高周波変圧器設計
理論:周波数・磁束密度・断面積の関係
概要
スイッチング電源のトランスは手のひらに乗るくらいなのに、同じ電力の商用周波数のトランスはずっと重いですよね。何が違うんですか?
周波数だよ。トランスの巻線に電圧をかけると、鉄心の中の磁束が時間とともに変わる。1秒間に何回向きが変わるかが周波数で、周波数が高いほど、同じ電圧を支えるのに必要な磁束の量が少なくてすむ。だから鉄心を細くでき、巻数も減らせる。ただし周波数を上げると鉄心の損失と巻線の損失が増えるので、どこまでも小さくはできない。その釣り合いを決めるのが高周波トランスの設計なんだ。
巻数の決め方
方形波の電圧 $V$ に対して、巻数 $N$、周波数 $f$、磁束密度の最大値 $B_{pk}$、鉄心の断面積 $A_e$ の関係。$N A_e$ は $f B_{pk}$ に反比例する。正弦波では係数4が4.44になる。
鉄損の制限
$P_v$ は体積あたりの鉄損、$k$、$\alpha$、$\beta$ は材料で決まる定数(Steinmetzの式)。フェライトでは $\alpha$ が1〜2程度、$\beta$ が2〜3程度のことが多い。周波数を上げると鉄損が増えるので、許せる温度上昇の範囲に収めるには磁束密度を下げる必要がある。
巻線の表皮効果
高い周波数では電流が導体の表面から深さ $\delta$ 程度の範囲に集まる。線の直径が $2\delta$ を大きく超えると、中心部に電流が流れず抵抗が増える。隣の線の磁界で電流が偏る近接効果も重なり、多層の巻線では損失が何倍にもなる。
フェライトの発明がスイッチング電源を可能にした
鉄やケイ素鋼の鉄心は電気を通すため、周波数を上げると内部に渦電流が流れて発熱してしまう。1930年代、東京工業大学の加藤与五郎と武井武は、電気をほとんど通さない酸化鉄系の磁性体「フェライト」を発明した。渦電流がほとんど流れないので、数十kHz以上でも使える鉄心になった。その後、トランジスタで高速に電流を切り替える技術と組み合わさって、小さく軽いスイッチング電源が生まれ、今ではスマートフォンの充電器にも使われている。
計算例
例1:50 Hzと100 kHzの比較
400 Vの方形波を支える場合。50 Hzのケイ素鋼を最大1.5 T、100 kHzのフェライトを最大0.15 Tで使うとする。
| 条件 | 巻数×断面積 | 断面積2 cm²のときの巻数 |
|---|---|---|
| 50 Hz・ケイ素鋼 1.5 T | 1.33 m² | 約6,700回 |
| 100 kHz・フェライト 0.15 T | 0.0067 m² | 約34回 |
磁束密度は1/10に下げても、周波数が2,000倍になるので、必要な巻数×断面積は200分の1になる。実際の50 Hzトランスは断面積を大きくして巻数を数百回にするが、どちらにしても鉄心と銅の量が桁違いに多い。
例2:鉄損で頭打ちになる小型化
仮想のフェライト(α = 1.4、β = 2.5、100 kHz・0.1 Tで100 kW/m³)で、鉄損を200 kW/m³に抑えたときに使える磁束密度と、必要な巻数×断面積(50 kHzを1とする)。
| 周波数 | 使える磁束密度 | 巻数×断面積 | 銅の表皮深さ |
|---|---|---|---|
| 50 kHz | 0.195 T | 1.00 | 0.30 mm |
| 100 kHz | 0.132 T | 0.74 | 0.21 mm |
| 200 kHz | 0.090 T | 0.54 | 0.15 mm |
| 500 kHz | 0.054 T | 0.36 | 0.093 mm |
| 1 MHz | 0.036 T | 0.27 | 0.066 mm |
周波数を20倍にしても、大きさは1/4くらいにしかならないんですね。
そう。周波数を上げるたびに鉄損を抑えるために磁束密度を下げなきゃいけないから、効果の大部分が打ち消される。しかも表皮深さが浅くなって、1 MHzでは0.13 mmより細い素線が必要になる。巻線の損失とコストが増えるから、実際の製品は50〜500 kHzあたりで釣り合いをとることが多い。最近はGaNやSiCのトランジスタで高い周波数でも損失を抑えられるようになり、MHz帯の材料や平面の巻線を使った設計も増えているよ。
例3:同じトランスで周波数だけ変える
巻数と鉄心を100 kHz・0.15 T用に決めたトランスを、同じ電圧のまま50 kHzで使うと磁束密度は0.30 Tになり、鉄損は約2.1倍(276→591 kW/m³)に増える。フェライトは高温で飽和磁束密度が0.4 T前後まで下がるものも多く、飽和に近づくと電流が急増して壊れることもある。周波数を下げる変更は、必ず磁束密度と温度を確かめる。
解析と設計の進め方
手順
- 周波数と許せる温度上昇から、鉄損の上限と使える磁束密度を決める。
- ファラデーの法則で巻数と鉄心の大きさを決める。
- 表皮深さを見て、リッツ線・銅箔・平面巻線を選び、巻線損失を見積もる。
- 磁界解析で漏れインダクタンスと巻線の損失分布を求める。
- 熱解析で最高温度を確かめ、必要なら磁束密度を見直す。
「鉄損は計算どおりなのに熱い」
カタログの鉄損で計算したとおりの損失なのに、試作のトランスが予想より20〜30 K熱くなることがある。原因の多くは巻線だ。直流抵抗で計算した銅損に、表皮効果と近接効果が加わり、多層の巻線では交流抵抗が直流の何倍にもなる。さらに、鉄心のすき間(ギャップ)の近くでは磁束が漏れて巻線に入り込み、局所的に大きな渦電流が流れる。巻線の配置とギャップの位置まで含めた磁界解析で、損失の分布を確かめるのが確実だ。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 周波数を上げれば比例して小さくなると考える | 鉄損で過熱 | 鉄損の上限から磁束密度を決める |
| 直流抵抗で銅損を計算 | 巻線損失を過小評価 | 表皮・近接効果を入れる |
| 高温での飽和を確かめない | 電流が急増して破損 | 最高温度の飽和磁束密度で確認 |
| ギャップ近くに巻線 | 局所的な渦電流で発熱 | ギャップから離す・分散 |
| 周波数を下げる変更を安易に | 磁束密度が上がり飽和 | 巻数と磁束密度を再計算 |
トランスの設計を自分でも試したいです。
トランス設計ツールで巻数と鉄心、フライバックコンバータでフライバック用のトランス、表皮深さ計算で表皮深さ、変圧器効率ツールで効率を試せるよ。損失の詳しい見積もりはSteinmetzの式、巻線損失、漏れインダクタンス、プレーナトランスの記事を見てね。
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