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熱工学

半無限固体の非定常熱伝導シミュレーター

表面温度が急に変わった「とても厚い物体」の温度が、時間とともに内部へどう浸み込んでいくかを計算するツールです。熱拡散率・温度・深さ・経過時間を変えると、誤差関数による厳密解で深さ方向の温度分布と熱浸透深さがリアルタイムに分かります。

パラメータ設定
熱拡散率 α
m²/s
熱の伝わりやすさ。鋼≈1.2e-5、コンクリート≈7e-7
急変後の表面温度 T_s
°C
表面を急に上げて一定に保つ温度
初期温度 T_i
°C
急変前に物体全体が持っていた一様温度
評価する深さ x
m
表面からこの深さの温度を調べる
経過時間 t
s
表面が急変してから経った時間
計算結果
相似変数 η
誤差関数 erf(η)
深さ x の温度 (°C)
無次元温度比
熱浸透深さ (m)
中間温度到達時間 (s)
半無限固体の断面 — 温度プロファイルの進行

左端が表面。温度プロファイルが時間とともに奥へ進み、熱浸透深さ(点線)が伸びていきます。色は熱い(赤)→冷たい(青)を表します。

温度プロファイル — 深さ方向の温度分布
深さ x の温度 vs 経過時間
理論・主要公式

$$\frac{T(x,t)-T_s}{T_i-T_s}=\mathrm{erf}\!\left(\frac{x}{2\sqrt{\alpha t}}\right)$$

表面温度を一定に保った半無限固体の温度場。T_s:表面温度、T_i:初期温度、α:熱拡散率。温度は相似変数 η=x/(2√(αt)) だけで決まる自己相似解です。

$$\eta=\frac{x}{2\sqrt{\alpha t}}, \qquad \delta=3.6\sqrt{\alpha t}$$

相似変数 η と熱浸透深さ δ。δ は表面の温度変化が約1%まで減衰する深さ。どちらも時間の平方根に比例して大きくなります。

$$T(x,t)=T_s+(T_i-T_s)\,\mathrm{erf}(\eta), \qquad t_{1/2}=\frac{x^2}{4\,\alpha\,(0.4769)^2}$$

深さ x の温度と、その深さが中間温度(erf=0.5)に達する時間 t_1/2。深さの2乗に比例し、熱拡散率に反比例します。

半無限固体の非定常熱伝導とは

🙋
「半無限固体」って、なんだか不思議な名前ですね。無限に大きい物体なんて現実にはないですよね?
🎓
そう思うよね。でもこれは「本当に無限」という意味じゃなくて、「考えている時間のあいだは、熱が向こう側まで届かないほど厚い」という意味なんだ。例えば真夏に道路のアスファルトが照らされても、熱くなるのはせいぜい表面から1〜2メートル。地球の深部はまったく気づかない。だから地面は短時間なら「底のない物体」、つまり半無限固体として扱えるんだよ。
🙋
なるほど!表面だけが反応して、奥はじっとしているんですね。じゃあ、表面の温度を急に変えたら、内部はどうなるんですか?
🎓
表面温度をパッと上げて一定に保つと、熱伝導方程式にきれいな厳密解が出てくる。その主役が「誤差関数 erf」なんだ。温度は深さ x と時間 t に別々に依存するんじゃなくて、η = x/(2√(αt)) という1つの無次元量「相似変数」だけで決まる。左で深さや時間のスライダーを動かして、上の相似変数 η を見てみて。同じ η なら、深さと時間が違っても温度は同じになるんだ。
🙋
え、深さと時間が違っても温度が同じ?どういうことですか?
🎓
ざっくり言うと、深さ x・時間 t での温度は、深さ 2x・時間 4t での温度と全く同じになる。η の式を見ると、x が2倍でも t が4倍なら √(αt) も2倍になって η が変わらないだろう? これが拡散の正体で、熱は時間に比例してじゃなく、時間の「平方根」に比例して進むんだ。だから2倍深く届かせたければ、4倍の時間がかかる。熱浸透深さ δ も √t に比例して伸びていくよ。
🙋
熱浸透深さっていうのが、熱がどこまで届いたかの目安なんですね。どこで線を引くんですか?
🎓
きっちりした境界はないから、慣習で「表面の温度変化のうち約1%しか伝わっていない深さ」を浸透深さとする。相似変数でいうと η≈1.8 あたりで、δ=3.6√(αt) と書ける。実務では、この δ が物体の実際の厚さよりずっと小さければ「半無限と見てよし」と判断する。逆に δ が厚さに近づいてきたら、もう向こう側を無視できないから、有限厚さの解析に切り替える合図だよ。
🙋
この考え方って、焼き入れとか地中温度みたいな話に使えそうですね。
🎓
まさにそうだよ。大きな鋼塊の表面焼き入れ、厚いコンクリート壁の急冷、地面に伝わる日変化・年変化の温度波——どれも半無限固体の問題だ。例えば「鋳造したインゴットの表面を急冷したとき、5cm 内側が何分後に中間温度になるか」みたいな見積もりが、この誤差関数解1本でできてしまう。CAE で詳細解析する前の当たりづけにも、とても役に立つんだ。

よくある質問

半無限固体とは、関心のある時間内では表面からの温度変化が「向こう側」まで届かないほど厚い物体のことです。表面に近い領域だけが応答し、奥は初期温度のまま動きません。地面が雷雨で冷やされても深部までは冷えない、大きな鋼塊の表面を一瞬焼き入れする、厚いコンクリート壁を冷やす、といった場面で使えます。判定の目安は、熱浸透深さが物体の実際の厚さより十分小さいことです。
相似変数は η = x / (2√(αt)) で定義され、深さ x を「拡散の長さスケール」で割った無次元量です。表面温度を一定に保つ場合、熱伝導方程式の解は深さと時間に個別に依存せず、この η ひとつにまとめて崩れます(自己相似解)。その結果、深さ x・時間 t での温度は、深さ 2x・時間 4t での温度と全く同じになります。拡散が時間の平方根で進むという特徴がこの式に現れています。
熱浸透深さは、表面の温度変化のおよそ1%しか伝わらない深さで、相似変数が約1.8に対応します。本ツールでは δ = 3.6√(αt) で計算しています。経過時間の平方根と熱拡散率の平方根に比例して大きくなり、これより深い領域は事実上「まだ変化が届いていない」とみなせます。物体の実厚さがこの δ より十分大きければ、半無限固体モデルが妥当です。
中間温度(erf(η)=0.5)に対応する相似変数は η=0.4769 です。これを η=x/(2√(αt)) に代入して時間について解くと、t = x²/(4·α·0.4769²) となります。深さの2乗に比例し、熱拡散率に反比例します。深さが2倍になれば中間温度に達する時間は4倍かかる、という拡散特有の「平方根スケーリング」がここにも現れます。

実世界での応用

金属の表面焼き入れ・熱処理:大きな鋼塊やインゴットの表面を急冷・急熱するとき、熱が届くのは表面近くだけで、芯部は短時間では半無限固体のように振る舞います。誤差関数解を使えば「表面から何mmまでが、何秒後にどの温度になるか」を素早く見積もれ、焼き入れの硬化層深さや残留応力の予測、加熱・冷却時間の設定に役立ちます。

土木・建築の地中温度設計:地面は日変化・年変化の温度波を受ける典型的な半無限固体です。地中熱ヒートポンプの埋設深さ、凍結深度(凍害対策の基礎深さ)、地下構造物の温度環境などは、この非定常熱伝導の考え方で評価します。コンクリート壁やダムの厚い躯体に急な温度変化が加わる場合の温度応力検討も同じ枠組みです。

接触温度と材料感触:2つの物体が突然接触すると、接触面の温度は瞬時にある一定値に落ち着き、両側はそれぞれ半無限固体として応答します。金属が冷たく、木が温かく感じるのは、熱拡散率(正確には熱浸透率)の違いそのもの。鋳型・ロール・金型と高温材料の接触熱伝達の見積もりにも、このモデルが基礎になります。

CAEの事前検討と検証:非定常熱伝導の詳細なFEM解析を行う前に、誤差関数解で「浸透深さ」「中間温度時間」のオーダーを把握しておくと、メッシュ細かさや解析時間ステップの設定が的確になります。FEM結果がこの解析解と桁違いなら、境界条件・材料物性・時間刻みの設定ミスを疑うサニティチェックとしても有効です。

よくある誤解と注意点

まず最大の落とし穴が、「半無限固体モデルがいつまでも使えると思い込む」ことです。このモデルは「熱がまだ向こう側に届いていない」ことが前提です。時間が経つと熱浸透深さ δ=3.6√(αt) はどんどん伸び、やがて物体の実際の厚さに達します。そうなると奥の境界の影響が無視できなくなり、半無限解は誤差を持ちます。実務では「δ が物体厚さの半分を超えたら有限厚さ解析に切り替える」のが目安です。本ツールの浸透深さの値を、対象物の厚さと必ず見比べてください。

次に、「表面温度が一定に保たれる」という境界条件の前提を忘れること。本ツールが使う誤差関数解は、表面温度がステップ状に変わって以後その値に固定される(第1種境界条件)場合の解です。実際には、表面が空気や流体に触れて対流で冷える場合は表面温度は一定ではなく、対流熱伝達係数を含む別の解(ビオ数を使う解)が必要です。表面に熱流束が与えられる場合もまた別の式になります。境界条件の種類を取り違えると、結果が大きくずれます。

最後に、「熱拡散率 α と熱伝導率 λ を混同する」という誤解。温度の浸み込む速さを決めるのは熱伝導率そのものではなく、熱拡散率 α=λ/(ρc) です。λ が大きくても、密度 ρ や比熱 c が大きいと α は小さくなり、温度変化はゆっくり進みます。例えば銅は λ も α も大きいですが、ステンレス鋼は λ が中程度でも α は意外と小さい。浸透深さや中間温度時間の比較では、必ず λ ではなく α を見てください。なお、接触問題では α ではなく熱浸透率 √(λρc) が効くという点も混同しやすいので注意が必要です。

使い方ガイド

  1. 熱拡散率α(m²/s)を入力:アルミニウム合金は8.5×10⁻⁵、鋳鉄は5.0×10⁻⁵を標準値とする
  2. 表面温度変化ΔT(°C)と初期温度を設定:鍛造加熱時の表面急熱(1200°Cまで)や冷却プロセスを想定
  3. 深さx(m)と経過時間t(s)を指定し、相似変数η=x/(2√αt)を自動計算
  4. 誤差関数erf(η)から無次元温度比T(x,t)=(T-Ti)/(Ts-Ti)を算出
  5. 熱浸透深さ(温度が初期値の10%変化する深さ)と中間温度到達時間を確認

具体的な計算例

鋼板の浸炭処理で表面を950°Cに加熱、初期温度300°Cの場合:熱拡散率α=1.3×10⁻⁵m²/s、深さ2mmで時間3600s経過時、η=0.305となり、erf(0.305)=0.333から無次元温度比0.333を得る。実温度は300+(950-300)×0.333=516°Cとなる。この条件での熱浸透深さは約4.8mmで、中間温度(625°C)到達には約7200sを要する。

実務での注意点

  1. アルミ鋳造の砂型脱型時:表面900°C・内部800°C想定時、深さ50mmでの温度勾配が10時間後でも150°C以上残存するため、残留応力発生に注意
  2. 焼き入れ冷却:水冷時は対流係数が大きく、半無限仮定は最初の数分間のみ有効。深さ10mm以深の計算は精度低下
  3. 非定常過程の終了判定:η<0.2の領域で誤差関数が線形化するため、浅深部計算は早期に収束と判定可能