EMIフィルタ設計
理論:挿入損失と寄生成分
概要
電源の伝導ノイズが規格を超えたので、フィルタを入れたいのですが、どう選べばいいですか?
まず、どの周波数で何dB足りないかを測る。伝導ノイズは150 kHzから30 MHzが対象で、スイッチング電源では低い周波数側の差動モードと、高い周波数側のコモンモードが問題になりやすい。LCフィルタはカットオフより上で1桁あたり約40 dB減衰するので、必要な減衰量からLとCを決められる。ただし、ここで計算する減衰は理想部品の話で、実際のインダクタには巻線の間の静電容量、コンデンサにはリードや電極のインダクタンスがある。それらが効くと、高い周波数ではフィルタがほとんど効かなくなる。だから低い周波数の減衰と、高い周波数での寄生成分の両方を見て設計する。
挿入損失
フィルタを入れる前後の負荷電圧の比。電源側と負荷側をどちらも50 Ω(LISNの規定値)とした。直列のL、負荷側に並列のCの1段フィルタで、L = 100 μH、C = 1 μF。
寄生成分と自己共振
C_p はインダクタの巻線間容量(20 pF)、L_ESL と R_ESR はコンデンサの等価直列インダクタンス(15 nH)と抵抗(10 mΩ)。
ラジオ放送を守るための規格
電気機器のノイズを規制する国際的な取り組みは、1934年に設立されたCISPR(国際無線障害特別委員会)に始まる。当初の目的は、普及し始めたラジオ放送の受信を、モーターや電灯の雑音から守ることだった。伝導ノイズの測定で電源線に入れるLISN(擬似電源回路網)は、測定のたびに電源のインピーダンスが変わらないよう、50 Ωの基準を与える装置だ。フィルタの性能も、この50 Ωを前提に比べられることが多い。
計算例
例1:理想部品と寄生成分ありの挿入損失(L = 100 μH、C = 1 μF、カットオフ15.9 kHz)
| 周波数 | 理想 | 寄生成分あり | 巻線間容量だけ | ESLだけ |
|---|---|---|---|---|
| 150 kHz | 34.0 dB | 34.1 dB | 34.0 dB | 34.1 dB |
| 1 MHz | 65.9 dB | 74.3 dB | 66.6 dB | 73.6 dB |
| 5 MHz | 93.9 dB | 71.3 dB | 94.1 dB | 71.1 dB |
| 10 MHz | 105.9 dB | 53.8 dB | 89.1 dB | 70.6 dB |
| 30 MHz | 125.0 dB | 33.6 dB | 88.2 dB | 70.5 dB |
インダクタの自己共振は3.56 MHz、コンデンサは1.30 MHz。1 MHz付近ではコンデンサが直列共振に近づいて減衰がむしろ増えるが、それより上では両方の寄生成分が重なって減衰が急に落ちる。
例2:150 kHzで60 dBを得る方法
| 構成 | 部品 | 150 kHzの挿入損失 |
|---|---|---|
| 1段(基準) | 100 μH + 1 μF | 34.0 dB |
| 1段(大きくする) | 473 μH + 4.73 μF | 60.0 dB |
| 2段 | 100 μH + 1 μF を2組 | 72.7 dB |
1段で大きな部品を使うより、同じ部品を2段にしたほうがよく効くんですね。
1段の減衰は周波数の2乗で増えるが、部品の値に対してはLとCの積に比例するだけなので、20 dB増やすには積を10倍にしなければならない。2段にすると、減衰は周波数の4乗で増え、同じ部品でも段の数だけ掛け算で効く。大きなインダクタは巻数が増えて巻線間容量も大きくなり、高い周波数の性能が悪くなるので、その点でも段数を増やすほうが有利だ。ただし段の間で共振が起きることがあるので、減衰用の抵抗(ダンピング)を入れて共振の山を抑える。また、どれだけ部品がよくても、入力側と出力側の配線が近くて磁界や電界で結合すると、ノイズはフィルタを飛び越えてしまう。高い周波数では部品の配置と接地が性能を決める。
設計と解析の進め方
- 対策なしのノイズを差動モードとコモンモードに分けて測る。
- 規格との差に余裕を加えて、必要な挿入損失を周波数ごとに決める。
- 部品の寄生成分を含めた回路シミュレーションで挿入損失を確認する。
- 段間の共振をダンピング抵抗で抑える。
- 基板の配置で入出力の結合と接地インピーダンスを小さくし、実測で確かめる。
「大きなチョークに替えたら悪化した」
ある電源で20 MHz付近のノイズが規格を超え、コモンモードチョークをインダクタンスの大きいものに替えたところ、低い周波数は改善したが20 MHz付近はかえって悪化した。大きなチョークは巻数が多く、巻線間容量が大きいため、自己共振が数MHzまで下がり、20 MHzでは容量として働いてノイズを通していた。インダクタンスの小さい高周波用のチョークを追加して2段にし、20 MHz付近でも規格内に収めた。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 理想部品で設計 | 高周波で効かない | 寄生成分を入れる |
| Lを大きくして済ます | 自己共振が下がる | 段数を増やす |
| ノイズのモードを分けない | 効かない対策をする | 差動・コモンを分離 |
| 段間共振を無視 | 特定周波数で悪化 | ダンピングを入れる |
| 入出力の配線が近い | フィルタを迂回 | 配置を分ける |
関連する内容も知りたいです。
関連するページは伝導エミッション、CISPR規格、接地とボンディング、近傍界結合、EMCを考えた基板レイアウトが参考になる。
なった
詳しく
報告