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電気・通信

OFDM サブキャリア シミュレーター

WiFi・4G LTE・5G が共通して使う変調方式 OFDM(直交周波数分割多重)の物理層を体感するツールです。サブキャリア数・帯域幅・サイクリックプレフィックス長・変調方式を変えると、サブキャリア間隔・シンボル長・CPオーバーヘッド・データレートがリアルタイムで分かります。

パラメータ設定
サブキャリア数 N
帯域を分割する直交サブキャリアの本数(FFTサイズ)
占有帯域幅 B
MHz
チャネル全体が占める周波数の幅
サイクリックプレフィックス長の割合
有効シンボル長 T_u に対するCPの長さの比
サブキャリアの変調方式
1サブキャリアあたりのビット数 b を決定
計算結果
サブキャリア間隔 Δf (kHz)
有効シンボル長 T_u (µs)
全シンボル長 T_sym (µs)
CPオーバーヘッド (%)
生データレート (Mbps)
実効データレート (Mbps)
OFDMスペクトル&シンボル構造

上段:重なり合うサブキャリアのsincスペクトル。各ピークが隣のヌル(ゼロ点)に乗るのが直交性です。下段:時間軸のシンボル構造で、先頭の色付き部分がサイクリックプレフィックス。

実効データレート vs サブキャリア数 N
隣接サブキャリアの直交スペクトル
理論・主要公式

$$\Delta f=\frac{B}{N},\qquad T_u=\frac{1}{\Delta f},\qquad T_{sym}=T_u+T_{cp}$$

サブキャリア間隔 Δf、有効シンボル長 T_u、全シンボル長 T_sym。B:占有帯域幅、N:サブキャリア数、T_cp:サイクリックプレフィックス長。

$$R_{eff}=\frac{N\cdot b}{T_{sym}}$$

実効データレート R_eff。b は1サブキャリアあたりのビット数(BPSK=1, QPSK=2, 16-QAM=4, 64-QAM=6)。サイクリックプレフィックスは少しのレートと引き換えにマルチパスへの耐性を得る仕組みです。

OFDMとは

🙋
WiFiも5Gも「OFDM」という方式を使っているとよく聞きます。これって結局なにをしているんですか?
🎓
ざっくり言うと、「1本の太い高速ストリームを送らずに、何百本もの細い低速ストリームに分けて一斉に送る」方式だよ。OFDMは Orthogonal Frequency-Division Multiplexing の略で、日本語だと「直交周波数分割多重」。広い帯域を N 本の狭いサブキャリアに割って、それぞれにデータを少しずつ載せて並列で飛ばすんだ。WiFi、4G LTE、5G、地上デジタル放送、ADSL、ほとんどの現代の無線・有線通信がこの考え方を使っている。
🙋
えっ、わざわざ細かく分けるんですか?太い1本でまとめて速く送ったほうがシンプルじゃないですか?
🎓
それが落とし穴なんだ。1本の超高速な広帯域信号は「マルチパス」にめっぽう弱い。電波は壁や建物で反射して、本来の信号と少し遅れたエコーがいくつも届く。シンボルが短いと、その遅れたエコーが次のシンボルに重なってにじむ。これが「シンボル間干渉(ISI)」で、高速になるほど致命的になる。OFDMの答えは「速くしない」。データを何百本もの遅いサブキャリアに分けて、1本1本のシンボルを長くすれば、エコーの遅れがシンボル長に対して相対的に小さくなって平気になるんだ。
🙋
サブキャリアをそんなに詰め込んだら、隣同士で混ざって干渉しませんか?
🎓
普通ならそうだけど、OFDMの「直交(Orthogonal)」がそこの肝なんだ。各サブキャリアの間隔を Δf = B/N にぴったり合わせると、あるサブキャリアのスペクトルのピークが、他のすべてのサブキャリアのヌル(ゼロ点)にちょうど乗る。だからスペクトルは重なっていても互いに干渉しない。右上の「OFDMスペクトル」を見てごらん、ピークが隣のゼロ点に刺さっているだろう?しかもこの大量のサブキャリアを、逆FFT(IFFT)と FFT という1組の高速演算でまとめて生成・復元できる。これが実用化の決め手だった。
🙋
なるほど。じゃあ「サイクリックプレフィックス」というのは何のためですか?左のスライダーにありますね。
🎓
これがOFDMのもう一つの発明だよ。各シンボルの末尾の一部をコピーして、先頭に貼り付ける「ガード時間」なんだ。一番遅いエコーがこのCPの時間内に収まっていれば、シンボル間干渉が完全にゼロになる。さらにありがたいことに、CPのおかげで受信側はチャネルを「巡回畳み込み」として扱えて、FFT後にサブキャリアごとに1タップの掛け算をするだけで歪みを補正できる。各サブキャリアは細いからチャネルがほぼ平坦に見える、というのもポイント。代償はCPの時間ぶんレートが落ちること。左のCP割合を上げると「CPオーバーヘッド」が増えるのが見えるよ。
🙋
サブキャリア数を増やせばたくさん載るから速くなりそうですが、グラフはほぼ横ばいですね。なぜですか?
🎓
いい観察だね。サブキャリアを増やすと1シンボルで運ぶビット数 N·b は確かに増える。でも同時に間隔 Δf = B/N が狭くなって、シンボル長 T_u = 1/Δf が同じ割合で長くなる。だからレート N·b/T_u は相殺してほぼ一定なんだ。速度を本当に決めるのは「帯域幅 B」と「変調方式 b」のほう。N は速度ではなく、マルチパス耐性(多いほど強い)とドップラー・位相雑音耐性(少ないほど強い)のバランスを取るためのつまみ、と覚えておくといいよ。

よくある質問

サブキャリア間隔は Δf = B / N で決まります。B は占有帯域幅、N はサブキャリア数です。帯域を N 本に均等に割るだけなので、サブキャリア数を増やすと1本あたりの間隔は狭くなります。間隔が狭いほど有効シンボル長 T_u = 1/Δf が長くなり、マルチパス遅延に対して相対的に強くなりますが、ドップラーや位相雑音には弱くなるため、両者のバランスでサブキャリア数を選びます。
CPはOFDMシンボルの末尾の一部をコピーして先頭に付け足す「ガードインターバル」です。マルチパスで遅れて届いた信号のエコーが、このCPの時間内に収まっていれば、隣のシンボルへのにじみ(シンボル間干渉ISI)が完全に消えます。さらにCPによって受信側はチャネルを巡回畳み込みとして扱えるため、FFT後に1タップの簡単な等化でチャネルを補正できます。代償としてCPの時間ぶんだけデータレートが下がり、これがCPオーバーヘッドです。
生データレートは有効シンボル長 T_u だけで運べるビット数を換算した値で、rawRate = bitsPerSym / T_u です。実効データレートはCPの時間も含めた全シンボル長 T_sym で割った値 effRate = bitsPerSym / T_sym で、実際に利用者へ届く速度に近い指標です。両者の差がCPオーバーヘッドであり、CP割合 0.25 ならオーバーヘッドは 0.25/1.25 = 20% となり、実効レートは生レートの80%になります。
いいえ、ほぼ変わりません。サブキャリア数 N を増やすと1シンボルで運ぶビット数 N·b は増えますが、同時に間隔 Δf が狭くなりシンボル長 T_u が比例して長くなるため、レート N·b/T_u は相殺してほぼ一定です。データレートを大きく左右するのは占有帯域幅 B と変調方式(1サブキャリアあたりのビット数 b)であり、N はマルチパス耐性とドップラー耐性のトレードオフを調整するパラメータです。

実世界での応用

WiFi(無線LAN):IEEE 802.11a/g/n/ac/ax はすべてOFDMをベースにしています。20MHz幅のチャネルで 64 や 256 のFFTサイズを使い、サブキャリア間隔は 312.5kHz(WiFi 6 では 78.125kHz)。混雑したオフィスや家庭で多数の壁反射があってもCPがエコーを吸収し、安定した接続を実現します。WiFi 6 ではさらにOFDMA(複数ユーザーへサブキャリア群を割り当てる拡張)が導入されました。

4G LTE / 5G NR の物理層:携帯電話の下りリンクはOFDMそのものです。LTEはサブキャリア間隔を 15kHz に固定していましたが、5G NR は 15・30・60・120kHz と可変(numerology)にし、ミリ波の広帯域や高速移動に合わせて T_u と CP を切り替えられるようにしました。本ツールで Δf を変えると T_u と CP が連動する様子は、まさにこの numerology 設計の感覚をつかむのに役立ちます。

地上デジタル放送・DAB:日本の地デジ(ISDB-T)や欧州の DVB-T、デジタルラジオ DAB は数千本のサブキャリアを使うOFDMです。放送は同一周波数の複数送信所からの電波が「巨大なマルチパス」として届きますが、長いCPがこれを吸収し、SFN(単一周波数ネットワーク)を可能にしています。送信所間の距離はCP長から逆算して設計されます。

有線通信(DSL・電力線通信):ADSL や VDSL は DMT(離散マルチトーン)と呼ばれる、銅線向けのOFDMの一種です。電話線は周波数ごとに減衰が大きく異なりますが、サブキャリアごとに変調方式(ビット数 b)を変える「ビットローディング」で、状態の良い周波数に多くのビットを載せて回線を最大限活用します。

よくある誤解と注意点

まず多い誤解が、「サブキャリアを増やせば増やすほど速くなる」というもの。本ツールの「実効データレート vs サブキャリア数」グラフがほぼ横ばいであることが示すとおり、N を増やしても rawRate = N·b/T_u はほぼ変わりません。N を増やすと1シンボルのビット数は増えますが、Δf が狭くなりシンボル長が比例して伸びるため相殺されます。速度を決めるのは帯域幅 B と変調次数 b です。N は「マルチパス耐性 vs ドップラー耐性」のトレードオフを調整するパラメータであって、スループットのつまみではありません。

次に、「サイクリックプレフィックスは長いほど安全」という思い込み。確かにCPが長いほど、より遅いエコーまで吸収でき、シンボル間干渉に強くなります。しかしCPは純粋なオーバーヘッドで、その時間にはデータを載せられません。CP割合 0.25 なら実効レートは生レートの80%まで落ちます。実際のシステムでは「想定する最大遅延(遅延スプレッド)」を測り、それをぎりぎりカバーする最短のCPを選びます。長くしすぎるのは帯域の無駄、短すぎるとISIで壊れる、という綱引きです。

最後に、「OFDMは万能で弱点がない」という誤解。OFDMには明確な弱点が二つあります。一つは高いPAPR(ピーク対平均電力比)。多数のサブキャリアの位相がたまたま揃うと瞬間的に大きなピークが出て、送信アンプを非線形領域に押し込み歪みを生みます。もう一つは周波数オフセットと位相雑音への敏感さ。サブキャリアの直交性は周波数が正確に揃っていて初めて成立するため、ずれるとサブキャリア間干渉(ICI)が発生します。高速移動時のドップラーシフトも同じ理由で問題になります。これらの対策(PAPR低減、正確な同期)こそが、OFDM受信機設計の腕の見せ所です。

使い方ガイド

  1. 「サブキャリア数」スライダーで使用周波数数を設定します。IEEE 802.11ac では64~256、5G NRでは600~3300を選択可能です。
  2. 「帯域幅(MHz)」で搬送波スパンを指定します。WiFi 20MHzから5G 100MHz帯域までシミュレーション対応しています。
  3. 「CP割合(%)」でサイクリックプレフィックスオーバーヘッドを入力します。屋内環境は7%~12%、遅延波が多い屋外は15%~25%を推奨します。
  4. 計算結果のサブキャリア間隔ΔfとシンボルT_symから、マルチパス環境での遅延許容度と周波数効率のトレードオフを確認してください。

具体的な計算例

IEEE 802.11ac準拠のWiFi 5シミュレーション:サブキャリア数256、帯域幅80MHz、CP割合12%の場合、Δf=312.5kHz、有効シンボル長T_u=3.2µs、全シンボル長T_sym=3.584µsが導出されます。QAM-256変調(8ビット/シンボル)を適用すると、生データレート=256×312.5kHz×8×280フレーム/秒=640Mbps相当、CP損失を考慮した実効レートは約563Mbpsになります。遅延スプレッド800nsの室内環境では、CP時間413nsで十分保護されます。

実務での注意点