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構造力学シミュレーター

Maxwell-Betti 相反定理シミュレーター

単純支持梁の 2 つの荷重系で、δ_AB·P_A = δ_BA·P_B が厳密に成立することを可視化。影響関数 C(a,b) の対称性が、線形弾性と FEM 剛性行列の対称性に直結することを学べます。

パラメータ設定
梁長さ L
m
点 a 位置
m
点 b 位置
m
荷重 P_A
kN

荷重 P_B は 50 kN、曲げ剛性 EI は 1×10⁴ kN·m² で固定。a, b は L−0.1 m を上限としてクランプします。

計算結果
a 点での B 系たわみ δ_BA (mm)
b 点での A 系たわみ δ_AB (mm)
δ_BA·P_A(左辺)(kN·m)
δ_AB·P_B(右辺)(kN·m)
系 A と系 B のたわみ曲線

上段=系 A:a 点に P_A、青曲線がたわみ、黄マーカーが b 点での δ_AB/下段=系 B:b 点に P_B、赤曲線がたわみ、黄マーカーが a 点での δ_BA

理論・主要公式

単純支持梁(長さ $L$、曲げ剛性 $EI$ 一定)の x = a に集中荷重 $P$ が作用するとき、x = b での影響関数 $C(a,b)$ は次式で与えられます。

$b \le a$ のとき:

$$C(a,b) = \frac{b\,(L-a)\,(2La - a^2 - b^2)}{6\,EI\,L}$$

$b > a$ のとき:

$$C(a,b) = \frac{a\,(L-b)\,(2Lb - b^2 - a^2)}{6\,EI\,L}$$

Maxwell の相反定理:$C(a,b) = C(b,a)$。これを 2 つの一般荷重系に拡張した Betti の相反定理:

$$\delta_{AB}\,P_A = \delta_{BA}\,P_B$$

ここで $\delta_{BA} = C(a,b)\,P_B$(系 B 単独で作用させたときの a 点でのたわみ)、$\delta_{AB} = C(b,a)\,P_A$(系 A 単独で作用させたときの b 点でのたわみ)。

Maxwell-Betti 相反定理シミュレーターとは

🙋
「相反定理」って名前は聞いたことあるんですけど、実際に何が「相反」してるんですか?
🎓
ざっくり言うと、線形弾性体に 2 つの荷重系を別々に作用させたとき、お互いがお互いの場所で作る変位を介してする「仕事」が等しくなる、というのが Betti の相反定理だ。式で書くと $\delta_{AB}\,P_A = \delta_{BA}\,P_B$。上のシミュレーターで P_A や a, b の位置を動かしてみて。左下のカード(左辺)と右下のカード(右辺)が常に同じ値になるはずだよ。
🙋
本当だ、ピッタリ一致してます! こんなにきれいに揃うのって偶然じゃないんですよね?
🎓
偶然じゃない。実は影響関数 $C(a,b)$ そのものが $C(a,b) = C(b,a)$ という対称性を持っているんだ。これが Maxwell の相反定理。式を見ると、a と b を入れ替えても 2La·b − a² − b² の部分が変わらないだろう。FEM をやっている人なら「剛性行列が必ず対称になる ($K = K^T$)」というのを聞いたことがあるはずで、それも結局この相反定理の数値的な表れなんだよ。
🙋
じゃあこの定理って、どんな構造でも常に成り立つんですか?
🎓
残念ながら「線形弾性」が大前提だ。塑性変形や接触、大変形が入ると、応答が荷重の履歴に依存するから相反性は崩れる。例えば鋼材を降伏させてから別の荷重を加えると、もう一致しない。だから実務では「微小変形・線形材料」の範囲で、影響線の作成や FEM の検算に使うんだ。
🙋
実務で使う、というのは具体的にはどんな場面ですか?
🎓
分かりやすいのは実験での節約だね。例えばタービン翼の任意点 i での荷重に対する点 j の変位を 100 通り測りたいとき、本来は 100 回ロードセルを移し替える必要がある。でも相反定理を使えば、点 j に固定したロードセルで点 i を 100 箇所順番に叩いていけばよい——測定セットアップが激減する。Mohr の節点法やモード解析の検算でも同じ考え方が活きる場面が多いよ。

よくある質問

δ_AB は「系 A だけを作用させたときに、系 B の作用点 b で生じる変位」を、δ_BA は「系 B だけを作用させたときに、系 A の作用点 a で生じる変位」を表します。添字の最初の文字が「観測点側」、2 番目の文字が「作用点側」と覚えると分かりやすいです。本ツールでは単純梁の影響関数から両者を解析的に求め、Betti の積 δ_AB·P_A と δ_BA·P_B が一致することを確かめています。
線形 FEM ではノード変位 u と外力 F の間に F = K·u が成り立ち、Betti の相反定理は K が対称行列であること (K_{ij} = K_{ji}) を要請します。逆に K に非対称項が現れたら、要素剛性や境界条件の組み立てに非保存力(追従荷重や減衰)が混入している可能性が高く、検算の手がかりになります。商用 FEM ソルバーが対称ソルバー(Cholesky 系)を最適化して使えるのも、この対称性のおかげです。
点 b の変位の影響線(単位移動荷重に対する b 点変位の関数)は、Maxwell の相反定理 C(a,b) = C(b,a) によって、点 b に単位荷重を載せたときの梁全体のたわみ形状そのものになります。これがミューラー・ブレスラウの原理の起源です。本ツールで a を動かしながら δ_BA を観察すると、それは事実上「点 a を動かしたときの b 点変位の影響線縦距」を読み取っていることになります。
解析的には δ_AB·P_A と δ_BA·P_B は厳密に等しくなります。本ツールは IEEE 754 倍精度浮動小数で計算しているため、両者の相対誤差は通常 10⁻¹⁰ 程度以下に収まり、表示桁数 (kN·m を小数 3 桁) では完全に一致して見えます。これが「相反定理は単なる理論ではなく数値的にも厳密に成り立つ」ことの実例で、FEM 結果の対称性チェックの基準にもなります。

実世界での応用

影響線・影響面の作成:橋梁・クレーン桁・床版など移動荷重を受ける構造の設計では、ある着目断面の応力やたわみが荷重位置によってどう変わるかを知る必要があります。Maxwell の相反定理を使えば、着目点に単位荷重を載せて得たたわみ形状がそのまま影響線になるため、移動荷重を全位置で計算する必要がなくなります。これがミューラー・ブレスラウの原理として古くから橋梁設計者に活用されてきました。

実験での測定セットアップ削減:大型構造の振動・変位試験では、加振点と測定点を入れ替えても伝達関数は同じ(線形系での相反性)。タービン翼や航空機構造のモード解析で、加振器を 1 箇所に固定して多点で測るか、加速度計を 1 箇所に置いて多点を叩くかを選べる柔軟性は、この定理に由来します。

FEM 解の検算:線形解析の出力から、対角要素 K_{ii} とその転置 K_{ji} の対称性をチェックすることで、要素剛性の組み立て・境界条件・拘束方程式の整合性を簡易に検証できます。非対称項が出る場合、追従荷重や非保存的減衰の混入を疑う指針になります。

逆問題と最適化:センサー配置の最適化、荷重同定(逆解析)でも相反性は強力な道具です。観測点と「仮想的な単位荷重位置」を入れ替えて感度を計算する随伴法(adjoint method)は、本質的には Betti の相反定理を一般化したものに他なりません。

よくある誤解と注意点

最も多い誤解は、「相反定理はあらゆる構造で成り立つ普遍法則」だと思ってしまうことです。実際の前提は「線形・弾性・微小変形・保存力」と非常に厳しく、塑性、損傷、接触、摩擦、座屈、大変形のいずれかが入ると一般には成立しません。本ツールで EI を一定にし、たわみが座屈や非線形領域に入らない条件にしているのは、まさにこの線形性を担保するためです。実務で「相反性が崩れた」場合、まず非線形要素の混入を疑うのが定石です。

次に多いのが、「左辺と右辺が一致するのはたまたまでは?」という疑念です。シミュレーターで L、a、b、P_A を様々に動かしても δ_BA·P_A と δ_AB·P_B が常にピッタリ一致するのは、影響関数の式そのものが a と b について対称構造を持っているからで、偶然ではなく数学的恒等式です。手計算で a = 1.5、b = 3.5、L = 5、EI = 10⁴ を代入すると、C(a,b) = 1.5375×10⁻⁴ m/kN という同じ値が得られ、δ_BA·P_A = δ_AB·P_B = 0.2306 kN·m と数値的に確認できます。

最後に、「Maxwell と Betti は別物では?」という混同。Maxwell の相反定理(1864)は単位荷重に対する影響関数の対称性 C(a,b) = C(b,a) を述べ、Betti の相反定理(1872)はそれを 2 つの一般荷重系に拡張したものです。本質的には同じ内容で、現代では一括して Maxwell-Betti と呼ばれることが多いです。覚えるべきは「線形弾性ならば、観測点と作用点を入れ替えても応答の対称関係が保たれる」という核心で、影響関数の式と FEM の K = K^T はその表現の違いに過ぎません。