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電力系統・周波数制御

電力系統 周波数垂下制御シミュレーター — Primary Response

電力系統で負荷が急変したとき、各発電機の垂下制御(Droop)と系統慣性 H が周波数をどう支えるかを計算します。系統種別・定格出力・垂下率 R・負荷外乱・慣性・AGC ゲインを動かして、Δf・RoCoF・nadir・回復時間が UCTE 規定(±0.2Hz 定常/±0.8Hz nadir)に収まるかを直感的に確かめられます。

パラメータ設定
系統
公称周波数を決定(50 Hz または 60 Hz)
定格出力 Pn
MW
この発電機の定格。系統全体はその 10 倍と仮定
垂下率 R
%
5% = 周波数 5% 低下で 100% 出力増
負荷外乱 ΔPL
MW
正=負荷増(発電不足→周波数低下)
系統慣性 H
s
火力中心 4〜6s、再エネ大量導入で 2s 前後
不感帯
Hz
この偏差以下では垂下制御が応答しない
周波数偏差許容
Hz
UCTE 規定 ±0.2〜±0.8Hz が一般的
AGC ゲイン
MW
二次制御の補正速度(MW/30s 相当)
計算結果
周波数偏差 Δf (Hz)
安定周波数 (Hz)
当該機出力増分 (MW)
RoCoF (Hz/s)
周波数最低値 nadir (Hz)
AGC 回復時間 (s)
電力系統線図 — 発電機・負荷・周波数

公称 50/60Hz の系統に対し、負荷外乱が発生すると慣性応答→垂下制御→AGC の順で周波数が回復します。色は Δf の絶対値(緑→橙→赤)。

周波数時間応答 f(t)
系統別パラメータ比較
理論・主要公式

$$\Delta f = \frac{-\Delta P_L}{\beta},\quad \beta = \sum_{i} \frac{P_{rated,i}}{R_i \cdot f_n}$$

Δf=周波数偏差、β=系統合成 droop ゲイン、R=各機 droop、Pn=定格出力、fn=公称周波数。

$$\text{RoCoF} = \frac{-\Delta P_L \cdot f_n}{2\,H\,P_{n,\text{total}}}, \qquad \Delta P_i = -\frac{\Delta f}{f_n}\cdot\frac{P_{rated,i}}{R_i}$$

RoCoF=周波数変化率、H=系統慣性(秒)。ΔPi は各発電機の応答量で、Δf に比例し R に反比例する。

電力系統 周波数垂下制御 Primary Response — 50Hz/60Hz

🙋
電力系統って 50Hz か 60Hz にきっちり保たれていますよね。あれって誰が制御してるんですか?大停電のニュースを見るたびに不思議で…。
🎓
面白い質問だね。実は「誰か一人」じゃなくて、系統に繋がる全発電機が自律的に協調してるんだ。基本ルールはシンプルで、「周波数が下がったら出力を増やす」「上がったら減らす」を、各発電機がガバナという装置で機械的にやっている。この傾きを「垂下率 R」と呼んで、典型値が 5%。これが Primary Response、つまり一次制御だよ。本ツールでデフォルトの 1000MW 負荷増を与えると、Δf=−0.167Hz で落ち着くのが見えるはず。
🙋
でも 0.167Hz って小さい数字ですよね。それでも大停電が起きるのはなぜですか?
🎓
いい指摘。実は定常値ではなく「過渡」と「外乱規模」が問題なんだ。RoCoF(Rate of Change of Frequency, Hz/s)を見てごらん。デフォルトで −0.42Hz/s だけど、慣性 H を 4s→2s に下げると約 2 倍に跳ね上がる。RoCoF が 1Hz/s を超えると保護リレーが誤動作したり、nadir が UFLS の閾値(47〜49Hz)を割って強制負荷遮断が連鎖する。2003 年の北米大停電(5000 万人影響)も、2021 年テキサス大寒波(400 万戸停電、26GW 喪失)も、この連鎖が止まらなかった例だね。
🙋
なるほど、慣性が効くんですね。最近よく聞く「再エネで慣性が減る問題」もここに関係してますか?
🎓
まさにそれ。火力や原子力のタービンは数十トンの回転体が物理的に回ってるから、周波数が下がっても運動エネルギーで一瞬支えてくれる。これが H≈4〜6 秒の正体。でも太陽光や風力はインバータ介在だから、デフォルトでは慣性ゼロ。だから再エネ比率の高い系統では H が 2 秒前後まで落ちて、RoCoF が暴れやすい。対策が Grid-Forming Inverter による Synthetic Inertia や、退役火力跡地への Synchronous Condenser 設置、それと Hornsdale(豪 100MW 蓄電池)みたいなバッテリー FCR だね。
🙋
表示の「AGC 回復時間」も気になります。これは何の時間ですか?
🎓
Primary は「Δf を残したまま止める」のが仕事で、公称周波数(50/60Hz)まで戻すのは Secondary、つまり AGC(Automatic Generation Control)の仕事なんだ。ACE(エリア制御誤差)を積分して、補正指令を発電機に配る。デフォルトの ΔPL=1000MW、AGC=400MW では回復時間 75 秒。30 秒〜15 分のスケールで動き、その先(15 分以上)は Tertiary、つまり経済負荷配分が引き継ぐ。UCTE/ENTSO-E の FCR/FRR/RR、日本の LFC/EDC が、まさにこの階層を制度化したものだよ。

よくある質問

垂下制御は、各発電機が自分の出力 P と周波数 f の関係を「周波数が下がれば出力を増やす」直線(傾き=垂下率 R)に固定する一次制御です。R=5% は「周波数が定格の 5% 低下したとき出力が定格の 100% 増える」勾配を意味します。系統全体では各機の傾きが並列に足し合わさり、合成 β = ΣPn,i/(Ri·fn) [MW/Hz] が決まります。負荷外乱 ΔPL に対して定常周波数偏差は Δf = −ΔPL/β。本ツールはこの定常 Δf に加え、慣性 H に支配される過渡 RoCoF と nadir も同時に表示します。
H は系統全体に蓄えられた回転エネルギーの定格出力に対する比(秒)で、火力中心の系統では 4〜6 秒、再エネ大量導入の系統では 2 秒前後まで低下します。H が小さいと、負荷外乱直後の RoCoF = −ΔPL·fn/(2H·Pn,total) が急峻になり、UFLS(低周波数負荷遮断)や保護リレーが動く前に nadir が UCTE 規定値(±800 mHz)を割り込みます。本ツールで H を 4s→2s に下げると RoCoF が約 2 倍になり、警告が出る挙動を確認できます。対策として grid-forming インバータの synthetic inertia や同期調相機の設置が進んでいます。
Primary(一次)が本ツールの垂下制御で、0〜30 秒の自律応答により周波数の急落を止めます。ただし定常 Δf は残ったままです。Secondary(二次・AGC: Automatic Generation Control)が 30 秒〜15 分のスケールで動き、エリア制御誤差 ACE を積分して指令値を補正、公称周波数(50/60Hz)に復帰させます。本ツールの「AGC 回復時間」はこの戻り時間の概算です。Tertiary(三次)は 15 分以上で経済負荷配分と予備力の再配置を行います。UCTE/ENTSO-E では FCR/FRR/RR の階層、日本では LFC/EDC として制度化されています。
従来は同期発電機(火力・原子力・水力)が回転慣性と droop を自然に提供していましたが、太陽光・風力はインバータ介在のため慣性も droop もデフォルトでは持ちません。結果として系統全体の β と H が低下し、同じ負荷外乱でも Δf と RoCoF が拡大します。対策は (1) Grid-Forming インバータで synthetic inertia と仮想 droop を提供、(2) 蓄電池(例: Hornsdale 100MW/129MWh)で FCR を担う、(3) 同期調相機(Synchronous Condenser)を退役火力跡地に設置、の 3 本柱です。ENTSO-E は 2030 年に向け非同期電源比率と inertia の最低値を規定する方向です。

実世界での応用

送電系統運用機関(TSO・電力広域):日本の電力広域的運営推進機関(OCCTO)、欧州の ENTSO-E、米国の NERC は、各エリアの droop 設定・FCR 確保量・周波数偏差許容値(±0.2Hz steady、±0.8Hz nadir 等)を規定します。本ツールのような Δf/RoCoF/nadir の概算は、新規連系の発電所が系統影響評価(Grid Code Compliance)を提出する際の初期検討に使われます。容量市場・需給調整市場で FCR/FRR を商品化し、入札で価格決定する仕組みも整いつつあります。

大規模蓄電池・Grid-Forming インバータの設計:豪州 Hornsdale Power Reserve(100MW/129MWh、テスラ)は 2017 年の運開以来、South Australia の周波数調整費用を 90% 削減したことで知られます。設計時には「想定 ΔPL に対し RoCoF と nadir を規定内に収める droop と synthetic inertia をどう配分するか」を本ツールと同種のモデルで検討します。最近は GFM(Grid-Forming Mode)の標準化が AEMO・National Grid ESO・METI で進行中です。

マイクログリッド・離島系統:系統規模が小さい離島・データセンター・工場マイクログリッドでは、慣性 H が極端に小さく(1〜2 秒)、RoCoF が暴れやすい環境です。ディーゼル・ガスタービン・蓄電池・PV を混在運用するため、各電源の droop・dead band・AGC 配分を慎重に設計します。本ツールで Pn=100MW・H=1s 程度に絞ると、離島系統の挙動を概算できます。

再エネ大量導入時のリスク評価:2019 年英国 Hornsea 事故(落雷で 1.13M 戸停電)、2020 年九州系統の出力制御運用、2021 年テキサス大寒波(4M 戸停電、URGE 26GW 喪失)等の事例は、「慣性低下+大規模外乱」の組み合わせで Primary Response が間に合わなかった例として、各国の系統運用ガイドラインに反映されています。本ツールで H と ΔPL を極端値に振ると、その境界感覚を養えます。

よくある誤解と注意点

第一の落とし穴が、「垂下率 R を小さくすれば Δf が小さくなる=良い設計」と短絡することです。確かに R↓ で β↑ になり Δf は小さくなりますが、R が小さいと「ハンチング(並列運転中の出力振動)」が発生しやすくなります。系統に複数機が並列で繋がっている場合、各機の droop が小さすぎると応答が過敏になり、互いに「相手が応答する前に自分が動く」状態で出力が振動的に揺れ続けます。実務では R=4〜8% が現実的な範囲で、3% 以下にすると安定性余裕(Phase Margin)が痩せます。系統影響評価では、Δf 抑制と安定余裕のトレードオフで R を決めます。

第二に、「不感帯(Dead Band)を狭くすれば応答が早くなる」と思いがちな点。不感帯を 0 にすると、確かに微小外乱にも応答しますが、その代償としてガバナバルブが常時駆動され機械摩耗が進みます。さらに各機のセンサ誤差で「全機が同じ方向に同時応答」する Common Mode 振動が起きやすくなります。実機では 10〜30 mHz 程度の不感帯を持たせ、定常運用中の小さなノイズには応答せず、有意な外乱だけに応答する設計が一般的です。本ツールで不感帯を 0 に下げると Δf=0 になりますが、これは「機械が常に動き続ける」コストを払っての結果である点に注意。

第三に、「RoCoF と nadir は同じ指標」と混同すること。RoCoF は「外乱直後の周波数変化率(Hz/s)」で慣性 H に依存し、保護リレーの誤動作(df/dt 過大検出)に直結します。一方 nadir は「過渡応答中の最低周波数(Hz)」で、UFLS(低周波数負荷遮断、47〜49Hz で段階起動)の閾値に直結します。同じ ΔPL でも、H↓ なら RoCoF↑(リレー誤動作リスク↑)、β↓ なら nadir↓(UFLS リスク↑)と原因が違うため対策も別です。本ツールでは両方を同時に表示し、verdict が RoCoF(>1Hz/s)と Δf 違反を別々に判定するのはそのためです。

使い方ガイド

  1. 定格発電機容量(MW)と系統慣性定数 H(秒)を入力。50Hz/60Hz 系統を選択
  2. 垂下率 R(%)と不感帯(mHz)を設定。標準値は火力機で R=5%、水力機で R=3-4%
  3. 負荷外乱(MW)を入力。瞬間値(例:大型電動機脱落 50MW)または段階値を選択
  4. シミュレーション実行で周波数偏差 Δf、RoCoF、nadir、AGC 回復時間を計算
  5. 出力値を系統適合性基準(欧州 ENTSO-E: nadir ≥ 49.5Hz、RoCoF ≤ 2Hz/s)と比較

具体的な計算例

定格 500MW 火力機、H=5秒、R=5%、負荷外乱 100MW の場合:初期 RoCoF = 100/(2×5×500) = 0.2Hz/s。垂下制御で機出力が 100MW×(5%/0.5Hz) = 10MW 増加。周波数偏差 Δf = -0.5Hz に収束し、nadir は 49.5Hz(50Hz基準)。水力機(H=2秒)同条件では RoCoF = 0.5Hz/s と倍増し、nadir は 49.0Hz に低下。AGC ゲイン 1.0%/Hz なら回復時間 60秒程度

実務での注意点