送電線・船舶 海水着氷シミュレーター 戻る
寒冷地構造・着氷

送電線・船舶 海水着氷シミュレーター — ISO 12494 Makkonen 式

送電線・船舶デッキ・風車ブレード・洋上構造物に積もる氷の量を、ISO 12494 と Makkonen 着氷モデルで予測するツールです。気温・風速・液水含有率・粒径・暴露時間を変えると、衝突効率 α1、着氷率、氷厚、自重荷重、ISO 12494 厚さクラスがリアルタイムで分かります。

パラメータ設定
着氷種別
粘着・蓄積効率と密度を自動設定
気温
°C
風速
m/s
液水含有率 LWC
g/m³
中央体積径 MVD
μm
円柱径
mm
送電線径(標準 ACSR 28mm)、ブレード前縁の代表径など
暴露時間
hr
場所
想定する構造物カテゴリ(描画ラベル用)
計算結果
衝突効率 α₁
着氷率 (kg/m/hr)
着氷量 (kg/m)
半径方向氷厚 (mm)
自重 (N/m)
ISO 12494 等級
円柱断面 — 着氷層の成長

青矢印が風方向、白点が過冷却雲滴(粒径 MVD)、円柱まわりの白〜青層が着氷層です。色は ISO 12494 等級(緑=軽微/橙=中/赤=厳しい)。

氷厚 vs 暴露時間
着氷種別の比較(現在の気象条件)
理論・主要公式

$$\frac{dM}{dt} = \alpha_1 \alpha_2 \alpha_3 \cdot V \cdot w \cdot A,\quad K = \frac{d_{drop}^2 \rho_w V}{9 \mu_{air} D}$$

α₁=衝突効率、α₂=粘着効率、α₃=蓄積効率、V=風速 [m/s]、w=LWC [kg/m³]、A=投影面積 [m²/m]、K=Langmuir 慣性パラメータ。

$$\alpha_1 = \begin{cases} 0 & (K\le 0.125) \\ \dfrac{K-0.125}{K+1.0} & (K\gt 0.125) \end{cases}$$

Finstad (2006) による衝突効率の近似式。K が大きいほど慣性により円柱に滴が捕捉されやすくなる。

$$t_{ice} = \sqrt{\dfrac{D^2}{4} + \dfrac{V_{ice}}{\pi}} - \dfrac{D}{2},\quad V_{ice} = \dfrac{M}{\rho_{ice}}$$

半径方向氷厚 t_ice(単位長さ当たり氷体積 V_ice [m³/m] と氷密度 ρ_ice [kg/m³] から幾何的に計算)。

送電線・船舶 海水着氷予測 — ISO 12494・Makkonen モデル

🙋
送電線に氷がついて鉄塔が倒れた、ってニュースで見たことあるんですけど…そんな細い電線に、人が見上げて分かるほどの氷ってどれくらい積もるんですか?
🎓
実は驚くほど積もるんだ。1998 年のカナダ東部・ケベック州の氷嵐では、わずか5日で送電線に半径 50mm 以上の氷が成長して、1000 本以上の鉄塔が倒壊した。被害総額は約 50 億ドル。電線自体は細くても、長時間の過冷却雨や霧で「半径方向にじわじわ成長」する。だからこのツールも、円柱の半径にどれくらいの厚さで積もるかを ISO 12494 のクラスで表示するんだ。
🙋
過冷却ってつまり、0℃より低いのに液体のまま空中にある水滴のことですよね。それが当たると凍るっていうのは分かるんですけど、Makkonen 式の α1・α2・α3 って何を分けてるんですか?
🎓
いいところに目をつけたね。水滴が氷になるまでには3つの関門があるんだ。1つ目が α1(衝突効率)。風に乗って飛んでくる水滴のうち、円柱の表面に「ぶつかる」割合だ。粒径が小さいと風の流れに乗って円柱を避けてしまうから α1 は小さくなる。2つ目が α2(粘着効率)。ぶつかった水滴のうち「貼り付く」割合。湿雪では温度が 0℃に近いと跳ね返って減る。3つ目が α3(蓄積効率)。残った水のうち「実際に凍る」割合。透明氷(Glaze)は温度が高めで水分の一部が流れ落ちるから α3 が下がる。掛け算で効くので、どれか一つでも小さいと着氷率はぐっと落ちるんだ。
🙋
じゃあ風速を上げたら着氷が増えそうなんですけど、左のスライダーで風速 V を上げると K が大きくなって α1 も上がりますよね。風が強いほど危険ってことですか?
🎓
そう、風速は「飛んでくる水量」と「衝突効率」の両方を増やすから二重に効くんだ。式を見ると dM/dt は V に比例するし、α1 を決める K も V に比例する。だから風速 5 m/s と 25 m/s では氷の付き方が桁違いになる。実務でも、稜線や峠など風が集まる地点で着氷量が最大になる。一方で「場所」を「船舶デッキ」に切り替えてみて。風速の絶対値より、海面からの飛沫供給(sea spray)が支配的になる。海水だと密度 850 kg/m³ の塩入り氷ができて、淡水氷よりずっと重いんだ。
🙋
船の上で氷がたくさんつくと、重さで沈むんですか?
🎓
沈むというより「転覆する」が正確だね。船首やマストに氷が積もると、重心が上に上がる。波で傾いたとき復原モーメントが効かなくなって、一気にひっくり返る。USCG の統計では北極海・ベーリング海のトロール漁船で年間 15〜20 件の sea spray icing 転覆事故が報告されている。だから北極航路の船は、上部構造を低く・対称に作って、デッキヒーターや砕氷ハンマーで定期的に氷を落とすんだ。送電線なら鉄塔倒壊、船なら転覆、風車ならブレードバランス崩壊と空力性能低下、と業界ごとに「氷の怖さ」の形が違うんだよ。
🙋
対策には何があるんですか?毎回落としに行くわけにもいかないですよね。
🎓
大きく分けて「事前に付けない(アンチアイシング)」と「付いたら落とす(デアイシング)」の2系統だね。ノルウェーの Statnett は 380kV 線にヒーティングケーブルを内蔵していて、着氷予報が出ると通電して融かす。Vestas の風車はブレード前縁に電熱コーティングと、ピッチを大きく振って遠心力で氷を飛ばす方式。送電線では電流を増やして I²R で自己加熱する手もある。デアイシング側はヘリで叩き落とす、空気圧パルスで剥がす、赤外線レーザで溶かすなどなど、地域と運用形態で組み合わせるんだ。

よくある質問

Makkonen の着氷モデル dM/dt = α1·α2·α3·V·w·A では、α1 が衝突効率(過冷却雲滴が円柱に衝突する割合)、α2 が粘着効率(衝突した滴が表面に留まる割合)、α3 が蓄積効率(残った水分が凍結する割合)です。乾いた粒氷(Rime)では α2=α3=1 とみなせ、雪や濡れ雨では α2 が、透明氷(Glaze)では熱収支で α3 が制限されます。α1 は Langmuir-Blodgett の慣性パラメータ K から決まり、粒径 MVD・風速・円柱径に強く依存します。
ISO 12494「Atmospheric icing of structures」は構造物に作用する着氷を体系化し、半径方向氷厚を G1(〜10mm)〜 G5(〜100mm 以上)で分類します。IEC 60826 もこの考え方を引用し、送電線の機械設計に荷重ケースとして適用します。日本では本州〜北海道の山岳ルートで G2〜G3 級、雪害多発地域では G3〜G4 級が目安です。本ツールでは入力した気象・暴露条件から逆算した氷厚に対応するクラスを表示します。
海水しぶきが甲板や上部構造で凍結する sea spray icing は、塩分を含むため通常の淡水氷より密度(〜850 kg/m³)が高く、わずか数時間で数百キロの氷が船首に堆積します。重心が上に偏ることで復原性が急速に低下し、北極海・ベーリング海ではトロール漁船の転覆事故が年間 15〜20 件報告されています(USCG 統計)。設計では砕氷ハンマー・電熱式デアイサ・甲板ヒータの併用と、上部構造の対称配置による重心管理が必須です。
アンチアイシング(事前防止)には、ヒーティングケーブル(Statnett 380kV 線で実績)、超撥水コーティング、ピッチ制御による空力洗浄(Vestas 風車)などがあります。デアイシング(着氷後の除去)には、機械式(ローラー走行・空気圧パルス)、電熱式(局所加熱で剥離)、赤外線・レーザによる融解があります。送電線では電流自己加熱(電流増加で I²R 損失を利用)も使われます。費用と消費電力の制約で、地域・運用形態に応じて選択します。

実世界での応用

送電線・配電線の設計荷重:IEC 60826・ISO 12494 に基づき、寒冷地・山岳ルートでは着氷を主要な機械荷重として鉄塔・電線張力を設計します。1998 年の北米氷嵐(Quebec)では半径 50mm 級の着氷で 1000 本以上の鉄塔が倒壊し、約 50 億ドルの被害を出しました。本ツールは線径・気象条件から想定氷厚を概算し、設計クラス(G1〜G5+)の当たりを付けるのに使えます。

北極海・ベーリング海の船舶設計:沿岸警備隊(USCG)の統計では、sea spray icing による漁船転覆事故が年間 15〜20 件発生しています。高い波・低気温・強風が重なると、数時間で数百キロの氷が上部構造に積もり、復原性が失われます。本ツールで「sea-spray」種別を選び、円柱径を船首手すり・マスト・パイプ径などに置き換えれば、想定積氷量と荷重を見積もれます。

風車・洋上風力の出力低下評価:北欧・北米・中国北部の風車では、ブレード前縁の着氷で空力性能が 20〜40% 低下し、年間発電量が大きく目減りします。Vestas や Siemens Gamesa は電熱式アイシングプロテクションシステム(IPS)を提供しています。本ツールでブレード前縁を円柱と見做して MVD・LWC を入力すれば、典型気象条件での着氷成長率を比較できます。

気象・電力会社の運用予測:気象庁や電力会社の中央給電所では、数値予報モデルから LWC・MVD・気温・風速を取り出し、Makkonen 式で送電線の着氷量を予測しています。閾値を超えそうな線路区間には、電流増(自己加熱)・ヘリ点検・除氷ロボット派遣などを事前手配します。本ツールはその基本的な計算ロジックを Web 上で再現したものです。

よくある誤解と注意点

まず最も多い誤解が、「気温が低いほど着氷が多い」という思い込みです。実際は気温 -2 〜 -10°C の「微妙な低温域」で最も激しく着氷します。-20°C を下回ると大気中の水分自体が減り、過冷却雲滴の量が少なくなるため、着氷量はかえって減少します。また 0°C を超えると凍らないため、当然ながら着氷は起こりません。本ツールでも、気温を極端に下げても LWC を一定に保ってしまうため、現実の気象観測値(湿度・LWC のセット)を入力する必要があります。

次に、「円柱径を大きくすれば着氷も多い」という単純化です。Makkonen 式の A(投影面積)は径に比例しますが、衝突効率 α1 を決める K は径に反比例します。径が大きいほど風が円柱を「避けて」流れるため、慣性の小さい微小液滴は付着しにくくなる。結果として、太いケーブルでは単位長さあたりの着氷量が、細いケーブルより比例関係を下回って増加します。送電線の電線サイズ選定では、この非線形性を考慮した実測データベース(北欧・北米の Icing Atlas など)が併用されます。

最後に、「Makkonen 式は万能ではない」という点。本式は単純な円柱に対する 1981/2000 年の経験式で、(1) 非円柱形状(H 形鋼・I ビーム・三角格子)、(2) 高 LWC 領域での熱収支による α3 の低下、(3) 着氷層が成長することによる D の動的変化、を厳密には捉えられません。本格的な設計では、ANSYS Fluent + LEWICE、FENSAP-ICE といった CFD ベースの着氷解析や、ノルウェー工科大(NTNU)・カナダ McMaster の風洞実験データとの照合が必要です。本ツールはあくまで「現場感覚を掴むための1次概算」として使ってください。

使い方ガイド

  1. 気温(℃)、風速(m/s)、液水含有量LWC(g/m³)、中位体積径MVD(μm)を入力します
  2. シミュレーターがMakkonen式で衝突効率α₁を算出し、着氷率(kg/m/hr)を計算します
  3. 暴露時間を設定すると着氷量(kg/m)、氷厚(mm)、自重荷重(N/m)が得られISO 12494等級で判定されます

具体的な計算例

北海道沖の送電線(導体径32mm)で気温-5℃、風速12m/s、LWC=0.3g/m³、MVD=20μmの条件下、3時間暴露した場合を想定します。衝突効率α₁≈0.85、着氷率2.1kg/m/hrが得られ、着氷量6.3kg/mに到達します。これは氷厚8.5mm、自重荷重620N/mに相当し、ISO 12494のLight(L)等級を超えてModerate(M)等級に分類されます。導体の自重440N/mと合わせると総荷重は1060N/mに達し、張力低下が顕著になります。

実務での注意点

  1. LWC≧0.1g/m³かつMVD≧10μmの条件下でのみ着氷が生じます。霧雨でLWC=0.05g/m³の場合は着氷しません
  2. 気温が-20℃以下では凍結効率が低下(液滴の凍結遅延)するため、Makkonen式の適用範囲外-5℃~0℃を標準としてください
  3. 海塩粒子を含む海霧では着氷速度が20~30%増加するため、沿岸500m以内の洋上構造物では係数1.2~1.3を乗じて設計積氷厚を再評価してください
  4. 風速15m/s以上では空気力学的剥離が増し、計算値の60~80%が実際の着氷量となります