パラボラ反射鏡アンテナのCAE解析

カテゴリ: 電磁界解析 | 2026-09-30 改稿
Parabolic reflector antenna radiation pattern analysis showing aperture field distribution and far-field gain
パラボラ反射鏡アンテナ — 放物面上のPO電流分布と遠方界放射パターン

理論:口径が大きいほど鋭いビーム

概要

🙋

衛星放送のアンテナは直径45 cmくらいなのに、衛星の地上局は何メートルもありますよね。大きさで何が変わるんですか?

🎓

パラボラは、焦点に置いた給電部(ホーンなど)から出た電波を、放物面で反射させて平行な波にそろえるアンテナだ。口径が波長の何倍あるかで性能が決まる。口径が大きいほど電波を細いビームに絞れて、利得(ある方向にどれだけ強く出せるか)が上がる。地上局が大きいのは、弱い信号を拾い、ほかの衛星からの電波を拾わないよう、ビームを細くする必要があるからなんだ。

利得・ビーム幅・遠方界距離

$$ G = \eta\left(\frac{\pi D}{\lambda}\right)^2, \qquad \theta_{3dB} \approx 70\,\frac{\lambda}{D}\ [\mathrm{deg}], \qquad R_{ff} = \frac{2D^2}{\lambda} $$

$\eta$ は開口効率で、給電部の照射のむら、こぼれ(反射鏡の外へ漏れる電波)、給電部や支柱による遮へいなどで決まり、0.55〜0.75程度が多い。$\theta_{3dB}$ はビームの半値幅、$R_{ff}$ は遠方界とみなせる距離。大きなアンテナほど遠方界の距離が長く、測定や解析で注意が要る。

鏡面精度とRuzeの式

$$ \frac{G}{G_0} = \exp\!\left[-\left(\frac{4\pi\varepsilon}{\lambda}\right)^2\right] $$

$\varepsilon$ は理想の放物面からのずれの二乗平均。ずれがあると反射した波の位相がそろわなくなり、利得が下がる。損失は周波数の2乗で増えるので、高い周波数ほど鏡面の精度が厳しくなる。

Coffee Break よもやま話

ヘルツの実験から電波望遠鏡へ

1888年、ヘルツは電磁波の存在を確かめる実験で、すでに放物柱面の反射鏡を使って電波を集めていた。第二次世界大戦中にはレーダーのために反射鏡アンテナが急速に発達し、戦後は電波天文学がこれを受け継いだ。1960年代には直径数十mの電波望遠鏡が次々に作られ、自重や風、日射による鏡面のゆがみをどう抑えるかが大きな課題になった。重力で変形しても、変形後の形がやはり放物面になるように構造を設計する「ホモロガス設計」はこの課題への答えの一つだ。

計算例

例1:口径と周波数による利得

開口効率0.65とした場合。

周波数口径利得半値幅遠方界距離
12 GHz0.6 m35.7 dBi2.9°29 m
12 GHz1.2 m41.7 dBi1.5°115 m
12 GHz3.0 m49.7 dBi0.58°720 m
30 GHz1.2 m49.7 dBi0.58°288 m
30 GHz3.0 m57.6 dBi0.23°1,800 m
🙋

口径3 mで30 GHzだと、遠方界が1.8 kmもあるんですね。

🎓

そう。だから大きなアンテナは、屋外の長い測定距離をとるか、近くで電界を測って遠方の特性に変換する近傍界測定を使う。解析でも、遠方界の式が使えるのはこの距離より遠い場合だけだ。それと、ビーム幅0.23°はアンテナの向きが0.1°ずれただけで利得が大きく落ちる細さだから、支持構造が風や温度でたわむ量も利得に直結する。電磁界と構造を一緒に評価する理由の1つだよ。

例2:鏡面誤差による損失

鏡面誤差(二乗平均)12 GHz30 GHz90 GHz
0.2 mm0.04 dB0.27 dB2.5 dB
0.5 mm0.27 dB1.7 dB15 dB
1.0 mm1.1 dB6.9 dB—

同じ0.5 mmのゆがみでも、12 GHzではほとんど問題にならないが、30 GHzでは利得の約3割、90 GHzでは大部分を失う。周波数を上げる計画では、反射鏡の製造精度と、自重・風・温度による変形の両方を見直す必要がある。

例3:焦点距離と皿の深さ

$$ z = \frac{r^2}{4F}, \qquad \text{depth} = \frac{D^2}{16F} $$
f/D焦点距離(口径1.2 m)皿の深さ
0.250.30 m300 mm
0.400.48 m188 mm
0.600.72 m125 mm

f/Dが小さい深い皿は給電部を反射鏡に近づけられるが、給電部には広い角度を照らすパターンが必要になる。f/Dが大きい浅い皿は給電部の設計が楽になる代わりに、支柱が長くなる。給電部の放射パターンと反射鏡の形はセットで決める。

解析の進め方

手法の選び方

対象手法理由
給電ホーン有限要素法・モーメント法波長程度の大きさで細かな形状が効く
反射鏡物理光学(PO)波長の何十倍もの大きさ
縁の回折・サイドローブPO+回折の補正広角の放射を正しく表す
鏡面の変形構造解析→PO変形形状を電磁界解析に渡す

注意点

  • 遮へい:給電部と支柱は開口の一部をふさぎ、利得を下げてサイドローブを上げる。形状に入れる。
  • 給電位置のずれ:焦点からずれると位相がそろわず、ビームの向きが変わったり利得が落ちたりする。
  • サイドローブの規制:衛星通信では隣の衛星への干渉を防ぐため、サイドローブの上限が決められている。
Coffee Break よもやま話

「晴れた日の午後だけ性能が落ちる」

大きな反射鏡アンテナで、晴れた日の午後だけ受信レベルが下がる、ということがある。日射で反射鏡の片側だけが温まり、熱膨張で鏡面がゆがむのだ。数十mのアンテナなら、部材の温度差が数Kでも鏡面は1 mm程度ゆがみ得る。高い周波数では、これだけで数dBの損失になる。電波望遠鏡では、温度を測って鏡面を細かく動かす仕組みや、構造の材料と塗装の工夫で対策している。熱・構造・電磁界の連成で評価する典型的な例だ。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
開口効率を1とする利得を約2 dB過大評価照射・こぼれ・遮へいを評価
近距離で遠方界の式を使うパターンを誤る2D²/λ を確認
鏡面の変形を無視高周波で利得不足構造解析の変形をPOへ
全体を有限要素法で解く計算が終わらないPO と組み合わせる
支柱の遮へいを省略サイドローブを過小評価支柱を形状に入れる
🙋

利得や回線の計算を自分でも試したいです。

🎓

アンテナ利得の計算で利得、フリスの伝達公式で通信回線、放射パターン・シミュレーターで放射パターンを試せるよ。給電部はホーンアンテナ、基本は利得と指向性と放射パターン、電子的にビームを振る方法はビームフォーミングの記事にある。

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