温度成層解析

カテゴリ: 連成解析・熱流体 | 2026-10-01 改稿
CAE visualization for thermal stratification theory - technical simulation diagram
温度成層解析

理論:浮力が混合を抑える

概要

🙋

貯湯タンクの中では、お湯はよく混ざっているものだと思っていました。そうじゃないんですか?

🎓

うまく設計されたタンクでは、上に熱い湯、下に冷たい水がたまり、その間に温度が急に変わる薄い層(温度躍層)ができる。熱い湯は軽いので浮力で上にとどまり、混ざりにくい。お湯を使うと上から熱い湯が出て、下から冷たい水が入り、境目がそのまま上がっていく。この成層が保てるかどうかで、同じタンクから使えるお湯の量が大きく変わる。数値で確かめてみよう。

1次元のモデル

$$ \frac{\partial T}{\partial t} + u\frac{\partial T}{\partial z} = D_{eff}\frac{\partial^2 T}{\partial z^2},\qquad D_{eff} = \alpha + D_{mix} $$

$u$ は取り出しによる上向きの速さ、$D_{eff}$ は上下方向の実効拡散係数。成層が理想的なら水の熱拡散率 $\alpha$ だけだが、給水の勢いや壁を伝わる熱、自然対流による混合 $D_{mix}$ が加わると大きくなる。

成層を壊す力と守る力

$$ Ri = \frac{g\,(\Delta\rho/\rho)\,d}{u_{in}^2},\qquad \delta_{10\text{-}90} = 3.62\sqrt{\alpha t} $$

リチャードソン数 $Ri$ は、浮力(密度差)と給水の勢いの比。1より大きければ浮力が勝ち、成層は保たれる。何もしなくても、熱伝導だけで温度躍層の厚さ $\delta$ は時間の平方根で広がっていく。

Coffee Break よもやま話

湖の夏の成層

温度成層は、自然界では湖でよく知られている。夏の湖は、日射で温まった軽い表層と、冷たく重い深層に分かれ、その間に温度躍層ができる。深層は表層と混ざらないため、酸素が補給されず、魚がすめなくなることもある。秋に表層が冷えて重くなると、上下が一気に入れ替わる『全循環』が起きる。工学の貯湯タンクや蓄熱槽は、この自然の仕組みを積極的に利用して、熱をためている。

計算例:200 Lの貯湯タンク

高さ1.5 m、最初はすべて60℃。上から毎分10 Lで取り出し、下から15℃の水が入る(20分で1杯分)。45℃以上で出てくる湯の量を、タンク容量に対する割合で比べた。蓄えた熱量は10.4 kWh。

混合の強さと使えるお湯

上下方向の混合45℃以上で使える量
熱伝導のみ(α)99.5%
α の10倍98.3%
α の100倍94.8%
α の1000倍85.7%
完全に混合40.5%

放置中の温度躍層の広がり

放置時間温度躍層の厚さ(10〜90%)
1 時間8 cm
6 時間21 cm
24 時間41 cm

給水口の形とリチャードソン数

給水口流入速度Ri
直径15 mmの管0.94 m/s0.003
直径100 mmの拡散板(横向き)0.053 m/s5.6
🙋

同じ熱をためていても、混ざってしまうと使えるお湯が半分以下になるんですね。

🎓

完全に混ざると、タンク全体の温度が冷たい水で少しずつ薄まり、タンク容量の4割を出したところで45℃を切る。成層していれば、冷たい水は下にたまって、上の60℃の湯はほとんど最後まで薄まらない。エネルギーの量は同じでも、使える温度の熱がどれだけ残っているか(エクセルギー)が違うのだ。成層を壊す一番の原因は給水の勢いで、細い管から勢いよく入れるとリチャードソン数が0.003と小さく、底の冷水を周りと混ぜてしまう。拡散板で流速を約18分の1に落とせば5.6となり、冷たい水は静かに底に広がる。

解析のポイント

  1. 温度躍層を解くために、上下方向の格子を細かくする(躍層の中に10点以上)。
  2. 数値拡散で成層が崩れて見えることがある。高次の対流項スキームを使う。
  3. 乱流モデルは浮力による乱れの抑制を考えたものを使う。標準のk-εは混合を過大に見積もりやすい。
  4. 壁の熱伝導と周囲への熱損失を入れる。金属の壁は上下の熱の近道になる。
  5. 給水・取出口の形を実物どおりにモデル化する。成層の良し悪しはここで決まる。
Coffee Break よもやま話

「容量を増やしてもお湯が足りない」

ある施設で、給湯が足りないという苦情が続き、貯湯タンクを大きいものに替えたが、改善は思ったほどではなかった。調べると、給水が底の細い管から勢いよく入り、タンクの下半分がいつもかき混ぜられて、成層がほとんどできていなかった。給水口に拡散板を付けて流れを横に広げるだけで、同じタンクから45℃以上で出るお湯の量が大きく増えた。タンクの大きさより、中の温度の分かれ方が性能を決めていた例だ。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
タンクを完全混合で計算使える量を過小評価成層を考慮
上下の格子が粗い躍層が広がって見える躍層を細かく
1次風上差分数値拡散高次スキーム
浮力の乱流への効果を無視混合を過大評価浮力項を入れる
給水口を単純化成層の崩れを見逃す実形状で解く
🙋

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