パラボラ反射鏡アンテナのCAE解析
理論:口径が大きいほど鋭いビーム
概要
衛星放送のアンテナは直径45 cmくらいなのに、衛星の地上局は何メートルもありますよね。大きさで何が変わるんですか?
パラボラは、焦点に置いた給電部(ホーンなど)から出た電波を、放物面で反射させて平行な波にそろえるアンテナだ。口径が波長の何倍あるかで性能が決まる。口径が大きいほど電波を細いビームに絞れて、利得(ある方向にどれだけ強く出せるか)が上がる。地上局が大きいのは、弱い信号を拾い、ほかの衛星からの電波を拾わないよう、ビームを細くする必要があるからなんだ。
利得・ビーム幅・遠方界距離
$\eta$ は開口効率で、給電部の照射のむら、こぼれ(反射鏡の外へ漏れる電波)、給電部や支柱による遮へいなどで決まり、0.55〜0.75程度が多い。$\theta_{3dB}$ はビームの半値幅、$R_{ff}$ は遠方界とみなせる距離。大きなアンテナほど遠方界の距離が長く、測定や解析で注意が要る。
鏡面精度とRuzeの式
$\varepsilon$ は理想の放物面からのずれの二乗平均。ずれがあると反射した波の位相がそろわなくなり、利得が下がる。損失は周波数の2乗で増えるので、高い周波数ほど鏡面の精度が厳しくなる。
ヘルツの実験から電波望遠鏡へ
1888年、ヘルツは電磁波の存在を確かめる実験で、すでに放物柱面の反射鏡を使って電波を集めていた。第二次世界大戦中にはレーダーのために反射鏡アンテナが急速に発達し、戦後は電波天文学がこれを受け継いだ。1960年代には直径数十mの電波望遠鏡が次々に作られ、自重や風、日射による鏡面のゆがみをどう抑えるかが大きな課題になった。重力で変形しても、変形後の形がやはり放物面になるように構造を設計する「ホモロガス設計」はこの課題への答えの一つだ。
計算例
例1:口径と周波数による利得
開口効率0.65とした場合。
| 周波数 | 口径 | 利得 | 半値幅 | 遠方界距離 |
|---|---|---|---|---|
| 12 GHz | 0.6 m | 35.7 dBi | 2.9° | 29 m |
| 12 GHz | 1.2 m | 41.7 dBi | 1.5° | 115 m |
| 12 GHz | 3.0 m | 49.7 dBi | 0.58° | 720 m |
| 30 GHz | 1.2 m | 49.7 dBi | 0.58° | 288 m |
| 30 GHz | 3.0 m | 57.6 dBi | 0.23° | 1,800 m |
口径3 mで30 GHzだと、遠方界が1.8 kmもあるんですね。
そう。だから大きなアンテナは、屋外の長い測定距離をとるか、近くで電界を測って遠方の特性に変換する近傍界測定を使う。解析でも、遠方界の式が使えるのはこの距離より遠い場合だけだ。それと、ビーム幅0.23°はアンテナの向きが0.1°ずれただけで利得が大きく落ちる細さだから、支持構造が風や温度でたわむ量も利得に直結する。電磁界と構造を一緒に評価する理由の1つだよ。
例2:鏡面誤差による損失
| 鏡面誤差(二乗平均) | 12 GHz | 30 GHz | 90 GHz |
|---|---|---|---|
| 0.2 mm | 0.04 dB | 0.27 dB | 2.5 dB |
| 0.5 mm | 0.27 dB | 1.7 dB | 15 dB |
| 1.0 mm | 1.1 dB | 6.9 dB | — |
同じ0.5 mmのゆがみでも、12 GHzではほとんど問題にならないが、30 GHzでは利得の約3割、90 GHzでは大部分を失う。周波数を上げる計画では、反射鏡の製造精度と、自重・風・温度による変形の両方を見直す必要がある。
例3:焦点距離と皿の深さ
| f/D | 焦点距離(口径1.2 m) | 皿の深さ |
|---|---|---|
| 0.25 | 0.30 m | 300 mm |
| 0.40 | 0.48 m | 188 mm |
| 0.60 | 0.72 m | 125 mm |
f/Dが小さい深い皿は給電部を反射鏡に近づけられるが、給電部には広い角度を照らすパターンが必要になる。f/Dが大きい浅い皿は給電部の設計が楽になる代わりに、支柱が長くなる。給電部の放射パターンと反射鏡の形はセットで決める。
解析の進め方
手法の選び方
| 対象 | 手法 | 理由 |
|---|---|---|
| 給電ホーン | 有限要素法・モーメント法 | 波長程度の大きさで細かな形状が効く |
| 反射鏡 | 物理光学(PO) | 波長の何十倍もの大きさ |
| 縁の回折・サイドローブ | PO+回折の補正 | 広角の放射を正しく表す |
| 鏡面の変形 | 構造解析→PO | 変形形状を電磁界解析に渡す |
注意点
- 遮へい:給電部と支柱は開口の一部をふさぎ、利得を下げてサイドローブを上げる。形状に入れる。
- 給電位置のずれ:焦点からずれると位相がそろわず、ビームの向きが変わったり利得が落ちたりする。
- サイドローブの規制:衛星通信では隣の衛星への干渉を防ぐため、サイドローブの上限が決められている。
「晴れた日の午後だけ性能が落ちる」
大きな反射鏡アンテナで、晴れた日の午後だけ受信レベルが下がる、ということがある。日射で反射鏡の片側だけが温まり、熱膨張で鏡面がゆがむのだ。数十mのアンテナなら、部材の温度差が数Kでも鏡面は1 mm程度ゆがみ得る。高い周波数では、これだけで数dBの損失になる。電波望遠鏡では、温度を測って鏡面を細かく動かす仕組みや、構造の材料と塗装の工夫で対策している。熱・構造・電磁界の連成で評価する典型的な例だ。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 開口効率を1とする | 利得を約2 dB過大評価 | 照射・こぼれ・遮へいを評価 |
| 近距離で遠方界の式を使う | パターンを誤る | 2D²/λ を確認 |
| 鏡面の変形を無視 | 高周波で利得不足 | 構造解析の変形をPOへ |
| 全体を有限要素法で解く | 計算が終わらない | PO と組み合わせる |
| 支柱の遮へいを省略 | サイドローブを過小評価 | 支柱を形状に入れる |
利得や回線の計算を自分でも試したいです。
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