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構造解析

偏心荷重を受ける溶接群シミュレーター

2本の隅肉溶接で取り付けたブラケットに、溶接群の重心からずれた位置(偏心)で荷重がかかるとき、溶接にどんな応力が生じるかを弾性ベクトル法で解析するツールです。直接せん断とねじりせん断をベクトル合成し、最も危険な遠い隅の合成最大応力をリアルタイムで求めます。

パラメータ設定
溶接長さ(1本)d
mm
縦向きの隅肉溶接1本の長さ
溶接の水平間隔 b
mm
左右2本の溶接の中心間距離
荷重 P
kN
ブラケットにかかる鉛直荷重
偏心距離 e
mm
溶接群の重心から荷重作用点までの距離
溶接サイズ(脚長)s
mm
隅肉溶接の脚長。のど厚 = 0.707·s
計算結果
全溶接長 (mm)
のど断面積 (mm²)
直接せん断応力 (N/mm²)
ねじりせん断応力・最大点 (N/mm²)
合成最大応力 (N/mm²)
強度判定
溶接群と応力ベクトル — 弾性ベクトル法

2本の縦溶接・溶接群の重心・偏心位置に作用する荷重 P を描画します。最も危険な遠い隅で、直接せん断(青)・ねじりせん断(橙)・合成(赤)のベクトルを表示します。

合成最大応力 vs 偏心距離 e
合成最大応力 vs 溶接サイズ s
理論・主要公式

$$\tau_{direct}=\frac{P}{A},\qquad \tau_{torsion}=\frac{M\,r}{J},\qquad \tau_{result}=\sqrt{(\tau_{tV}+\tau_{direct})^{2}+\tau_{tH}^{2}}$$

直接せん断応力 τ_direct(P:荷重、A:のど断面積)、ねじりせん断応力 τ_torsion(M=P·e:ねじりモーメント、r:重心からの距離、J:極断面二次モーメント)、合成最大応力 τ_result。直接せん断とねじりせん断は、最も危険な遠い隅でベクトルとして合成しなければなりません(τ_tV:ねじりの垂直成分、τ_tH:ねじりの水平成分)。

$$J = 2\left(\frac{a\,d^{3}}{12}\right)+2\,(a\,d)\left(\frac{b}{2}\right)^{2},\qquad a = 0.707\,s$$

溶接群の極断面二次モーメント J。溶接を有効のど厚 a の線とみなし、各溶接の自身まわりの項と、平行軸の定理による間隔の項を足します。a:のど厚、d:溶接長さ、b:溶接間隔、s:溶接サイズ。

偏心荷重を受ける溶接群とは

🙋
「偏心荷重を受ける溶接群」って、なんだか難しそうな言葉ですね…。普通の溶接の強度計算と何が違うんですか?
🎓
言葉は固いけど、現場ではすごくよくある状況だよ。壁や柱に金具(ブラケット)を溶接して、そこに荷重をぶら下げる場面を想像してみて。荷重がちょうど溶接の真ん中を通って下りてくれるなら、溶接はただ「せん断」を受けるだけで話は簡単だ。でも実際は、荷重は溶接群からアーム(腕)の長さだけ離れた位置にかかることがほとんどなんだ。この「ずれ」が偏心(エキセントリシティ)だよ。
🙋
なるほど、荷重が真下じゃなくて少し外れた所にかかるんですね。そのずれがあると、溶接には何が起きるんですか?
🎓
2つのことが同時に起きる。1つめは、荷重そのものを支える仕事——これは溶接群ののど断面全体に一様に広がる「直接せん断応力」になる。2つめがやっかいで、荷重に偏心距離をかけた値が「ねじりモーメント」になって、溶接群を重心のまわりにねじろうとする。このねじりが生む「ねじりせん断応力」は、重心ではゼロ、そこから遠ざかるほど直線的に大きくなって、重心から一番遠い溶接の隅で最大になるんだ。
🙋
2種類の応力が同時にかかるんですね。じゃあ、その2つを足し算すれば最大応力が出るんですか?
🎓
そこが一番のポイント。単純に足してはダメなんだ。直接せん断とねじりせん断は、溶接群の各点で「向き」が違う。直接せん断は荷重と同じ下向きに一様、ねじりせん断は重心からの半径ベクトルに垂直な向き。だから遠い隅では2本の矢印が斜めに交わる。正しくは矢印として——つまりベクトルとして——足し合わせる。これが「弾性ベクトル法」だよ。水平成分・垂直成分に分けて、合成 = √((τ_tV+τ_direct)² + τ_tH²) で求めるんだ。
🙋
向きを考えて合成するんですね。じゃあ合成応力が大きすぎたら、溶接をとにかく長くすればいいんですか?
🎓
それも効くけど、実は一番効率がいいのは別の手なんだ。まず偏心距離 e を小さくすること——ブラケットや荷重点を溶接群の重心にできるだけ近づければ、ねじりモーメント M=P·e が直接小さくなる。次が溶接の間隔を広げること。間隔は極断面二次モーメント J に距離の2乗で効くから、ぐっと効率がいい。溶接を長くするより、左右に広げるほうがねじりに強くなる。これは左の「溶接の水平間隔 b」を動かして、下のグラフで確かめてみてほしい。
🙋
なるほど!溶接を長くするより広げるほうが効くって、ちょっと意外でした。ちゃんと数式の裏付けがあるんですね。
🎓
そうなんだ。弾性ベクトル法のいいところは、こういう設計の勘どころが式からそのまま読み取れること。「最大応力は必ず遠い隅、決して中央じゃない」「偏心を減らすか、溶接を離すのが効く」——この2つを頭に入れておけば、ブラケット溶接の設計で大きく外すことはないよ。あとはこのツールで合成最大応力を許容応力(このツールでは150 N/mm²)と比べて、判定を確認すればいい。

よくある質問

弾性ベクトル法(線溶接法)で解析します。まず荷重 P が溶接群全体の有効のど断面に一様に作用する「直接せん断応力 P/A」を求めます。次に荷重と偏心距離 e の積であるねじりモーメント M = P·e が溶接群を重心まわりにねじり、「ねじりせん断応力 M·r/J」を生みます。J は溶接群の極断面二次モーメントです。最後に重心から最も遠い隅で、この2つの応力をベクトル(向きを考慮)として合成し、合成最大応力を求めます。本ツールはこの一連の計算をリアルタイムで行います。
直接せん断応力とねじりせん断応力は、溶接群の各点で向きが異なるためです。直接せん断は荷重と同じ向き(このツールでは下向き)に一様ですが、ねじりせん断は重心と各点を結ぶ半径ベクトルに垂直な向きを向きます。最も応力が大きい遠い隅では両者が斜めに交わるため、単純な数値の足し算では過大評価にも過小評価にもなります。正しくは水平成分・垂直成分に分解し、合成 = √((τ_tV+τ_direct)² + τ_tH²) として求めます。
ねじりせん断応力は重心からの距離 r に比例して増えるため、必ず重心から最も遠い隅(コーナー)が最大になります。重心そのものではねじり応力はゼロです。さらにその遠い隅のうち、直接せん断のベクトルとねじりせん断のベクトルが同じ向きに足し合わさる側が支配点になります。設計検討では中央ではなく、この遠い隅の合成応力で許容応力を満たすかを確認します。
最も効くのは偏心距離 e を小さくすること、つまりブラケットや支持点をできるだけ溶接群の重心に近づけることです。ねじりモーメント M = P·e が直接小さくなります。次に効くのが溶接の間隔を広げることで、極断面二次モーメント J が大きくなり、同じモーメントでもねじり応力が下がります。溶接を長くするのも有効ですが、間隔を広げるほうが J への寄与(距離の2乗で効く)が大きく、効率的です。溶接サイズ(脚長)を増やすとのど断面積が増え、直接せん断・ねじり両方が下がります。

実世界での応用

鉄骨構造のブラケット接合:建築・プラント鉄骨では、柱や梁にガセットプレートやサポートブラケットを隅肉溶接で取り付け、そこに配管・機器・通路などの荷重をぶら下げます。荷重は必ず溶接群の重心からアームの長さだけ離れた所にかかるため、偏心ねじりの検討が欠かせません。弾性ベクトル法は、こうした接合部の溶接サイズと配置を決める標準的な手法です。

機械フレーム・架台の支持金具:工作機械や搬送装置のフレームに、モータ・シリンダ・センサ類を支える金具を溶接する場面でも同じ問題が起きます。片持ち的に張り出した金具の先端に荷重がかかると、付け根の溶接群は直接せん断とねじりを同時に受けます。本ツールのような簡易計算で、まず遠い隅の合成応力が許容内かを確かめます。

クレーン・揚重装置のラグ溶接:吊りピースやラグプレートを構造体に溶接する場合、吊り荷の作用線が溶接群の重心と一致することはまれです。偏心によるねじりを無視すると、最も応力の高い遠い隅から溶接が割れ始めます。揚重金具は人命に関わるため、偏心ねじりを含めた弾性ベクトル法での照査が必須です。

FEM解析前の概算・妥当性チェック:溶接接合部を詳細にFEMでモデル化する前に、弾性ベクトル法で「合成最大応力が許容のおよそ何倍か」を当たりづけします。概算で大きく超えていれば、メッシュを切り込む前に溶接配置を見直せます。逆にFEM結果がこの概算と桁違いなら、荷重点や拘束条件の入力ミスを疑うサニティチェックにもなります。

よくある誤解と注意点

まず最大の落とし穴が、「直接せん断とねじりせん断を単純に足し算してしまう」ことです。2つの応力は溶接群の各点で向きが違うため、数値をそのまま加えると、向きが揃った点では過小評価、ずれた点では過大評価になります。正しくは遠い隅で水平成分・垂直成分に分解し、ベクトルとして合成します。本ツールが合成 = √((τ_tV+τ_direct)² + τ_tH²) を採用しているのはこのためです。逆に「ねじりを無視して直接せん断だけで設計する」のは、偏心が大きいほど危険な過小評価になります。

次に、「溶接を長くすればいくらでもねじりに強くなる」という思い込み。極断面二次モーメント J のうち、溶接間隔 b の項は距離の2乗で効くのに対し、溶接長さ d 自身の項は d³/12 と効くものの、遠い隅の半径 r も同時に増えるため、ねじり応力の低減は頭打ちになりやすいです。一般には、溶接を縦に伸ばすより左右に広げる(b を大きくする)ほうが、同じ溶接量でねじりに強い配置になります。スペースが許す限り溶接群を「広く」配置するのが定石です。

最後に、「弾性ベクトル法の結果がそのまま実物の強度ではない」という点。弾性ベクトル法は溶接を有効のど厚の線とみなした理想化モデルで、溶接の溶け込み不足・アンダーカット・ブローホールといった欠陥、止端部の応力集中、繰り返し荷重による疲労は考慮していません。実務では、許容応力に十分な安全率を見込み、重要な接合部では非破壊検査で欠陥がないことを確認し、繰り返し荷重がかかる場合は溶接継手の疲労等級に基づく別途の照査を行ってください。本ツールはあくまで静的・弾性の概算・教育用です。

使い方ガイド

  1. 隅肉溶接の本数・脚長・ピッチを設定します。例えば4本の溶接、脚長6mm、ピッチ50mmの場合、全溶接長は200mmになります
  2. 偏心荷重の大きさと重心からの距離(離心距離)を入力します。例えば荷重50kN、離心距離80mmの場合、ねじりモーメント4000kN・mmが発生します
  3. シミュレーターが弾性ベクトル法に基づき直接せん断応力とねじり応力を同時計算し、合成最大応力とSS400溶接の強度判定結果を表示します

具体的な計算例

溶接本数4本、脚長6mm、ピッチ50mm(全溶接長200mm、のど断面積848mm²)に対して荷重50kN、離心距離80mmを作用させた場合:直接せん断応力は59N/mm²、最遠点でのねじり応力は118N/mm²となり、合成最大応力は177N/mm²です。溶接材がSS400相当の場合、許容応力160N/mm²を超過し「強度不足」と判定されます

実務での注意点