熱処理(焼戻し)解析

カテゴリ: 熱解析 | 2026-09-30 改稿
CAE visualization for heat treatment temper theory - technical simulation diagram
熱処理(焼戻し)解析

理論:温度と時間を1つの値にまとめる

概要

🙋

焼入れした歯車を550 ℃で1時間焼戻す指示ですが、炉が空かないので500 ℃で長めにやってもいいか聞かれました。何時間やれば同じになりますか?

🎓

焼入れで硬くなりすぎた組織(マルテンサイト)から炭素が少しずつ抜けて、硬さが下がり粘り強さが増すのが焼戻し。その進み方は温度に強く、時間には弱くしかよらない。そこで温度と時間を1つにまとめた『焼戻しパラメータ』を使うと換算できる。計算すると500 ℃なら約20時間。温度を50 K下げると、時間は20倍になるんだ。

焼戻しパラメータ(Hollomon–Jaffe)

$$ P = T\,(C + \log_{10} t), \qquad C \approx 20 $$
$$ t_2 = 10^{\,P / T_2 - C} $$

$T$ は絶対温度(K)、$t$ は保持時間(h)、$C$ は材料で決まる定数で、炭素鋼や低合金鋼では約20がよく使われる。同じ $P$ になる温度 $T_2$ での時間 $t_2$ は2つ目の式で求められる。時間は対数でしか効かないので、時間を10倍にしても温度をわずかに上げたのと同じ程度の効果しかない。

焼戻しで起きること

温度域の目安組織の変化性質
150〜250 ℃微細な炭化物が出始める硬さをほぼ保ち、もろさを減らす
250〜400 ℃残留オーステナイトが分解鋼種によってはもろくなる温度域
400〜650 ℃炭化物が成長し、組織が回復硬さが下がり、じん性が上がる
Coffee Break よもやま話

1945年、温度と時間を「交換」する式

焼戻しパラメータは1945年、米国のHollomonとJaffeが、さまざまな温度と時間で焼戻した鋼の硬さを整理して提案した。温度を横軸にとる代わりにこのパラメータをとると、ばらばらだった硬さのデータが1本の曲線にまとまった。同じ考え方は高温で長く使う材料のクリープ寿命にも応用され、ラーソン・ミラー・パラメータとして知られている。「熱で起きる変化の進み方は、温度と時間の組み合わせで決まる」という発想は、今も熱処理の工程設計の基本になっている。

計算例

例1:同じ効果になる温度と時間

550 ℃・1時間(P = 16,463、C = 20)と同じ焼戻しパラメータになる時間。

温度同じ効果になる時間
500 ℃約19.7時間
525 ℃約4.2時間
550 ℃1時間
575 ℃約15分
600 ℃約4分
🙋

25 K違うだけで、時間が4倍も変わるんですね。

🎓

そう。逆に言えば、炉の温度が10 K高いだけで同じ効果が約35分(58%)で、20 K高いと約20分(34%)で得られてしまう。炉の中に10〜20 Kの温度むらがあるのは珍しくないから、置き場所によって硬さがばらつくのはこのためだ。熱解析で炉内の温度分布を求めておくと、どこに置いた部品が焼戻し過ぎや不足になりやすいかがわかる。ただしパラメータは経験則で、定数 C は鋼種で変わるし、2段の焼戻しや非常に短い時間では合わなくなることもある。

例2:部品が炉温に達するまでの時間

$$ \rho c_p \frac{V}{A}\frac{dT}{dt} = h_c (T_f - T) + \varepsilon\sigma (T_f^4 - T^4), \qquad Bi = \frac{h\,(V/A)}{k} $$

550 ℃の炉に25 ℃の鋼の丸棒(長い円柱)を入れ、対流の熱伝達係数20 W/(m²·K)と放射(放射率0.8)で温まるとして、部品全体の温度を1つとみなして計算した。

直径ビオ数540 ℃に達する時間
50 mm0.04約0.55時間
100 mm0.08約1.1時間
200 mm0.15約2.2時間(中心はさらに遅れる)

昇温時間は直径にほぼ比例する。ビオ数が0.1を超える200 mmでは表面と中心の温度差が無視できなくなり、中心はさらに遅れる。『1時間保持』を炉に入れた時刻から数えると、100 mmの部品では中心がほとんど保持されないことになる。実際の炉では、部品が密に並んでいて放射が遮られ、さらに時間がかかることも多い。

解析の進め方

手順

  1. 炉の温度分布を求める。バーナーやヒーターの位置、部品の並べ方で10 K以上の差が出る。
  2. 部品ごとに、表面と中心の温度の時間変化を計算する。
  3. 温度の履歴から焼戻しパラメータ(または同等の指標)を求め、硬さを予測する。
  4. 実際の部品の硬さと比べ、定数やモデルを確かめる。

注意点

  • 物性の温度依存:鋼の比熱は700 ℃付近の変態で大きく変わる。焼戻しの温度域でも、室温の値との違いは無視できない。
  • 放射の扱い:高温の炉では放射が熱の伝わり方の主役になる。部品どうしの遮り合いを見込む。
  • 残留応力の変化:焼戻しは焼入れの残留応力も下げる。変形を予測するときは熱と構造の連成で扱う。
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「同じ条件なのに硬さが違う」

同じ炉・同じ条件で焼戻した部品のうち、かごの中央に置いたものだけ硬さが高すぎた、という例はよくある。中央の部品は周りの部品に囲まれて放射を受けにくく、炉温に達するのが遅れたため、実質的な保持時間が短かったのだ。温度計を炉の壁近くに付けていると、炉の温度は指示どおりでも部品の温度はずっと低い、ということが起きる。部品にも熱電対を付けて測る、あるいは解析で最も遅れる位置を求めて、そこを基準に保持時間を決めるのが確実だ。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
温度を下げて時間を少し延ばす焼戻し不足で硬すぎるパラメータで換算
装入時から保持時間を数える大きな部品の中心が不足中心の昇温を計算
炉温を一様と仮定置き場所で硬さがばらつく炉内分布を解析・測定
定数Cを確かめない換算がずれる鋼種ごとに硬さデータで確認
放射を無視昇温を遅く見積もる放射と遮り合いを入れる
🙋

焼戻しや硬さの計算を自分でも試したいです。

🎓

熱処理シミュレーターで熱処理の温度履歴、ジョミニー焼入れ性ツールで焼入れ性、硬さ換算ツールで硬さの換算、ラーソン・ミラー・パラメータで同じ考え方のクリープ寿命を試せるよ。前後の工程は焼入れの熱解析、高周波焼入れ、炉内の熱解析の記事にまとめてある。

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