材料データの検証と不確かさ

カテゴリ: V&V・ベストプラクティス | 2026-10-01 改稿
CAE visualization for material data validation theory - technical simulation diagram
材料データの検証と不確かさ

理論:合わせた試験と予測したい変形

概要

🙋

材料定数は試験データに曲線を合わせて決めていますが、それで十分ではないんですか?

🎓

合わせた試験と同じ変形なら十分なこともある。問題は、部品の中で起きる変形が試験と違う場合だ。ゴムのような材料では、引っ張る、押しつぶす、ずらす、面内に二方向へ伸ばす、で応答が違い、材料モデルの定数の組み合わせによっては、ある変形には合うのに別の変形では大きく外れる。曲線がきれいに合っていると安心してしまうが、それは合わせに使ったデータを再現しているだけで、予測できることの証明にはならない。だから、合わせに使わなかった試験で予測を確かめる。これが材料データの検証だ。

基準とする材料(トレロアのゴム、オグデン3項式)

$$ P_{uni} = \sum_{p=1}^{3}\mu_p\left(\lambda^{\alpha_p - 1} - \lambda^{-\alpha_p/2 - 1}\right),\qquad P_{biax} = \sum_{p=1}^{3}\mu_p\left(\lambda^{\alpha_p - 1} - \lambda^{-2\alpha_p - 1}\right) $$

P は公称応力、λ は伸び。定数は μ = 0.618、0.00118、−0.00981 MPa、α = 1.3、5.0、−2.0(オグデン、1972年)。初期のせん断弾性率は0.414 MPa。この式で作った値を「試験データ」とみなした。

ムーニー・リブリンモデル

$$ P_{uni} = 2\left(\lambda - \lambda^{-2}\right)\left(C_{10} + \frac{C_{01}}{\lambda}\right),\qquad P_{biax} = 2\left(\lambda - \lambda^{-5}\right)\left(C_{10} + C_{01}\lambda^2\right) $$

C01 = 0 とすればネオ・フック モデルになる。単軸は伸び1.05〜3.0、等二軸は1.05〜2.5の範囲で最小二乗法により合わせた。

Coffee Break よもやま話

トレロアのデータ

1944年、トレロアは加硫天然ゴムについて、単軸引張、等二軸引張、純せん断の3種類の試験を行い、大きな伸びまでの応力を測った。このデータは、異なる変形モードを同じ材料で測った代表例として、今も新しい超弾性モデルの性能を比べる基準に使われている。1972年にオグデンが提案したモデルは、3つの変形モードを一組の定数でよく表せることを、このデータで示した。

計算例

例:合わせ方による予測の違い

モデルと合わせ方C10 (MPa)C01 (MPa)単軸の最大誤差等二軸の最大誤差等二軸 λ=2.0 の応力
ネオ・フック(単軸のみ)0.160022.2%26.6%0.629 MPa
ムーニー・リブリン(単軸のみ)0.1120.1126.6%309.5%2.209 MPa
ムーニー・リブリン(単軸+等二軸)0.1600.00917.9%20.1%0.774 MPa

基準の等二軸の応力は λ = 2.0 で0.806 MPa。単軸 λ = 3.0 では、単軸だけで合わせたムーニー・リブリンが0.863 MPaと基準にぴたりと一致している。

🙋

単軸では一番よく合っているムーニー・リブリンが、二軸では一番外れるんですね。

🎓

2つの定数 C10 と C01 は、単軸では似た形で効くので、単軸のデータだけでは両者の配分がほとんど決まらない。最小二乗法は単軸の曲線に一番よく合う配分を選ぶが、それが C01 を大きくする方向だった。等二軸では C01 に λ² がかかって効き方が大きく変わるので、C01 が大きすぎると応力を何倍にも見積もってしまう。単軸に6.6%で合っていても、二軸では2.7倍も外れたのはこのためだ。二軸のデータを一緒に使うと C01 は小さく抑えられ、両方の誤差が2割程度になる。ゴムのシール、タイヤ、膜の膨らみのように二軸の変形が多い部品で、単軸のデータだけで決めた定数を使うのは危ない。

材料データを検証する手順

  1. 部品の解析結果から、主な変形モード、ひずみ・温度・ひずみ速度の範囲を確かめる。
  2. その範囲を覆う試験(単軸・二軸・せん断・体積)をそろえる。
  3. 複数の試験を同時に合わせ、定数が物理的に妥当か(安定性など)を確認する。
  4. 合わせに使わなかった試験や部品試験で予測を確かめる。
  5. 試験のばらつきから材料定数の不確かさを見積もり、結果への影響を評価する。
Coffee Break よもやま話

「シールの面圧が足りなかった」

あるゴムのOリングで、解析では十分な接触面圧が出ていたのに、試作品で漏れが起きた。材料定数は材料メーカーの単軸引張データだけで合わせたものだった。圧縮されたOリングの断面では、表面近くが二軸に近い変形をしている。二軸と平面ひずみの試験を追加して合わせ直すと、接触面圧は約3割低く出て、漏れが説明できた。つぶし代を増やす設計に変えて解決した。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
単軸データだけで合わせる別の変形で大きく外れる複数モードで合わせる
曲線の一致で検証済みとする予測力が不明未使用の試験で確認
試験範囲の外で使う外挿で不安定化範囲を確認
温度・速度依存を無視条件が変わると外れる条件ごとの試験
ばらつきを考えない余裕を過信不確かさを評価
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