変圧器等価回路
理論:2つの試験で回路が決まる
概要
変圧器の等価回路は教科書で見たことがあります。でも実際の値はどうやって決めるんですか?
2つの簡単な試験で決まる。無負荷試験では二次側を開いたまま定格電圧をかける。電流は小さいので巻線の損失はほとんどなく、測った電力はほぼ鉄損だ。短絡試験では二次側を短絡して、定格電流が流れる低い電圧をかける。電圧が低いので鉄損はほとんどなく、測った電力はほぼ銅損だ。こうして鉄心の回路と巻線の回路を分けて求められる。50 kVAの配電用変圧器で、定数を出して電圧変動率と効率まで計算しよう。
試験から定数を求める式
無負荷試験の値は測った側(ここでは低圧側)、短絡試験の値は測った側(高圧側)の値になる。反対側へ換算するときは巻数比の2乗をかける。
電圧変動率と効率
$p, q$ は抵抗とリアクタンスの百分率降下、$x$ は負荷率、$P_0$ は鉄損、$P_{cu}$ は定格時の銅損。遅れ力率ではリアクタンスの降下が加わって電圧が下がり、進み力率では打ち消しあって電圧が上がることもある。
交流送電を可能にした変圧器
実用的な変圧器は、1885年にハンガリーのガンツ社の技術者ツィペルノウスキー、ブラーティ、デーリが作った閉じた鉄心の変圧器が始まりとされる。同じ頃アメリカではスタンレーがウェスティングハウスのために変圧器を改良し、1886年に交流の配電を実演した。電圧を上げて遠くへ送り、使う場所で下げる——この仕組みがエジソンの直流方式との『電流戦争』で交流を勝たせた。等価回路という考え方は、その後の設計と試験を支える共通の言葉になった。
計算例:50 kVA・6600/210 V 単相変圧器
試験結果と定数
| 試験 | 測定値 | 求めた定数 |
|---|---|---|
| 無負荷(低圧側 210 V) | 4.8 A, 250 W | Rc 176 Ω, Xm 45 Ω(低圧側) |
| 短絡(高圧側 7.58 A) | 264 V, 700 W | Req 12.2 Ω, Xeq 32.6 Ω(高圧側) |
励磁電流は定格電流238 Aの2.0%、無負荷時の力率は0.25と低い。百分率で表すと抵抗降下1.40%、リアクタンス降下3.75%、インピーダンス4.0%になる。
電圧変動率(定格負荷)
| 力率 | フェーザ計算 | 近似式 |
|---|---|---|
| 1.0 | 1.47% | 1.40% |
| 0.8(遅れ) | 3.39% | 3.37% |
| 0.8(進み) | −1.05% | −1.13% |
負荷と効率
| 負荷率 | 効率(力率1) | 効率(力率0.8) |
|---|---|---|
| 25% | 97.70% | 97.15% |
| 50% | 98.33% | 97.92% |
| 60%(最大) | 98.35% | 97.95% |
| 100% | 98.14% | 97.68% |
| 125% | 97.90% | 97.38% |
効率は定格負荷ではなく60%で最大なんですね。どうしてわざとそう設計するんですか?
配電用変圧器は、1日中ずっと定格で使われるわけではないからだ。昼の8時間は定格、夜の16時間は20%という使い方で1日の電力量効率を計算すると97.89%になり、損失の半分は鉄損が占める。鉄損は負荷がなくても24時間かかり続けるからだ。だから軽負荷の時間が長い変圧器では、銅損を少し増やしても鉄損を減らす設計が得になる。アモルファス合金の鉄心は、まさにこの鉄損を減らすために使われる。一方、発電所の変圧器のように常に重負荷なら、最大効率の点を定格近くに置く。
簡易等価回路の精度
励磁回路を一次側の端子へ移した簡易等価回路と、巻線の途中に置いた厳密な回路で、6,600 Vをかけ定格負荷(遅れ0.8)をつないだときの二次電圧(高圧側換算)を比べると、6,383.6 Vと6,381.0 Vで差は0.04%だった。励磁電流が定格の2%と小さいので、ふつうの計算は簡易回路で十分だ。
解析と設計のポイント
- 無負荷試験は低圧側、短絡試験は高圧側で行うと、計器の範囲に収まりやすい。
- 定数を使う前に、どちら側の値かをそろえる(巻数比の2乗で換算)。
- 巻線抵抗は温度で変わるので、基準温度(例:75℃)へ換算する。
- 高調波や直流偏磁がある場合、等価回路の鉄損と励磁電流は変わる。
- 漏れリアクタンスの配分や周波数特性が必要なら、電磁界解析で求める。
「進み力率で電圧が上がった」
ある工場で、力率改善のためにコンデンサを入れたところ、夜間に機械が止まって負荷が軽くなると、受電電圧が定格より高くなって照明の寿命が縮んだ。コンデンサがつながったままなので、軽負荷では進み電流が主になり、変圧器の漏れリアクタンスによって電圧が持ち上げられたのだ。計算例の進み0.8で電圧変動率が−1.05%になったのと同じ現象だ。負荷に合わせてコンデンサを切り替えるようにすると解決した。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 換算側の混同 | 値が約千倍ずれる | 巻数比の2乗で統一 |
| 無負荷の電力を銅損と誤認 | 損失の分離を誤る | 試験の意味を確認 |
| 抵抗の温度補正なし | 銅損の過小評価 | 基準温度へ換算 |
| 定格効率だけで比較 | 実際の損失を誤る | 負荷パターンで評価 |
| 進み力率を想定しない | 過電圧 | 電圧上昇を確認 |
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