フラックスゲート磁力計
原理:飽和の「かたより」を読む
概要
人工衛星や地磁気の観測所では、ホール素子ではなくフラックスゲートを使うと聞きました。何がそんなに違うんですか?
測りたい磁界の小ささが違うんだ。地磁気はおよそ数十μT で、その中の数nT〜0.1 nT の変化を、何年も安定して測りたい。フラックスゲートは軟磁性のコアを交流でわざと飽和させ、その飽和の「かたより」から外部磁界を読み取る。ゼロ点が温度で動きにくく、低い周波数の微小な磁界に強いのが特長だよ。
2次高調波が出る仕組み
よく使われる構成では、2つのコア(またはリング状コアの左右半分)を互いに逆向きに励磁し、両方を囲む検出コイルで磁束の合計の変化を拾う。磁化曲線を飽和のある関数で近似すると次のように書ける。
外部磁界がゼロなら2つのコアの磁束は打ち消し合い、検出コイルには何も出ない。外部磁界があると、一方のコアは早く、もう一方は遅く飽和するので、半周期ごとに同じ形の差が現れる。これが励磁周波数の2倍の成分として出てくる。
地磁気は何 A/m か
フラックスゲートのコアに使うパーマロイやアモルファス合金は、数A/m〜数十A/m で飽和に近づく。つまり地磁気そのものがコアの飽和磁界と同程度の大きさで、「小さな磁界」として扱える範囲を超えることがある。これが次の節の直線性の問題につながる。
潜水艦探しから宇宙探査へ
フラックスゲートの原理自体は1930年代から知られていたが、実用化が急速に進んだのは第二次世界大戦中で、航空機から海中の潜水艦がつくる地磁気のわずかな乱れを探すために使われた。戦後は地質調査や資源探査に広がり、1950年代末からは人工衛星や惑星探査機に載せられて、地球や惑星の磁気圏の観測を支えてきた。数十年たった今も、宇宙での磁場計測の標準的なセンサであり続けている。
計算例:簡単なモデルで直線性を調べる
外部磁界と2次高調波の関係
上の式で $H_k = 10$ A/m、励磁振幅 $H_{exc} = 100$ A/m($H_k$ の10倍)とし、1周期を4096点で計算して2次高調波の振幅を求めた。値は $H_{ext} = 1$ A/m のときを1とした比。
| 外部磁界 $H_{ext}$ | 2次高調波 | 直線からのずれ |
|---|---|---|
| 1 A/m | 1.000 | 0 % |
| 5 A/m | 4.994 | −0.1 % |
| 10 A/m | 9.949 | −0.5 % |
| 20 A/m | 19.58 | −2.1 % |
| 40 A/m(地磁気程度) | 36.53 | −8.7 % |
地磁気くらいの大きさになると、9%近くも小さく出るんですね。これでnT を測るのは無理じゃないですか?
だから実際のフラックスゲートは閉ループで使うんだ。2次高調波を検出したら、それがゼロになるように別のコイル(フィードバックコイル)に電流を流して、外部磁界を打ち消す。コアは常にゼロ磁界の近くで動くから直線性の問題が消えて、測定値は「打ち消すのに必要だった電流」から求まる。直線性と安定性は、フィードバックコイルの寸法と電流の測定精度で決まることになる。
励磁振幅と感度
| 励磁振幅 | 感度($H_{exc} = 10H_k$ を1とする) |
|---|---|
| 0.5 $H_k$ | 0.84 |
| 1.5 $H_k$ | 3.05 |
| 3 $H_k$ | 2.82 |
| 10 $H_k$ | 1.00 |
| 30 $H_k$ | 0.34 |
この単純なモデル(ヒステリシスなし)では、感度は励磁振幅が飽和磁界の1.5〜3倍あたりで最大になり、強く励磁しすぎると飽和の遷移が短くなって下がる。実際の設計では、コアの磁気的な履歴(励磁を止めたあとに残るゼロ点のずれ)を消して雑音を下げるために、あえて飽和磁界の何倍も強く励磁することが多い。感度だけでなく、雑音とゼロ点の安定性との兼ね合いで決める値だ。
解析と設計の要点
電磁界解析でのモデル化
- 非線形の過渡解析が必要:飽和そのものが原理なので、線形の周波数領域解析では2次高調波は出てこない。コアの非線形B-H特性を入れ、励磁の数周期分を時間発展で解いて、検出コイルの電圧をフーリエ解析する。
- 時間刻み:飽和の遷移は周期のごく一部で起きるので、1周期を数百ステップ以上に分けないと高調波の振幅がずれる。
- 対称性の誤差:2つのコアや左右の巻線がわずかに非対称だと、外部磁界がなくても2次高調波が出てゼロ点のずれ(オフセット)になる。形状公差をパラメータにした感度解析が役に立つ。
- 周囲の磁性体:取り付け金具や筐体の鉄は磁界をゆがめ、磁化すればオフセットにもなる。センサの近くは非磁性材料にし、解析でもその影響を確かめる。
ほかの磁気センサとの比較
| センサ | 得意な用途 | 弱点 |
|---|---|---|
| フラックスゲート | 低周波の微小磁界(地磁気、宇宙、非破壊検査) | 消費電力・大きさ・応答周波数 |
| ホール効果センサ | 直流を含む中〜強磁界、電流センサ | ゼロ点の温度変動・雑音 |
| 磁気抵抗センサ | 小型で高感度、角度・位置検出 | 強い磁界で特性が変わる |
| サーチコイル | 交流磁界・磁束変化 | 直流は測れない |
「センサが止まっていても値が変わる」原因
フラックスゲートで精密に測っていると、センサも周囲も動いていないのに値がじわじわ変わることがある。原因として多いのは、温度変化によるフィードバックコイルの寸法の変化と、センサの近くにある電気機器の直流電流がつくる磁界だ。車1台が数十m先を通るだけでも数nT〜数十nT の変化になる。観測所が町から離れた場所に置かれるのはそのためで、実験室の測定でも、ケーブルの取り回しや電源の位置を記録しておくと原因を追いやすい。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 線形の周波数領域解析で解く | 2次高調波が出ない | 非線形B-Hで過渡解析 |
| 開ループのまま広い範囲を測る | 大きな磁界で出力が直線から外れる | フィードバックで打ち消して使う |
| 時間刻みが粗い | 高調波の振幅がずれる | 1周期を数百ステップ以上に |
| コア・巻線を理想的に対称とする | オフセットを見積もれない | 公差を入れた感度解析 |
| 周囲の鉄を無視 | ゆがみとオフセット | 非磁性材料にし、解析でも確認 |
磁化曲線の飽和がどう効くか、手を動かして確かめたいです。
磁気ヒステリシスシミュレーターや磁性材料・B-H特性計算機で飽和とヒステリシスの形を変えてみると、励磁振幅によってコアの動き方がどう変わるかがわかるよ。検出コイルに電圧が出る仕組みは電磁誘導(ファラデーの法則)シミュレーターで確認できる。
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