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衛星通信・Ka 帯

Ka 帯衛星通信 リンクバジェット — 雨減衰・Starlink/JCSAT

17.7〜30GHz の Ka 帯衛星リンクは、降雨で大きく減衰する代わりに広い帯域と高利得アンテナで大容量を実現します。軌道(LEO/MEO/GEO)・衛星 EIRP・地上アンテナ口径・気候帯を変えると、自由空間損失とリンクマージンがリアルタイムで動き、Starlink や JCSAT のような実例の振る舞いを直感的に確かめられます。

パラメータ設定
軌道
LEO は距離が短く FSPL が小さい
衛星 EIRP
dBW
衛星送信機の実効輻射電力
地上アンテナ
口径と効率を自動設定
Ka 帯周波数
GHz
20GHz=ダウン / 30GHz=アップ
データレート
Mbps
降雨減衰
dB/km
降雨強度に応じた単位減衰
アンテナ効率
%
地上気候
気候帯による降雨減衰補正
計算結果
自由空間損失 (dB)
アンテナ利得 (dBi)
受信電力 (dBW)
C/N0 (dBHz)
必要 C/N0 (dBHz)
リンクマージン (dB)
リンク幾何 — 衛星・地上アンテナ・降雨

軌道高度に応じて衛星位置が変化し、雨雲を通過する RF ビームが青→赤(減衰大)で表示されます。

リンクマージン vs 降雨減衰
軌道比較 — FSPL とリンクマージン
理論・主要公式

$$\text{FSPL}_{\text{dB}} = 20\,\log_{10}\!\left(\frac{4\pi d}{\lambda}\right), \qquad \lambda = \frac{c}{f}$$

自由空間損失。d:伝搬距離 [m]、λ:波長 [m]、f:周波数 [Hz]。距離と周波数の積の2乗で増える。

$$G_{\text{ant}} = 10\,\log_{10}\!\left(\eta\left(\frac{\pi D f}{c}\right)^{2}\right)$$

パラボラアンテナ利得。D:口径 [m]、η:開口効率(0.5〜0.75)。口径と周波数を上げるほど利得が増える。

$$\frac{C}{N_0} = \text{EIRP} - \text{FSPL} + G_{\text{ant}} - L_{\text{rain}} - L_{\text{atm}} - L_{\text{pol}} - k - T$$

C/N0 リンク方程式。k:ボルツマン定数 (−228.6 dBW/Hz/K)、T:システム雑音温度を 20dB-K と仮定。マージン = C/N0 − 必要 C/N0。

Ka 帯衛星リンクバジェット シミュレーターとは

🙋
Starlink ってあの小さいピザ皿みたいなアンテナで、なんで光回線並みの 200Mbps とか出るんですか?衛星って 36,000km 上空にあるって聞いたんですけど…
🎓
いい質問だね。実は Starlink の衛星は GEO(静止軌道)じゃなくて LEO(低軌道)で、高度はたった 550km。GEO の 1/65 しか離れていない。電波の自由空間損失(FSPL)は距離の2乗で効くから、これだけで約 36dB の余裕が生まれる。本ツールで軌道を「LEO-550」のままディッシュを 60cm にしても、リンクマージンが赤くならないのを確かめてみて。同じ条件で軌道を「GEO-36000」に切り替えると、一気にマージンが破綻するのが見える。
🙋
えっ、距離だけでそんなに違うんですね!じゃあ JCSAT みたいな GEO 衛星はなぜ Ka 帯を使うんですか?不利すぎませんか?
🎓
GEO は不利なぶん、地上局の VSAT(口径 1m〜3m)でアンテナ利得を稼ぐんだ。3m 口径だと利得が 54dB くらい出る。1m の VSAT より 9dB プラスだね。あと GEO はサービスエリアが日本全土を一発でカバーできて、衛星が「動かない」から地上局も指向制御が要らない。LEO の Starlink は衛星が常に動いているからフェーズドアレイアンテナで電子的にビームを追従させる必要があって、ディッシュ自体は安いけど内部の電子回路はかなり高度なんだよ。
🙋
なるほど…左の「降雨減衰」を 5 から 15dB/km にしたら、マージンが一気に赤字になりました。雨ってそんなに通信に効くんですか?
🎓
それが Ka 帯の最大の弱点だよ。波長が 10〜15mm で、雨滴の直径(1〜5mm)と同じオーダーなんだ。雨滴1個1個がミニアンテナのように電波を散乱・吸収してしまう。Ku 帯(12GHz・波長 25mm)と比べても降雨減衰は 3〜5 倍。だから熱帯多雨地域や台風時には、適応変調(ACM)でレートを 200Mbps から 20Mbps に落として接続だけは維持する、サイトダイバーシティで雨域にない別の地上局に切り替える、といった対策が必要になる。気候帯を「熱帯多雨」にして体感してみて。
🙋
データレートを 200Mbps から 1000Mbps に上げただけでマージンが 7dB も悪化するのは、なぜですか?
🎓
シャノンの定理からくる宿命だね。ビットを 1 個確実に伝送するには Eb/N0(1ビットあたりのエネルギー対ノイズ密度比)が一定値必要で、必要 C/N0 = Eb/N0 + 10log10(Rb) になる。レートが 10 倍なら必要 C/N0 が 10dB 増える、5 倍なら 7dB 増える。これは物理法則だから送信機の改善では覆せない。実機では雨天時に MODCOD(変調・符号化)を低レート・高ロバストに切り替えて、エンドユーザの体感速度を落とす代わりにリンク断を防いでいる。

よくある質問

電波の波長と雨滴の直径(1〜5mm)が同程度になると、ミー散乱と吸収によって電波エネルギーが大きく減衰します。Ka 帯の波長は約 10〜15mm なので、雨滴1個1個がアンテナのように電波を散らしてしまうのです。Ku 帯(12GHz・波長25mm)と比較しても降雨減衰が 3〜5 倍ほど大きく、熱帯多雨地域では年間 0.1〜1% の時間でリンク断(アベイラビリティ 99.9%程度)が許容されています。Starlink のような LEO は距離が短い分マージンに余裕がありますが、GEO 局では雨季のサイトダイバーシティや低 SNR モード(DVB-S2X の ACM)で対応します。
LEO の Starlink 衛星は高度約 550km と GEO(36,000km)の 1/65 しか離れていないため、自由空間損失(FSPL)が 36dB ほど小さくなります。FSPL は距離の2乗で効くので、これだけで「アンテナ利得が 36dB 余裕」になるのと同じ効果です。VSAT 1m 口径と比べて 60cm ディッシュはアンテナ利得が約 4dB 低いですが、距離による FSPL のメリットが 32dB ほど勝るため、小型ディッシュでも 200Mbps クラスの通信が成立します。本ツールで軌道を「LEO-550」から「GEO-36000」に切り替えると、FSPL が一気に 35dB ほど悪化し、リンクマージンが赤字になることが確認できます。
一般に「クリアスカイ条件で 3dB 以上、雨季ピーク時にゼロ以上」が業界目安です。マージンが 3dB を切ると、衛星のドリフト・偏波ずれ・LNB のノイズフィギュア悪化などの実装ロスを吸収できなくなります。本ツールでは linkMargin > 6dB を緑(OK)、3〜6dB を橙(注意)、3dB 未満を赤(NG)で表示します。実プロジェクトでは ITU-R P.618 に基づく降雨減衰の時間統計(CCDF)を使い、99.5% や 99.9% のアベイラビリティに対するマージンを別途検証してください。
シャノン限界から、ビット 1 個を確実に伝送するには C/N0 ≥ Eb/N0 + 10log10(Rb) の関係が必要です。データレート Rb が 10 倍になれば、必要 C/N0 は 10dB 増えます。送信機の EIRP やアンテナ利得を変えずに 200Mbps から 2000Mbps へ上げると、ちょうど 10dB だけ必要 C/N0 が増えるため、リンクマージンも 10dB 悪化します。本ツールではこれをスライダーで体感できます。実機では適応変調・符号化(ACM)で雨天時にレートを自動的に下げ、リンクを維持する方式が一般的です。

実世界での応用

Starlink・OneWeb など LEO ブロードバンド:高度 550km の Starlink、1,200km の OneWeb は GEO に比べ FSPL が 30〜36dB 小さく、60cm の家庭用ディッシュでも 100〜500Mbps を達成します。衛星が常に移動するためフェーズドアレイによるビーム電子追従が必須で、衛星間光リンクと組み合わせて「日本→米国」を地上ファイバーより低遅延で結ぶサービスも実用化されています。本ツールで Starlink Dishy + LEO-550 を選び、Ka 帯の高速通信が成立する物理的な根拠を確認してください。

JCSAT・Inmarsat GX など GEO 業務通信:静止衛星はサービス領域が固定で日本全土を 1 機でカバーできるため、放送・船舶通信・離島インフラに向きます。FSPL が 35dB 大きい不利を 1〜3m の高利得 VSAT で補い、Ka 帯の広い帯域(500MHz〜)で 50〜200Mbps を提供します。台風シーズンには Ka 帯リンクが切れることを前提に、Ku 帯バックアップや衛星間ハンドオーバーを設計します。

O3b mPOWER の MEO 衛星:高度 8,000km の中軌道衛星は LEO と GEO の中間で、レイテンシが 100ms 台、サービスエリアが赤道近傍の広域に伸ばせる特長があります。クルーズ船・遠隔鉱山・洋上石油プラットフォームで採用され、本ツールの MEO-8000 軌道を選ぶと、LEO ほどではないが GEO よりずっと小さい FSPL でマージンに余裕があることが確認できます。

降雨減衰を考慮したサービス設計:気象レーダや MODIS 衛星の降水量データを取り込み、地域別に必要マージンを設計します。例えば沖縄や東南アジア向けには 12〜15dB の追加マージン(雨季対応)を設定し、北海道や北欧向けには 5dB 程度の余裕で十分です。本ツールで気候帯を切り替えると、同一 EIRP でもアベイラビリティ確保のための EIRP 増強が何 dB 必要かが直感的に分かります。

よくある誤解と注意点

まず最大の落とし穴が、「FSPL は伝搬媒体の損失だ」と誤解すること。自由空間損失(Free Space Path Loss)という名前から「空間で電力が吸われる」イメージを持ちがちですが、実際には電力は球面状に拡散しているだけで何も吸収されていません。FSPL の正体は「等方アンテナ間で観測される、距離 d の球面と受信アンテナの実効開口面積(λ²/4π)の比」です。つまり波長 λ が短い(高周波)ほど FSPL が大きく見えますが、これは受信側の実効開口が小さくなるからで、同じ口径の指向性アンテナを使えば高周波の方がむしろ利得が高い。本ツールで周波数を 17.7→30GHz に上げると FSPL は増えますがアンテナ利得もそれ以上に増え、結果的に C/N0 は改善します。

次に、「ITU-R 降雨モデルを単純な線形減衰だと思い込む」こと。本ツールでは説明用に rainAttenuationDbKm × 5km としていますが、実際の降雨減衰は周波数依存(γ_R = k·R^α、R は降雨強度)、仰角依存(低仰角ほど雨層通過距離が長い)、偏波依存(垂直偏波の方が水平より弱く減衰)の三つで決まります。さらに重要なのが時間統計で、ITU-R P.618 では「年間 0.01% の時間に発生する降雨減衰」を A_0.01 として与え、これを用いて 99.99% のアベイラビリティを設計します。実プロジェクトでは ITU-R 公式の地域別降雨マップと統計式で再計算してください。

最後に、「リンクマージン = 安全度」と単純に考えないこと。マージンには (1) 降雨減衰マージン、(2) 実装ロスマージン(衛星のパッキング誤差、地上局のポインティング誤差、偏波ずれ)、(3) ノイズの長期ドリフトマージン、(4) 衛星寿命末期の出力低下マージン、と複数の用途があります。クリアスカイで 10dB マージンがあっても、その内訳が「降雨 8dB + 実装 2dB」だと熱帯では足りないし、「降雨 3dB + 実装 7dB」だと寒冷地でもまだ余裕があります。本ツールの margin 値は「降雨減衰を入力に取り込んだ後の総マージン」なので、ここからさらに 2〜3dB の実装ロスを差し引いた値が真の運用マージンであることに注意してください。

使い方ガイド

  1. 衛星EIRP(有効放射電力)をdBWで入力します。Starlink Phase 2は+40dBW、JCSAT-18Ka帯は+38dBWを目安としてください
  2. 搬送波周波数をGHzで設定します。Ka帯上り周波数29.5GHz、下り周波数19.7GHzが標準です
  3. データレート(Mbps)と降雨減衰(dB/km)、軌道距離(km)を入力すると、自由空間損失・アンテナ利得・受信電力・C/N0がリアルタイム計算されます
  4. リンクマージン(マージン=受信C/N0-必要C/N0)が正値であれば通信可能と判定されます

具体的な計算例

静止衛星(GEO、距離37,600km)からのKa帯下り通信:EIRP=+40dBW、周波数19.7GHz、受信アンテナ口径0.75m(利得=44dBi)の場合、自由空間損失は196.8dBとなります。データレート100Mbps(必要C/N0≒11.5dBHz)、降雨減衰2dB/kmで総減衰4dBを加算すると、受信電力は−159dBW、C/N0≒12.8dBHzになり、リンクマージンは+1.3dBです。梅雨期の降雨が激しい地域では利得45dBi以上のアンテナ増設が必要になります

実務での注意点