シールド効果(SE)解析

カテゴリ: 電磁界解析 | 2026-09-30 改稿
CAE visualization for shielding effectiveness emc theory - technical simulation diagram
シールド効果(SE)解析

理論:吸収・反射・すき間

概要

🙋

基板を金属ケースに入れたのに、放射ノイズ試験の数百MHzで落ちました。金属で囲めば遮れるんじゃないんですか?

🎓

板そのものは十分遮っているはずだよ。問題はたいてい、ふたの継ぎ目、通気口、コネクタやケーブルの穴といった『すき間』なんだ。すき間の長さが波長の半分に近づくと、すき間自体がアンテナのように働いて電磁波を通してしまう。シールド効果は、材料の吸収と反射、そしてすき間からの漏れの3つに分けて考えると、どこを直せばいいかがはっきりする。

シールド効果の分解

$$ SE = 20\log_{10}\frac{|E_0|}{|E_s|} \approx A + R + B $$

$E_0$ はシールドがないときの電界、$E_s$ はあるときの電界。$A$ は材料の中を通る間に減衰する吸収損失、$R$ は表面で跳ね返る反射損失、$B$ は板の中で何度も反射する分の補正で、板厚が表皮深さより十分厚ければ無視できる(薄いと負の値になって効果を下げる)。

吸収損失と表皮深さ

$$ \delta = \frac{1}{\sqrt{\pi f \mu \sigma}}, \qquad A = 8.686\,\frac{t}{\delta}\ \text{dB} $$

表皮深さ $\delta$ は、電磁界が材料の中で約37%(1/e)まで弱まる深さ。周波数・透磁率・導電率が大きいほど浅くなる。板厚が表皮深さ1つ分で約8.7 dB減衰する。

反射損失

$$ R_{plane} \approx 168 - 10\log_{10}\!\left(\frac{\mu_r f}{\sigma_r}\right)\ \text{dB} $$

発生源から十分離れた平面波に対する反射損失。$\mu_r$ は比透磁率、$\sigma_r$ は銅に対する導電率の比。発生源に近い磁界では、波のインピーダンスが小さいため反射損失がずっと小さくなり、低い周波数の磁界は遮りにくい。

Coffee Break よもやま話

ファラデーの「かご」

1836年、ファラデーは金属箔で覆った部屋の中に入り、外で大きな放電を起こしても中の検電器が反応しないことを確かめた。導体で囲むと内側の電界が打ち消されるこの性質から、金属で囲った空間は「ファラデーケージ」と呼ばれる。ただし、これは静電界の話で、高い周波数の電磁波では事情が変わる。網やすき間の大きさが波長に比べて小さいことが条件になる。電子レンジの窓の金属網が、2.45 GHz(波長約12 cm)のマイクロ波を閉じ込めつつ光を通すのは、網の穴が数mmと波長よりずっと小さいからだ。

計算例

例1:材料と周波数による吸収損失

材料1 kHz:表皮深さ / 吸収100 kHz10 MHz
銅 0.1 mm2.09 mm / 0.4 dB0.209 mm / 4.2 dB0.021 mm / 41.6 dB
アルミ 1 mm2.68 mm / 3.2 dB0.268 mm / 32.5 dB0.027 mm / 325 dB
鋼 1 mm(比透磁率1000と仮定)0.209 mm / 41.6 dB0.021 mm / 416 dB—

低い周波数では、銅やアルミの薄板は表皮深さより薄く、ほとんど吸収しない。鋼板は透磁率が高いので1 kHzでも1 mmで約42 dB吸収する。ただし鋼の透磁率は周波数や磁界の強さで大きく変わるので、比透磁率1000は低い周波数での目安にすぎない。10 MHzを超えると、どの金属でも板そのものの効果は100 dBを大きく超え、実質的に問題にならない。

例2:スリットからの漏れ

$$ SE_{slot} \approx 20\log_{10}\!\left(\frac{\lambda}{2 l}\right)\ \text{dB} \quad (l < \lambda/2) $$
スリットの長さ100 MHz300 MHz1 GHz
100 mm23.5 dB14.0 dB3.5 dB
30 mm34.0 dB24.4 dB14.0 dB
10 mm43.5 dB34.0 dB23.5 dB
🙋

板は100 dB以上あるのに、100 mmのすき間1つで1 GHzでは3.5 dBになるんですか!

🎓

そう。シールドの性能は一番弱いところで決まる。1 GHzの波長の半分は150 mmだから、100 mmのすき間はほぼ素通しに近い。すき間の長さを1/10にすると約20 dB改善するので、ふたのねじの間隔を狭める、導電性のガスケットを入れて継ぎ目を細かく区切る、といった対策が効く。同じ長さのすき間が並んでいると、数が4倍で約6 dB、100倍で約20 dB悪くなるから、通気口は細かい穴を並べるより、ハニカム構造のような深い穴にするのがよい。

解析と設計の進め方

解析の注意点

  • すき間を形状に入れる:継ぎ目やねじの間隔を省略した理想的な箱では、シールド効果を大きく過大評価する。
  • 薄板は面の条件で:表皮深さを要素で分けると要素数が膨大になる。薄い導体は表面インピーダンスや薄層の境界条件で扱う。
  • 箱の共振:箱の内部は空洞共振器になり、共振周波数ではシールド効果が大きく下がる。
  • ケーブルの貫通:シールドを貫くケーブルは、外側へノイズを運ぶアンテナになる。貫通部のフィルタや編組の360°接続を解析に入れる。

評価の手順

  1. 板材の吸収と反射を式で見積もり、材料と板厚が十分か確かめる。
  2. すき間・通気口・穴を洗い出し、最も長いすき間で上限を見積もる。
  3. 3次元の電磁界解析で箱の共振とすき間の効果を確かめる。
  4. 試作で測定し、解析と差があればすき間の接触状態を疑う。
Coffee Break よもやま話

「塗装が効きを消した」

試作では試験に合格したのに、量産品では放射ノイズが10 dB以上悪化した——調べると、量産ではケースの継ぎ目まで塗装されていて、ふたと本体が電気的につながっていなかった、という話はよくある。塗膜は絶縁体なので、ねじで締めても接触するのはねじの部分だけになり、ねじの間が長いすき間になる。継ぎ目は塗装しない部分を残すか、導電性のガスケットで確実に接触させる。解析では完全に接触していると仮定しがちなので、量産の仕様まで含めて確かめたい。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
板材の値だけで評価すき間の漏れを見落とす最長のすき間で上限を見積もる
低周波磁界に薄い銅ほとんど効かない高透磁率材か厚い導体
継ぎ目を完全接触と仮定実機より高いSEを予測ねじ間隔と接触を形状に入れる
箱の共振を無視特定周波数で急に悪化空洞共振を計算
ケーブル貫通を無視箱の外へノイズが出る貫通部のフィルタと360°接続
🙋

表皮深さやすき間の効果を自分でも試したいです。

🎓

表皮深さ計算と表皮効果シミュレーターで表皮深さ、導波管モードツールですき間や開口の遮断周波数の考え方を試せるよ。関連する対策は放射エミッション、接地とボンディング、近傍界結合、ケーブルのクロストークの記事にまとめてある。

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