電気分解シミュレーション

カテゴリ: 連成解析・電気化学 | 2026-10-01 改稿

理論:気泡が電解液の導電率を下げる

概要

🙋

電気分解のシミュレーションで、電極の反応以外に何を計算する必要がありますか?

🎓

気泡だ。水の電気分解では、陰極で水素、陽極で酸素が泡になって出てくる。泡は電気を通さないので、電極のまわりの電解液に泡が混じると、イオンが通れる断面が減って電圧の損失が増える。しかも泡は上へ上がるので、電極の下と上で泡の量が違い、電圧の損失も場所によって変わる。損失が大きい場所には電流が流れにくくなるので、電流は電極の下のほうに偏る。そうすると下で泡がさらに増える。つまり、電気化学の反応、電解液と泡の流れ、電流の分布が互いに影響し合う。これを連成させて解くのが電気分解のシミュレーションの中心になる。

気泡の割合と実効の導電率

$$ \varepsilon = \frac{j_g}{j_g + j_l + u_d},\qquad j_g(z) = \frac{i\,V_m\,z}{nF\,d},\qquad \kappa_{eff} = \kappa\,(1-\varepsilon)^{1.5} $$

j_g と j_l は気体と液体の見かけの流速、u_d は泡が液体より速く上がる速さ(0.20 m/s)、V_m は80℃・1気圧での気体のモル体積、n は気体1 molあたりの電子の数(水素2、酸素4)、d は電極と隔膜のすき間(3 mm)。κ は泡のない電解液の導電率(1.2 S/cm、例示)。

すき間の電圧の損失

$$ \Delta V_{gap}(z) = \frac{i\,d}{\kappa_{eff,c}(z)} + \frac{i\,d}{\kappa_{eff,a}(z)} $$
Coffee Break よもやま話

「電気分解」という言葉

電気分解で出る物質の量が電気量に比例することを示したのはファラデーで、1833〜1834年のことだ。このとき彼は、電極、陽極、陰極、電解質、イオンといった、いまも使う言葉を、学者のヒューエルと相談して決めた。電気分解(electrolysis)もそのひとつである。電気で物質を分けるという考えが、言葉とともに整理されたことで、その後の電気化学の工業が広がっていった。

計算例

例1:電極の高さと気泡・電圧の損失(0.3 A/cm²、高さ1 m)

下端からの高さ陰極側の泡陽極側の泡すき間の損失泡による増分
0 m0%0%0.150 V0
0.25 m11%6%0.172 V+0.022 V
0.5 m20%11%0.195 V+0.045 V
1.0 m34%20%0.244 V+0.094 V

高さ方向の平均では、すき間の損失は0.196 V(泡なしより0.046 V多い)。電圧1 Vは水素1 kgあたり26.6 kWhに当たるので、すき間全体で5.2 kWh/kg、そのうち泡による分が1.2 kWh/kgになる。ここでは電流を均一と仮定した。

例2:すき間ありとゼロギャップ

構造すき間の損失(平均)水素1 kgあたり
すき間3 mm・泡なし(仮想)0.150 V4.0 kWh
すき間3 mm・泡あり0.196 V5.2 kWh
ゼロギャップほぼ0(隔膜の抵抗は残る)ほぼ0
🙋

ゼロギャップにすれば泡の問題はなくなるんですか?

🎓

すき間の電解液の損失はなくなるが、泡の問題は場所を変えて残る。ゼロギャップでは、泡は穴のあいた電極を通り抜けて裏側に逃げるが、電極の表面や穴の中に泡が張り付くと、反応できる面積が減って電流が残りの部分に集中する。また裏側の流路にたまった泡が抜けにくいと、電解液が電極に届きにくくなる。そのため、電極の穴の大きさや形、裏側の流路の幅、電解液を流す速さで泡の抜け方が変わり、それを調べるのがシミュレーションの役目になる。さらに、電流密度を上げると泡の量も増えるので、電極の上部や出口付近で泡が多くなりすぎないかを確かめる。泡の割合が高いと、隔膜を通って水素と酸素が混じり合う量にも影響するので、安全の面からも気泡の分布を押さえておく必要がある。

モデリングの進め方

  1. 電解液の導電率を温度と濃度の関数で与える。
  2. 電極の反応を分極曲線で表し、電解液の中の電位を解く。
  3. 電流の分布から気体の発生量を求め、泡と液体の流れ(二相流)を解く。
  4. 泡の割合で導電率を更新し、電流の分布を解き直す。
  5. 発熱から温度を求め、導電率と反応に反映して収束させる。
Coffee Break よもやま話

「上半分だけ黒ずんだ電極」

あるアルカリ水電解の装置を分解すると、電極の上半分だけが変色し、触媒の層が薄くなっていた。気泡と電流を連成させて解析すると、上部では泡がたまって電解液が届きにくく、局所的に電圧が高くなる時間が長かった。電解液の循環を増やし、電極の裏側の流路を広げて泡が抜けやすくすると、上下の泡の差が小さくなり、その後の点検では変色が見られなくなった。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
泡を無視する電圧を過小評価泡の割合で導電率を下げる
泡と液体を同じ速さとする泡の割合を過大評価泡の上昇速度を入れる
電流を均一とする上部の劣化を見逃す電流の分布を解く
水素と酸素の泡を同量とする陰極側を過小評価体積は2対1
温度を一定にする導電率を誤る熱と連成
🙋

関連する内容も知りたいです。

関連シミュレーター

この分野のインタラクティブシミュレーターで理論を体感しよう

シミュレーター一覧

関連する分野

構造解析電磁界解析熱解析
この記事の評価
ご回答ありがとうございます!
参考に
なった
もっと
詳しく
誤りを
報告
参考になった
0
もっと詳しく
0
誤りを報告
0