磁気エンコーダ
理論:磁気スケールの磁場とすき間
概要
磁気エンコーダは光学式のエンコーダと比べて何が違うのですか?
汚れや油、振動に強いことが大きな違いだ。光学式はガラスの目盛りを光で読むので、細かい目盛りで高い精度が出せるが、油や粉じんで光がさえぎられると読めなくなる。磁気式は、N極とS極を交互に並べた磁気スケールの磁場をホール素子や磁気抵抗素子で読むので、多少汚れても磁場は通る。その代わり、磁場はスケールから離れるほど急に弱まり、波形もゆがみやすい。だから磁気エンコーダの設計では、磁極ピッチ、センサーとのすき間、磁場の波形のゆがみ(高調波)、信号の補正をまとめて考え、どれだけの精度が出るかを見積もる。
すき間による磁場の減り方
p は磁極ピッチ(1 mm)、z はスケールの表面からの距離。N極とS極が急に切り替わる理想的な着磁を考えると、磁場には奇数次の高調波が含まれ、次数が高いほど速く減る。h₃ は基本の成分に対する3次の高調波の割合。
角度の計算と位置の誤差
1周期は磁極2つ分(2p = 2 mm)。電気角の誤差 Δθ が位置の誤差 Δx に換算される。
鋼のワイヤーに声を記録
磁気スケールは、言い換えれば位置の目盛りを磁気で「記録」したものだ。磁気で情報を記録する考えは、1898年にデンマークのポールセンが鋼のワイヤーに声を記録した装置にさかのぼる。その後、録音テープ、ハードディスクと発展した磁気記録の技術、つまり細かい磁極をそろえて書き込み、離れた場所から読み取る技術が、磁気エンコーダのスケールとセンサーにも生かされている。
計算例
例1:すき間と信号・高調波・位置の誤差(磁極ピッチ1 mm)
| すき間 | 基本の成分(表面比) | 3次の高調波 | 電気角の誤差 | 位置の誤差 |
|---|---|---|---|---|
| 0.1 mm | 73.0% | 17.8% | 0.179 rad | 56.9 μm |
| 0.2 mm | 53.3% | 9.5% | 0.095 rad | 30.2 μm |
| 0.5 mm | 20.8% | 1.4% | 0.014 rad | 4.6 μm |
| 1.0 mm | 4.3% | 0.06% | 0.0006 rad | 0.2 μm |
例2:信号のずれによる誤差
| 原因 | 位置の誤差 | 誤差の周期 |
|---|---|---|
| オフセット1% | 3.2 μm | 1周期に1回 |
| 振幅のずれ1% | 1.6 μm | 1周期に2回 |
| 1周期を1000分割したときの分解能 | 2 μm | — |
すき間1.0 mmなら誤差は0.2 μmですごく小さいですね。すき間は大きいほどいいのでは?
高調波だけを見ればそうだが、信号が表面の4.3%まで弱くなる。センサーの雑音や、まわりのモーターや配線からの磁場は信号の大きさに関係なく入ってくるので、信号が小さいほど相対的に雑音が大きくなり、それが位置のばらつきになる。さらに、すき間が大きいと、すき間の変化(取り付けの誤差や振動)で信号の大きさが大きく変わる。例えば0.5 mmのすき間が0.1 mm変わると、信号は約27%変わる。信号が変わると、補正しきれない振幅のずれが残って誤差になる。だから実際には、高調波と雑音の両方が小さくなるすき間を選び、そのうえで残った高調波を信号処理で補正する。磁極ピッチを大きくすれば同じすき間でも信号は強いが、1周期が長くなるので、同じ電気角の誤差が大きな位置の誤差になる。磁場の解析で、スケールの着磁の形、すき間、センサーの位置を合わせて最適化するのはこのためだ。
モデリングの進め方
- 着磁の形(磁極の境目の幅、深さ方向の分布)を入れてスケールの磁場を解く。
- センサーの位置での2方向の磁場を求め、sinとcosの信号に換算する。
- すき間・傾き・磁極ピッチのばらつきを振って信号の変化を見る。
- 角度の計算と補正を入れて、位置の誤差を求める。
- 外からの磁場(モーター、配線)の影響を加えて確かめる。
「モーターの近くだけ精度が落ちたエンコーダ」
ある直動の装置で、磁気エンコーダの位置の誤差が、駆動用のモーターに近い区間だけ大きくなった。磁場の解析で調べると、モーターの磁石からの漏れ磁場がセンサーに届き、信号にオフセットとして加わっていた。オフセットは位置によって変わるので、一度の補正では取り切れなかった。センサーのまわりに薄い磁性の遮へいを付け、差動の配置のセンサーに替えて一様な外部磁場を打ち消すようにすると、区間による誤差の差はなくなった。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 分解能を精度とみなす | 精度を過大評価 | 誤差の要因を積み上げる |
| 磁場を正弦波と仮定 | 高調波の誤差を見逃す | 着磁の形から解く |
| すき間を一定とする | 取り付けのばらつきに弱い | すき間を振って評価 |
| 外部磁場を無視 | 場所によって誤差が増える | 遮へい・差動配置 |
| 補正を一度だけ行う | 温度で誤差が戻る | 温度ごとに補正 |
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