磁気抵抗センサ(AMR/GMR/TMR)
理論:磁界で抵抗が変わる3つの仕組み
概要
モータの回転角を測るセンサを選んでいます。ホール素子とAMR、GMR、TMRと候補がありすぎて、何が違うのかわかりません。
ホール素子は磁界で電圧が生じる素子、残りの3つは磁界で抵抗が変わる『磁気抵抗素子』だ。磁気抵抗素子は抵抗の変化率が大きいほど出力が大きく、AMRは数%、GMRは10%前後、TMRは100%を超える。ただ、変化率が大きいほどいいとは限らない。測れる磁界の範囲、温度による変化、ノイズ、価格がそれぞれ違うから、測りたい磁界の大きさから考えるのが近道だよ。
3つの方式
| 方式 | 仕組み | 抵抗変化率の目安 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| AMR | 強磁性体の磁化と電流の角度で抵抗が変わる | 数% | 電子コンパス、角度センサ |
| GMR | 磁性層の磁化の向きがそろうかどうかで散乱が変わる | 10%前後 | 車載の回転センサ、かつての磁気ヘッド |
| TMR | 薄い絶縁層を電子がトンネルする確率が変わる | 100%以上 | 現在の磁気ヘッド、高感度センサ |
抵抗変化率とブリッジ出力
4つの素子のうち2つは磁界で抵抗が増え、2つは減るように並べたフルブリッジの出力。$V_b$ は印加電圧、$B_k$ は出力が直線的に変わる磁界の範囲の半分。変化率が小さければ出力は $V_b\,\mathrm{MR}\,b/2$ で近似できるが、TMRのように変化率が大きいと分母の $2+\mathrm{MR}$ が効いてくる。
ハードディスクの容量を押し上げた発見
GMRは1988年、フランスのフェールとドイツのグリュンベルクがそれぞれ独立に発見し、2007年のノーベル物理学賞につながった。わずか数nmの磁性層と非磁性層を重ねるだけで、抵抗が大きく変わることがわかったのだ。1997年ごろにはハードディスクの読み取りヘッドに使われ始め、小さな磁区からの弱い磁界も読めるようになって記録密度が急速に上がった。その後、より大きな変化が得られるTMRのヘッドに置き換わり、今ではセンサの分野でも広く使われている。
計算例
例1:フルブリッジの出力
以下は比較のための仮想のパラメータ。印加電圧5 Vのフルブリッジで、直線範囲の端(b = 1)での出力と感度を求めた。
| 方式 | 抵抗変化率 | 直線範囲 B_k | 最大出力 | 感度 | 地磁気0.05 mTでの出力 |
|---|---|---|---|---|---|
| AMR | 2.5% | 1 mT | 61.7 mV | 61.7 mV/mT | 3.1 mV |
| GMR | 10% | 5 mT | 238 mV | 47.6 mV/mT | 2.4 mV |
| TMR | 100% | 5 mT | 1.67 V | 333 mV/mT | 16.7 mV |
GMRは変化率がAMRの4倍なのに、感度はAMRより低いんですね。
この例では、GMRの直線範囲をAMRの5倍と仮定したからね。感度は『変化率÷範囲』で決まるので、広い範囲を測れる素子は1 mTあたりの出力が小さくなる。地磁気のような弱い磁界を測るならAMRやTMR、数mTの磁石の磁界を測るならGMRやTMRの範囲の広いもの、と測りたい磁界の大きさで選ぶのが基本だよ。TMRのような大きな出力なら、増幅回路のノイズの影響も小さくできる。
例2:電流センサとしての磁界
| 電流 | 距離2 mm | 距離5 mm |
|---|---|---|
| 1 A | 0.10 mT | 0.04 mT |
| 10 A | 1.0 mT | 0.40 mT |
| 50 A | 5.0 mT | 2.0 mT |
直線範囲1 mTのAMRを導体から2 mmに置くと、10 Aで飽和する。50 Aまで測るなら距離を5 mm以上にするか、範囲の広い素子を選ぶ。実際の基板では導体が有限の幅を持ち、近くの別の導体の磁界も重なるので、磁界解析で素子の位置の磁界を確かめる。
例3:なぜブリッジにするのか
パーマロイの抵抗温度係数を約0.3%/Kとすると、1素子だけでは温度が1 K変わると抵抗が0.3%、10 Kで3%変わる。AMRの信号は片側で約1.25%しかないので、温度の変化が磁界の信号より大きくなってしまう。4素子を同じ温度に置いたブリッジにすれば、温度による変化は打ち消され、磁界による変化だけが出力に残る。
解析と設計の注意点
注意点
- 飽和と履歴:強い磁界を一度受けると、素子の磁化の向きが乱れて出力がずれることがある。AMRでは磁化の向きを戻すための仕組み(セット・リセット)を使う。
- 外乱磁界:近くのモータ、磁石、他の導体の磁界が重なる。差動配置や遮へいで打ち消す。
- 磁界の向き:磁気抵抗素子は面内の特定の向きの磁界に感じる。ホール素子とは感じる向きが違うことが多いので、配置を間違えやすい。
- 解析のモデル:素子そのものは小さいので、磁界解析では素子の位置の磁界を求め、特性の式で出力に換算することが多い。
「コンパスが車の中で狂う」
スマートフォンの電子コンパスは、地磁気(約0.05 mT)を測ってAMRやTMRで方位を出している。ところが車のホルダーに付けると方位がずれることがある。ホルダーの磁石や車体の鉄が作る磁界が、地磁気と同じかそれ以上の大きさで重なるからだ。スマートフォンが『8の字に動かしてください』と表示するのは、端末を回して周りの一定の磁界を割り出し、差し引くための補正だ。弱い磁界を測るセンサほど、周りの磁界の見積もりが精度を決める。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 変化率だけで選ぶ | 範囲が合わず飽和 | 測る磁界の大きさで選ぶ |
| 1素子で使う | 温度で出力がずれる | ブリッジ構成にする |
| 導体からの距離を考えない | 電流センサが飽和 | B = μ₀I/(2πr) で確認 |
| 外乱磁界を無視 | オフセット誤差 | 差動配置・校正 |
| 感じる向きを取り違える | 出力がほとんど出ない | データシートの軸を確認 |
ブリッジやホール素子の計算を自分でも試したいです。
ホイートストンブリッジ計算でブリッジの出力、ホール効果シミュレーターでホール効果を試せるよ。ほかの磁気センサはホール効果センサ、フラックスゲート磁力計、磁気エンコーダ、渦電流センサの記事で比べられる。
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