シュタインメッツ方程式

カテゴリ: 電磁場解析 | 2026-09-28 改稿
CAE visualization for steinmetz equation theory - technical simulation diagram
シュタインメッツ方程式

理論:鉄損を1本の式で表す

概要

🙋

変圧器の設計資料に「コアロスはシュタインメッツで見積もった」と書いてあったんですが、何をしたことになるんですか?

🎓

材料メーカーが測った「周波数と磁束密度を変えたときの損失」のデータを、たった3つの係数 k, α, β で近似して、設計条件での損失密度を読み取った、ということだよ。電磁場を解く式ではなく、測定データを要約した経験式なんだ。だから「どの範囲で測ったデータに合わせた係数か」がいちばん大事になる。

原型の式と係数の意味

正弦波で励磁したときの単位体積あたりの鉄損 $P_v$ を、周波数 $f$ と磁束密度の振幅(ピーク値)$\hat{B}$ で表す。

$$ P_v = k\, f^{\alpha}\, \hat{B}^{\beta} $$
記号意味目安
$k$材料固有の係数。単位系に依存する単位をそろえて使う(下の計算例参照)
$\alpha$周波数の指数フェライトで約1.1〜1.9
$\beta$磁束密度振幅の指数約2〜3
$\hat{B}$磁束密度のピーク値(ピーク間値ではない)T
🙋

α が1より大きいのはどうしてですか? 1周期ごとに同じループを回るなら、損失は周波数に比例しそうですけど。

🎓

いい着眼点だね。ヒステリシス損だけなら1周期のループ面積×周波数だから α=1 になる。でも周波数が上がると渦電流損(ほぼ $f^2$ に比例)や、磁壁の動きに由来する異常渦電流損が加わる。それらを1つの指数にまとめて押し込んだ結果が 1〜2 の中途半端な α なんだ。だから α は物理定数ではなく「その周波数帯での平均的な傾き」だと思っておくといい。

数値で感覚をつかむ

例として、あるフェライトの係数を $\alpha=1.4$、$\beta=2.6$ とし、100 kHz・0.1 T で 80 kW/m³(= 80 mW/cm³)になるように $k$ を決めると $k \approx 3.2$($P_v$ を W/m³、$f$ を Hz、$\hat{B}$ を T で表す場合)になる。係数は説明用の値で、実設計ではメーカーのデータから求める。

条件損失密度読み取れること
100 kHz, 0.1 T80 kW/m³コア体積 20 cm³ なら約1.6 W
周波数だけ2倍×2.64 → 約211 kW/m³$2^{1.4}$
磁束密度だけ2倍×6.06 → 約485 kW/m³$2^{2.6}$
200 kHz, 0.05 T約34.8 kW/m³周波数を上げて巻数を増やし、Bを下げると損失は減る
🎓

β が α より大きいので、損失は磁束密度にずっと敏感なんだ。高周波トランスで「周波数を上げたらコアが小さくなる」のは、同じ電圧なら $\hat{B}$ が周波数に反比例して下がり、その効果が $f^{\alpha}$ の増加に勝つから。ただし巻線の表皮効果・近接効果は逆に増えるので、巻線損失との兼ね合いで最適点が決まる。

損失分離(Bertotti)との関係

電磁鋼板では、損失をヒステリシス損・古典的渦電流損・異常渦電流損の3項に分けて扱うことが多い。

$$ P_v = k_h f \hat{B}^{\beta_h} + \frac{\pi^2 \sigma d^2}{6} f^2 \hat{B}^2 + k_e f^{1.5} \hat{B}^{1.5} $$

第2項は厚さ $d$、導電率 $\sigma$ の積層板が正弦波で励磁されるときの古典的渦電流損で、係数を材料定数から計算できる唯一の項だ。厚さ 0.35 mm、$\sigma = 2\times10^6$ S/m、密度 7650 kg/m³ の鋼板を 50 Hz・1.5 T で励磁すると約0.30 W/kg。400 Hz では $f^2$ で効いて約19 W/kg になり、板厚を 0.20 mm にすると約6.2 W/kg まで下がる。高速モータで薄板を使う理由がこの数字に表れている。

🎓

この式は板厚が表皮深さより十分薄いことが前提だよ。比透磁率が高い状態で数百Hzを超えると表皮深さが板厚と同程度になって、この項は過大評価になる。シュタインメッツの1本の式は、こうした3項の足し合わせを限られた範囲で近似したものだと理解しておくと、使ってよい範囲が判断しやすい。

Coffee Break よもやま話

シュタインメッツ——移民エンジニアが残した「まず実用式」の流儀

カール・A・シュタインメッツはドイツからアメリカに渡った技術者で、1892年に発表した論文で、ヒステリシス損が磁束密度のおよそ1.6乗に比例するという経験則を示した。理論的な裏付けは後の時代に磁区理論として整うが、測定データから使える式を先に作ったことで、交流の変圧器や発電機の設計が定量的に行えるようになった。今日のフェライト用の式はその拡張であり、「物理の完全な説明ではなく、設計に使える要約」という性格は当時から変わっていない。

非正弦波への拡張:iGSE

原型の式が使えない場面

🙋

インバータやDC-DCコンバータのトランスは、磁束がほぼ三角波ですよね。$\hat{B}$ と周波数を入れればいいだけじゃないんですか?

🎓

それだと波形の違いが消えてしまう。同じピーク値でも、磁束が速く変化する区間があると損失は増えるんだ。そこで磁束の時間変化率 $dB/dt$ で損失を評価する方法が考えられた。代表が iGSE(improved Generalized Steinmetz Equation, Venkatachalam ら, 2002)で、正弦波で求めた同じ k, α, β をそのまま使えるのが実務上の強みだよ。

iGSEの式

$$ P_v = \frac{1}{T}\int_0^T k_i \left|\frac{dB}{dt}\right|^{\alpha} (\Delta B)^{\beta-\alpha}\, dt, \qquad k_i = \frac{k}{(2\pi)^{\alpha-1}\int_0^{2\pi} |\cos\theta|^{\alpha}\, 2^{\beta-\alpha}\, d\theta} $$

$\Delta B$ は1周期のピーク間値、$T$ は周期。$k_i$ は正弦波のときに原型の式と同じ値になるように決めた換算係数で、$\alpha=1.4$、$\beta=2.6$ なら $k_i \approx k/17.2$ になる。

三角波磁束での計算例

磁束が時間 $DT$ で上がり $(1-D)T$ で下がる三角波なら、積分は解析的に計算できる。

$$ P_v = k_i\, (\Delta B)^{\beta} f^{\alpha} \left[ D^{1-\alpha} + (1-D)^{1-\alpha} \right] $$

先ほどのフェライト(100 kHz、ピーク 0.1 T)で、同じピーク値の正弦波と比べると次のようになる。

波形損失密度正弦波比
正弦波80 kW/m³1.00
三角波 D=0.5約74.6 kW/m³0.93
三角波 D=0.2約84.7 kW/m³1.06
三角波 D=0.1約100 kW/m³1.26
🎓

デューティ比が偏るほど、片側の区間で磁束が急変して損失が増える。フライバックのように D が小さい回路で正弦波の損失カーブをそのまま読むと、2〜3割小さく見積もってしまうわけだ。

マイナーループ・休止区間・直流バイアス

  • マイナーループ:1周期の中で小さなループが入る波形では、iGSE は波形を主ループと小ループに分けて各々の $\Delta B$ で評価する。分けずに全体の $\Delta B$ だけ使うと過小評価になる。
  • 休止区間:フルブリッジの零電圧区間のように磁束が止まる時間にも、磁性体内の緩和で損失が発生する。iGSE はこれを0と見なすため、i²GSE(Mühlethaler ら, 2012)のような補正が提案されている。
  • 直流バイアス:チョークコイルのように直流重畳があると、同じ $\Delta B$ でも損失が増える。係数は通常バイアスなしで測られているので、バイアス条件の測定データか補正係数が必要になる。

FEM解析への組み込み

後処理として損失を計算する流れ

  1. 磁場解析(過渡解析、または正弦波励磁なら周波数領域解析)で、1電気周期分の磁束密度を各要素で求める。過渡解析なら初期の過渡が収まった周期を使う。
  2. 要素ごとに $\hat{B}$ または $\Delta B$ と $dB/dt$ を取り出し、シュタインメッツ系の式で損失密度 $p_v$ を計算する。
  3. コア体積で積分して総鉄損を得る。
$$ P_{core} = \int_{V_{core}} p_v(\mathbf{x})\, dV \;\approx\; \sum_e p_{v,e}\, V_e $$
🙋

磁場解析の中で損失を解くんじゃなくて、解いた後に計算するんですね。

🎓

そう。シュタインメッツ系の式は損失の大きさしか与えないから、磁場の解そのものには影響しない(弱連成)。ヒステリシスを場の計算に入れたいなら、プレイモデルやJiles-Athertonモデルのような履歴モデルを材料特性に組み込む別のアプローチになる。温度上昇を見たいときは、得られた損失分布を鉄損(コアロス)解析で扱うように熱解析の発熱源として渡すのが定番だね。

時間刻みと解析周期の決め方

  • iGSE は $dB/dt$ を使うので、PWMの立ち上がりや休止区間が時間刻みで潰れないようにする。スイッチング周期あたり数十ステップ以上が目安。
  • 正弦波励磁でも、飽和で波形が歪む場合は周波数領域解析では高調波を拾えない。歪みが大きいなら過渡解析を使う。
  • モータのティースとヨークでは磁束の向きが回転する。1軸の振幅だけで評価すると損失を小さく見積もるため、直交2成分を分けて評価するか、回転磁界に対応した損失データを使う。

主要ツールでの設定

ツール主な設定注意点
Ansys Maxwellコア損失モデルで、フェライト向けの Power Ferrite(Cm, x, y=k, α, β に相当)、電磁鋼板向けの損失分離係数(Kh, Kc, Ke)を指定係数の単位系(W/m³ か kW/m³ か)を入力画面で確認する
COMSOL MultiphysicsAC/DCモジュールの磁場インターフェースで損失計算を追加し、シュタインメッツ型や損失分離型のモデルを選ぶ周波数領域では正弦波前提になる
JMAG鉄損計算で材料の損失データ(周波数・磁束密度ごとの測定値)から損失を評価。ヒステリシスモデルを使う設定もあるデータの測定温度と加工劣化の扱いを確認する

入力画面や機能名はバージョンで変わるため、使用するバージョンのマニュアルで確認してほしい。係数を別ツールへ移すときは、式の形($\hat{B}$ か $\Delta B$ か)と単位が一致しているかを最初に確かめる。

Coffee Break よもやま話

係数の温度依存を入れ忘れる

フェライトの損失は温度で大きく変わり、多くの材料は80〜100℃付近で損失が最小になるよう調整されている。室温のデータで決めた係数を100℃で動く変圧器に使うと、損失を大きく見積もって冷却を過剰に設計しがちだ。メーカーは温度依存を $P_v = k f^{\alpha} \hat{B}^{\beta}(c_0 - c_1 T + c_2 T^2)$ のような2次式で補正する形で示すことが多い。データシートを読むときは「何℃で測った値か」を必ず確認しよう。

よくある間違いと検証

よくある間違い

間違い起きること対策
$\hat{B}$ の式にピーク間値 $\Delta B$ を入れるβ=2.6 なら約6倍の過大評価式がどちらを使う形か確認する
mW/cm³ と W/kg の混同桁や密度の分だけずれる1 mW/cm³ = 1 kW/m³。W/kg へは密度で割る
フィット範囲外への外挿α, β が変わる領域で誤差が急増周波数帯ごとに係数を分ける
高調波ごとに損失を計算して足すβ≠2 なので重ね合わせが成り立たない時間波形のまま iGSE で評価する
加工劣化を無視する打抜き・積層・締結の応力で実機の損失が増える実機の測定と比べて補正係数を決める

結果の検証方法

  • 正弦波・単純形状(トロイダルコア)で、FEMの結果がデータシートの損失曲線を再現するか確認する。ここで合わなければ係数か単位が間違っている。
  • 電磁鋼板は、エプスタイン試験(IEC 60404-2)など標準的な方法で測られた値と比べる。
  • 実機では、損失の総量を効率測定や温度上昇から逆算し、FEMの鉄損+巻線損と突き合わせる。
🙋

自分で係数の効き方を試してみたいです。

🎓

ヒステリシスループのシミュレーターでループ面積と損失の関係を、磁性材料のシミュレーターで材料ごとの違いを確かめられるよ。変圧器全体で鉄損と銅損のバランスを見るなら変圧器設計のシミュレーターと変圧器効率のシミュレーター、高周波での設計の考え方は高周波トランスにまとめてある。

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