ASME V&V 20: CFDの検証・妥当性確認
考え方:差を不確かさと比べる
概要
CFDの結果が実験より5%高く出ました。上司には「モデルが悪いのか、実験がばらついているのか、はっきりさせて」と言われています。
それに答えるための手順を決めたのがASME V&V 20だよ。解析値と実験値の差には、モデルそのものの誤差のほかに、格子が有限なことによる数値誤差、入力条件のあいまいさ、実験の測定誤差が全部混ざっている。モデル以外の3つがどれくらいの大きさになり得るかを見積もって合成し、差がそれより十分大きいときだけ『モデルに誤差がある』と言える。差の大きさだけで判断しないのが要点だね。
比較誤差の分解
$S$ は解析値、$D$ は実験値、$E$ は比較誤差。右辺はモデル誤差 $\delta_{model}$、数値誤差 $\delta_{num}$、入力による誤差 $\delta_{input}$、実験誤差 $\delta_D$ の和になる。知りたいのは $\delta_{model}$ だが、ほかの3つは正確な値がわからないので、不確かさ(ばらつきの大きさ)として扱う。
妥当性確認不確かさ
3つの不確かさを2乗和の平方根で合成したのが $u_{val}$。モデル誤差は $E$ を中心に $\pm k\,u_{val}$ の範囲にあると見積もる($k$ は包含係数で、よく2が使われる)。この範囲が0を含むなら、モデル誤差は不確かさに埋もれて区別できない。
「検証」と「妥当性確認」を分けた理由
CFDが設計に使われ始めた1980〜90年代、「計算が合っている」という言葉が2つの意味で使われて混乱していた。式を正しく解けているか(検証)と、正しい式を解いているか(妥当性確認)だ。前者は数学の問題で、格子を細かくすれば確かめられる。後者は物理の問題で、実験と比べるしかない。学会誌が格子の収束を示さない論文を受け付けない方針を打ち出したのもこの頃で、その流れが2009年のV&V 20にまとまった。
計算例:加熱管のヌッセルト数
手順1:数値の不確かさ(3つの格子)
以下は手順を示すための仮想の例。格子幅を半分ずつにした3つの格子(比 $r = 2$)で、ヌッセルト数が細かい順に101.2、102.0、104.8になったとする。見かけの収束次数は $p = 1.81$、細かい格子のGCIは0.40%(0.40)になる。ここではGCIを約95%の範囲とみなし、2で割った0.20を $u_{num}$ とした。
手順2:入力の不確かさ
ヌッセルト数はおよそレイノルズ数の0.8乗、プラントル数の0.4乗に比例するので、感度係数は0.8と0.4。レイノルズ数(流量)の不確かさ1.5%、プラントル数(物性)の不確かさ2%から、それぞれ1.21と0.81、合成して $u_{input} = 1.46$。
手順3:比較と判定
実験値 $D = 96.0$、解析値 $S = 101.2$ で $E = 5.2$(実験値の5.4%)。実験の不確かさが3%と1%の2通りで比べた。
| 実験の不確かさ | u_D | u_val | E / u_val | モデル誤差の範囲(k=2) | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|
| 3 % | 2.88 | 3.23 | 1.61 | −1.3 〜 11.7 | 区別できない |
| 1 % | 0.96 | 1.76 | 2.96 | 1.7 〜 8.7 | モデル誤差あり |
同じ5.4%の差なのに、実験の精度しだいで結論が逆になるんですね。
そう。実験の不確かさが3%のときは、分散の79%が実験から来ていて、数値誤差は1%未満。格子をいくら細かくしても判定は変わらない。1%まで下げると、今度は入力の不確かさが69%を占めて主役になる。どれが効いているかを内訳で見れば、次に何を改善すべきか——実験か、物性値か、格子か——がはっきりする。これがV&V 20の実務上いちばん役に立つところだよ。
実務での進め方
手順
- 比べる量を決める。壁面の熱流束や圧力損失など、実験で測れて設計に効く量を選ぶ。
- コードの検証(既知解での確認)を済ませてから、3つ以上の格子で数値の不確かさを求める。
- 入力パラメータごとに感度係数を求める。感度が大きく不確かさも大きいものを優先して詰める。
- 実験側から不確かさの見積もりをもらう。測定器の精度だけでなく、再現性のばらつきも含める。
- $E$ と $u_{val}$ を比べ、内訳を報告する。
注意点
- 格子が漸近域にあるか:見かけの収束次数が理論値から大きく外れる、差の符号が入れ替わるときは、GCIをそのまま信じない。
- 相関のある入力:物性どうしのように独立でない入力は、2乗和で単純に合成できない。
- 1点だけで判断しない:条件を変えた複数の点で比べ、モデル誤差の傾向を見る。
「合わせ込み」は妥当性確認ではない
乱流モデルの係数や壁の粗さを調整して、解析を実験にぴったり合わせる——現場でよく行われるが、V&V 20の立場ではそれは妥当性確認ではない。合わせた点では誤差がゼロに見えても、調整に使ったデータで確認したことにはならないからだ。調整に使った実験とは別の条件のデータで比べて、初めて予測の力がわかる。報告書では、どのデータを調整に使い、どのデータで確認したかを分けて書く。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 差の大きさだけで判断 | 誤ってモデルを変える | E と u_val を比べる |
| 格子1つで結論 | 数値誤差が不明 | 3つ以上の格子でGCI |
| 実験値を真値と扱う | u_D を無視して過小評価 | 実験の不確かさを入手 |
| 調整に使ったデータで確認 | 予測力を過大評価 | 別条件のデータで比較 |
| 内訳を報告しない | 次の改善点がわからない | 分散の割合を示す |
GCIや不確かさの合成を自分で試したいです。
リチャードソン外挿ツールとメッシュ収束ツールで収束次数とGCI、不確かさの伝播ツールで入力の不確かさの伝わり方を試せるよ。詳しくはRoacheのGCI、解の検証、妥当性確認の指標の記事、構造解析向けの規格はASME V&V 10にまとめてある。
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