近傍界電磁結合解析
理論:近くでは電界と磁界を別々に考える
概要
基板の上で、スイッチング電源の配線の近くを通るセンサの信号にノイズが乗ります。電波として飛んでいるんでしょうか?
たぶん違うね。数cmの距離なら、ほとんどの周波数で『近傍界』の中だ。近傍界では電界と磁界がまだ電波としてまとまっていなくて、電圧の変化が容量を通して、電流の変化が相互インダクタンスを通して、隣の配線に直接つながる。電波の問題ではなく、回路の寄生成分の問題として考えるのが近道だよ。どちらの結合が効いているかは、電圧が大きく変わる所か、電流が大きく変わる所かで見分けられる。
近傍界と遠方界の境目
| 周波数 | 境目の目安 |
|---|---|
| 1 MHz | 48 m |
| 10 MHz | 4.8 m |
| 100 MHz | 48 cm |
| 1 GHz | 4.8 cm |
誘導結合(磁界)
グランド面から高さ $h$ にある2本の配線(間隔 $d$)の、長さ $l$ あたりの相互インダクタンス。グランド面に流れる帰りの電流が磁界を打ち消すので、配線が面に近いほど結合は弱い。$h$ と $d$ が配線の幅より十分大きいときの近似。
容量結合(電界)
$C_m$ は配線間の相互容量。電圧が速く大きく変わる箇所(スイッチングノード、クロック)から、インピーダンスの高い受け側(センサ入力、リセット線)に電流が流れ込む。受け側のインピーダンスが高いほど、同じ電流でも大きな電圧になる。
電話の混線から始まったクロストーク
19世紀末、電信柱に並んで張られた電話線では、隣の回線の会話が聞こえる「混線」が大きな問題だった。原因はまさに線どうしの容量と相互インダクタンスによる近傍界の結合で、対策として2本の線をより合わせる「より対線」や、線の位置を一定間隔で入れ替える「ねん架」が考え出された。より対線はいまもLANケーブルに使われている。高速化した今の基板やケーブルの設計も、基本の考え方は当時と同じだ。
計算例
例1:配線の間隔
グランド面から高さ0.2 mm、並んで走る長さ50 mmの2本の配線で、片方に1 Aの電流が10 nsで立ち上がる場合(di/dt = 10⁸ A/s)。
| 間隔 | 相互インダクタンス | 誘導電圧 |
|---|---|---|
| 0.2 mm | 8.1 nH | 805 mV |
| 0.5 mm | 2.5 nH | 247 mV |
| 1.0 mm | 0.74 nH | 74 mV |
| 3.0 mm | 0.09 nH | 9 mV |
間隔を15倍にしたら、電圧は90分の1になるんですね。
グランド面があると、離れるほど結合がおよそ間隔の2乗に反比例して弱まるからね。0.2 mm間隔の805 mVは、3.3 Vのロジックの誤動作やアナログ信号の大きな誤差になる。逆に言えば、間隔を少し広げるだけで効果が大きい。ただしこの式はグランド面が切れ目なく続いていることが前提。面にスリットがあって帰りの電流が遠回りすると、結合は何倍にもなる。
例2:グランド面との距離
| 高さ | 相互インダクタンス(間隔1 mm) | 誘導電圧 |
|---|---|---|
| 0.1 mm | 0.20 nH | 20 mV |
| 0.2 mm | 0.74 nH | 74 mV |
| 0.8 mm | 6.4 nH | 635 mV |
同じ間隔でも、グランド面から遠い(2層基板のように裏面がグランドで厚い)と結合は30倍以上になる。多層基板で信号層のすぐ下にグランド層を置くのは、この効果のためだ。
例3:磁界源からの距離
小さな電流ループ(インダクタ、トランス、スイッチングループ)の近傍の磁界は距離の3乗に反比例する。距離を2倍にすると約18 dB、3倍で約29 dB、10倍で60 dB弱まる。敏感な回路をノイズ源から少し離すだけで大きな効果がある一方、近くに置くと急に悪くなる。
解析と対策
解析の進め方
- ノイズ源が電圧型(dV/dt大)か電流型(di/dt大)かを見分ける。
- 配線の寄生容量と相互インダクタンスを2次元の断面解析で求め、回路シミュレーションに入れる。
- グランド面の切れ目、部品の配置など3次元の影響が大きい所は、3次元の電磁界解析で確かめる。
- 近傍界プローブで実機の磁界・電界を測り、解析と比べる。
対策
- ループを小さく:スイッチング電流の往復の経路を近づけ、面積を減らす。
- 間隔とグランド:敏感な配線はノイズ源から離し、切れ目のないグランド面の上を通す。
- ガード配線:間にグランドに落とした配線を通して容量結合を減らす。
「グランド面のスリットで10倍悪化」
基板の改版で、別の電源の配線を通すためにグランド面に細い切れ目を入れたら、その上をまたぐ信号のノイズが急に増えた——よくある話だ。帰りの電流は信号の真下のグランド面を流れようとするが、切れ目があると回り込んで大きなループができる。ループの面積が増えると、相互インダクタンスも放射も大きくなる。解析では、グランド面を一様な理想の面として扱うとこの効果が見えないので、実際の形状どおりに切れ目を入れておくことが大切だ。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 機器内を遠方界で考える | 原因を誤る | λ/2π と距離を比べる |
| グランド面を理想化 | スリットの影響を見落とす | 切れ目を形状に入れる |
| 電圧型と電流型を混同 | 効かない対策 | dV/dt と di/dt を確認 |
| 受け側のインピーダンスを考えない | 影響を過小評価 | 受け側まで回路で評価 |
| ループ面積を放置 | 磁界結合が大きい | 往復の経路を近づける |
結合の計算を自分でも試したいです。
結合線路のクロストークでクロストーク、電磁誘導シミュレーターとファラデーの法則で電磁誘導を試せるよ。対策の詳細はケーブルのクロストーク、基板のEMC設計、シールド効果、接地とボンディングの記事にある。
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