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高周波・RF

PCBビアのインダクタンス シミュレーター

プリント基板で層と層をつなぐ「ビア」は、高速信号にとって無視できない寄生インダクタンスを持ちます。ビア長さ・直径・信号周波数・並列ビア数を変えると、寄生インダクタンスと誘導リアクタンスがリアルタイムで分かり、シグナルインテグリティを損なわないビア設計を探せます。

パラメータ設定
ビア長さ h(基板厚)
mm
ビアが貫通する基板の厚さ。1.6mmが標準的なFR-4基板
ビア直径 d
mm
ドリル穴の直径。一般的なスルーホールビアは0.2〜0.4mm
信号周波数 f
GHz
評価する信号の周波数。デジタル信号では立上りの実効周波数
並列ビア数 n
同じ電流経路に並べるビアの本数。ビアスティッチングの効果を見る
計算結果
ビアインダクタンス L (nH)
誘導リアクタンス X_L (Ω)
n並列時のL (nH)
n並列時のリアクタンス (Ω)
アスペクト比 h/d
リアクタンス低減率 (%)
ビアの断面図 — 電流伝搬アニメーション

2層の銅配線をつなぐビアバレルを電流が垂直に流れます。ビア長さ h と直径 d を表示し、並列ビア数が2本以上のときは複数のバレルを並べて描きます。

誘導リアクタンス vs 信号周波数 f
ビアインダクタンス vs アスペクト比 h/d
理論・主要公式

$$L\approx\frac{\mu_0 h}{2\pi}\left[\ln\frac{4h}{d}+1\right],\qquad X_L=2\pi f L$$

バレル型ビア1本の寄生インダクタンス L と誘導リアクタンス X_L。h:ビア長さ、d:ビア直径、f:周波数。係数 μ0/2π は約 0.2 nH/mm に相当する。

$$L_n=\frac{L}{n},\qquad X_n=\frac{X_L}{n}$$

同じ経路に n 本のビアを並列にすると、合成インダクタンスと誘導リアクタンスは 1/n に下がる。ビアのインダクタンスは概ね 1GHz を超えると無視できないシグナルインテグリティ上の課題になる。

PCBビアのインダクタンスとは

🙋
「ビア」って、プリント基板の層と層をつなぐ小さな穴ですよね?ただの穴に、なんでインダクタンスなんてあるんですか?
🎓
いい質問だね。ビアはドリルで開けた穴の内壁に銅めっきをした、細い銅の円筒なんだ。電流が流れる導体である以上、その周りには必ず磁界ができる。そして「電流が変化すると磁界も変化して逆起電力を生む」――これがインダクタンスの正体だよ。だからどんなに短いビアでも、電流の通り道である限り必ず寄生インダクタンスを持つ。1.6mmのよくあるビアで、だいたい1nH前後だね。
🙋
1nHって、すごく小さい値に見えます。それでも問題になるんですか?
🎓
そこがポイントなんだ。インダクタンスそのものは小さくても、効いてくるのは「誘導リアクタンス X_L = 2πfL」のほう。これは周波数 f に正比例する。1nHのビアでも、100MHzならリアクタンスは0.6Ωでほぼ無視できる。ところが5GHzでは約31Ω、20GHzでは120Ωを超える。50Ωの伝送線路にいきなり数十Ωの直列インピーダンスが割り込むんだから、これは無視できない。左の周波数スライダーを上げて、下のグラフのカーブを見てみて。
🙋
なるほど、高速な信号ほど効くんですね。その直列のリアクタンスがあると、具体的に何が起きるんですか?
🎓
一番の問題は「インピーダンス不連続」だよ。きれいに50Ωで設計した配線の途中に、ビアのところだけ局所的にインピーダンスが跳ね上がるポイントができる。信号はそこで一部が反射して戻ってしまい、波形がなまったり、リンギング(振動)が出たり、挿入損失が増えたりする。高速デジタルなら目(アイパターン)が閉じてビットエラーにつながるし、RFならリターンロスが悪化する。ビアは「小さな穴」じゃなく「小さなインダクタ」だと思ったほうがいい。
🙋
じゃあ、そのビアのインダクタンスを減らすにはどうすればいいんですか?
🎓
手は3つある。まず「短くする」。式 L ≈ 0.2·h·(ln(4h/d)+1) を見ると、L は長さ h にほぼ比例するから、薄い基板を使ったりブラインドビア・バックドリルで不要な部分を削ったりすると効く。次に「太くする」。ただし d は対数の中にしか入っていないから効きは弱い。そして一番実戦的なのが「並列化」。n本のビアを並べると合成インダクタンスは L/n に下がる。電源・グラウンドのビアスティッチングや、信号の隣にリターン用ビアを置くのは、まさにこの原理なんだ。左の並列ビア数を増やして、低減率を見てみて。
🙋
並列にすればするほど効くなら、ビアをいくらでも増やせばいいんですか?
🎓
理屈の上では L/n だけど、現実はそう単純じゃない。近くに並べたビアどうしは磁界を共有して「相互インダクタンス」を持つから、4本並べても理想の1/4まではなかなか下がらない。だから効果を出したいビアは互いに少し離して配置する。それに、ビアを増やせば基板上の場所を食うし、信号層を分断してしまうこともある。実務では「2〜4本で十分な低減を狙い、配置で相互結合を抑える」くらいが現実的なバランスだよ。

よくある質問

1本のバレル(円筒)型ビアの寄生インダクタンスは、近似式 L ≈ 0.2·h·(ln(4h/d)+1) [nH] で求めます。h はビア長さ(基板厚さ)、d はビア直径で、どちらも mm 単位、ln は自然対数です。係数 0.2 nH/mm は μ0/2π に由来します。例えば h=1.6mm・d=0.3mm なら L≈1.30 nH。インダクタンスは長さ h にほぼ比例し、直径 d には対数的にしか効かないため、ビアを短くするのが最も効きます。
誘導リアクタンスは X_L = 2πfL で、周波数 f に正比例して増えます。L が一定でも、f が10倍になればリアクタンスも10倍です。例えば L=1.3nH のビアは 100MHz では約0.8Ω とほぼ無視できますが、5GHz では約41Ω、20GHz では約160Ω にもなります。直列に挿入されたこのリアクタンスが伝送線路のインピーダンスに不連続を作り、反射・挿入損失・タイミングずれを引き起こすため、高速・高周波ほどビアのインダクタンスが効いてきます。
同じ電流経路に n 本のビアを並列に配置すると、合成インダクタンスは単純には L/n に下がり、誘導リアクタンスも 1/n になります。例えば 2本並列で50%、4本並列で75%のリアクタンス低減です。電源・グラウンドの接続や信号リターン経路では、複数ビアを並べる「ビアスティッチング」や「ビアアレイ」が定番の手法です。ただし実際にはビア間の相互インダクタンスで効果はやや目減りするため、ビアを十分に離して配置することが重要です。
アスペクト比はビア長さ h をビア直径 d で割った値(h/d)で、ビアの細長さを表します。電気的にはアスペクト比が大きい(細長い)ほどインダクタンスが大きくなります。一方で製造面では、めっき液がビア内部まで均一に回らなくなるため、一般にアスペクト比は8〜10程度が量産の上限の目安です。電気性能と製造性の両面から、ビアは「太く短く」が望ましく、本ツールでアスペクト比とインダクタンスの関係を確認できます。

実世界での応用

高速デジタル基板の層間配線:DDR メモリ、PCI Express、SerDes など、数 Gbps を超える高速信号は層をまたぐたびにビアを通ります。ビアの寄生インダクタンスは局所的なインピーダンス上昇を生み、アイパターンを閉じさせます。設計では信号ビアのすぐ隣にリターン電流用のグラウンドビアを置き、ループインダクタンスを下げることが定石です。本ツールでビア単体のインダクタンスを把握しておくと、どの周波数から対策が必要かの当たりがつきます。

電源分配ネットワーク(PDN):ICへ電源を供給する経路では、ビアのインダクタンスがデカップリングコンデンサの効果を打ち消す大敵です。コンデンサの実効インダクタンスには、本体の ESL だけでなく、パッドからプレーンへ落ちるビアのインダクタンスが直列に加わります。これを下げるため、1個のコンデンサに複数のビアを割り当てる、ビアをパッド直下に配置する(via-in-pad)といった手法が使われます。

RF・マイクロ波回路のグラウンド接続:マイクロストリップ回路でトランジスタのソースやスタブを基板裏のグラウンドへ落とすとき、ビアのインダクタンスが直列に入ると整合がずれ、利得や安定性に影響します。GHz帯のアンプ設計では、グラウンドビアを複数本まとめて打つ、ビア位置を最適化する、といった対策が性能を左右します。本ツールの並列ビアによる低減率がそのまま設計指針になります。

EMI・ノイズ対策のビアスティッチング:基板の端や信号層の境界に多数のビアを等間隔に並べる「ビアフェンス/スティッチング」は、グラウンドプレーン間を低インピーダンスで結び、不要放射や層間のノイズ結合を抑えます。1本あたりのインダクタンスと本数から全体の合成インダクタンスを見積もれば、必要なビア間隔(一般に最高周波数の波長の1/10〜1/20以下)の妥当性を確認できます。

よくある誤解と注意点

まず大きな誤解が、「ビアは単なる接続点で、電気的には透明だ」という思い込みです。低速回路ではビアを点として扱って差し支えありませんが、立上り時間が短い(=実効周波数が高い)信号にとって、ビアは明確な直列インダクタ+寄生容量の集中定数素子です。本ツールはバレルの直列インダクタンスを扱いますが、実際のビアにはパッドやアンチパッドが作る寄生容量も同居し、両者が小さなLCネットワークを形成します。GHz帯の精密設計では、近似式だけでなく3D電磁界シミュレータ(FEM/FDTD)でSパラメータを求めるのが基本です。

次に、「インダクタンスの式の係数や対数項を絶対値だと信じ込む」こと。本ツールの L ≈ 0.2·h·(ln(4h/d)+1) は、孤立した円筒導体に対する代表的な近似式の一つで、文献によって係数や項の形が少しずつ異なります。実際のビアのインダクタンスは、リターン電流がどこを流れるか(隣接グラウンドビアの位置)に強く依存する「ループインダクタンス」であり、孤立ビアの自己インダクタンスとは値が変わります。本ツールの数値は桁感と傾向をつかむための目安と捉え、最終設計はシミュレーションで詰めてください。

最後に、「並列ビアを増やせば必ず L/n まで下がる」という誤解です。理想的には n 本で 1/n ですが、近接したビアどうしは磁束を共有し、正の相互インダクタンスを持ちます。このため4本並べても実効的な低減は理想の1/4には届かず、3割程度目減りすることも珍しくありません。効果を最大化するには、ビアどうしを可能な範囲で離す、リターン電流のループ面積そのものを小さくする、という発想が重要です。「本数を増やす」より「ループを小さくする」が高周波設計の本質だと意識してください。

使い方ガイド

  1. ビア長さ(h)を0.5~3.0mm範囲で設定します。基板厚さに対応させ、例えば1.6mm厚PCBなら1.5mmを入力してください
  2. ビア直径(d)を0.2~0.8mm範囲で選択します。一般的な高速信号層では0.3~0.4mmが標準です
  3. 動作周波数(f)をGHz単位で入力します。DDR5メモリなら3~5GHz、高速デジタル信号なら5~10GHzを想定してください
  4. 並列ビア本数(n)を1~16本の範囲で設定し、複数ビアスタックの合成インダクタンスを計算します
  5. シミュレート実行後、ビアインダクタンスL(nH)と周波数依存リアクタンスX_L(Ω)を確認してください

具体的な計算例

厚さ1.6mm PCB、ビア直径0.3mm、長さ1.5mm、周波数5GHzの場合:単一ビアインダクタンスはL≒0.68nH、誘導リアクタンスX_L≒21.4Ωとなります。アスペクト比h/d=5.0です。同一パッドへ4本並列ビアを配置すると合成L≒0.17nH、リアクタンス≒5.35Ωに低減され、リアクタンス低減率は約75%です。これにより信号品質が向上し、リターンパスのインピーダンス制御が改善されます

実務での注意点