凝縮熱伝達解析
理論:凝縮液の膜が熱を妨げる
概要
凝縮は蒸気が冷えて液になるだけですよね。熱伝達率を計算するとき、何が難しいんですか?
蒸気が壁で液になる瞬間はとても速いんだが、できた液が壁を覆う膜になって、その膜が熱の通り道をふさぐ。熱は蒸気から液膜を通って壁へ伝わるから、熱伝達率はほぼ液膜の厚さで決まる。液膜は重力で流れ落ちながら下へ行くほど厚くなるので、壁が高いほど平均の熱伝達率は下がる。1916年にヌセルトがこれを式にした。縦の壁と横の管で比べ、液膜の波や管の段数がどう効くか見てみよう。
縦の壁(ヌセルトの式)
$L$ は壁の高さ。$h'_{fg}$ は液膜が過冷却される分を潜熱に上乗せした値。熱伝達率は $L$ と温度差の1/4乗に反比例するので、壁を16倍高くしても半分にしかならない。
横置きの管と管群
横置き管では、液は管の上から下へ半周を流れるだけなので、液膜は薄い。N段に重ねた管群では、上の管の凝縮液が下の管へ落ちて液膜を厚くするため、平均は $N^{-1/4}$ 倍になる(ヌセルトの見積もり。実際は液の飛び散りで下がり方がゆるく、$N^{-1/6}$ を使う設計もある)。
ヌセルトの1916年の論文
ドイツのヌセルトは1916年、水蒸気の凝縮を扱った短い論文で、液膜の流れと熱伝導だけから熱伝達率を導いた。流体力学と伝熱を組み合わせて解析的に解いた初期の代表例で、今も教科書の最初に出てくる。彼の名前は、熱伝達率を無次元にした『ヌセルト数』にも残っている。100年以上前の式が、液膜の波を補正すれば今も設計に使えるのは、仮定が物理の本質をとらえているからだ。
計算例:大気圧の水蒸気
壁の高さと液膜
飽和水蒸気(100℃)が90℃の壁で凝縮する場合(温度差10 K)。
| 壁の高さ | 熱伝達率(ヌセルト) | 下端の液膜厚さ | 液膜レイノルズ数 | 波を考慮 |
|---|---|---|---|---|
| 0.1 m | 11,440 W/m²K | 0.079 mm | 67 | 11,860 (+4%) |
| 0.5 m | 7,650 W/m²K | 0.118 mm | 225 | 8,710 (+14%) |
| 1.0 m | 6,430 W/m²K | 0.140 mm | 379 | 7,670 (+19%) |
液膜はわずか0.1 mm前後だが、水の熱伝導率は低いので、これが熱の抵抗の大部分になる。液膜のレイノルズ数が30を超えると表面が波打ち、膜が部分的に薄くなって熱伝達率が上がる。
温度差の影響(高さ0.5 m)
| 温度差 | 熱伝達率 | 熱流束 |
|---|---|---|
| 5 K | 9,080 W/m²K | 45 kW/m² |
| 10 K | 7,650 W/m²K | 76 kW/m² |
| 20 K | 6,450 W/m²K | 129 kW/m² |
| 40 K | 5,460 W/m²K | 218 kW/m² |
温度差を大きくすると凝縮量が増えて液膜が厚くなるので、熱伝達率は下がる。熱流束は温度差の3/4乗でしか増えない。
縦置き管・横置き管・管群
| 配置 | 平均熱伝達率 |
|---|---|
| 縦置き管(長さ1 m) | 6,430 W/m²K |
| 横置き管(直径25 mm) | 12,500 W/m²K |
| 横置き管 5段 | 8,360 W/m²K |
| 横置き管 10段 | 7,030 W/m²K |
| 横置き管 20段 | 5,910 W/m²K |
横置きにすると1本では縦の倍近いのに、20段重ねると縦置きより低くなるんですね。
横置き管が有利なのは、液が流れる距離が短いからだ。式の係数と長さを比べると、直径25 mmの横置き管は、高さ7 cmの縦の壁と同じ熱伝達率になる。ところが段を重ねると、上から落ちてくる液が積み重なって、実質的に長い距離を流れたのと同じになる。だから大型の復水器では、段数を抑えるように管を配置したり、途中で液を抜いたりする。実際には液が滴になって飛び散るので、下がり方はヌセルトの見積もりよりゆるく、20段で0.47倍ではなく0.6倍程度とみる設計もある。
解析と設計のポイント
- 液膜のレイノルズ数を計算し、層流・波状層流・乱流のどの式を使うか決める。
- 空気などの凝縮しないガスは抜く。わずかでも壁の近くにたまり、熱伝達率を大きく下げる。
- 管群では段数による低下と、蒸気の流れによるせん断の効果を考える。
- 滴状凝縮は膜状より何倍も高いが、長く続けるのが難しく、設計は膜状で行うのが普通。
- CFDで凝縮を扱う場合は、相変化モデルと液膜の解像度(0.1 mm程度)を確かめる。
「空気漏れで性能が落ちた復水器」
ある発電所の復水器で、冷却水の温度も流量も変わらないのに真空度が悪くなり、タービンの出力が落ちた。原因は、軸の封じ部からのわずかな空気の漏れだった。蒸気が凝縮すると、空気だけが管の表面近くに残って薄い層をつくり、蒸気はその層を拡散で通り抜けなければならない。これが凝縮を大きく妨げる。空気抽出器を点検して漏れを止めると、真空度はもとに戻った。凝縮器の性能は、液膜だけでなく『蒸気側の見えない空気の層』にも左右される。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 凝縮しないガスを無視 | 性能を過大評価 | 抽気と拡散の考慮 |
| 管群に1本の式 | 熱伝達率が高すぎる | 段数補正 |
| 波を無視(高Re) | 熱伝達率が低すぎる | 波状層流の式 |
| 物性を蒸気温度で評価 | 誤差 | 膜温度で評価 |
| 滴状凝縮で設計 | 経年で性能不足 | 膜状で設計 |
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