パラメータ設定
ロケット燃焼ガス代表値 R = 320 J/(kg·K)、g_0 = 9.81 m/s²、完全膨張 (P_e = P_a) を仮定しています。
収束-発散ノズル断面と流れ
左=燃焼室(赤・高温)/中央くびれ=喉部 A_t(白・M=1)/右=発散部から大気(黄→青で冷却)。矢印長さは流速、色は温度を表します。
推力係数 C_F vs 圧力比 P_c/P_e
横軸は対数の P_c/P_e(圧力比、10〜1000)。曲線は γ 一定での理想 C_F、黄色マーカーが現在の動作点。圧力比が大きいほど C_F は飽和に向かいます。
理論・主要公式
完全膨張・等エントロピー・1次元定常を仮定したロケットノズルの推力係数:
$$C_F = \sqrt{\frac{2\gamma^2}{\gamma-1}\left(\frac{2}{\gamma+1}\right)^{\!(\gamma+1)/(\gamma-1)}\!\!\left[1 - \!\left(\frac{P_e}{P_c}\right)^{\!(\gamma-1)/\gamma}\right]}$$
特性速度(燃焼室性能のみで決まる量)と比推力:
$$c^* = \sqrt{\frac{R\,T_c}{\gamma}}\cdot\!\left(\frac{\gamma+1}{2}\right)^{\!(\gamma+1)/(2(\gamma-1))}, \qquad I_{sp} = \frac{c^* \cdot C_F}{g_0}$$
完全膨張時の排気速度(c_p = γR/(γ-1)):
$$V_e = \sqrt{2\,c_p\,T_c\,\!\left[1 - \!\left(\frac{P_e}{P_c}\right)^{\!(\gamma-1)/\gamma}\right]}$$
推力は F = C_F · P_c · A_t と書けます。C_F はノズル形状と γ・圧力比のみの関数で、c* は燃焼室性能のみに依存。両者の積として Isp が分解されるため、燃焼器とノズルの改善を独立に評価できます。
推力係数 シミュレーターとは
🙋
ロケットエンジンのカタログを見ると「真空 Isp 380 秒」「C_F 1.7」みたいな数字が並んでるんですけど、C_F って結局何を意味してるんですか?
🎓
ざっくり言うと、推力 F をその「燃焼室圧 × 喉部面積」で割った無次元の効率指標だ。F = C_F · P_c · A_t と書ける。デフォルト値の P_c = 7 MPa、γ = 1.20、P_e = 100 kPa、T_c = 3500 K で C_F は 1.600 と出る。これは「燃焼室で作った P_c · A_t の力をノズル形状で約1.6倍に増幅できた」という意味。実機の典型値は 1.4〜1.9 で、SSME(液水/液酸)の真空 C_F は約 1.85、固体ロケットの C_F は 1.6 前後だよ。
🙋
特性速度 c* と比推力 Isp はどう違うんですか?両方とも「燃焼の良さ」に関係しそうですが…
🎓
そこが推進工学のうまい分業ポイントだ。c* は燃焼室の性能だけ、ノズル形状に一切依存しない。デフォルトでは c* = 1632 m/s。一方 Isp は最終的な「推進剤1秒あたりの推力」で、Isp = c* · C_F / g_0 = 1632 × 1.600 / 9.81 = 266 秒。つまり Isp は燃焼室効率(c*)とノズル効率(C_F)の積に分解できる。だから実機開発では燃焼器とノズルを別チームが独立に最適化できるんだ。
🙋
P_c スライダーを大きくすると C_F が増えていくのが見えるんですが、なぜですか?
🎓
C_F の式を見ると、項 [1 − (P_e/P_c)^((γ-1)/γ)] が効いてる。P_c を 7 MPa から 14 MPa に上げると圧力比 P_c/P_e は 70 から 140 になり、(P_e/P_c)^0.167 が 0.493 から 0.439 に下がるから、項全体が 0.507 から 0.561 に増える。結果 C_F は 1.600 → 1.683 へと上昇。チャートで黄色マーカーが右上にスライドしていくのが見えるはず。だから高圧化は「同じ喉部面積で大きな推力を取り出す」方策として有効なんだ。
🙋
じゃあ Isp を上げたいときも P_c を上げればいい?
🎓
Isp は c* · C_F / g_0 だから、c* を上げる方が効きが良い。c* = √(R T_c / γ) · ((γ+1)/2)^... を見ると T_c の平方根に比例する。デフォルト T_c = 3500 K を 4000 K に上げると c* が 1632 → 1746 m/s(+7%)。一方 P_c を 7 MPa から 14 MPa に上げても C_F は +5% 程度。実機では「推進剤の組み合わせで T_c を高く」「分子量を小さく(R を大きく)」が高 Isp の王道で、Falcon 9 はメタン+液酸より H-IIA は液水+液酸を選んでるのがまさにこの理由だ。
🙋
排気速度 V_e と Isp · g_0 は同じ値になりますか?
🎓
完全膨張(P_e = P_a)なら V_e = Isp · g_0 が成立する。デフォルトでは V_e = 2611 m/s、Isp · g_0 = 266 × 9.81 = 2609 m/s でほぼ一致するね(端数は丸め誤差)。ただし不完全膨張では圧力推力項 (P_e − P_a)·A_e/ṁ が加わるから、実効排気速度 c = Isp · g_0 が V_e と分離する。シミュレーターは設計点(完全膨張)を仮定しているのでこの2つは常に一致する。
🙋
出口 Mach 数 M_e はどう求めるんですか?ノズル断面に「M_e ≈ 2.5」と出てます。
🎓
等エントロピー流の関係 P_c/P_e = (1 + (γ-1)/2 · M_e²)^(γ/(γ-1)) を M_e について解けばいい。デフォルト P_c/P_e = 70、γ = 1.20 を代入すると M_e ≈ 2.86 になる。膨張比 A_e/A_t は M_e から幾何関係 A_e/A_t = (1/M_e)·((2/(γ+1))(1 + (γ-1)/2 · M_e²))^((γ+1)/(2(γ-1))) で計算できて、ここでは約 7。実機ではこの A_e/A_t を上げるほど真空性能は上がるが、海面では過膨張で性能低下する設計のトレードオフがある。
よくある質問
R = R_u/M(普遍気体定数 / 分子量)はロケット燃焼ガスの代表値です。液水/液酸では H_2O が主成分で M ≈ 18、燃焼後の解離も考慮すると実効 M ≈ 14、R ≈ 590 程度。一方ケロシン/液酸や固体ロケットでは CO_2 や N_2 を含み M ≈ 22〜25、R ≈ 320〜380。本ツールでは「中庸な化学ロケット」の代表値として R = 320 を採用し、γ と T_c の感度に集中できるようにしました。具体的な推進剤組み合わせの c* を厳密に出したい場合は CEA や RPA などの平衡計算コードを使うのが標準です。
設計点(特定の高度)でしか厳密には成立しません。Falcon 9 第1段(海面〜高高度を貫通)は P_e/P_a が 0.6〜2 の範囲を行き来し、低高度では過膨張で C_F が 5〜15% 低下します。一方 SSME は真空仕様で膨張比 A_e/A_t = 77 と非常に大きく、海面では衝撃波が出るため点火直後は性能が落ちます。実用では C_F_実効 = C_F_完全膨張 + (P_e − P_a)·A_e/(P_c·A_t) の補正項を加え、ミッションプロファイル全体での平均 Isp を評価するのが標準手法です。
空気の γ ≈ 1.40 はロケット燃焼ガスでは上限。実機の燃焼室温度(3000〜3700 K)では分子の振動モードが励起され、さらに H_2O や CO_2 のような多原子分子が支配的になるため γ は 1.10〜1.25 程度に下がります。固体ロケットや液水/液酸エンジンの典型 γ は 1.20 前後で、本ツールのデフォルト値もここに合わせています。スライダーで γ を 1.10 → 1.40 に振ると C_F は約 1.55 → 1.74 まで増加し、γ が C_F に与える影響の大きさが体感できます。
完全膨張では出口 Mach M_e と γ から A_e/A_t = (1/M_e)·((2/(γ+1))(1 + (γ-1)/2 · M_e²))^((γ+1)/(2(γ-1))) が一意に決まります。ノズル断面の上にも M_e と A_e/A_t を表示しています。デフォルト P_c/P_e = 70 で M_e ≈ 2.86、A_e/A_t ≈ 7。実機の膨張比は SSME で 77、Merlin で 16、Raptor 真空版で 80 など、設計高度に応じて選びます。膨張比が大きいほど真空性能は良いが、海面では過膨張で衝撃波が出てノズル壁の振動・損傷リスクが上がるため、第一段では中程度(10〜30)が定石です。
実世界での応用
液体ロケットエンジンの設計トレードオフ:SpaceX Raptor、Blue Origin BE-4、Aerojet Rocketdyne RS-25 など現代の液体ロケット開発では、まず推進剤の組み合わせから c* を決め(液水/液酸なら 2300 m/s 級、メタン/液酸なら 1850 m/s 級)、次に膨張比 A_e/A_t と P_c から C_F を決めます。本ツールで P_c = 30 MPa、γ = 1.15、T_c = 3700 K と設定すると C_F ≈ 1.79、Isp ≈ 320 秒となり、フルフロー段階燃焼サイクルの目標性能に近づきます。設計初期の概念検討で、燃焼室と推進剤の選択を分離して評価する用途に直接使えます。
固体ロケットモーターのノズル最適化:固体ロケット(Space Shuttle SRB、H-IIA SRB-A、ミサイル推進系)では推進剤組成が決まると c* は固定(典型 1500〜1600 m/s)、設計の自由度はノズル形状(喉部面積 A_t と膨張比)に集中します。本ツールで γ = 1.18、T_c = 3000 K、P_c = 5 MPa と設定すると C_F ≈ 1.55、Isp ≈ 245 秒で、HTPB 系の典型値とよく一致します。膨張比を変えたときの C_F 変化を見ることで、ペイロード重量と高度プロファイルに応じた最適 A_e/A_t を素早く絞り込めます。
ホットファイア試験データの解釈:地上試験では推力 F、燃焼室圧 P_c、推進剤流量 ṁ を直接測定でき、C_F = F/(P_c · A_t)、c* = P_c · A_t / ṁ、Isp = F/(ṁ · g_0) の3つを同時に計算します。「Isp が予想より低い」とき、本ツールの理論値と比較して C_F 効率(ノズル損失)と c* 効率(燃焼効率)のどちらが原因かを切り分けます。NASA や JAXA の試験報告書ではこの分解手法が標準で、本ツールの理論計算がベンチマークとして役立ちます。
大学・研究機関のハイブリッドロケット教育:東京大学、北海道大学、東北大学など多くの大学のロケットサークルが自作ハイブリッドロケット(N_2O + HTPB、LOX + HDPE 等)を開発しています。教育目的では「性能予測の根拠」が重要で、本ツールに γ = 1.25、T_c = 3000 K、P_c = 3 MPa を入れると C_F ≈ 1.50、Isp ≈ 220 秒となり、実際の小型ハイブリッド試験結果(200〜250 秒)と概ね一致します。CEA が複雑すぎて手が出ない学生にとって、最初の概念検討ツールとして有用です。
よくある誤解と注意点
最も多い誤解は「C_F を上げれば必ず Isp も上がる」と考えてしまうことです。Isp = c* · C_F / g_0 という積の形を見ると分かるとおり、C_F だけを 10% 上げても c* が 10% 下がれば Isp は変わりません。例えば膨張比を増やして真空 C_F を 1.7 → 1.85 にしても、燃焼温度が下がれば c* が下がって帳消しになります。本ツールで P_c や P_e のスライダーを動かして C_F だけを変えても、c* と Isp の動きが連動しない(c* は T_c のみに依存)ことを確認してください。実機開発では C_F と c* を独立に最適化することが性能向上の王道です。
次に多いのが、「真空での Isp が常に最大値で、海面では単純に減るだけ」と思い込むケースです。膨張比が真空向けに最適化された大ノズル(A_e/A_t = 70 級)は、海面では過膨張になり P_e ≪ P_a の状況で衝撃波がノズル内に立ち、壁面を激しく加振して破壊する危険があります。SSME や RL-10 が地上試験で慎重なスタートシーケンスを必要とするのはこのためで、Isp の値だけでなく動作高度範囲のマッチングが本質的に重要です。本ツールは「設計点」性能のみ示すため、実機評価では必ず高度プロファイル全体を考える必要があります。
もう一つ、「R を変えれば c* が劇的に変わる」と過大評価するケースです。c* = √(R T_c/γ) · ((γ+1)/2)^... を見ると c* は √R に比例するため、R を 320 → 500 J/(kg·K) に上げても c* は √(500/320) = 1.25 倍にしかなりません。実機で c* を上げる主な手段は T_c の上昇と γ の最適化で、R の影響は推進剤組み合わせの選択時にのみ大きく効きます。本ツールは R を固定して γ・T_c の感度に集中していますが、別組成を厳密評価する際は CEA や NIST 化学平衡コードで個別に計算してください。