三相変圧器の解析
理論:3つの相が1つの鉄心を共有する
概要
三相変圧器の無負荷試験をしたら、中央の相だけ電流が小さく出ました。故障でしょうか?
たぶん正常だよ。よく使われる3脚の内鉄形鉄心では、3つの相の磁束が1つの鉄心を共有している。三相の磁束は足すと0になるから、ある脚の磁束は他の脚を通って戻る。中央の脚は両隣に短い距離で戻れるけれど、外側の脚は継鉄(上下の横の部分)を長く通って戻らないといけない。磁気抵抗が大きい分、外側の相は励磁に大きな電流が要るんだ。三相変圧器の解析は、こうした相どうしの磁気的なつながりと、結線による電圧・電流の関係を押さえることが基本になる。
磁気回路の式
$F$ は各相の起磁力(巻数×励磁電流)、$\phi$ は脚の磁束、$R_l$ は脚1本の磁気抵抗、$R_y$ は隣り合う脚の間の継鉄(上下合計)の磁気抵抗。三角結線や中性点を接地しない星形結線では、3相の励磁電流の和は0になる。
定格電流と短絡電流
三相交流と変圧器の誕生
三相交流の送電は、1891年にドイツのラウフェンからフランクフルトまで約175 kmを結んだ実験で実用性が示された。このとき使われた三相変圧器を設計したのが、ロシア出身の技術者ドリヴォ=ドブロヴォリスキーで、3つの脚を1つの鉄心にまとめる形を考案した。単相の変圧器を3台並べるより鉄の量が少なく、小さく安くできる。いまの配電用変圧器の多くも、この3脚の鉄心を基本にしている。
計算例
例1:励磁の不平衡
3相の磁束の大きさを等しくそろえたとき、各相に必要な起磁力を磁気回路の式で求めた(線形、飽和なし)。
| 継鉄/脚の磁気抵抗 | 外側の相(A・C) | 中央の相(B) | 外側/中央 | 外側の相の位相のずれ |
|---|---|---|---|---|
| 0 | 1.00 | 1.00 | 1.00 | 0° |
| 0.6 | 1.51 | 1.20 | 1.26 | 6.6° |
| 1.2 | 2.03 | 1.40 | 1.45 | 9.8° |
起磁力は、継鉄の磁気抵抗が0のときの値を1とした比。外側の相は中央より大きな電流が要り、しかも位相が120°の間隔からずれる。
外側が1.26〜1.45倍も要るなら、中央の相が小さいのは当然なんですね。
そういうこと。実際には鉄心の継ぎ目や飽和の影響も加わるので、比は設計によって変わるけれど、『中央の相が小さい』のは3脚鉄心の特徴だ。3相の平均で無負荷電流を評価するのはこのためだよ。逆に、外側の2相が大きく違ったり、中央の相が一番大きかったりしたら、継ぎ目の不良や巻線の異常を疑う。ちなみに5脚の鉄心や単相器3台では、この不平衡はずっと小さくなる。
例2:1,000 kVA配電用変圧器(Dyn11)
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 定格電流(高圧側 6.6 kV) | 87.5 A |
| 三角巻線の相電流 | 50.5 A |
| 定格電流(低圧側 420 V) | 1,375 A |
| 巻数比(高圧/低圧) | 27.2 |
| 位相のずれ | 低圧側が30°進み |
| 短絡電流(%Z 5%) | 低圧 27.5 kA/高圧 1.75 kA |
| 短絡電流(%Z 6%) | 低圧 22.9 kA/高圧 1.46 kA |
巻数比は線間電圧の比(15.7)ではなく、三角巻線にかかる6.6 kVと星形巻線の相電圧242 Vの比になる。%インピーダンスを大きくすると短絡電流は下がるが、負荷時の電圧降下は大きくなる。
解析の進め方
- 鉄心の形(3脚・5脚・外鉄形)と結線(Dyn11など)を確認する。
- 磁気回路か電磁界の有限要素解析で、各相の励磁電流と鉄損を求める。
- 短絡インピーダンスと漏れ磁束を求め、短絡時の電磁力(巻線に働く力)を評価する。
- 不平衡負荷や零相の電流が流れるときの、タンクや構造物の渦電流による発熱を確かめる。
- 無負荷試験・短絡試験の結果と比べる。
「タンクが局部的に熱い」
3脚鉄心で星形・星形の結線にした変圧器で、単相の負荷が多い現場でタンクの一部が異常に熱くなった——という例がある。不平衡な負荷で零相の電流が流れると、3つの脚の磁束が同じ向きの成分を持つ。3脚の鉄心にはその磁束が戻る鉄の経路がないので、空気や油を通ってタンクに入り、そこで渦電流を起こして発熱していた。三角巻線を持つ結線(Dyn11など)では零相の起磁力が打ち消されるので、この問題は起きにくい。結線と鉄心の形は、組み合わせで考えることが大事だ。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 中央の相の小さい電流を異常と判断 | 不要な点検 | 3脚鉄心の特徴と理解 |
| 巻数比を線間電圧の比で | 三角・星形で値を誤る | 巻線にかかる電圧で計算 |
| 零相の磁束の経路を無視 | タンクの発熱を見落とす | タンクを含めて解析 |
| 位相のずれを無視して並列運転 | 大きな循環電流 | 同じ結線記号どうしで |
| 電源側のインピーダンスを入れて短絡電流を下げすぎる | 遮断器の容量不足 | 上限値で選定 |
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