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トライボロジー・接触力学

DMT粘着接触シミュレーター — Derjaguin-Muller-Toporov理論

硬弾性体の球接触で、表面エネルギーγが接触領域外に働く長距離吸引力をもたらすDMTモデル。引離し力F_po=-2πRγはJKRの4/3倍。Taborパラメータで適用域を判定しながら学べます。

パラメータ設定
球半径 R
mm
等価弾性係数 E*
GPa
表面エネルギー γ
mJ/m²
法線荷重 F(負値=引張)
μN

既定値はガラス球相当(E*≈100GPa)。Taborパラメータz₀=0.2nmを仮定。F<0で引張荷重下の粘着保持を観察できます。

計算結果
DMT 接触半径 a_D
引離し力 F_po^DMT = -2πRγ
比較: F_po^JKR = -(3/2)πRγ
Tabor パラメータ μ(適用判定)
接触概念図 + 接触半径 vs 荷重カーブ

上半=球と平面の接触概念図(DMTは接触領域外に吸引力/JKRは接触縁に応力集中)/下半=DMT(緑)・JKR(赤)・Hertz(青)の比較カーブ、黄点=現在

理論・主要公式

DMT理論は、硬い弾性球と平面の接触において、接触領域の外側に働く長距離吸引力(ファンデルワールス等)をHertz形状の上に重ね合わせて扱います。

DMT接触半径(粘着あり):

$$a_D^3 = \frac{3R}{4E^*}\!\left(F + 2\pi R\gamma\right)$$

引離し力(pull-off)DMT と JKR の対比:

$$F_\text{po}^\text{DMT} = -2\pi R\gamma, \qquad F_\text{po}^\text{JKR} = -\tfrac{3}{2}\pi R\gamma$$

Tabor パラメータ(μ<0.1 で DMT、μ>5 で JKR が妥当):

$$\mu = \left(\frac{R\,\gamma^2}{E^{*2}\,z_0^3}\right)^{1/3}, \quad z_0 \approx 0.2\,\text{nm}$$

DMT は剛性が高く半径の小さな硬球で妥当。JKR との比 F_po^DMT/F_po^JKR = 4/3 ≈ 1.33。中間域は Maugis-Dugdale 補間モデルで橋渡しします(本ツールでは扱いません)。

DMT粘着接触シミュレーターとは

🙋
JKR理論のシミュレーターは触ったことあるんですけど、DMTって何が違うんですか?同じ粘着接触ですよね?
🎓
ざっくり言うと、JKRが「ソフトで大きな球」専用なら、DMTは「硬くて小さな球」専用なんだ。両方とも表面エネルギーγを扱うけど、粘着がどこに効くかが違う。DMTでは球がほとんど変形しないから、接触領域の外側にある離れた表面どうしの吸引力(ファンデルワールス力など)を積分で足し合わせる。逆にJKRでは接触領域の内側、特に縁で応力が集中して粘着が支配する。上のシミュレーターでE*を100GPa(ガラス相当)に設定して、接触概念図の緑のハロー(光輪)に注目してみて。あれが接触外の吸引力のイメージだよ。
🙋
なるほど。それで引離し力が4/3倍違うんですね。-628μN(DMT)と-471μN(JKR)。同じγなのにこんなに違うんですか?
🎓
そう、これは式の導出が完全に別だから当然なんだ。DMTは「Hertzの形を仮定して、接触の外側の球面を全部積分」。結果は$F_\text{po}^\text{DMT}=-2\pi R\gamma$。JKRは「弾性エネルギー+表面エネルギーで最小化」。結果は$F_\text{po}^\text{JKR}=-(3/2)\pi R\gamma$。比は2/(3/2)=4/3≒1.33。実機で同じγ・同じRなのに測定値が違うとき、まずはどっちのモデルが妥当か判定する必要がある。それを決めるのが「Taborパラメータ」だよ。
🙋
「Taborパラメータμ=5.0」って数字、何でしょう?適用判定って書いてありますね。
🎓
μ=$(R\gamma^2/(E^{*2}z_0^3))^{1/3}$、z₀は表面間平衡距離で約0.2nm。これが小さいほど「変形しにくい=DMT適用」、大きいほど「変形しやすい=JKR適用」。基準はμ<0.1でDMT、μ>5でJKR、中間はMaugis-Dugdaleで橋渡し。今の既定値ではμ=5でちょうど境界域。R=0.01mm(10μm)に下げてみて。μが小さくなって純粋なDMT領域に入るよ。AFM探針の典型条件はもっとμが小さい。
🙋
下のグラフで緑(DMT)と赤(JKR)が低荷重で差が大きくて、Fが大きくなると両方とも青(Hertz)に収束していくのが分かりますね。
🎓
よく観察したね。FがπRγよりずっと大きいと粘着項が無視できて、3モデルともHertzに一致してくる。実務では、AFM・MEMS・粉体ハンドリング・粘着テープ設計など「低荷重で小さな接触」の場面で粘着項が支配的になり、DMTかJKRかの判断が結果を大きく左右する。Tabor判定とこのカーブを並べて見れば、どちらのモデルを使うべきか直感的に分かるはずだよ。

よくある質問

DMT(Derjaguin-Muller-Toporov)は硬く半径の小さな球向けで、接触領域外の長距離吸引力を加算するモデルです。JKR(Johnson-Kendall-Roberts)は柔らかく大きな球向けで、接触領域内の粘着が支配します。判別にはTaborパラメータμ=(R·γ²/(E*²·z₀³))^(1/3)を使い、μ<0.1でDMT、μ>5でJKR、中間(0.1<μ<5)はMaugis-Dugdale補間モデルが妥当です。本ツールは硬い材料(E*>10GPa)を想定したDMTモデルですが、Tabor値も同時表示するので適用域を確認できます。逆向きの柔軟体接触はjkr-adhesive-contact.htmlで計算できます。
DMTでは接触領域の外側にある球と平面の間の長距離吸引力(ファンデルワールス力等)を、Hertzの接触形状を仮定して全球面上で積分します。その結果、引離し力はF_po^DMT=-2πRγとなります。一方JKRでは粘着が接触領域内に集中し、接触縁での応力特異性から離れる条件を導いた結果、F_po^JKR=-(3/2)πRγが得られます。比は2/(3/2)=4/3≈1.33で、DMTがJKRより約25%強い引離し力を予測します。この違いは球が硬いか柔らかいかで接触形状自体が異なることから生じます。
AFM(原子間力顕微鏡)の探針はSi₃N₄やSi(E*=数十〜数百GPa)で硬く、半径R=10〜100nmと非常に小さいためTaborパラメータが小さくDMT領域に入りやすいです。本ツールでR=0.01mm(=10μm)程度まで小さく、E*を100GPaに設定するとAFM条件に近づきます。フォースカーブから測定された引離し力F_poをF_po=-2πRγで逆算して表面エネルギーγを評価する標準手法のシミュレーションに使えます。ただし試料がポリマー等で柔らかい場合はJKRモデル(jkr-adhesive-contact.html)を選択してください。
既定値(R=1mm, E*=100GPa, γ=100mJ/m²)でμ≒5となるのは、DMT適用の境界域を示すためです。本来DMTが厳密に妥当なのはμ<0.1(例:R=10nm, E*=200GPa)ですが、ガラス・セラミック球の典型サイズ(mmオーダー)と硬さを反映したパラメータで「適用境界に近い」状況を示しています。スライダーでRを0.01mm(10μm)に小さくしμを下げる、E*を500GPaに上げる等で純粋なDMT領域を探索できます。中間域の精密計算にはMaugis-Dugdaleモデルが必要で、本ツールの対象外です。

実世界での応用

AFM・ナノインデンテーションの表面エネルギー測定:原子間力顕微鏡のフォースカーブから探針と試料の引離し力F_poを測定し、F_po=-2πRγ(DMT)またはF_po=-(3/2)πRγ(JKR)で逆算してγを評価します。硬質試料(Si、SiO₂、金属、セラミック)ではDMTが標準。本ツールで探針半径と弾性定数を入力して、期待される引離し力をシミュレーションできます。

MEMS/NEMSのスティクション設計:マイクロ/ナノ電気機械システム(マイクロミラー、加速度計、RFスイッチ)では、可動部が基板に粘着する「スティクション」が深刻な故障モードです。Si基板(E*=170GPa)どうしの硬接触でDMTが妥当。本ツールで接触端半径と表面エネルギーから引離し力を推定し、復元バネ力との比較で動作可否を設計します。表面処理(SAM塗布)でγを下げる効果も評価可能。

粉体ハンドリング・凝集制御:セラミック粉末・医薬品・トナーなど、硬く小さな粒子の凝集力はDMTでよく記述されます。粒子半径R=数十μm、E*=数十GPaの典型条件でμが小さく、DMT領域。製造プロセスでの分散性、流動性、粉塵爆発リスクの評価に使われます。湿度による水架橋(毛管力)が加わる場合は別途補正が必要です。

セラミック・ガラス球の機械的接触:転がり軸受の鋼球(E*=200GPa)、サファイア/ルビー球(E*=300GPa以上)の接触解析で、粘着寄与を見積もる際にDMTが基本モデルになります。通常は荷重が十分大きく粘着寄与は無視できますが、超低荷重精密測定(プローブ顕微鏡、原子間距離測定)では粘着項が支配的になることがあります。

よくある誤解と注意点

最も多い誤解は、DMTとJKRのどちらか「正しい方」があると思ってしまうことです。実際には両者は対極のモデルで、適用領域が異なります。Tabor μ<0.1で硬く小さな球はDMTが厳密、μ>5で柔らかく大きな球はJKRが厳密。中間域では両者とも厳密ではなく、Maugis-Dugdale補間モデルや数値接触解析が必要です。本ツールでγ=100mJ/m², R=1mm, E*=100GPa の既定値ではμ≈5の境界域で、引離し力の真値はDMT値とJKR値の間にあると予想されます。スライダーで条件を変えてTaborを観察し、自分の対象がどの領域に属するか必ず判定してください。

次に多いのが、「硬いから粘着は無視できる」と決めつけることです。確かに大きな荷重下では粘着項F+2πRγのうちFが支配的になり、a_DはHertz半径とほぼ一致します。しかしF≪2πRγの低荷重域(既定値で2πRγ=628μN、つまりF<200μN程度の領域)では粘着が支配的で、無視すると接触半径を大きく過小評価します。AFM、MEMS、精密測定、宇宙環境(重力小)など低荷重精密接触では、硬い材料でも必ず粘着項を考慮すべきです。

最後に、このツールで計算したF_po(引離し力)は「表面が清浄で乾燥」した理想条件の値である点に注意してください。実環境では水分(湿度由来の毛管力)が加わると引離し力が10〜100倍に増大することがあります。また実表面の粗さがあると、有効接触面積が幾何学半径Rより大幅に小さくなり、見かけの引離し力が低下します。本ツールは「Tabor判定とモデル選定の入口」として使い、最終的な設計値は実測または粗さ・湿度・汚染を含む数値解析で詰めることが標準です。