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材料降伏シミュレーター

トレスカ vs ミーゼス降伏条件 シミュレーター — 主応力空間の比較

3 主応力 (σ1, σ2, σ3) と降伏応力 σy をリアルタイムで変えながら、フォン・ミーゼス(楕円)とトレスカ(正六角形)の 2 つの降伏面を主応力平面 (σ1, σ2) 上に重ね描きし、相当応力と安全係数 SF を比較できる材料降伏シミュレーターです。延性金属の塑性開始点を直感的に把握でき、トレスカが常にミーゼスより安全側(保守的)になることを視覚的に確認できます。

パラメータ設定
主応力 σ1
MPa
主応力 σ2
MPa
主応力 σ3
MPa
降伏応力 σy
MPa
σ_VM = √(0.5·[(σ1−σ2)² + (σ2−σ3)² + (σ3−σ1)²])
σ_TR = max(|σ1−σ2|, |σ2−σ3|, |σ3−σ1|)
SF = σy / σ_eq (>1 で安全)

既定値 σ1=200, σ2=100, σ3=0, σy=250 MPa で σ_VM=173.2 MPa、σ_TR=200 MPa、SF_VM=1.44、SF_TR=1.25。トレスカは常にミーゼス以下の SF を与える保守的評価です。

計算結果
相当応力(Mises)
相当応力(Tresca)
安全係数(Mises)
安全係数(Tresca)

降伏面の比較(主応力平面 σ1–σ2、σ3=0 仮定)

青楕円=Mises、赤六角形=Tresca。σ3=0 と仮定し降伏応力 σy で正規化した平面。黄色マーカーが現在の (σ1, σ2)。曲面の内側=弾性域、外側=塑性域。トレスカ六角形はミーゼス楕円に内接します。

主応力バーと降伏限度

3 本のバーが σ1, σ2, σ3 の値。黄色破線が降伏応力 σy、赤破線が −σy。バーの先端が破線を超えると単軸引張・圧縮で降伏します(ただし多軸状態では相当応力評価が必要)。

理論・主要公式

フォン・ミーゼス相当応力(J2 流則):

$$\sigma_{VM} = \sqrt{\tfrac{1}{2}\left[(\sigma_1-\sigma_2)^2 + (\sigma_2-\sigma_3)^2 + (\sigma_3-\sigma_1)^2\right]}$$

トレスカ相当応力(最大せん断応力理論):

$$\sigma_{TR} = \max(|\sigma_1-\sigma_2|,\;|\sigma_2-\sigma_3|,\;|\sigma_3-\sigma_1|)$$

安全係数:

$$\mathrm{SF} = \frac{\sigma_y}{\sigma_{eq}}$$

$\sigma_{VM} = \sigma_y$ で降伏(ミーゼス)、$\sigma_{TR} = \sigma_y$ で降伏(トレスカ)。常に $\sigma_{TR} \geq \sigma_{VM}$ で、その比は最大 $2/\sqrt{3} \approx 1.155$(純せん断 $\sigma_1=-\sigma_3$, $\sigma_2=0$)。トレスカは安全側、ミーゼスは実験値とよく一致します。

トレスカ vs ミーゼス降伏条件 シミュレーターとは

🙋
既定値で σ_VM=173.2 MPa、σ_TR=200 MPa って、結構違いますね。何でトレスカの方が大きいんですか?
🎓
いい着眼点。トレスカは「最大せん断応力」だけ見るシンプルな理論で、3 主応力の差の最大値(200−0=200)をそのまま相当応力にする。ミーゼスは偏差応力テンソルの第 2 不変量 J2 ベースで、3 つの差を二乗平均的に合算するから、滑らかに小さくなる。同じ応力状態に対して、常に σ_TR ≥ σ_VM が成り立つ。今回は (200, 100, 0) で、ミーゼスは (100²+100²+200²)/2=30000 の平方根で 173.2、トレスカは max(100, 200, 100)=200。差は約 15.5%、これが両者の最大差で、純せん断状態(σ1=−σ3, σ2=0)で出るんだ。
🙋
じゃあトレスカの方が安全係数(SF=1.25)も小さいから、保守的ってことですか?
🎓
そうだ。SF = σy / σ_eq で定義されるから、σ_eq が大きいトレスカの方が SF は小さい(より早く降伏判定)。実務でいうと、ASME 圧力容器規格 Section VIII Div.1 はトレスカを採用していて「安全側に評価」するスタンス。一方、Abaqus や ANSYS の標準塑性モデル(J2 流則)はミーゼスで、計算の連続性(楕円は微分可能、六角形は頂点で微分不能)と実験データとの一致が決め手。延性金属の降伏実験は実はミーゼスの楕円にビタッと乗ることが多い。Lode、Taylor、Quinney らの古典実験で確立された事実だね。
🙋
σ1 をスイープするボタンを押すと、黄色いマーカーが楕円や六角形を出入りしてました。あれが弾性→塑性の遷移ですか?
🎓
その通り。図中の青楕円(Mises)と赤六角形(Tresca)の内側が弾性域、外側が塑性域。マーカーが緑なら両基準で安全、橙ならミーゼスでは塑性・トレスカでは弾性(要注意)、赤なら両基準で塑性。例えば σ1=400 MPa(σ2=100, σ3=0, σy=250 のまま)にすると σ_VM=√(0.5·[300²+100²+400²])=360.6 MPa、σ_TR=400 で両基準とも降伏。CAE で塑性解析を回す前に、こういう「主応力空間で位置を確認する」のは凄く大事。線形弾性解析の結果の応力テンソルから主応力を出して、降伏面に対する位置を見れば「ここから先は塑性解析が必要」と判断できる。
🙋
σ3 のスライダーを動かすと、楕円と六角形は変わらないのに相当応力だけ変化しました。なんでですか?
🎓
鋭い観察だ。降伏面の図は σ3=0 を仮定した「主応力 2 次元断面」を描いている(教科書でよく見る図)。実際の降伏面は (σ1, σ2, σ3) の 3 次元空間にあって、ミーゼスは円柱(軸 σ1=σ2=σ3 の静水圧軸)、トレスカは正六角柱になる。σ3 を変えるとマーカーの位置は紙面外に動くから 2D 図では表現しきれないけど、相当応力の値は正しく更新される。本ツールでは数値(σ_VM、σ_TR、SF)で 3 次元情報を読み取れるから、図と数値を併せて使ってほしい。CAE のポスト処理でも、Mises 等値面(コンター図)は 3D 応力場を 2D に圧縮した「相当応力分布」なんだ。

物理モデルと主要な数式

降伏条件(yield criterion)は、多軸応力状態にある材料がいつ塑性変形を開始するかを判定する基準です。フォン・ミーゼス(Richard von Mises, 1913)とアンリ・トレスカ(Henri Tresca, 1864)は、それぞれ異なる物理的根拠から降伏条件を提案しました。

$$\sigma_{VM} = \sqrt{\tfrac{1}{2}\left[(\sigma_1-\sigma_2)^2 + (\sigma_2-\sigma_3)^2 + (\sigma_3-\sigma_1)^2\right]}$$

ミーゼス相当応力は、偏差応力テンソル $s_{ij} = \sigma_{ij} - \tfrac{1}{3}\sigma_{kk}\delta_{ij}$ の第 2 不変量 $J_2 = \tfrac{1}{2}s_{ij}s_{ij}$ を用いて $\sigma_{VM} = \sqrt{3 J_2}$ とも書けます。物理的には「単位体積あたりの形状歪エネルギー(distortion energy)」を基準としており、静水圧成分(体積変化)を除いた純粋なせん断成分のみを評価します。

$$\sigma_{TR} = \max(|\sigma_1-\sigma_2|,\;|\sigma_2-\sigma_3|,\;|\sigma_3-\sigma_1|)$$

トレスカ相当応力は、3 つの主応力対から得られる最大せん断応力 $\tau_{\max} = (\sigma_{\max} - \sigma_{\min})/2$ の 2 倍に等しく、降伏条件は $\tau_{\max} = \sigma_y / 2$ と等価です。物理的根拠は「結晶滑り面でのせん断応力が臨界値を超えると塑性流動が起こる」というシンプルな描像です。

主応力空間における降伏面の幾何形状は、ミーゼスが軸 $\sigma_1=\sigma_2=\sigma_3$(静水圧軸)を中心とする無限長の円柱、トレスカが同じ軸を持つ正六角柱です。π 平面(静水圧軸に垂直な平面)への射影では、ミーゼスが半径 $\sqrt{2/3}\,\sigma_y$ の円、トレスカが内接する正六角形となり、その比は最大 $2/\sqrt{3} \approx 1.155$ です。

実世界での応用

商用 CAE ソフトの標準塑性モデル:Abaqus、ANSYS、LS-DYNA、Marc、COMSOL などの汎用 CAE は、延性金属の塑性解析にミーゼス降伏条件を標準採用しています。理由は (1) 微分可能で数値計算が安定、(2) 実験データ(Lode, Taylor, Quinney, 1931)とよく一致、(3) 流則(associated flow rule)がシンプル、の 3 点。鉄鋼、アルミ、銅、ニッケル合金などの単純な等方降伏なら、ミーゼス + 等方硬化(バイリニア or 多直線)で十分な精度が得られます。

圧力容器・配管設計(ASME):米国機械学会(ASME)の Boiler and Pressure Vessel Code Section VIII Division 1 では、伝統的にトレスカ降伏条件(最大せん断応力理論)を採用しており、安全側評価で容器の許容応力を決定します。Division 2 ではミーゼスベースの「線形化応力」も併用可能で、より精緻な設計が可能。日本の JIS 圧力容器規格も両者を併用しています。手計算による設計では、トレスカの方が単純(max 関数のみ)で扱いやすい点もメリットです。

金属成形シミュレーション:プレス成形、深絞り、鍛造、転造のような大塑性変形解析では、ミーゼス降伏 + 異方性硬化(Hill, Barlat 等の異方性降伏関数)が主流。鋼板の圧延方向と幅方向で降伏応力が異なるため、純粋なミーゼス(等方)では精度が出ず、Hill 1948 や Barlat YLD2000 などの拡張降伏関数が使われます。本ツールのミーゼス・トレスカは「等方材料の最も基本的な 2 つの降伏条件」を理解する出発点として位置付けられます。

地盤・コンクリートの非関連流則:金属とは異なり、地盤やコンクリートは静水圧依存性が強く、ミーゼス・トレスカでは表現できません。Drucker-Prager、Mohr-Coulomb、Cap モデルといった「圧力依存型降伏条件」が必要です。土木 CAE では Mohr-Coulomb が標準で、トレスカは「内部摩擦角 φ=0 の特殊ケース」として位置付けられます。

よくある誤解と注意点

最も多い誤解は、「ミーゼスとトレスカはほぼ同じ値だから、どちらでも構わない」というものです。確かに単軸引張・圧縮では両者が一致しますが、純せん断状態(σ1=−σ3, σ2=0)では σ_TR / σ_VM = 2/√3 ≈ 1.155 と最大 15.5% の差が出ます。圧力容器の設計や、せん断が支配的な構造では、この差が「安全率の差」として効いてくるため、規格に従って正しく選ぶ必要があります。

次に、「相当応力で降伏判定すれば塑性解析の代わりになる」という思い込みです。線形弾性解析の結果から計算したミーゼス相当応力を σy と比較するだけでは、塑性域の応力再分配・残留応力・累積塑性歪などは評価できません。降伏判定で「降伏した」と分かったら、必ず材料非線形解析(弾塑性解析)に切り替えて、増分理論で応力経路を追跡する必要があります。

最後に、「トレスカは古い理論で実用価値がない」というものです。手計算や安全側評価では今も現役で、特に圧力容器規格、原子力プラント設計、安全係数の保守的見積もりでは標準的に使われます。逆にミーゼスは「平均的に正しい」が、せん断卓越の局所領域では危険側に評価する場合もあるため、両者を併記して比較することが望ましい設計姿勢です。

よくある質問

フォン・ミーゼス(von Mises)降伏条件は、偏差応力テンソルの第 2 不変量 J2 を基準とする降伏判定で、相当応力 σ_VM = √(0.5[(σ1−σ2)² + (σ2−σ3)² + (σ3−σ1)²]) が降伏応力 σy に達したとき塑性変形が開始すると考えます。延性金属(鋼、アルミ、銅)の実験データとよく一致するため、CAE の塑性解析で最も標準的に使われます。本ツールの既定値 σ1=200, σ2=100, σ3=0, σy=250 MPa では σ_VM=173.2 MPa、SF_VM=1.44 となります。
トレスカ(Tresca)降伏条件は最大せん断応力理論で、相当応力 σ_TR = max(|σ1−σ2|, |σ2−σ3|, |σ3−σ1|) が降伏応力 σy に達したとき降伏します。主応力平面では正六角形の降伏面となり、ミーゼスの楕円に内接します。同じ応力状態に対し常に σ_TR ≥ σ_VM となるため、トレスカの方が安全側(保守的)の評価です。本ツールの既定値では σ_TR=200 MPa、SF_TR=1.25 で、ミーゼスより小さい安全係数となります。
安全係数 SF = σy / σ_eq は、現在の応力状態をあと何倍まで増加させても降伏しないかを表します。SF > 1 で安全(弾性域)、SF = 1 で降伏開始、SF < 1 で既に塑性域に入っています。設計基準では一般に SF ≥ 1.5(静的荷重)〜 3.0(疲労・衝撃荷重)が要求されます。本ツールでは Mises と Tresca の両方の SF を表示し、トレスカの方が常に小さい(保守的)ことを確認できます。
現代の CAE(Abaqus、ANSYS、LS-DYNA)では延性金属に対してミーゼスが標準で、計算の連続性(楕円は微分可能)と実験一致のバランスで採用されています。一方、伝統的な機械設計の手計算や圧力容器の設計規格(ASME Section VIII Div.1)では、安全側評価の観点からトレスカが採用される場合が多いです。本ツールで主応力をスイープすると、両者の差が最大で約 15.5%(純せん断状態 σ1=−σ3, σ2=0)になることが視覚的に分かります。