変圧器ホットスポット解析
理論:油と巻線の2つの時定数
概要
夏の夕方に電力の需要が集中したとき、変圧器に定格以上の負荷をかけても大丈夫ですか?
時間と温度しだいで、許されることも多い。変圧器の寿命を決めるのは、巻線を包む絶縁紙の劣化で、その速さは巻線の最も熱い点(ホットスポット)の温度で決まる。負荷を上げると巻線の損失が電流の2乗で増え、温度が上がる。ただし変圧器は大量の油で冷やされていて、油が温まるには数時間かかる。巻線と油の温度差は数分で追いつくが、油の温度がゆっくりなので、短い過負荷なら最高点の温度はそれほど上がらない。逆に、過負荷が長く続けば定常の温度に近づき、絶縁紙が急速に劣化する。だから過負荷の判断は、定常の温度ではなく、時間を追った温度と、それによって使う寿命で行う。
最終的に向かう温度
K は負荷率、Δθ_or は定格での上部の油の温度上昇(52 K)、R は定格での負荷損と無負荷損の比(6)、H g_r は定格での巻線の最高点と油の温度差(26 K)、x = 0.8、y = 1.3。定常の値は変圧器のホットスポット(定常)と同じ設定。
時間変化と劣化の速さ
τ_o は油の時定数(180分)、τ_w は巻線の時定数(7分)、いずれも例示。V は98℃を基準とした絶縁紙の劣化の速さ(熱的に改良していない紙)。周囲温度は30℃。
8度で半分、6度で2倍
1930年、モンシンガーは変圧器の絶縁の寿命が、温度が約8℃上がるごとに半分になると報告した。化学反応の速さが温度で指数的に変わることを、絶縁紙の劣化に当てはめた経験則である。その後の研究で値は見直され、いまの国際規格では、熱的に改良していない紙について6 K上がるごとに劣化の速さが2倍になる関係が使われている。数度の違いが寿命を大きく変えるという考え方は、100年近く変わっていない。
計算例
例1:負荷率0.7から1.5へ、過負荷の長さ別(周囲30℃)
| 過負荷の長さ | 最高点の温度のピーク | 使った寿命(98℃換算、その後3時間を含む) |
|---|---|---|
| 30分 | 115.8℃ | 2.8時間 |
| 1時間 | 124.0℃ | 10.5時間 |
| 2時間 | 136.2℃ | 61.5時間 |
| 続けた場合(定常) | 167.2℃ | 140℃到達まで143分 |
負荷率0.7の定常では最高点は79.2℃、劣化の速さは0.114倍で、1日に約2.7時間分の寿命を使う。1時間の過負荷(10.5時間分)は普段の約4日分に当たる。
過負荷を30分から2時間に延ばすと、使う寿命が2.8時間から61.5時間へ20倍以上になるんですね。長さは4倍なのに。
劣化の速さが温度の指数関数だからだ。時間が延びるほど油が温まって最高点の温度が上がり、その温度で劣化が2倍、4倍と速まる。30分では最高115.8℃(劣化は基準の約8倍)だが、2時間では136.2℃(約80倍)に達する。だから過負荷の許容は「何時間まで」より「最高点が何度に達するか、そのとき寿命をどれだけ使うか」で決めるのが合理的だ。実際の運用では、天気予報の気温と負荷の予測から、翌日の最高点の温度を時間を追って計算し、使ってよい過負荷を決める。注意したいのは、ここでの最高点の温度は巻線の中の1点の推定値であり、巻線のどこが最も熱いかは油の流れ方で変わることだ。新しい設計や冷却方式の変更では、油の流れと巻線の発熱を連成させた詳しい解析や、光ファイバー温度計での実測で、最高点の位置と温度差を確かめる。
モデリングの進め方
- 温度上昇試験から、油の温度上昇と巻線の温度差の定格値を求める。
- 油と巻線の時定数を、試験の温度の時間変化から合わせる。
- 負荷と気温の時系列を入れて、最高点の温度を時間を追って解く。
- 劣化の速さを積分して、使った寿命を求める。
- 新しい設計では、油の流れと巻線の発熱を連成させて最高点の位置を確かめる。
「同じ負荷なのに夜に熱かった変圧器」
ある変電所で、光ファイバー温度計で巻線の最高点を測ると、昼と同じ負荷の夜のほうが温度が高いことがあった。調べると、夕方に負荷がピークを迎え、その後の数時間、油の温度が遅れて上がり続けていた。夜の負荷そのものは昼と同じでも、油がまだ冷めていなかったのだ。時間を追った計算を運用に取り入れ、夕方のピークの前に冷却ファンを早めに回す制御にすると、夜の最高点の温度が下がった。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 定常の式で過負荷を判断 | 短い過負荷を過度に制限 | 時間を追って解く |
| 油の時定数だけを使う | 負荷の急増時のピークを過小評価 | 巻線の時定数も入れる |
| 平均の温度で劣化を計算 | 寿命を過大評価 | 劣化の速さを積分 |
| 過負荷の後を計算しない | 遅れて来る熱を見逃す | その後数時間も含める |
| 気温を一定にする | 夏の最高点を誤る | 気温の時系列を使う |
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