沸騰熱伝達解析

カテゴリ: 連成解析・熱流体 | 2026-10-01 改稿
CAE visualization for boiling heat transfer theory - technical simulation diagram
沸騰熱伝達解析

理論:沸騰曲線の4つの領域

概要

🙋

沸騰は熱をよく運ぶと聞きますが、どれくらい違うんですか?それに、沸騰させすぎると危ないという話も聞きました。

🎓

気泡ができるときに蒸発の潜熱を持ち去り、気泡が離れるときに周りの液をかき混ぜるので、水の核沸騰の熱伝達率は1万〜6万 W/m²K にもなる。空気の自然対流の千倍以上だ。ところが熱流束を上げていくと、ある値で気泡がつながって蒸気の膜が面を覆い、熱伝達率が急に落ちる。これが限界熱流束(CHF)で、原子炉や電子機器の冷却ではこれを超えないことが設計の大前提になる。沸騰曲線に沿って数値で見ていこう。

4つの領域

領域壁過熱度(水・大気圧)特徴
自然対流約5 K以下気泡なし
核沸騰約5〜30 K熱伝達が最もよい
遷移沸騰約30〜120 K温度を上げると熱流束が下がる
膜沸騰約120 K以上蒸気膜を通して伝熱

核沸騰と限界熱流束の式

$$ q'' = \mu_l h_{fg}\left[\frac{g(\rho_l-\rho_v)}{\sigma}\right]^{1/2}\left(\frac{c_{p,l}\,\Delta T_e}{C_{sf}\,h_{fg}\,Pr_l^{\,n}}\right)^{3} $$
$$ q''_{max} = 0.149\,h_{fg}\,\rho_v\left[\frac{\sigma g(\rho_l-\rho_v)}{\rho_v^2}\right]^{1/4},\qquad q''_{min} = 0.09\,\rho_v h_{fg}\left[\frac{g\sigma(\rho_l-\rho_v)}{(\rho_l+\rho_v)^2}\right]^{1/4} $$

上はRohsenowの核沸騰の式で、熱流束は壁過熱度 $\Delta T_e$ の3乗に比例する。$C_{sf}$ は液と面の組み合わせで決まる係数(水と銅で0.013)。下はZuberの限界熱流束と最小熱流束(ライデンフロスト点)の式で、どちらも面の材質によらない。

Coffee Break よもやま話

抜山の沸騰曲線

沸騰曲線を初めて測ったのは、東北帝国大学の抜山四郎で、1934年のことだ。水中に張った白金線やニクロム線に電流を流して加熱し、熱流束と線の温度の関係を調べた。電流(熱流束)を上げていくと、ある値で線の温度が突然跳ね上がり、線が赤熱したり溶断したりした。これが限界熱流束の発見だった。抜山は、温度を制御すれば途中の領域もたどれるはずだと考え、のちに遷移沸騰の存在も確かめられた。この曲線は今も世界中の教科書に『Nukiyama curve』として載っている。

計算例:大気圧の水

核沸騰の熱流束

壁過熱度熱流束熱伝達率
5 K0.017 MW/m²3,400 W/m²K
10 K0.14 MW/m²13,700 W/m²K
15 K0.46 MW/m²30,800 W/m²K
20 K1.10 MW/m²54,800 W/m²K

限界熱流束と最小熱流束

項目値
限界熱流束(Zuber)1.26 MW/m²
そのときの壁過熱度(Rohsenow)20.9 K
そのときの熱伝達率60,000 W/m²K
最小熱流束(ライデンフロスト点)18.9 kW/m²

バーンアウト:熱流束を与える加熱

直径1 mmの線を電気で加熱し、熱流束を限界熱流束 1.26 MW/m² に保ったまま膜沸騰へ移ったとする。蒸気膜の伝熱(Bromleyの式)とふく射(放射率0.8)で同じ熱流束を運ぶ壁過熱度を求めると、約1,700 K になった。膜沸騰側の熱伝達率は対流360・ふく射470 W/m²K 程度で、核沸騰の約6万 W/m²Kの100分の1にも満たない。

🙋

過熱度21 Kから1,700 Kへ。ほんの少し熱流束を上げただけで、そんなに跳ぶんですか?

🎓

熱流束を決めて加熱すると、沸騰曲線の中で同じ熱流束をとれる点は、核沸騰と膜沸騰の2つしかない。限界熱流束を少しでも超えると、核沸騰側にはもう居場所がないので、同じ熱流束の膜沸騰側へ移るしかない。そこでは蒸気の膜が断熱材のように働くので、温度差がけた違いに大きくなる。銅の融点は1,085℃だから、銅線なら溶ける。原子炉の燃料棒や高出力の電子機器で限界熱流束に余裕を持たせるのはこのためだ。逆に、面の温度を決めて加熱する場合(蒸気で加熱するなど)は遷移沸騰をたどれるので、このジャンプは起きない。

解析と設計のポイント

  1. まず相関式で沸騰曲線を描き、運転点がどの領域にあるかを確かめる。
  2. 熱流束を与える機器(電熱・燃料棒・半導体)は限界熱流束への余裕を必ず評価する。
  3. Csfは面の仕上げや汚れで変わるので、実測値があれば合わせ込む。
  4. 流れがある場合(強制対流沸騰)は、プール沸騰の式ではなく流動沸騰の式を使う。
  5. CFDで気泡を直接解く場合は、界面追跡と壁面の核生成モデルの妥当性を確かめる。
Coffee Break よもやま話

「焼入れの蒸気膜」

熱した鋼を水に入れて焼入れすると、最初は表面が蒸気の膜に包まれ、意外なほどゆっくりしか冷えない(膜沸騰)。温度が下がってライデンフロスト点を過ぎると、膜が崩れて核沸騰に変わり、急に冷えはじめる。この切り替わりが部品の場所によってずれると、冷え方にむらができ、ひずみや焼割れの原因になる。水をかき混ぜたり、添加剤で膜を壊れやすくしたりするのは、膜沸騰の時間を短くそろえるための工夫だ。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
熱伝達率を一定で与える過熱度で大きくずれる沸騰曲線に沿って変える
CHFの余裕を見ないバーンアウト余裕を評価
Csfを確かめずに使う熱流束が倍半分ずれる実測で合わせる
流動沸騰にプール沸騰の式CHFを誤る流動沸騰の式
膜沸騰でふく射を無視壁温を過大評価ふく射を加える
🙋

関連する内容も知りたいです。

🎓

沸騰熱伝達ツールで沸騰曲線を試せるよ。関連するページはプール沸騰のCFD、凝縮、二相流熱交換器、スプレー冷却、ヒートパイプが参考になる。

関連シミュレーター

この分野のインタラクティブシミュレーターで理論を体感しよう

シミュレーター一覧

関連する分野

構造解析電磁界解析熱解析
この記事の評価
ご回答ありがとうございます!
参考に
なった
もっと
詳しく
誤りを
報告
参考になった
0
もっと詳しく
0
誤りを報告
0