるんだ。

よくある質問

教科書の三角形分布(主働土圧)は、壁が底を支点に自由回転し、土圧が深さに比例して直線的に増えることを前提にしています。しかし切梁式の山留め壁は自由回転しません。掘削の早い段階で入った最上段の切梁が壁の上部をほぼ動かないように拘束し、下部だけがわずかにはらむため、壁は自由回転とはまったく異なる「拘束されたはらみ変形」をします。テルツァギとペックは多数の現場の切梁荷重実測から、この変形に合った見かけ土圧図(砂では矩形)を提案しました。これは真の土圧分布ではなく、切梁荷重を安全側に見積もるための経験的な包絡線です。
0.65 はテルツァギとペックが砂質地盤の切梁式掘削に対して提案した経験係数です。三角形の主働土圧の合力は (1/2)Ka·γ·H² で、平均土圧に直すと 0.5·Ka·γ·H になります。見かけ土圧の矩形包絡線はこれより少し大きい一定値 0.65·Ka·γ·H とし、上段・下段どの位置の切梁にも安全側の荷重が出るようにしています。砂のほか、軟らかい粘土・硬い粘土には別の図(台形など)が用意されており、それぞれ係数や形状が異なります。本ツールは砂質地盤の矩形包絡線を扱います。
切梁式掘削の壁では、各切梁はそれを取り囲む「負担面積(トリビュタリエリア)」の土圧を受け持つと考えます。負担面積は、上下の切梁との中間まで・左右の切梁との中間までで囲まれた壁面の矩形で、その面積は鉛直間隔 sv と水平間隔 sh の積です。切梁の軸力は、見かけ土圧 pa にこの負担面積を掛けて P_strut = pa·sv·sh で求めます。鉛直間隔・水平間隔を広げるほど1本あたりの軸力は大きくなり、座屈の検討がより重要になります。
切梁は掘削をまたいで対向する壁を突っ張る長い圧縮材で、自由長が長いほど座屈耐力が急激に下がります。軸力が同じでも、スパンが長い切梁ほど細長比が大きく、許容軸力は座屈で決まります。さらに切梁式の山留めは多数の切梁が連動する系で、1本が座屈・破壊すると荷重が隣に再配分されて連鎖崩壊につながりかねません。このため見かけ土圧法は意図的に保守的に組まれており、本ツールの軸力判定も座屈・断面検討を促す閾値で色分けしています。

実世界での応用

地下鉄駅・地下構造物の建設:都市部の地下鉄駅は、幅の狭い長方形の深い掘削で築造されることが多く、切梁式掘削の代表的な用途です。シートパイルや地中連続壁を打設してから掘り下げ、所定の深さに達するたびに切梁を架けていきます。各段の切梁荷重を見かけ土圧で見積もり、座屈を含む断面検討を行うのが設計の基本フローです。

ビル地下・地下駐車場:市街地のビル新築では、隣接建物の直近で深い掘削を行うため、周辺地盤の沈下を抑える剛な山留めが求められます。切梁の段数・間隔は、掘削深さと地盤条件から見かけ土圧をもとに決め、近接構造物への影響も合わせて評価します。

共同溝・立坑・ライフライン工事:上下水道・電力・通信のための立坑や共同溝の掘削も、切梁や腹起しで支保する切梁式掘削で行われます。狭く深い掘削では切梁スパンが短く取れるため軸力を抑えやすい一方、段数が多くなり施工手順の管理が重要になります。

設計の事前検討と妥当性チェック:詳細な弾塑性法(梁−ばねモデル)や有限要素解析を行う前に、本ツールのような見かけ土圧の概算で切梁軸力の桁を把握しておくと、断面の当たりづけや切梁本数の検討が早く進みます。逆に詳細解析の結果が概算と桁違いなら、解析条件のミスを疑うサニティチェックにもなります。

よくある誤解と注意点

まず最大の誤解が、「見かけ土圧図は実際の土圧分布を表している」という思い込みです。テルツァギ・ペックの見かけ土圧図は、真の土圧分布の測定結果ではありません。多数の現場で測った切梁荷重から逆算し、「この包絡線で各切梁の荷重を計算すれば、どの段でも安全側の値になる」ようにわざと作られた設計用の図です。したがって見かけ土圧を使ってよいのは切梁荷重・腹起し荷重の算定であって、壁体に生じる曲げモーメントを正確に出したいなら、別途で弾塑性法や有限要素解析を使う必要があります。

次に、「砂の図をそのまま粘土地盤に使う」こと。本ツールが扱う矩形の見かけ土圧は砂質地盤用です。軟らかい粘土・硬い粘土には形状の違う図(台形など)が用意されており、係数も異なります。特に軟弱粘土では掘削底面のヒービング(盤ぶくれ)や安定数の検討が別途必要で、見かけ土圧だけで設計は完結しません。地盤調査でその現場の土質を確認し、適切な図を選ぶことが前提です。また地下水・上載荷重・近接構造物の影響もこの概算には含まれていません。

最後に、「軸力さえ満たせば切梁は安全」という誤解。切梁は長い圧縮材なので、強度(降伏)ではなく座屈で耐力が決まることがほとんどです。同じ軸力でもスパンが長ければ細長比が大きくなり、許容軸力は大きく下がります。さらに切梁は温度変化で伸縮し、プレロード(あらかじめ与える軸力)や継手のガタ、腹起しとの取り合いも荷重に影響します。本ツールの軸力はあくまで設計の出発点であり、座屈長さ・断面性能・施工段階ごとの荷重変化を含めた検討と必ずセットで行ってください。

使い方ガイド

  1. 掘削深さ(m)と掘削幅(m)を入力し、粘性土または砂質土の地盤条件を選択します
  2. カ係数(主働土圧係数Ka)と単位体積重量(kN/m³)をテルツァギ・ペック図表の値から設定し、見かけ土圧分布を決定します
  3. 切梁の配置間隔(縦横)と部材断面(H形鋼など)を指定すると、1本あたりの軸力と座屈応力比が自動計算されます
  4. 必要な切梁段数と応力判定結果から、山留め設計の妥当性を検証します

具体的な計算例

掘削深さ8m、掘削幅12m、粘性土(γ=18kN/m³、Ka=0.5)の場合:見かけ土圧は約48kPaとなり、全水平力は576kN/mです。縦間隔2m・横間隔3mで切梁を配置すると、1本あたりの負担面積は6m²、軸力は約3,456kNになります。H-400×400×13×21(断面積159cm²)の切梁を選定した場合、圧縮応力は約217MPaで、座屈長150cm時の許容応力235MPaに対して判定OKとなります。

実務での注意点