ガラスの強化(風冷強化)の熱応力解析
理論:固まる順番が応力を残す
概要
強化ガラスは普通のガラスの何倍も強いと聞きました。熱処理だけで、なぜそんなに強くなるんですか?
ガラスが割れるのは、表面の小さな傷に引張の応力が集中するからだ。そこで表面にあらかじめ圧縮の応力を残しておけば、外から力がかかっても、その圧縮を打ち消すまでは傷が開かない。やり方は、ガラスを600 ℃以上に加熱して、両面に空気を吹き付けて急冷する。表面は先に固まり、まだ柔らかい中心はあとから冷えて縮む。固まった表面が中心に引っ張られて圧縮になり、中心は引張になる。この応力の大きさは、冷やし方の強さと板厚で決まるんだ。
瞬間凍結モデル
最も簡単なモデルでは、中心がガラス転移温度 $T_g$ まで冷えた瞬間の温度分布 $T_f(z)$ がそのまま固定されると考える。その後、板全体が室温まで一様に冷えると、固まったときに熱かった中心ほど縮みが大きく、引張になる。温度分布が放物線なら、表面の応力は中心の応力の−2倍になる。
板厚 $t$ の半分と熱伝導率 $k$ で作るビオ数は、表面の冷却と内部の熱伝導の比。ガラスは熱伝導率が約1 W/mKと小さいので、風冷でもビオ数が1前後になり、板の中に大きな温度差ができる。
ルパート王子の涙
溶けたガラスを水に落とすと、オタマジャクシのような形に固まる。17世紀のイギリスで『ルパート王子の涙』と呼ばれて話題になったこの小さなガラスは、太い頭の部分をハンマーでたたいても割れないのに、細い尾を折ると全体が一瞬で粉々になる。表面の強い圧縮と、内部の強い引張が釣り合っているからで、強化ガラスと同じ仕組みだ。工業的な風冷強化は20世紀前半にフランスで実用化され、自動車の窓などに広がった。割れると細かい粒になるのも、内部に蓄えられた引張のエネルギーが一気に解放されるためだ。
計算例:板厚と冷却の強さ
ソーダ石灰ガラス(E 70 GPa、α 9×10⁻⁶ /K、ν 0.22、k 1.0 W/mK)を650 ℃から30 ℃の空気で両面から冷やし、中心が560 ℃になった瞬間の温度分布を固定して残留応力を求めた(放射は無視)。区分は表面圧縮24〜52 MPaを倍強度、69 MPa以上を強化とする基準(ASTM C1048)に合わせた。
| 板厚 | 熱伝達率 | ビオ数 | 凍結時の温度差 | 表面 | 中心 | 区分 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 4 mm | 100 | 0.20 | 48 K | −26 MPa | +13 MPa | 倍強度相当 |
| 4 mm | 400 | 0.80 | 154 K | −82 MPa | +43 MPa | 強化相当 |
| 6 mm | 100 | 0.30 | 70 K | −37 MPa | +19 MPa | 倍強度相当 |
| 6 mm | 200 | 0.60 | 124 K | −66 MPa | +34 MPa | 倍強度相当 |
| 6 mm | 400 | 1.20 | 203 K | −107 MPa | +56 MPa | 強化相当 |
| 10 mm | 100 | 0.50 | 107 K | −57 MPa | +30 MPa | 倍強度相当 |
| 10 mm | 200 | 1.00 | 180 K | −95 MPa | +50 MPa | 強化相当 |
同じ冷やし方でも、薄い板ほど応力が小さいんですね。
そう。応力を決めるのは板の中の温度差で、温度差はビオ数、つまり冷却の強さ×板厚の半分で決まる。薄い板は熱がすぐ中心まで伝わってしまうから、温度差がつきにくい。10 mmなら熱伝達率200で強化の基準に届くのに、4 mmでは300以上要る。薄い強化ガラスを作るのが難しいのはこのためで、2〜3 mmになると風冷ではなく、イオン交換で表面に大きなイオンを入れる化学強化が使われる。また、表面と中心の比はどれもほぼ−2で、温度分布がほぼ放物線になっていることがわかる。
モデルの限界
瞬間凍結モデルは、ガラス転移の温度域で応力が少しずつ緩む効果を無視するため、残留応力を大きめに出す。実際の設計では、粘弾性と構造緩和を扱うナラヤナスワミーのモデルなどを使い、実測の表面応力で係数を合わせる。また、実際の炉では放射による冷却も加わり、特に高温では無視できない。
解析の進め方
- ノズルの配置と風量から、ガラス表面の熱伝達率の分布を求める(CFDや実験式)。
- 板厚方向の過渡の伝熱解析で温度の履歴を求める。放射も入れる。
- 粘弾性・構造緩和のモデルで残留応力を求める。
- 端部や穴の周りは面内の応力も変わるので、2次元・3次元で確かめる。
- 表面応力計や破砕試験(割れた粒の数)で確かめる。
「まだらに見える強化ガラス」
建物の強化ガラスを偏光サングラス越しに見ると、まだらな模様が見えることがある。『風紋』や『ストレインパターン』と呼ばれ、ノズルの並びに合わせて熱伝達率が場所ごとに違い、残留応力がわずかにばらついた跡だ。強度上の問題は通常ないが、見た目の苦情になることがある。解析でノズルの配置による熱伝達率の分布を求めておくと、ノズルを揺動させる幅や風量の調整で模様を薄くする検討ができる。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 瞬間凍結モデルの値をそのまま使う | 応力を過大に評価 | 粘弾性モデル・実測で補正 |
| 薄板に厚板と同じ冷却 | 強化が足りない | ビオ数で冷却を決める |
| 放射を無視 | 初期の冷却を過小評価 | 放射を入れる |
| 熱伝達率を一様に | ばらつきや模様を見落とす | ノズル配置から分布を求める |
| 端部を無視 | 端からの破損 | 2次元・3次元で確認 |
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