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電気工学

全高調波歪み(THD)シミュレーター

交流の電圧・電流波形が、純粋な正弦波からどれだけ歪んでいるかを表す指標が全高調波歪み(THD)です。第3〜第11高調波の振幅を変えると、THD・実効値・歪み率係数・波高率がリアルタイムで分かり、波形のひずみがどう生まれるかを目で見て確かめられます。

パラメータ設定
第3高調波
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基本波に対する第3次高調波の振幅比
第5高調波
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基本波に対する第5次高調波の振幅比
第7高調波
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基本波に対する第7次高調波の振幅比
第9高調波
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基本波に対する第9次高調波の振幅比(トリプレン)
第11高調波
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基本波に対する第11次高調波の振幅比
計算結果
全高調波歪み THD (%)
歪み波の実効値(基本波比 ×)
歪み率係数 distortion factor
波高率(クレストファクタ)
支配的な高調波
IEEE 519 適合判定
波形比較 — 純正弦波 vs 歪み波(アニメーション)

細い線が基本波の純正弦波、太い線が高調波を足し合わせた歪み波です。両者のずれが「ひずみ」そのもの。薄い線は個別の高調波成分を表します。

高調波スペクトル(振幅%)
時間波形 — 合成波と基本波
理論・主要公式

$$\text{THD}=\frac{\sqrt{V_3^2+V_5^2+V_7^2+\cdots}}{V_1},\qquad PF_{dist}=\frac{1}{\sqrt{1+\text{THD}^2}}$$

全高調波歪み THD(基本波 V1 に対する全高調波実効値の比)と歪み率係数 PF_dist。本ツールの高調波振幅は基本波に対する相対値(%)で与える。

$$V_{rms}=V_1\sqrt{1+\text{THD}^2},\qquad CF=\frac{V_{peak}}{V_1\sqrt{1+\text{THD}^2}}$$

歪み波の実効値 V_rms(基本波実効値の √(1+THD²) 倍)と波高率 CF。V_peak は合成波形のピーク値。

$$v(t)=\sin\omega t+\sum_{n}h_n\sin(n\,\omega t),\quad n=3,5,7,9,11$$

合成波形 v(t)。基本波に、振幅 h_n の各奇数次高調波を重ね合わせる。h_n は基本波比の分数。

全高調波歪み(THD)とは

🙋
コンセントの電気って、きれいなサインカーブで来てると思ってました。でも「波形が歪む」って、どういうことですか?
🎓
理想の交流電源は確かに、50Hzか60Hzのきれいな正弦波だ。でも実際の電流や電圧は、いろんな機器のせいでガタガタの非正弦波になっている。フーリエの定理を使うと、その歪んだ波は「基本波(50/60Hz)」と「その整数倍の波=高調波」の足し算で表せるんだ。第3高調波なら基本波の3倍の周波数、第5なら5倍。THDはこの高調波たちを全部まとめて、基本波に対してどれだけあるかを1つの数字にしたものだよ。
🙋
なるほど。左で第3高調波のスライダーを上げると、波形がぐにゃっと歪んでいきます。これって何が原因で起きるんですか?
🎓
原因はほぼ「非線形負荷」だね。ダイオード整流器、パソコンやスマホの充電器みたいなスイッチング電源、インバータ、LED照明——これらは電圧の山の付近だけで電流をパルス状にガッと引き込む。電圧に比例して滑らかに電流を流してくれないんだ。そういう尖った電流をフーリエ分解すると、必ず高調波が出てくる。電力系統では奇数次、特に第3・第5・第7次が大きく出やすいから、このツールでも奇数次だけ扱っているんだよ。
🙋
高調波が増えると、具体的にどんな困ったことが起きるんですか?
🎓
けっこう深刻だよ。高調波電流は変圧器やモーターを余計に発熱させて、効率を下げ寿命を縮める。一番やっかいなのが三相4線式の中性線だ。普通、三相がバランスしていれば中性線の電流はゼロになる。でも第3・第9次みたいな3の倍数の高調波——トリプレン高調波と呼ぶ——は、3相とも同位相だから中性線で打ち消し合わずに足し算される。相電流より中性線電流のほうが大きくなって、中性線が過熱する事故が実際に起きているんだ。
🙋
それは怖いですね…。どのくらいの歪みなら許されるんですか?目安はありますか?
🎓
代表的な国際規格 IEEE 519 では、電圧THDをおおむね5%以下に抑えることを求めている。だからこのツールも、THDが5%を超えると「やや超過」、8%を超えると「大きく超過」と判定するようにしてある。デフォルト値だとTHDは約24.6%——基準の5倍近くで、はっきりNGだ。実際の工場でも、インバータをたくさん使っている系統ではこのくらいの値が普通に出てしまう。
🙋
じゃあ、歪みを減らすにはどうすればいいんですか?
🎓
大きく3つ。1つ目は高調波フィルタ——受動フィルタで特定次数を吸い込んだり、アクティブフィルタで逆位相の電流をぶつけて打ち消したりする。2つ目は多パルス整流。6パルスではなく12パルス・18パルスにすると、低次の高調波がうまく相殺される。3つ目はアクティブPFC、つまり力率改善回路だ。入力電流を強制的に正弦波に近づける仕組みで、最近のサーバ電源やEV充電器ではほぼ標準になっている。設計の最初から低THDの機器を選んでおくのが一番ラクだよ。

よくある質問

電圧THDは、基本波 V1 に対する全高調波の実効値の比で定義され、THD = √(V3²+V5²+V7²+…) / V1 で計算します。本ツールでは各高調波振幅を基本波に対する百分率で入力するため、h3=V3/V1 などの分数に直し、THD = √(h3²+h5²+h7²+h9²+h11²) を求め、×100でパーセント表示します。例えば h3=20%, h5=12%, h7=7%, h9=3%, h11=2% なら THD≈24.62% です。
高調波は、電流を電圧波形に比例して滑らかに流さない「非線形負荷」から生じます。ダイオード整流器、スイッチング電源、インバータ(可変速ドライブ)、LEDドライバなどは、正弦波の山の付近だけで電流をパルス状に引き込みます。フーリエの定理により、この非正弦波電流は基本波と整数倍の高調波の和で表せます。電力系統では奇数次(第3・第5・第7…)が支配的で、特に3の倍数次(第3・第9…)はトリプレン高調波と呼ばれます。
高調波電流は変圧器やモーターを余分に発熱させ、効率を下げ寿命を縮めます。特に三相4線式では、トリプレン高調波(第3・第9次)が中性線で打ち消し合わず加算されるため、相電流が小さくても中性線が過負荷・過熱します。さらにブレーカーの不要トリップ、コンデンサの過負荷・共振、電子機器への電磁妨害も招きます。これらの被害は実際にコストとなるため、IEEE 519 などの規格が電圧THDをおよそ5%に制限しています。
対策は大きく3系統あります。(1) 受動・能動の高調波フィルタを設置し、特定次数の高調波電流を吸収・打ち消す。(2) 6パルスではなく12パルス・18パルスの多パルス整流回路にして、低次高調波を相殺する。(3) アクティブPFC(力率改善)フロントエンドを採用し、入力電流を正弦波に近づける。設計段階では、低THDの機器を選定し、トリプレン高調波が集中しないよう変圧器の結線(Δ-Y)や負荷配置を工夫することも有効です。

実世界での応用

工場・ビルの電力品質管理:多数のインバータ駆動モーター、可変速ドライブ(VFD)、整流器を抱える工場では、母線の電圧THDが容易に5〜15%に達します。設備管理者は電力品質アナライザでTHDを継続監視し、IEEE 519やIEC 61000の限度値を超えていれば、原因負荷の特定とフィルタ追加を検討します。本ツールのように各次数の寄与を分解して見ることが、対策の第一歩です。

データセンター・サーバ電源:大量のスイッチング電源は、かつて入力電流のTHDが100%を超えることもありました。現在は能動的な力率改善(アクティブPFC)が義務化に近い水準で普及し、入力電流THDを5%程度まで抑え込んでいます。サーバ室の三相配電では、トリプレン高調波が中性線に集中するため、中性線を相線より太くする設計が一般的です。

太陽光発電・系統連系インバータ:太陽光パネルの直流をパワーコンディショナで交流に変換して系統へ送る際、出力電流のTHDは系統連系規程で厳しく制限されます(多くの規程で5%以下)。インバータのPWM制御とLCLフィルタの設計が、低THDを達成する鍵になります。

オーディオ・計測機器の品質指標:THDは電力系統だけでなく、アンプやD/Aコンバータの忠実度を表す指標としても使われます。「THD+N 0.001%」のような表記は、出力信号に含まれる高調波歪みとノイズの割合を示し、値が小さいほど原音に忠実です。THDの考え方そのものは、電力でもオーディオでも共通です。

よくある誤解と注意点

まず混同しやすいのが、「THD-F と THD-R の違い」です。本ツールが計算しているのは基本波を分母に置くTHD-F(IEEE 519の定義)で、THD = √(ΣVn²)/V1 です。一方、全実効値を分母に置くTHD-R(IEC定義の一部)は √(ΣVn²)/Vrms で、こちらは必ず100%未満になります。歪みが大きいと両者は無視できないほど食い違います。例えばTHD-Fが50%のとき、THD-Rは約44.7%です。規格書や測定器の値を引用するときは、どちらの定義かを必ず確認してください。

次に、「電流THDが大きい=電圧THDも大きい、ではない」という点。負荷が引き込む電流の歪み(電流THD)は非常に大きくても、電源系統のインピーダンスが十分低ければ、電圧波形はあまり歪まず電圧THDは小さく収まります。逆に弱い系統(インピーダンスが高い)では、同じ電流歪みでも電圧が大きく歪みます。IEEE 519が電圧THDと電流歪み(TDD)を別々に規定しているのはこのためです。本ツールは波形の歪みそのものを扱いますが、実機では「どこで測ったTHDか」が重要になります。

最後に、「高調波の位相を無視してはいけない」こと。THDの計算式は各高調波の振幅(実効値)だけで決まり、位相は関係しません。しかし合成波形の「形」やピーク値(波高率)は、高調波の位相に強く依存します。同じTHDでも、位相の組み合わせ次第で波形が尖ったり平らになったりします。本ツールでは各高調波を正弦(同位相)として合成していますが、実際の波形評価では位相情報まで含めて見る必要があります。波高率は、コンデンサや整流ダイオードのピーク耐量設計で特に重要です。

使い方ガイド

  1. 基本波(50Hz または 60Hz)の振幅を1.0に正規化した状態で、3次・5次・7次・9次高調波の振幅をスライダーで0~0.5の範囲で設定します
  2. 各高調波のスライダーを変更するとリアルタイムで合成波形が更新され、THD値(%)、実効値、波高率、IEEE 519基準への適合判定が同時に計算されます
  3. グラフ上で基本波と高調波成分の周波数スペクトラムを確認し、支配的な高調波の種類を特定します

具体的な計算例

50Hz系統で基本波振幅1.0、5次高調波0.08、7次高調波0.05、3次・9次を0.03に設定した場合、THD = √(0.08² + 0.05² + 0.03² + 0.03²) / 1.0 × 100 = 10.3%となります。波高率は1.52、実効値は1.035V(基本波比)となり、IEEE 519-2022の産業用5kV以上6.9kV以下配電線基準(THD 5%)を超過するため、フィルタ装置の追加が必要と判定されます。変圧器励磁電流による3次高調波が0.15の場合、THD = 15.2%に上昇し、中性点接地方式の見直しが必要になります

実務での注意点