温度成層解析
理論:浮力が混合を抑える
概要
貯湯タンクの中では、お湯はよく混ざっているものだと思っていました。そうじゃないんですか?
うまく設計されたタンクでは、上に熱い湯、下に冷たい水がたまり、その間に温度が急に変わる薄い層(温度躍層)ができる。熱い湯は軽いので浮力で上にとどまり、混ざりにくい。お湯を使うと上から熱い湯が出て、下から冷たい水が入り、境目がそのまま上がっていく。この成層が保てるかどうかで、同じタンクから使えるお湯の量が大きく変わる。数値で確かめてみよう。
1次元のモデル
$u$ は取り出しによる上向きの速さ、$D_{eff}$ は上下方向の実効拡散係数。成層が理想的なら水の熱拡散率 $\alpha$ だけだが、給水の勢いや壁を伝わる熱、自然対流による混合 $D_{mix}$ が加わると大きくなる。
成層を壊す力と守る力
リチャードソン数 $Ri$ は、浮力(密度差)と給水の勢いの比。1より大きければ浮力が勝ち、成層は保たれる。何もしなくても、熱伝導だけで温度躍層の厚さ $\delta$ は時間の平方根で広がっていく。
湖の夏の成層
温度成層は、自然界では湖でよく知られている。夏の湖は、日射で温まった軽い表層と、冷たく重い深層に分かれ、その間に温度躍層ができる。深層は表層と混ざらないため、酸素が補給されず、魚がすめなくなることもある。秋に表層が冷えて重くなると、上下が一気に入れ替わる『全循環』が起きる。工学の貯湯タンクや蓄熱槽は、この自然の仕組みを積極的に利用して、熱をためている。
計算例:200 Lの貯湯タンク
高さ1.5 m、最初はすべて60℃。上から毎分10 Lで取り出し、下から15℃の水が入る(20分で1杯分)。45℃以上で出てくる湯の量を、タンク容量に対する割合で比べた。蓄えた熱量は10.4 kWh。
混合の強さと使えるお湯
| 上下方向の混合 | 45℃以上で使える量 |
|---|---|
| 熱伝導のみ(α) | 99.5% |
| α の10倍 | 98.3% |
| α の100倍 | 94.8% |
| α の1000倍 | 85.7% |
| 完全に混合 | 40.5% |
放置中の温度躍層の広がり
| 放置時間 | 温度躍層の厚さ(10〜90%) |
|---|---|
| 1 時間 | 8 cm |
| 6 時間 | 21 cm |
| 24 時間 | 41 cm |
給水口の形とリチャードソン数
| 給水口 | 流入速度 | Ri |
|---|---|---|
| 直径15 mmの管 | 0.94 m/s | 0.003 |
| 直径100 mmの拡散板(横向き) | 0.053 m/s | 5.6 |
同じ熱をためていても、混ざってしまうと使えるお湯が半分以下になるんですね。
完全に混ざると、タンク全体の温度が冷たい水で少しずつ薄まり、タンク容量の4割を出したところで45℃を切る。成層していれば、冷たい水は下にたまって、上の60℃の湯はほとんど最後まで薄まらない。エネルギーの量は同じでも、使える温度の熱がどれだけ残っているか(エクセルギー)が違うのだ。成層を壊す一番の原因は給水の勢いで、細い管から勢いよく入れるとリチャードソン数が0.003と小さく、底の冷水を周りと混ぜてしまう。拡散板で流速を約18分の1に落とせば5.6となり、冷たい水は静かに底に広がる。
解析のポイント
- 温度躍層を解くために、上下方向の格子を細かくする(躍層の中に10点以上)。
- 数値拡散で成層が崩れて見えることがある。高次の対流項スキームを使う。
- 乱流モデルは浮力による乱れの抑制を考えたものを使う。標準のk-εは混合を過大に見積もりやすい。
- 壁の熱伝導と周囲への熱損失を入れる。金属の壁は上下の熱の近道になる。
- 給水・取出口の形を実物どおりにモデル化する。成層の良し悪しはここで決まる。
「容量を増やしてもお湯が足りない」
ある施設で、給湯が足りないという苦情が続き、貯湯タンクを大きいものに替えたが、改善は思ったほどではなかった。調べると、給水が底の細い管から勢いよく入り、タンクの下半分がいつもかき混ぜられて、成層がほとんどできていなかった。給水口に拡散板を付けて流れを横に広げるだけで、同じタンクから45℃以上で出るお湯の量が大きく増えた。タンクの大きさより、中の温度の分かれ方が性能を決めていた例だ。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| タンクを完全混合で計算 | 使える量を過小評価 | 成層を考慮 |
| 上下の格子が粗い | 躍層が広がって見える | 躍層を細かく |
| 1次風上差分 | 数値拡散 | 高次スキーム |
| 浮力の乱流への効果を無視 | 混合を過大評価 | 浮力項を入れる |
| 給水口を単純化 | 成層の崩れを見逃す | 実形状で解く |
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