スプレー冷却シミュレーション
理論:液滴を蒸発させて熱を奪う
概要
スプレー冷却は、水をかけて冷やすのと何が違うんですか?
水の流れで冷やすときは、主に水が温まる分(顕熱)で熱を運ぶ。スプレー冷却は、細かい液滴を面に当て、その場で蒸発させて潜熱で熱を奪う。水の蒸発熱は、水を1 K温める熱の500倍以上あるので、同じ量の水でけた違いの熱を運べる。そのかわり、液滴の大きさ、速さ、面に当たったときに広がるか跳ねるか、面が熱すぎて蒸気の膜ができないか(ライデンフロスト現象)など、考えることが多い。基本の量を計算してみよう。
必要な水の量
上は熱流束 $q''$ を完全な蒸発で運ぶのに必要な最小の水の量。下は、単相で $\Delta T_{1\phi}$ だけ温める冷却と比べた水の量の比。
液滴の寿命(d²則)
液滴の直径の2乗が時間に比例して減る。$B$ は伝達数で、周りの気体が熱いほど大きい。寿命は直径の2乗に比例するので、直径を3分の1にすると寿命は9分の1になる。
衝突で跳ねるか
液滴が壁に当たると、広がって付着するか、跳ねて飛び散るかが分かれる。Mundoらの実験では、$K$ が57.7を超えると飛び散った。
ライデンフロストの水滴
熱したフライパンに水を垂らすと、少し熱いくらいならすぐ蒸発するのに、ずっと熱いと水滴が玉になって転がり、なかなか蒸発しない。1756年にドイツの医師ライデンフロストが記録した現象で、水滴の下に蒸気の膜ができ、熱が伝わりにくくなるためだ。スプレー冷却や焼入れでは、面が熱すぎるとこの状態になり、冷却能力が大きく落ちる。面の温度がライデンフロスト点より下がると、液滴が面にぬれて一気に冷えはじめる。
計算例
例1:1 MW/m²を除去する水の量
| 冷却の方法 | 水の量(1 m²あたり) | 1 cm²(100 W)あたり |
|---|---|---|
| 完全に蒸発(25℃から) | 0.39 kg/s | 2.3 mL/分 |
| 単相で20 K温める | 12.0 kg/s | 72 mL/分 |
完全に蒸発させるときは、運ぶ熱の88%が潜熱になる。必要な水は単相冷却の31分の1。
例2:500℃の気体中での液滴の寿命
| 初期直径 | 蒸発するまでの時間 |
|---|---|
| 10 µm | 1.6 ms |
| 30 µm | 15 ms |
| 100 µm | 160 ms |
| 300 µm | 1.5 s |
例3:液滴の衝突(水・25℃)
| 直径・速度 | We | Re | K | 判定 |
|---|---|---|---|---|
| 30 µm, 10 m/s | 42 | 336 | 28 | 広がる |
| 30 µm, 30 m/s | 374 | 1,008 | 109 | 飛び散る |
| 100 µm, 10 m/s | 138 | 1,120 | 68 | 飛び散る |
| 100 µm, 30 m/s | 1,246 | 3,361 | 269 | 飛び散る |
液滴は小さく速いほどいいと思っていましたが、速すぎると跳ねてしまうんですね。
小さい液滴は早く蒸発し、面を細かく覆えるので有利だ。速さは、液膜をかき乱して蒸気を逃がし、熱を運ぶ助けになる。でも速すぎると液滴が面の上で砕けて飛び散り、蒸発する前に面から離れてしまう。30 µmなら10 m/sでは面に広がるが、30 m/sでは飛び散る。100 µmでは10 m/sでも飛び散る。さらに、小さすぎる液滴は、面の近くにできる蒸気の流れに押し戻されて届かないこともある。ノズルの選び方は、液滴の大きさと速さのバランスで決まる。
シミュレーションの進め方
- 液滴はラグランジュ粒子で追跡し、気流とは運動量・熱・質量をやりとりさせる。
- ノズルの液滴径分布(ザウター平均径など)と速度を実測か仕様から与える。
- 壁との衝突モデル(付着・広がり・飛散・跳ね返り)を面の温度に応じて切り替える。
- ライデンフロスト点を超える高温では、液膜ではなく蒸気膜ができることを考える。
- 冷却される固体の熱伝導と連成し、面の温度変化とともに冷却の形態が変わるのを追う。
「冷えるはずの鋼板が冷えない」
熱間圧延ラインで、900℃の鋼板にスプレーで水を吹き付けて冷やすとき、最初は思ったほど温度が下がらず、ある温度を過ぎたところで急に冷えはじめた。高温では液滴が鋼板にぬれずに蒸気の膜の上で跳ね、冷却能力が低かったのだ。ライデンフロスト点を過ぎると液滴がぬれて一気に冷える。この切り替わりが板の場所によってずれると温度むらになり、板が反ったり材質がばらついたりする。水量やノズルの配置を、この切り替わりを考えて決めるようになった。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 熱伝達率を一定で与える | 温度によって大きく外れる | 冷却形態を温度で変える |
| ライデンフロストを無視 | 高温で冷却を過大評価 | 蒸気膜の状態を入れる |
| 液滴径を一つの値に | 蒸発と到達を誤る | 径分布を与える |
| 飛散を無視 | 冷却を過大評価 | 衝突モデルを使う |
| 気流を解かない | 液滴の軌道を誤る | 気流と連成 |
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