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光学シミュレーター

マリュスの法則 シミュレーター — 3 偏光板パラドックス

マリュスの法則 I = I0 cos²θ を用いて、3 枚の偏光板(基準 P1=0°、中間 P2=θa、最終 P3=θb)の縦列構成から各段の透過強度・全透過率・中間板による寄与を実時間に計算します。直交ペアに第 3 板を挿入すると光が透過する「3 偏光板パラドックス」を定量的に可視化します。

パラメータ設定
入射強度 I0
中間偏光板角度 θa
°
最終偏光板角度 θb
°
偏光子漏れ係数 ext

既定値は I0=100、θa=45°、θb=90°、ext=0。P1 は 0° に固定された基準軸で、自然光が通ると半分が透過して垂直偏光化されます。θb=90° で P1 と P3 が直交し、中間 P2 がない場合は光が遮断されますが、θa=45° で挿入すると I3=12.5(全透過率 12.5%)が観測されます。

計算結果
最終出力強度 I3
全透過率 I3/I0
中間出力 I2
中間板による寄与
3 偏光板の縦列配置

左=自然光(無偏光)入射 I0/P1(青、0°)後=垂直偏光化された I1=I0/2/P2(緑、θa)後=マリュスの法則による I2/P3(赤、θb)後=最終出力 I3。矢印長で強度を、向きで透過軸方向を表現。

中間板角度 θa 依存の最終強度 I3

横軸=中間板角度 θa(0°〜180°)/縦軸=最終出力 I3(θb 固定)/青曲線=cos²(θa)·cos²(θb−θa) の理論曲線/黄マーカー=現在の θa/グレー破線=中間 P2 を除去した場合の I3。

理論・主要公式

マリュスの法則は、線偏光が透過軸となす角 $\theta$ の偏光板を透過するときの強度比を表します:

$$I = I_0 \cos^2\theta$$

自然光(無偏光)は最初の偏光板で半分が透過し垂直偏光化されるため、3 偏光板の各段の透過強度は次のように書けます:

$$I_1 = \tfrac{1}{2} I_0,\quad I_2 = I_1\cos^2\theta_a,\quad I_3 = I_2\cos^2(\theta_b-\theta_a)$$

消光比 $\mathrm{ext}$ を含む実物の偏光板では、透過関数を $T(\theta) = \cos^2\theta + \mathrm{ext}$ で近似します。$\theta_b - \theta_a$ は P2 軸を基準にした P3 軸との相対角です。$\theta_b = 90^\circ$、$\theta_a = 0^\circ$ あるいは $\theta_a = 90^\circ$ では $I_3 = 0$ となり、$\theta_a = 45^\circ$ で最大透過 $I_3 = I_0/8$ になる「3 偏光板パラドックス」を再現します。

マリュスの法則 シミュレーターとは

🙋
先生、偏光板を 2 枚直交させると光が出てこないって聞いたんですけど、その間にもう 1 枚入れると光が出てくるって本当ですか?板が増えてるのに、です。
🎓
本当だよ、これが「3 偏光板パラドックス」と呼ばれる現象だ。本ツールの既定値(I0=100、θa=45°、θb=90°、ext=0)でまさにそれが見える。P1=0° で偏光化された I1=50.0 が、P2=45° を通って I2=25.0、最後に P3=90° を通って I3=12.5 となり、全透過率は 12.5% になる。一方で「中間 P2 を除いた場合の I3」の表示を見ると 0.00 だ。中間板を入れただけで何もないところから 12.5 ポイント光が増えている — これが寄与 +12.5 だ。
🙋
なんでそうなるんですか?光が増えるって、エネルギー保存則に反してませんか?
🎓
エネルギーは増えていないよ。減り方が違うんだ。P1 と P3 だけだと、P1 で 50% に減った後 P3 でさらに cos²(90°)=0 になり全部吸収される。P2 を 45° に入れると、P1 通過直後の「縦偏光」が P2 で「45° 偏光」に再投影される(cos²(45°)=0.5、半分カット)。次に P3 では「45° 偏光」と「水平軸」の角度差が 45° なのでまた半分透過する。各段で 50% カットなので 0.5×0.5×0.5=0.125、つまり 12.5% が残る。鍵は「P2 が偏光状態を再準備した」点だ。本ツールで θa スライダーを動かすと、I3 が θa=45° と 135° で極大、0° と 90° と 180° で 0 になる cos² 状の山が見えるよ。
🙋
「消光比」ってなんですか?スライダーにある ext って小さい値ですけど、これって何の役に立つんでしょう?
🎓
実物の偏光板は完璧じゃない。直交させても 0.1〜5% 程度の光が漏れる。それを表現するのが ext だ。本ツールで ext を 0→0.05 に上げて θa=0°、θb=90° にすると、本来 0 の出力が約 ext·I1/2 だけ漏れる。LCD 設計では「コントラスト比 = 1/ext」が画質を決める重要指標で、市販偏光板で ext=0.001 ならコントラスト 1000:1、安価品で ext=0.01 なら 100:1 だ。本ツールで ext を上げると、θa 依存曲線の最低点が床上がりするのが観察できる。これが「黒が浮く」現象だよ。
🙋
最後に — このパラドックス、量子力学のスピン測定にも関係があるって聞きましたが、本当ですか?
🎓
本当だ。各偏光板は量子論的に「射影演算子」と全く同じ働きをする。光子 1 個ずつで実験しても結果は同じで、P2 が「45° 軸での偏光測定」を行い、状態が射影される。これがシュテルン・ゲルラッハ実験で連続する 2 段階の z 軸測定の間に x 軸測定を挟むと出力分布が変わるのと同じ原理だ。マリュスの法則 cos²θ は古典的に見えるが、本質は量子的な確率振幅 cos θ の 2 乗で、ベルの不等式の前駆的議論にも繋がる。物理学者にとってこの 3 偏光板のデモンストレーションは「測定が状態を変える」ことを示す最も簡潔な実験の一つだよ。

よくある質問

マリュスの法則は、線偏光が偏光板を透過するときの強度比を表す式 I = I0 cos²θ です。θ は入射偏光方向と偏光板の透過軸とのなす角で、1809 年に Étienne-Louis Malus が水面の反射光で発見したのが起源です。自然光(無偏光)が最初の偏光板を通過するときは I → I/2(半分が透過、垂直偏光化)。本ツールでは既定値 I0=100、θa=45°、θb=90°、ext=0 で、P1 後 I1=50.0、P2 後 I2=25.0、P3 後 I3=12.5、全透過率 12.5% と表示されます。
2 枚の偏光板を直交(0° と 90°)に配置すると光は完全に遮断されますが、その間に第 3 の偏光板を 45° で挿入すると光が透過します。「板を増やしたのに光が出てくる」直感に反する現象です。本ツールの既定値(θa=45°、θb=90°)では、中間 P2 を除いた場合 I3=0、入れた場合 I3=12.5 となり、中間板の寄与 +12.5 ポイントとして数値表示されます。量子力学の射影測定と本質的に同じで、各偏光板が偏光状態を「再準備」するため起こる効果です。
消光比 ext は実際の偏光板で完全に遮断できなかった光の漏れ量を表します。理想偏光板は T(θ) = cos²θ ですが、実物では T(θ) = cos²θ + ext(または同等の補正項)となり、ext は 0.001〜0.05 程度の値を取ります。市販の透過型偏光板で ext ≈ 0.001、安価なフィルムで ext ≈ 0.05 が目安です。本ツールで ext を 0→0.05 に動かすと、θ=90° の遮断状態でも有限の透過が残り、消光比 1/ext が小さいほど偏光性能が悪いことが直感的にわかります。
液晶ディスプレイ (LCD) の輝度制御は 2 枚の偏光板間の液晶配向で透過率を変える典型応用で、各画素の光量はマリュスの法則そのものです。また偏光サングラスは水面・路面の反射偏光をカット、3D 映画は左右目に直交偏光を割り当て、光通信ではアイソレーターが反射戻り光を遮断します。光弾性応力測定では、応力で生じた複屈折を偏光板で可視化して内部応力を非破壊計測します。本ツールは LCD 設計者が 2 枚の偏光板間の最適角度を見積もる際のクイック計算機としても使えます。

実世界での応用

液晶ディスプレイ (LCD) の画素制御:LCD の各画素は「直交偏光板 2 枚 + その間の液晶分子」で構成され、液晶分子の配向で偏光面を回転させて透過率を変えます。電圧をかけないとき液晶のひねり配列が偏光面を 90° 回転させ「明(白)」、電圧をかけると液晶が起立して回転が無くなり「暗(黒)」になる仕組みです。各画素の輝度は本ツールの I2/I1(中間段の透過率)に対応し、マリュスの法則そのもの。本ツールで θa=45° のとき I2=25 が最大透過、θa=0° や 90° で 0 になるのが、LCD の白黒切替の原理です。スマホ・PC モニタ・テレビすべてこの原理で動いています。

偏光サングラス・3D 映画:偏光サングラスは水面や路面で反射した水平偏光をカットするため、垂直透過軸の偏光板を使います。雪面や濡れた路面のギラつきが 1/3 以下になり運転や釣りで重宝されます。3D 映画では左右の目に直交偏光(水平・垂直 または右回り・左回り円偏光)を分けて投影し、観客側の偏光メガネで分離します。これも 3 偏光板パラドックスと同じ原理で、左目側のレンズが「右目用画像」を cos²(90°)=0 で遮断します。本ツールで θa=0、θb=90 にして遮断状態を確認できます。

光弾性応力測定(フォトエラスティシティ):透明な物体(プラスチック・ガラス・樹脂など)に応力がかかると複屈折が生じ、偏光が回転します。直交偏光板の間に試料を置き、応力分布を縞模様(アイソクロマティック)として可視化する手法で、橋梁・歯車・人工股関節・歯の応力分布測定に使われます。本ツールの「中間 P2」が試料の役割で、θa を変えることで複屈折角に対応した透過パターンが得られます。歯車の歯元応力集中や、コンタクトレンズ製造での歪み検査などが代表応用です。

光通信アイソレーター・量子暗号:光ファイバー通信ではレーザーへの反射戻り光が共振を不安定化させるため、偏光ベースのアイソレーター(偏光子 + ファラデー回転子 + 偏光子)で一方向のみ通過させます。マリュスの法則の応用例です。量子暗号(BB84 プロトコル)では、光子の偏光(0°、45°、90°、135° の 4 状態)で 1 ビットを送り、盗聴者が誤った基底で測定すると統計的に検出できます。本ツールの 3 偏光板構成は、まさにこの「異なる基底での連続測定」の古典版モデルです。

よくある誤解と注意点

最も多い誤解が、「マリュスの法則は無偏光(自然光)入射にも cos²θ がそのまま使える」というものです。実際には自然光は最初の偏光板で半分が吸収されて I → I/2 になり、ここで「初めて」偏光化されます。以降のマリュスの法則 cos²θ は偏光化された光に対してのみ適用できます。本ツールでも P1 を独立したカード(青色 P1=0° 固定)として描き、出力 I1=I0/2 をスタットカードに表示しているのはこの注意のためです。自然光に対して「全偏光板で cos²θ」を掛けると 1/2 倍が抜け、3 偏光板で 25% 透過と誤計算してしまいます(正しくは 12.5%)。

次に多いのが、「3 偏光板パラドックスはエネルギー保存則に反する」という誤解です。光は P2 で「増えた」のではなく、「P1 と P3 だけで吸収される量より、P1→P2→P3 のほうが各段で吸収される量が少ない」だけです。P1 で 50% 吸収、P2 で 50% 吸収、P3 で 50% 吸収すると、計 87.5% が偏光板内で熱に変わります。残り 12.5% が出てくるだけで、本ツールで I0=100 のまま「中間板による寄与 +12.5」の左隣の I2=25 を見れば、「P2 で 25 が吸収、P3 でさらに 12.5 が吸収」と各段吸収量が確認できます。エネルギーは完全に保存しています。

最後に、「偏光板の角度を測る基準を間違える」という落とし穴があります。マリュスの法則 cos²θ の θ は「入射偏光の振動方向」と「偏光板の透過軸」のなす角であり、固定された絶対座標系ではありません。本ツールでも P3 の式は cos²(θb − θa) であり、これは「P2 で偏光化された軸」と「P3 の透過軸」の相対角です。LCD 設計や光弾性測定では複数の素子があるため、「どこを基準に角度を測るか」を常に明確にする必要があります。実機実験で θa=45°、θb=90° と設定したのに透過が 12.5% でなく異なる値が出たら、最初に基準軸の取り方を確認するのが鉄則です。