マルチフィジックスの不確かさ定量化

カテゴリ: 連成解析 | 2026-09-30 改稿
CAE visualization for uncertainty multiphysics theory - technical simulation diagram
マルチフィジックスの不確かさ定量化

考え方:入力のばらつきが結果に伝わる

概要

🙋

連成解析の結果が1つの数字で出てきますが、材料の値や熱伝達係数にはかなり幅がありますよね。結果はどのくらい信用できるんでしょう?

🎓

それを数字で答えるのが不確かさ定量化だよ。入力をそれぞれの幅の中でばらつかせて、結果がどれくらいばらつくかを求める。連成解析で特に大事なのは、物理どうしの影響し合いが、ばらつきを増幅することがある点だ。たとえば電流で温まる電線は、温度が上がると抵抗が増えてさらに発熱する。熱伝達係数が少し低いだけで、温度が大きく上がってしまう。単独の解析の感覚で『入力が±15%なら結果も±15%くらい』と考えると外れるんだ。

主な方法

$$ \sigma_Y^2 \approx \sum_i \left(\frac{\partial Y}{\partial X_i}\right)^2 \sigma_{X_i}^2 $$
$$ \hat{\mu}_Y = \frac{1}{N}\sum_{n=1}^{N} Y\big(\mathbf{X}^{(n)}\big), \qquad \text{standard error} \approx \frac{\sigma_Y}{\sqrt{N}} $$

1つ目は感度(偏微分)から標準偏差を見積もる線形化の方法で、計算は入力の数+1回で済むが、非線形が強いと誤る。2つ目はモンテカルロ法で、入力を $N$ 回ばらつかせて計算する。どんな非線形でも正しく扱えるが、平均の誤差は $1/\sqrt{N}$ でしか減らないので、多くの計算が必要になる。

例に使う連成問題

$$ T = T_a + \frac{I^2 \rho_{20}\,[1 + \alpha(T-20)]}{A\,h\,\pi d} $$

断面積1 mm²の裸の銅線に20 Aを流し、表面から熱伝達係数 $h$ で放熱する。抵抗の温度依存(係数 $\alpha$)で、温度と発熱が互いに影響し合う。詳しくは抵抗加熱の解析を参照。

Coffee Break よもやま話

原子爆弾の研究から生まれた計算法

モンテカルロ法は1940年代、米国ロスアラモスでの中性子の拡散の研究から生まれた。数学者ウラムが、ソリティア(一人遊びのトランプ)の成功確率を式で求めるより、何度も並べて数えるほうが早いと気づいたのがきっかけだと言われる。名前はカジノで有名なモナコの地区にちなんでフォン・ノイマンらが付けた。当時の計算機で数百回の試行が精一杯だったものが、今では1台のパソコンで数十万回を数秒で回せる。ただし連成解析1回に何時間もかかる場合は、今でも回数の制約が大きな問題になる。

計算例:銅線の温度のばらつき

入力のばらつき

入力平均標準偏差
熱伝達係数 h20 W/(m²·K)3(15%)
電流 I20 A0.2(1%)
抵抗率 ρ₂₀1.72×10⁻⁸ Ω·m1%
周囲温度 Ta25 ℃2 K

モンテカルロの結果(20万回)

モデル公称値平均5%値中央値95%値
連成なし(抵抗一定)123.9 ℃126.4 ℃103.7 ℃124.0 ℃156.9 ℃
連成あり184.9 ℃197.5 ℃138.6 ℃185.1 ℃291.9 ℃
🙋

連成させると、95%値が公称値より100 K以上高いんですね。

🎓

そう。連成なしでは95%値は公称値の33 K上だけど、連成すると107 K上になる。熱伝達係数が低い側に振れると、温度が上がって抵抗が増え、さらに発熱が増えるから、分布が高温側に長く伸びるんだ。平均も公称値より約13 K高くずれる。被覆の許容温度を150 ℃とすると、超える確率は連成なしで約9%、連成ありでは約87%になる。公称値1つで判断すると危ないのがよくわかるね。

どの入力が効いているか

公称点での感度から分散の内訳を求めると、熱伝達係数が97%、電流が2%、周囲温度が1%で、抵抗率はほぼ0%だった。ばらつきを減らしたいなら、材料の値を測り直すより、熱伝達係数(冷却条件)を実験で確かめるのが最も効く。ただし線形化した標準偏差は39 Kで、モンテカルロの分布の広がりを表しきれていない。内訳の目安には使えるが、確率の見積もりにはモンテカルロが必要だ。

実務での進め方

手順

  1. 入力ごとにばらつきの幅と分布の形を決める。データがなければ文献や経験から幅を置き、その根拠を記録する。
  2. 感度解析で効いている入力を絞り込む。多くの場合、数個の入力が大部分を占める。
  3. 絞った入力でモンテカルロを行う。1回が重い場合は、応答曲面や縮約モデルで代用する。
  4. 平均や標準偏差だけでなく、許容値を超える確率や上側の分位値で判断する。
Coffee Break よもやま話

「標準偏差で安全率を決めたら足りなかった」

公称値に標準偏差の2倍を足して安全側の値とする、という決め方はよく使われる。分布が左右対称の正規分布に近いならそれでよいが、連成で正のフィードバックがあると、分布は高温側に長く伸びる。例の銅線では、線形化した標準偏差39 Kの2倍を公称値185 ℃に足すと約264 ℃だが、モンテカルロの95%値は292 ℃、99%値は397 ℃だった。平均と標準偏差だけでは裾の広がりがわからない。判断に使う分位値そのものを求めるのが確実だ。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
公称値1つで判断超過の確率を見落とす分布を求める
線形化だけで済ませる裾の広がりを過小評価モンテカルロで確認
すべての入力をばらつかせる計算回数が膨大感度で絞り込む
連成を切って不確かさを評価ばらつきを過小評価連成したモデルで評価
入力の幅の根拠を残さない結果の妥当性を説明できない出典と仮定を記録
🙋

モンテカルロや不確かさの伝播を自分でも試したいです。

🎓

モンテカルロ統計でモンテカルロ、不確かさの伝播で線形の伝播を試せるよ。実験との比較での使い方はASME V&V 20、連成の強さの判断は強連成と弱連成、計算を軽くする方法は縮約モデルの記事にある。

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