変圧器ホットスポット解析

カテゴリ: 連成解析・電磁熱 | 2026-10-01 改稿

理論:油と巻線の2つの時定数

概要

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夏の夕方に電力の需要が集中したとき、変圧器に定格以上の負荷をかけても大丈夫ですか?

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時間と温度しだいで、許されることも多い。変圧器の寿命を決めるのは、巻線を包む絶縁紙の劣化で、その速さは巻線の最も熱い点(ホットスポット)の温度で決まる。負荷を上げると巻線の損失が電流の2乗で増え、温度が上がる。ただし変圧器は大量の油で冷やされていて、油が温まるには数時間かかる。巻線と油の温度差は数分で追いつくが、油の温度がゆっくりなので、短い過負荷なら最高点の温度はそれほど上がらない。逆に、過負荷が長く続けば定常の温度に近づき、絶縁紙が急速に劣化する。だから過負荷の判断は、定常の温度ではなく、時間を追った温度と、それによって使う寿命で行う。

最終的に向かう温度

$$ \Delta\theta_{o,\infty} = \Delta\theta_{or}\left[\frac{1+RK^2}{1+R}\right]^x,\qquad \Delta\theta_{h,\infty} = H g_r K^y $$

K は負荷率、Δθ_or は定格での上部の油の温度上昇(52 K)、R は定格での負荷損と無負荷損の比(6)、H g_r は定格での巻線の最高点と油の温度差(26 K)、x = 0.8、y = 1.3。定常の値は変圧器のホットスポット(定常)と同じ設定。

時間変化と劣化の速さ

$$ \tau_o\frac{d\Delta\theta_o}{dt} = \Delta\theta_{o,\infty} - \Delta\theta_o,\quad \tau_w\frac{d\Delta\theta_h}{dt} = \Delta\theta_{h,\infty} - \Delta\theta_h,\quad V = 2^{(\theta_h - 98)/6} $$

τ_o は油の時定数(180分)、τ_w は巻線の時定数(7分)、いずれも例示。V は98℃を基準とした絶縁紙の劣化の速さ(熱的に改良していない紙)。周囲温度は30℃。

Coffee Break よもやま話

8度で半分、6度で2倍

1930年、モンシンガーは変圧器の絶縁の寿命が、温度が約8℃上がるごとに半分になると報告した。化学反応の速さが温度で指数的に変わることを、絶縁紙の劣化に当てはめた経験則である。その後の研究で値は見直され、いまの国際規格では、熱的に改良していない紙について6 K上がるごとに劣化の速さが2倍になる関係が使われている。数度の違いが寿命を大きく変えるという考え方は、100年近く変わっていない。

計算例

例1:負荷率0.7から1.5へ、過負荷の長さ別(周囲30℃)

過負荷の長さ最高点の温度のピーク使った寿命(98℃換算、その後3時間を含む)
30分115.8℃2.8時間
1時間124.0℃10.5時間
2時間136.2℃61.5時間
続けた場合(定常)167.2℃140℃到達まで143分

負荷率0.7の定常では最高点は79.2℃、劣化の速さは0.114倍で、1日に約2.7時間分の寿命を使う。1時間の過負荷(10.5時間分)は普段の約4日分に当たる。

🙋

過負荷を30分から2時間に延ばすと、使う寿命が2.8時間から61.5時間へ20倍以上になるんですね。長さは4倍なのに。

🎓

劣化の速さが温度の指数関数だからだ。時間が延びるほど油が温まって最高点の温度が上がり、その温度で劣化が2倍、4倍と速まる。30分では最高115.8℃(劣化は基準の約8倍)だが、2時間では136.2℃(約80倍)に達する。だから過負荷の許容は「何時間まで」より「最高点が何度に達するか、そのとき寿命をどれだけ使うか」で決めるのが合理的だ。実際の運用では、天気予報の気温と負荷の予測から、翌日の最高点の温度を時間を追って計算し、使ってよい過負荷を決める。注意したいのは、ここでの最高点の温度は巻線の中の1点の推定値であり、巻線のどこが最も熱いかは油の流れ方で変わることだ。新しい設計や冷却方式の変更では、油の流れと巻線の発熱を連成させた詳しい解析や、光ファイバー温度計での実測で、最高点の位置と温度差を確かめる。

モデリングの進め方

  1. 温度上昇試験から、油の温度上昇と巻線の温度差の定格値を求める。
  2. 油と巻線の時定数を、試験の温度の時間変化から合わせる。
  3. 負荷と気温の時系列を入れて、最高点の温度を時間を追って解く。
  4. 劣化の速さを積分して、使った寿命を求める。
  5. 新しい設計では、油の流れと巻線の発熱を連成させて最高点の位置を確かめる。
Coffee Break よもやま話

「同じ負荷なのに夜に熱かった変圧器」

ある変電所で、光ファイバー温度計で巻線の最高点を測ると、昼と同じ負荷の夜のほうが温度が高いことがあった。調べると、夕方に負荷がピークを迎え、その後の数時間、油の温度が遅れて上がり続けていた。夜の負荷そのものは昼と同じでも、油がまだ冷めていなかったのだ。時間を追った計算を運用に取り入れ、夕方のピークの前に冷却ファンを早めに回す制御にすると、夜の最高点の温度が下がった。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
定常の式で過負荷を判断短い過負荷を過度に制限時間を追って解く
油の時定数だけを使う負荷の急増時のピークを過小評価巻線の時定数も入れる
平均の温度で劣化を計算寿命を過大評価劣化の速さを積分
過負荷の後を計算しない遅れて来る熱を見逃すその後数時間も含める
気温を一定にする夏の最高点を誤る気温の時系列を使う
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