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熱工学

ハイスラー線図シミュレーター — 非定常熱伝導

一様温度の物体を急に対流環境にさらしたときの非定常熱伝導を、ハイスラー線図の一項近似で計算するツールです。ビオ数とフーリエ数を変えると、平板・球の中心温度と任意位置の無次元温度がリアルタイムで分かります。

パラメータ設定
物体形状
固有値方程式と空間係数が形状で変わる
ビオ数 Bi
表面対流と内部伝導の比 Bi = hL/k
フーリエ数 Fo
無次元の時間 Fo = αt/L²
無次元位置
平板は x/L、球は r/r0(0=中心、1=表面)
計算結果
第1固有値 ζ₁
係数 C₁
中心無次元温度 θ₀*
指定位置の無次元温度 θ*
ビオ数 Bi
フーリエ数 Fo
物体断面と温度プロファイル — Foスイープ

物体の断面に無次元温度プロファイル θ*(位置) を重ねて表示します。中心が最も変化が遅く、対流面(端)が最も速い。色のグラデーションは温度の高低を表し、現在位置を縦線で示します。

中心温度 θ₀* とフーリエ数 Fo
温度プロファイル θ* と位置
理論・主要公式

$$\theta_0^{ }=C_1\,e^{-\zeta_1^{2} Fo},\qquad \theta^{ }=\theta_0^{*}\cdot f(\zeta_1,\,\text{position})$$

中心無次元温度 θ₀* と指定位置の無次元温度 θ*。C₁ は係数、ζ₁ は第1固有値、Fo はフーリエ数。空間係数 f は平板で cos(ζ₁·x/L)、球で sin(ζ₁·r/r0)/(ζ₁·r/r0)。

$$\zeta_1\tan\zeta_1=Bi \quad (\text{平板}),\qquad 1-\zeta_1\cot\zeta_1=Bi \quad (\text{球})$$

第1固有値 ζ₁ を決める超越方程式。ビオ数 Bi は表面対流と内部伝導の比を表す。一項近似はこの第1項のみで非定常解を近似し、古典的なハイスラー線図を置き換える。

ハイスラー線図とは

🙋
熱伝導の授業で「ハイスラー線図」っていうのが出てきたんですけど、あの読みにくいグラフ、結局なんなんですか?
🎓
ざっくり言うと、「熱いものを急に冷やしたとき、中心が何度になるか」をグラフ一枚で読み取るための道具だよ。例えば、焼き入れした鉄の棒を水に放り込む。表面はすぐ冷えるけど、中心はなかなか冷えない。その「時間と中心温度の関係」を、計算しなくても線図から読めるようにしたのがハイスラー線図なんだ。1947年にハイスラーという人がまとめた。
🙋
グラフから読むって、定規で線をたどるあれですよね…正直あまり正確に読めないんですけど。
🎓
そう、そこが弱点なんだ。だから今はこのツールみたいに「一項近似」で直接計算する。非定常熱伝導の厳密解は実は無限級数なんだけど、フーリエ数 Fo が0.2を超えると2項目以降がほとんど消えてしまう。だから第1項だけ残せばいい。それが一項近似。線図はこの第1項を絵にしたものだから、計算すれば線図より正確に同じ答えが出るんだ。
🙋
なるほど。でも左にある「ビオ数」と「フーリエ数」って、何が違うんですか?どっちも熱の話に見えて。
🎓
いい質問。ビオ数 Bi は「空間の比」、フーリエ数 Fo は「時間」だと思えばいい。Bi = hL/k は、表面で熱が逃げにくさ(対流抵抗)と、内部で熱が伝わりにくさ(伝導抵抗)の比。Bi が小さいと中身は一様温度、大きいと中心と表面で温度差が大きい。Fo = αt/L² は無次元の時間で、Fo を上げると物体全体が周囲温度に近づいていく。スライダーで両方動かしてみると、上のグラフの曲線の形が変わるよ。
🙋
第1固有値 ζ₁ っていうのも出てきますけど、これは何者ですか?
🎓
ζ₁ は温度分布の「形と減衰の速さ」を決める数だよ。平板なら ζ₁·tan(ζ₁) = Bi という超越方程式の解で、手では解けないからこのツールは二分法で数値的に求めている。ζ₁ が大きいほど exp(−ζ₁²·Fo) の減衰が速い、つまり冷えるのが速い。Bi を大きくすると ζ₁ も大きくなる。表面でどんどん熱が逃げる状況だから、中心も速く冷える、という物理がちゃんと式に入っているんだ。
🙋
じゃあ実務だと、これで何が分かると嬉しいんですか?
🎓
例えば「肉のかたまりを何分加熱すれば中心が安全温度に届くか」「鋼材を焼き入れするとき中心まで規定温度になるのは何秒後か」みたいな話だね。中心は一番遅れるから、中心が条件を満たせば全体が満たす。逆に「表面だけ熱処理したい」なら表面の Fo を見る。このツールは中心 θ₀* と任意位置 θ* の両方を出すから、そういう設計判断に直接使えるんだ。

よくある質問

ハイスラー線図は、一様温度の物体を急に対流環境にさらしたときの非定常熱伝導を、グラフ(ノモグラフ)で読み取るための古典的な図表です。横軸にフーリエ数 Fo、縦軸に中心無次元温度 θ0*、パラメータにビオ数 Bi の逆数をとります。本ツールはこの線図の背後にある一項近似(級数の第1項のみを残す解)を直接計算し、線図を読む代わりに数値で結果を返します。
非定常熱伝導の厳密解は無限級数ですが、フーリエ数 Fo が約0.2以上になると高次のモードが急速に減衰し、第1項だけでほぼ正確に温度を表せます。これが一項近似です。Fo が0.2より小さい初期段階では高次項の寄与が無視できないため、本ツールは Fo<0.2 のとき注意を表示します。線図そのものも Fo≳0.2 の範囲で使うのが前提です。
ビオ数 Bi = hL/k は、表面の対流抵抗に対する物体内部の熱伝導抵抗の比です。Bi が小さい(≲0.1)ときは内部温度がほぼ一様で集中熱容量法が使え、Bi が大きいときは内部に大きな温度勾配が生じます。フーリエ数 Fo = αt/L² は無次元の時間で、熱が物体内部にどれだけ浸透したかを表します。Fo が大きいほど定常状態(周囲温度との平衡)に近づきます。
θ0* は物体の中心(平板なら中心面、球なら中心)の無次元温度で、θ0* = C1·exp(−ζ1²·Fo) で求めます。θ* は中心から離れた指定位置の無次元温度で、θ0* に位置依存の空間係数を掛けたものです。平板では cos(ζ1·x/L)、球では sin(ζ1·r/r0)/(ζ1·r/r0) が空間係数です。中心が最も温度変化が遅く、対流面(表面)が最も速く周囲温度に近づきます。

実世界での応用

熱処理・焼き入れ:鋼材の焼き入れ・焼きなまし・焼き戻しでは、部材の中心まで規定温度に到達したか、あるいは冷却で中心がマルテンサイト変態温度を通過したかが品質を左右します。中心は最も応答が遅いため、ハイスラー線図(一項近似)で中心温度の時間履歴を見積もり、保持時間や冷却速度を決めます。Bi が大きい急冷ほど中心も速く追従しますが、表面と中心の温度差は大きくなり熱応力・割れの原因になります。

食品加熱・殺菌:缶詰の殺菌やローストの調理では、最も温度上昇の遅い「冷点(中心付近)」が安全温度・規定 F値に達することが必須です。食材を球や平板に近似し、フーリエ数を時間に換算して中心温度の到達時刻を予測します。中心が条件を満たせば全体が満たすという考え方は、食品工学の基本的な安全マージンの取り方です。

電子部品・蓄熱体の過渡応答:急に発熱や周囲温度変化を受ける部品が、内部温度を平衡まで何秒で到達させるかの概算に使えます。Bi が小さい(薄い・高熱伝導)部品は内部がほぼ一様で集中熱容量法に近づき、Bi が大きい厚い部品は内部勾配を考慮した一項近似が必要になります。

CAE過渡熱解析の事前検討と検証:有限要素・有限体積による過渡熱伝導解析を実行する前に、一項近似で中心温度のオーダーを当たりづけできます。詳細解析の結果がこの近似と桁違いなら、初期温度・対流境界条件・物性値の入力ミスを疑うサニティチェックになります。逆に近似と整合していれば、メッシュや時間刻みの妥当性に自信が持てます。

よくある誤解と注意点

まず最大の落とし穴が、「Fo が小さい初期段階に一項近似を使ってしまう」ことです。本ツールの計算は級数の第1項だけを残す近似で、これが正確なのはフーリエ数 Fo がおおむね0.2以上のときに限られます。Fo がそれより小さい「冷却・加熱を始めた直後」では、第2項・第3項以降の高次モードがまだ大きく、第1項だけでは温度を過小(または過大)に評価します。本ツールは Fo<0.2 で注意を表示しますが、その領域では誤差が数パーセントから十数パーセントに達しうることを理解した上で使ってください。

次に、「ビオ数の特性長さ L を取り違える」こと。平板の Bi と Fo に使う L は「半厚」(板厚の半分)であり、板厚そのものではありません。球では半径 r0 を使います。一方、集中熱容量法(Bi≲0.1 の判定)で使う特性長さは「体積/表面積」で、平板の半厚や球の r0/3 になり、ハイスラー線図で使う L とは定義が異なります。同じ「ビオ数」という名前でも特性長さの取り方が違うと値がずれるため、どの定義の Bi かを必ず確認してください。

最後に、「θ* は実温度そのものではなく無次元温度である」という点。本ツールが出す θ0* や θ* は θ* = (T−T∞)/(Ti−T∞) という無次元量で、0 に近いほど周囲温度 T∞ に到達し、1 に近いほど初期温度 Ti のまま、を意味します。実際の温度に戻すには T = T∞ + θ*·(Ti−T∞) と換算が必要です。また本ツールは、物性値(熱伝導率・熱拡散率)が一定で、初期温度が一様、対流熱伝達係数が一定という理想条件を前提とします。相変化・温度依存物性・非一様初期条件がある場合は適用範囲外で、数値解析が必要です。

使い方ガイド

  1. ビオ数(Bi)を入力します。例えば、鋼板(k=50 W/m·K)の表面熱伝達係数h=100 W/m²·Kで厚さL=0.05mの場合、Bi=hL/k=0.1となります
  2. フーリエ数(Fo)を設定します。Fo=ατ/L²で定義され、αは熱拡散率(m²/s)、τは経過時間(s)です。例えばアルミニウム(α=8.5×10⁻⁵ m²/s)で30秒経過した場合、Fo≈0.51となります
  3. 無次元位置xposを0~1の範囲で指定し、シミュレーションボタンをクリックすると第1固有値ζ₁、係数C₁、中心無次元温度θ₀*、指定位置の無次元温度θ*が計算されます

具体的な計算例

厚さ100mm(L=0.1m)の鋼板が初期温度300Kから冷却される場合を想定します。環境温度は300K、表面熱伝達係数h=80 W/m²·K、熱伝導率k=40 W/m·K、熱拡散率α=1.1×10⁻⁵ m²/sです。ビオ数Bi=0.2、600秒後(Fo=0.66)の中心部温度計算では、第1固有値ζ₁≈0.644rad、係数C₁≈1.029が得られ、無次元温度θ₀*≈0.735となり、実際の温度は約321Kとなります。板の中心から表面(xpos=1.0)では温度がさらに低下します

実務での注意点

  1. ビオ数Bi<0.1では内部温度勾配が無視できるため、集中熱容量法を適用でき、本シミュレーターより簡略計算が可能です
  2. ビオ数Bi>100の場合は表面支配的となり、収束条件の確認が必要です。球座標系では平板より冷却が早く進行します
  3. セラミック(α≈10⁻⁶ m²/s)や鋳鉄(α≈10⁻⁵ m²/s)では同じ時間でフーリエ数が大きく異なるため、材料ごとに計算条件を分離してください
  4. 有限差分法による数値解析と比較する場合、Fo>3.0では級数解の収束性が落ちるため、複数項の固有値を考慮してください